今回は拓人と爽馬の掘り下げ回です
いつもとは違い、ギャグが多めので気楽に読めると思います
意識を失った拓人が目を開けるとそこには心配そうに顔を覗き込む真姫と目が合う。
「……真姫?」
「たくにぃ、大丈夫?」
拓人はゆっくりと周りを見回す。
今いる場所は別荘のリビング。エアコンが効いた室内は外に比べれば断然心地がよい。
そして、ソファーの上で真姫に膝枕されていた。
「俺は……そうか……」
すると、拓人は溜息を吐く。
「……フラッシュバックしたんだ。彩香の事……家族の思い出が」
拓人にとって、この別荘は二度と重ねることのできない思い出の場所。
その事実が重くのしかかり、拓人の精神を蝕んだ。
「ごめんなさい……」
「真姫は悪くない。俺が過去に縛られているのが……」
過去など振り切ったつもりでいた。
しかし、拓人は所詮はまだ17の子供だ。心も体も成長しきっていない未熟な存在。だが、今まで拓人の置かれた環境では未熟であること、子供であることは許されなかった。
家族を失い、頼る存在などいない為、問題は一人で全てを解決しなければならない。
児童養護施設に預けられていた時は虐待お呼び監禁され、到底人間とは呼べない生活を送らされた。
そして、仮面ライダーとしてオーガと戦うことになり、心も体も誰よりも強くなくてはならず、その為に苦しい修行を行ってきた。
きっと、青い果実であれば今頃、拓人はグチャグチャに潰れていたであろう。
無理にでも大人にならなくてはいけなかった。だが、所詮は大人の振りをし、背伸びした子供。少しでも足元を掬われれば、一気にバランスを崩して倒れる危うさがあった。
現に拓人は少し過去を思い出しただけで倒れている。
「たくにぃ……」
明らかに疲弊し、苦しんでいる拓人に真姫は何も言葉を掛けられずにいた。
拓人の苦しみというのは想像絶するもの。同情などすることはできず、下手な言葉は却って傷つけるナイフにしかならない。
こんなに近くにいても、支えになることすらできない自分に嫌気が指していた。
「そういえば、みんなは?」
「海で遊んでいるわ」
「練習は?」
「明日からちゃんとやるって絵里が。取り敢えず今日は気晴らしに遊ぼうって……」
真姫の話を聞いた拓人は「そうか」と呟く。
今回の合宿は練習というよりもグループ内での交流や関係を固めるのが重要だと思っている。
それなら上級生も下級生も気兼ねなく遊ぶというのは理に適っている。
「真姫は行かなくていいのか?」
「たくにぃを放っておけるわけないでしょ」
「それは……いけない」
すると、拓人はゆっくりと起き上がる。しかし、思いの外、ダメージは深刻で立ちくらみしてしまい、頭を抑える。
「無茶は駄目よ。安静にしてないと」
真姫はふらつく拓人を支える。
「でも、俺がここにいると真姫も一緒にいたままだ。それは駄目だ。真姫は俺なんかよりもμ'sのみんなと一緒にいるべきだ」
「何で……そんなこと言うの!」
自分の体に鞭打ってまで真姫の為に行動し、自分のことを蔑ろにする拓人に真姫は納得できず、遂強く当たってしまう。
「たくにぃだって、私にとっての大事な人なんだから!」
真姫にとっては拓人も大事なμ'sの仲間であり、家族に近い存在。決して蔑ろにできない。
それに家族を失い、拠り所のない拓人の支えになりたいと思っている。
「……ありがとう。俺には……未来がない。でも、真姫には未来がある」
しかし、真姫の考え、行動は拓人には意味のないことだった。
家族を奪った元凶であるオーガに復讐する為に人を捨て、「仮面ライダー」という力を手に入れた拓人にはまともな未来など用意されることはない。
拓人が待つ未来は滅びしかない。
もし、拓人が幸せになれば、人を捨て、力を求める輩が生まれるに違いないのだから。
◇ ◇ ◇
「みんな、遅れてごめん」
拓人は水着に着替えた真姫と共にふらついた足取りで海へと向かう。
