ナザリックの核弾頭   作:プライベートX

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絶望の使者part 2

 獅子奮迅の活躍とは良く言うがガゼフの活躍はまさにそれを体現していると言っても過言ではない。周辺国家最強の戦士と言う肩書きは伊達ではなく、複数の【武技】を発動し群がる天使を次々に葬る。魔法の加護も無い武器で天使を殺る事が如何に困難な事なのかは、自身も敵も良く理解している。

 だからこそ、敵は戦力を集結させ天使を差し向ける。ガゼフも素早く決着をつけるべく切り札を使う。一進一退の攻防が繰り広げられる戦場でガゼフは剣を低く構え、切り札とも言える武技を発動させた。

 

【六光連斬】

 

 光の煌きのごとき神速の武技、一振りで六撃を放つ必殺技。立ち塞がる天使六体を一撃で両断し、光に還す。威力も見栄えも良い大技に、味方からは歓声が敵からは動揺の声が上がった。

 〈即応反射〉〈流水加速〉持てる武技を惜しみ無く発動し、天使を鬼神の如く切り伏せる。固まって抵抗する部下達はガゼフの姿を見て希望を持ち出す。この戦いに勝てるかもしれないと言う希望を。

 

「見事、しかし……それだけだ」

 

 だが、敵指揮官の冷めた一言で熱した空気は一気に払われた。現実はそう甘くは無い。ガゼフが幾ら天使を斬って捨てても直ぐに新たな天使が召喚される。召喚者を倒さなければ魔力の有る限り直ぐに復活してしまう。天使を幾ら倒されても法国側の損害は実質的にゼロだった。

 人員、装備、練度、個々の強さ、ほとんど全て敵に劣り、勝利への希望も消え、士気も無くしたガゼフ達に容赦無く法国の兵士達は天使達を差し向けた。武技〈戦気梱封〉が使える己ならばいざ知らず、武技も使えない魔法武器すら持たない部下達は天使を倒すには決定力が足りず、善戦するも次々と倒れていった。

 何とかこの戦況を脱せねば全滅してしまう。ガゼフは只ひたすらに剣を振るった。持てる力の全てを使い、戦った……が。

 

「不味いな……」

 

 完全に敵の術中に嵌まったと悟ったガゼフは小さく吐き捨てる。周りを取り囲む様に浮かぶ天使。隊長らしき男が合図だろうか腕を軽く振るう。

 その直後、不可視の衝撃波の渦がガゼフをのみ込んだ。満身創痍のガゼフ身体を容赦なく次々と穿つ。鎧の金属が弾け飛び、口の中一杯に血が込み上げ吐き出した。間近に迫る死の気配を感じるが、もはや身体が言うことを聞かない。剣を構える腕に感覚はほとんど無く、足は震え踏ん張りがきかない。それでも戦う事を諦めると言う選択肢はガゼフには無かった。罪無き民を平気で殺す外道に屈する事など、あり得ない。

 しかし、もう抵抗する力も残っているかどうかすら危うい。絶望的な状況だが、唯一あの村の事を心配せずにいられるのは不幸中の幸いだろう。あの二人の底知れぬ力を前にすれば心配する事すら失礼に値する。

 

「ハハッ、この期に及んで笑うとは狂ったか?ガゼフ・ストロノーフ」

 

「狂ってなど、いない。お前達の死に様を思ったら滑稽でな……」

 

「減らず口を……まぁ良い。貴様もあの村もどうせ消えるのだ。今頃は別動の殲滅隊が焼き討ちをしている頃だろうよ」

 

「馬鹿め、お前達は分かっていない。あの村には俺よりも強い御仁達が居る。お前達は、お前達はグリフォンの尾を踏んだのだ……」

 

「くだらん、貴様より強い者などこの国に居るはずなかろう。案ずるな殲滅隊の長は俺の腹心だ、失敗などあり得ん。無駄な抵抗は止めておけ」

 

 宙に浮かぶ天使達が一斉にガゼフへと殺到しようとした瞬間、ガゼフの意識が途絶えた。

______________

 

 

 

 いっそのこと走るべきか、タイラントは悩んでいた。夕焼けに向かって荒野をノシノシ歩いていたが、だんだん不安になってきたのだ。合流する予定の場所にたどり着く前に事が済んでしまうのではないかと。ガゼフには団長が転送系の課金ハズレアイテムを渡しているから、恐らくは大丈夫だと思う。

