気がついたら4年目に入っていたこの作品
時が経つのがハエーイ
さて、今回から合宿編となります
本当は合宿編は飛ばそうかと思っていたのですが、色々と考えた結果、書くことになりました
それではどうぞ
真夏の熱い太陽がさんさんと照り付ける。
背後から聞こえてくるの海へと誘うさざ波の声と陽気に歌う潮風。
道路の先にあるピーチでは浮かれた大学生や子供たちのはしゃぐ声が響いている。
しかし、真姫を除くμ’sメンバーと爽馬にはそんな些細なことをよりももっと衝撃な現実に驚かされていた。
「ここが真姫ちゃんの別荘!」
「おっきいにゃぁ!」
μ'sメンバーと拓人と爽馬は合宿を行うため、真姫の両親が所有する某県の別荘に来ている。
全員で合宿という一大イベントに加えて、ただでさえ一般人には馴染みのない別荘に泊まれるということで、いつもとは違う非日常を楽しめるということで全員が楽しみにしていた。
そして待ちに待った合宿当日。メンバーの前に登場する真姫の別荘は想像以上に大きく、拓人と真姫以外のメンバーは驚きの声を上げていた。
「別に普通でしょ」
持ち主の真姫は毛先を弄りながらいつも通りの高飛車な調子で呟く。
「流石、医者の娘ね……」
そんな真姫の様子をにこは引きつつも、嫉妬も混じった表情で見ている。
「それじゃあ、驚くのもここまでにして、中に荷物を置いて、練習の準備をしてください」
玄関先で驚いてばかりでは合宿も何も一向に進まない。
海未はパンパンと手を叩いて、メンバーに動くように促す。
「はい! 海未先輩!」
花陽は返事をする。
すると、一瞬だけ、空気がピタリと止まる。そして、その空気を割るように絵里が
「花陽。先輩は禁止でしょ」
と言う。
「す、すみません! 絵里先輩!」
つい、うっかりいつも通り海未を先輩呼ばわりした花陽は慌てて謝る。
「花陽ちゃん。また先輩になってるよ」
ことりがそう指摘すると、花陽はまたはわわと慌てる。
合宿に出発する直前の空港。突然、絵里は一年生と二年生に対して、先輩呼びを禁止した。
意図としては、メンバー間での上下関係を失くすことで、下級生でも上級生にスムーズに意見を言えるようにするため。そして、結束を強める為だ。
初めはみんな困惑していた。特に幼い頃から家元の娘として、礼儀に厳しく育てられた海未にとってはかなり抵抗を感じていた。
希は確かに聖母のように優しいが、だからこそ対等に接してよいのか。言い出しっぺの絵里はどうしても冷徹な生徒会長時代のイメージが強く、中々距離を詰められずにいた。
「かよちん、にこちゃん、速く速く!」
「凛ちゃん! ちょっと待ってぇ!」
「待ちなさーい! 一番乗りはにこよ!」
唯一、スムーズに先輩と呼ばれなくなったのはにこだ。
幼い見た目と、弄られやすい体質、3年生の中でも一番付き合いが長いことから、特に違和感もなく呼ばれている。
「私達も中に入りましょ。希」
「せやね」
「ことりちゃん! 海未ちゃん! 先入るね!」
「穂乃果! ちゃんと靴を脱ぐのですよ!」
にこりんぱなに続いて、真姫を除くメンバーが続々と別荘に入っていく。
「たくにぃ、私達も入りましょ?」
続いて、真姫も拓人を連れて入ろうとする。
メンバー全員が浮かれているなか、拓人はどこか物悲しそうに別荘を眺めていた。
「おい、どうした。辛気臭ぇ面して。うんこ漏らしたか?」
そんな変わった様子の拓人を不思議に思った爽馬は声をかける。
「いや……その懐かしいなって」
「そういや、小さい頃は家族ぐるみで来てたってな」
「あの頃に比べて……少し小さく見える」
「そりゃあガキの頃より、成長したってことだろ」
「そう……だな」
拓人が最後に真姫の別荘に遊びに行ったのはもう10年以上前のことだ。
身長も倍近く伸び、幼い頃から様々な建物を目にしてきて、知識も増えたことで小さく見えるのか。
しかし、それだけではない。拓人にとってこの別荘で過ごしたことは数少ない家族の思い出の一つなのだ。
忘れたくない思い出が現実と交互にフラッシュバックする。幼い真姫と今は亡き妹、彩香が別荘を背景に拓人に笑いかける。
あの時、「大きくなっても一緒に来よう」と二人の言葉が今でも鮮明に記憶に残っている。
でも、今いるのはこの場にいるのは成長した真姫だけ。
まるで心にぽっかりと穴が開いたような喪失感が拓人を襲う。
「……ねぇ、早く入りましょ。みんな、待ってるわ」
唯一、拓人の家族がいないことを知っている真姫は察した。
拓人が家族のことを思い出していることを。そして、傷口が開き始めたことを。
「今度はよぉ。俺達だけじゃなくて、亜里沙や雪穂ちゃん、そして、拓人の妹さんも一緒にって」
さらに追い打ちをかけるように爽馬が笑みを浮かべながら、言う。まるで脳天から長く、太い針を刺されたような衝撃と痛みが全身を駆け巡る。爽馬はただ気の利いたことを言ったつもりなだけだ。そもそも拓人の家族がもうこの世にいないことは知らない。
それでも、あの時オーガが現れず、家族が殺されずに彩香と一緒に普通の人生を歩み、μ'sと出会うというありえたであろう現実を突きつけられ、拓人の心は崩壊一歩寸前まで追い詰められていた。
「三人共。あんまり外にいると熱中症になっちゃうよ」
「そうだな。今行くぜ!」
炎天下の中、長居する三人を希が呼ぶと、爽馬は足早に別荘の中に入る。
「……希の言うとおりね。だから……」
「わかってる……」
拓人の手を引こうと真姫は腕を振り上げる。
しかし、手を引く前に拓人は動き出し、逆に拓人が引かれる予定だった手で真姫の頭をくしゃくしゃと撫でる。
真姫を撫でるその手は夏だと言うのにまるで凍ったように硬く、酷く震えていた。
如何でしたか?
合宿編だし、明るいやろ
ひたすら遊びまくって、イチャイチャして、絆を深め合うだけだと思ってたやろ?
全然ちゃうで?
ということで。ただでさえ、暗い過去編からその過去編に続く合宿編もまた、暗めの話となります
いや、他のラブライダー作品だと基本的に合宿編って明るい話が多いイメージがあるんですよね
でも、僕は人とは違うことをしたい人だし、そもそも拓人と真姫の成長を書くには思い出がある別荘を舞台にする必要があってねぇ
まぁ、大丈夫。合宿編が終われば明るい話に……学園祭、雨、留学……ん?