既に砂浜には水着姿のμ'sメンバーと爽馬が楽しそうに遊んでいた。
「たっくん、体調はどう?」
「あぁ。真姫のおかげでなんとか」
「へぇ〜」
穂乃果に心配されると拓人はもう大丈夫と真姫を見ながら言う。
拓人に感謝されたことに照れ隠しに真姫は髪の先端をクルクルと巻いている。
「真姫ちゃんも隅に置けないにゃ」
「そ、そんなんじゃないわよ!」
凛は肘で真姫を小突き、茶々入れる。すると真姫は顔を真っ赤にして思い切り否定する。
「二人も来たことだし、それじゃあ! 一緒に遊ぼうよ!」
やっとメンバー全員が集まったところで穂乃果は眼下に広がる海に指差す。
「あぁ……いや。遠慮しておく、病み上がりだし、それに……肌が弱いから……」
だが、いくら目覚めたと言えど、拓人は本調子ではない。その状態で炎天下でメンバーと共にはしゃぐ戸再び倒れる危険性がある。
楽しい時間を過ごしているメンバーにまた水を刺すようなことはするべきではない。
それに拓人はとある理由からあまり人前で肌を見せたくなかった。
「えぇ! そんなぁ……たっくんと遊びたかったなぁ」
穂乃果は眉を下げ、項垂れるほど落ち込む。
正直、そこまで落ち込むことはないだろうと拓人は思った。だが、悪い気はしなかった。自分を一人の友人として必要とされることが孤独だった拓人にとってかなりの幸福であった。
残念なことに拓人は友人の思いには応えられない。
それは全てオーガが原因であった。人前で肌を晒せない原因を作り、家族を失ったというトラウマを植え付けたオーガ。
拓人は背中にそっと触れる。まるで鉄を流し込まれたような痛みと熱さが背中に走る。
オーガさえいなければ自分は穂乃果達のように普通の人間として幸せな人生を送れたはずだった。
幸福を感じる度にオーガに対する憎しみがより一層深くなる。
◇ ◇ ◇
浜辺では真姫を除くμ'sメンバーがスイカ割りを楽しんでいた。
拓人はその様子をパラソルの下で眺めている。
退屈には感じなかった。笑顔や楽しそうな姿を見るのが好きだからだ。
仮面ライダーとしてオーガと戦い、勝つことで笑顔と幸せを守っていると実感できるからだ。特にメンバーは何度もオーガに襲われているため、その実感が強い。
もし、自分がいなければ彼女達の笑顔どころか命が奪われていたかもしれない。別に仮面ライダーファントムという存在がいる為、一概に自分だけの手柄とは言えないがそれでも彼女達を守れたことに誇りを抱いている。
この幸せを守りたいと改めて拓人は思った。そして、彼女達の幸せな姿をもっと眺めていたい。
これは彼女達や人々の為だけではない。
仮面ライダーになるのとで人としての幸せを捨てた拓人にとって唯一許された幸せをもっと味わいたいという自己中心的な願いでもあった。
「退屈してねぇか?」
「爽馬?」
幸せを感じているとスイカ割りを楽しむ彼女達から離れて、黒いサーファーパンツの爽馬が拓人に元に向かってくる。
「折角の海だってのになぁ。男にとって磨き上げた肉体を太陽の下に晒して、女の子にアピールってのよぉ」
爽馬はグッと体に力を入れて、鍛え上げた肉体を拓人に見せびらかす。
拓人は気持ち悪いと否定したかった。しかし、爽馬の体は非常にいい出来であった。
無駄な脂肪を削ぎ落とし、かと言って過剰に付きすぎていない筋肉。細身の体でありながら、骨は浮き出ていない。
男ならば一度は憧れるような肉体であった。拓人も仮面ライダーになるため、オーガとの戦いにダンスの為にトレーニングはやっているおかげでかなり出来上がった体でではある。
だが、爽馬は拓人以上であった。
普段はおちゃらけていて、正直頼れないが、決める時はきっちり決める爽馬に僅かに嫉妬する。
「……で何の用だ?」
「寂しいだろうと思ってさ」
「寂しくなんてない」
「強がるところは真姫ちゃんに似ているな」
爽馬はケタケタと笑う。