 引き摺る男の絶叫も途絶え、とても静かになったが何か物足りなさを感じたタイラントは自身の目の前に哀れな男を持ってくる。まぁ、片腕を欠損し長い事荒野を引き摺られ服はボロボロで皮膚も剥げた見るも無惨な状態だったのは予想通りだった。まだ息をしているのが不思議な位だが、興味なさげに地面に戻すと再び歩き出した。

 地面に残っている複数の馬が駆けた跡が鮮明になって来ていると言う事はそろそろ目的地周辺である事を示している。恐らく、前に見える稜線の向こう側が戦場だと思うがやけに静かだ。

 まさか、もう既に決着してしまったのか?仕事に遅刻した時の様な焦りを感じ、稜線へ向かって猛ダッシュする。一歩大地を踏みしめる毎に地響きを立てながら疾走し、巨体からは想像も出来ない速度で稜線を走り抜け、そして跳んだ。これまた想像もしようもない高さまで跳ぶと辺りの景色は良く見える。眼下の荒野には戦士達の死体と、突き刺さった武器の他、アインズとアルベドが先程ボコッた奴等と同じ格好した集団と対峙しているではないか。団長が此処に居ると言う事は、ガゼフは強制送還されたのか……。重力に任せ、落下しながら考えていたが……

 気が付いた時には着地する寸前だった。

 

 

「さて……この天使は邪魔だな」

 

 胸部と腹部に剣を刺している天使を引き抜き手前に放り投げた。投げ捨てられ態勢を崩した天使が再び浮かび上がろうとした瞬間、空から降ってきた【何か】にズドンと潰され光の粒子となって消えた。

 飛び散る砂埃と光の粒子の中、割りと大きなクレーター中心にタイラントが片膝をついて鎮座している。

 漆黒の防爆コートに光の粒子が反射し、場違いな程幻想的だった。

 

「うおっほぉうっ!?タ、タイラント?!じ、実に良いタイミングだぞ!」

 

「イエス、マイ、ロード」

 

「アインズ様?【うおっほぉう】とは一体……」

 

 突然降ってきた大男に親しげに話しだした魔法詠唱者達。スレイン法国屈指の猛者達を前に雑談を始める始末。仮面の魔法詠唱者はほんの少し前まで剣で身体を二ヶ所も貫かれていた筈、にも関わらず平然とし挙げ句の果てには空から降ってきた謎の大男と会話をしだした。常軌を逸しているとかそう言った次元の話では収まりきれない出来事が立て続けに起これば誰もがこんな反応をする筈だ。

 ニグンはこの不気味な奴等に嫌な予感がしてならなかったが、現状此方の戦力のが圧倒的に上回っている判断。即座に天使を集結させ、防御陣形をとった。

 

「無知なのか、愚かなのか知らぬが我々を前に良い度胸をしている」

 

 溜まりに溜まった不快感を吐き捨てる様に言うニグン。確かに不気味な相手ではあるが、この完璧な防御陣を突破する事は本調子のガゼフですら出来ないだろう。三十体の天使、そして自分の隣に控える様に浮かぶ自信の源とも言える高位の天使監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)

 全身を鎧に包み、メイスを持った見た目通り防御に特化した天使だ。そしてその特殊能力、自軍構成員の防御力を若干強化する効果。これにより強化された天使達を突破し、此処まで辿り着くのは不可能、まして三人でなど論外と言う他ない。

 

「無知で愚かとは、いやいや手厳しい。だがこれは強者たる【余裕】と言った所ですよ」

 

「無礼極まりないゴミ虫が、至高の御方々に戯れ言を……」

 

 ニグンの挑発的な言動にアインズは冷静に皮肉り、アルベドは激怒して反応する。しかし、タイラントは特に目立った動きは見せなかった。白濁した眼で敵の動きを観察していたのと、ニグンの戯言にいちいち反応する事が面倒だったからだ。村を包囲してた奴等と装備や天使に特に変わりはない、指揮官の隣に居るデカイ天使……確か権天使シリーズの防御の個体だったはず。防御特化と言っても俺やアルベド、団長の攻撃を防げるとは到底思えない。勝ち誇った様な眼で此方を見ているのが若干癪に障るがまぁ、良いだろう。

 束の間の希望を見させてやる慈悲も時には必要だろうしな……

 

「さて、交渉は決裂、これ以上の対話は無意味だ。アルベドよ下がれ」

 

「たった二人で我々に勝てると思っているのか!ガゼフと言い、貴様等と言い余程の馬鹿だな!」

 