生意気だが、優しゆえのうざさであった。
一人だとつまらないだろう。女ばかりの集団で色々と息苦しいだろうと爽馬は気を使ってくれているのだ。
ふざけているように見えて、意外と周りを見ているのだ。
「んなことは置いて、折角の男二人だぁ。あれについて語ろうぜ」
「何を?」
爽馬は周りに誰もいないことを確認すると拓人に
「おっぱいだよ」
と囁く。
唐突にくだらない下の話を挟んでくる爽馬に拓人は呆れて、大きな溜息を一つ吐く。
「いやさぁ。ことりちゃんと花陽ちゃんのマシュマロおっぱいいいねぇ。花陽ちゃんなんて、まだあんな幼いのにあれってもうね、最高さ」
まるで夢見る少年のようなキラキラした瞳で爽馬は熱く語る。
話の内容こそ下品だが、思春期の男子ならじゃ当然のことか。特に美女揃いな上に水着姿のμ'sメンバーを前にして、邪な気持ちが生まれるものだ。
「……大きさだけなら希が一番だろ?」
拓人が雑な賛同に爽馬は大きな溜息を吐く。
「わかっっってねぇな。カレイとヒラメを見分けられないくらいわかってない。大きさだけじゃねぇんだよ。形とか柔らかさとかも大事なんだ。それに希はそりゃあ凄すぎて殿堂入りしてんだ」
胸に対して熱弁する爽馬が面倒だと拓人は思った。
しかし、一つ疑問が生まれた。
絵里だ。透き通るような白い肌にモデルのようなスラリと伸びた美脚。
そして、希には流石に負けるがそれでも平均よりも圧倒的に大きく、それでいて綺麗な形をした絵里のをどう評価するのだろう。
無論、拓人の評価は高い。
女性の体に微塵も興味がない自分でですら高い評価を出すのだから、きっと数多の女性の体を見てきた爽馬はかなり高い評価と感想を出すのだろうと拓人は思っていた。
「絵里はどういう評価なんだ?」
「あぁ……絵里は……その……」
絵里の話題になった途端、爽馬は顔を赤らめ、あれ程熱弁を垂れていた姿は見る影もなく、しおらしくなる。
「お前、変なところで真面目なんだな」
「うるせぇ! 後は穂乃果ちゃんもいいだろ。海未ちゃんも凛ちゃんは小ぶりがたまらなくてなぁ……真姫ちゃんは……やめとこう」
絵里の話題はお気に召さないようでそそくさと話題を変える。そして、拓人の表情を見て、真姫を話題に出さないようにする。
爽馬が嫌いになれない明確な理由が何となくわかった気がした。
「それじゃあ、にこ……」
「すぅ……。拓人……止めとこうぜ」
「……そうだな」
「お二人さん。何を話してるん?」
独特の関西弁が耳に入り、二人は夏だがまるで氷漬けになったように固まる。そして、同時にその声の持ち主に顔を向ける。
そこにはフリルのついた水色のビキニから溢れ落ちそうな殿堂入りの胸を持った希が笑みを浮かべていた。
「いや、その……」
流石の爽馬も額から汗を流す。そして、何か言い訳しろと言わんばかりに視線を拓人に移す。
最低な人間だと拓人は心の中で舌打ちをする。
「まぁ、爽馬君のことやから女の子の話でしょ?」
「そりゃなぁ。……希はわかってくれるよな?」
「まぁね」
すると、希はゆっくりと前に屈む。
大きな胸が重力に引かれる。そして、男の二人の見せびらかすように谷間が見せる。
拓人は咄嗟に視線を反らす。
「拓人君も男の子やね」
「それは……」
拓人の反応を見て、希は悪戯をする子供のような笑みを浮かべる。
女性に対する興味は確かに薄い。しかし、薄いだけで多少はあり、年相応に恥ずかしがりはする。
「まぁ、拓人君の反応くらいが好感が持てるとは思うんや」
すると、希は爽馬に視線を移す。
「……何やってんだ」
拓人は呆れて何も言えなかった。
「御参パイだ」
爽馬は希の胸を凝視しながら、胸に向け手を合わせていた。
まるで希の胸が御神体であるかのような振る舞い。
「希……いいのか?」
「まぁ……爽馬君やし」
希は一言で済ませる。
己の欲に素直な爽馬が映る希の瞳には軽蔑の意思が滲み出ていた。