「無駄口叩いてないでさっさと来い。待っている此方の身にもなれ」

 

 だよな、とアインズは隣に立つタイラントへ言う。無言で二人頷く姿からうんざりとした感じが滲み出ている。ここでふと、アインズはタイラントの手に持つボロ雑巾の様な物に気が付いた。

 

「して、タイラントよ。その手に持ってるのはなんだ?」

 

「……ワスレテタ」

 

 ………………。

 

「「ハハハハハハハハッ!」」

 

 髑髏と死体顔の二人が何故か声高らかに笑った。

 地の底から響く様な低い笑い声は恐ろしいを通り越し、不気味。ひたすらに不気味である。

 

「貴様等ノ、オ友達、ダ」 

 

 ひとしきり笑ったのちタイラントは手に持ったボロ雑巾をニグン達の方へ向けて投げ捨てた。

 浮かぶ天使達が投げ捨てられた雑巾に一斉に剣を突き立て、串刺しにする。その時、蚊の鳴く様な小さな呻き声が串刺しの雑巾から聞こた気がした。

 確認するべく一人が恐る恐る雑巾に近付き裏返すと……

 

 

「こ、これはトト、トール分隊長ですっ」

 

「何だとっ!では、あの村の包囲分隊は!?」

 

「死んだよ、間違いなく」

 

 動揺するスレイン法国の連中にアインズが静かかつ、冷淡に答えた。

 

「ありえん、ありえん!ハッタリだ!総員、天使を突撃させろ!急げ!」

 

「ヤレヤレ、やっとやる気を出したか。ではタイラント始めようか」

 

「ガッ、テン」

 

「まずは、目障りな羽虫を薙ぎ払え」

      

 浮かぶ天使達が剣を突きだし、アインズとタイラントに向けて一斉に突撃をしようとした……

 

 その瞬間。

 

 ヴォボゴンッ!と地響きを起こし、凄まじい爆音が空気を切り裂きながら、衝撃波と共に一気にニグン達の身体を突き抜ける。体感した事のない音と衝撃波にその場に立っていられた者は居らず、皆吹き飛ばされた。

 それはまるで雷が目の前に落ちたかの如くの衝撃。ニグンは立ち上がろうとするが、目眩と激しい耳鳴りでのたうち回り、直ぐには立てそうになかった。

 暫くして何とか立ち上がりはしたものの、辺りは砂埃が大量舞い上がって何も見えず、何が起きたかすら見当もつかない。

 しかし、混乱する頭に疑問だけが次々と沸いてくる。吐き気すらする濃い火薬の臭いが妙に鼻につく。直後、部下の叫ぶ様な報告で全ての疑問は驚愕へと一気に変わった。

 

「て、天使達が居ません!消えています!」

 

「何故だ!何故消えたっ!」

 

「分かりません!あの爆音と衝撃波で我々も……」

 

「ありえん!三十体の天使が一瞬で消えるなんて……ありえんだろう!」

 

 三十体の天使を一撃で葬ったタイラント。その脇に抱える大きく太いパイプの様な大砲。保有携行火砲では最大、最強の威力を誇る無反動砲……

 【L6ウォンバット120mm無反動砲】

       (レリック級)

 一瞬で天使達が消えた答えは対人用のフレシェット弾を殺到してきた天使に向けて放ったからだ。本来はアウトレンジから一方的に砲弾を叩き込むのがセオリーだが、その運用をせずに今回使用したのは見た目の迫力と圧倒的な威力で敵の戦意を根こそぎ削いでやろうと思ったタイラントの思い付きだ。

 

 

「次弾、粘着榴弾。装填完了……」

 

「シズ、後方爆風、気ヲツケロ」

 

「コピー」

 

「い、いつの間にシズ呼んだの……?」 

 

 さも当然の如く、タイラントの後ろで装填作業をするシズ。頭には頑丈そうなヘルメット、身体にはこれまた頑丈そうな防弾チョッキを着ている。しかしメイド服は着たままだ。ミリタリーとメイドのアンバランス感が何とも言えない。だが、タイラントはそれが良いと思っている。

 妙に息の合ったコンビネーションの二人。これが軍人なのかとアインズは間近でシミジミ感じたのであった。




大鑑巨砲主義、大きい事は良い事だ。タイラントの腕力なら120mmの反動でも大丈夫な筈だ!(確信)
次回、ニグン漏らす(大きい方)ノ巻き

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