ナザリックの核弾頭   作:プライベートX

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決着

 (何故だろう、手持ち無沙汰感が半端無い)

 

 光の柱に包まれ、演出が派手な割りに微妙な痛みの中でタイラントはリアクションに困っていた。

 ニグンご自慢の威光の主天使の攻撃魔法【聖なる極撃(ホーリー・スマイト)】は属性が悪に傾いている程に効果を発揮する魔法だ。となればカルマ値-500の極悪であるタイラントに対し絶大な威力を発揮する筈。しかし、レベル100の防御力と対魔法レジスト能力、各種防御スキル、更に凶化された事による基本能力値のブーストで総合防御力は飛躍的に上昇しており、聖なる極撃程度の効果を発揮した所で大したダメージなど負う訳がない。

 そもそも、頭がおめでたい可哀想な人間の為に【少しは】希望を見させてあげようと言うある意味サービス精神、ボランティア精神でわざと攻撃を食らってあげてる(・・・・・・・・)ので、予想通りとは言えあまりに拍子抜けた威力を体感してみて、改めて困り果てた。

 

(うぉーやべぇ……アルベドが爆発した)

 

 タイラントの唯一誤算は従者アルベドの爆発だった。アルベドが憤怒する気持ちは理解出来なくはない。寧ろ、その厚い忠誠心には感服さえしている。だが、少しばかりタイミングが悪いのが問題だ。拍子抜けする威力とは言えダメージを負うには良い機会である。その辺にいる人間や野良モンスター程度ではダメージのダの字も出ない程度の攻撃力だ。なので、良くも悪くもこの天使は自己能力の実証実験には丁度良い【教材】、早々に壊されるのはなるべく避けたかった。

 

(アルベドの突撃だけは団長に止めてもらわ……な?)

 

 【タイラント・イヤー】は奥様方の井戸端会議や内緒話、乙女の甘いガールズトークから上司の悪口まで些細な音も聞き漏らさない素晴らしい集音性能を誇る【地獄耳】である。そんなタイラント・イヤーは聞き慣れた【発射音】を騒乱極める光の中で探知したのだ。

 

(あの雑な感じな重低音、無駄に大きい後方爆風……。間違いない、シズの奴めRPGを撃ちやがったな)

 

 発射音を探知したと同時に振り返り、直ぐに状況を把握したタイラント。シズに渡したのはRPG-7V2、通常弾頭ではなくサーモバリック弾頭仕様の筈。HEATや破片効果で殺傷するのではなく、高熱高圧力で人員や陣地を攻撃する広域殺傷を目的とした弾頭だ。単体の敵に対して使うのはセオリーではないが、主天使程度ならばサーモバリック弾の直撃にすら耐えられないだろう。威力だけなら運営も太鼓判を押してたRPGシリーズ。最大の問題点である命中精度もガンナーであるシズならば問題ないに等しい。

 

(しかし、何故団長はシズに撃たせたのだろうか?団長とてRPG の威力は承知している筈なのだが……何か考えがあっての事なのか?)

 

 タイラントは難しい決断を迫られていた。弾頭を見送り、そのまま天使と取り巻きを焼き殺すか。弾頭を止めて、己の手で天使をぶち殺すのか。

 

 

『モモンガさんから応答ありません』

 

 何度も【伝言】をコールしてみたものの、何故か反応がない。無機質な機械的な返答が返ってくるだけだった。

 

 

(くっ、団長から返事がない!只の屍の様だ!どうする俺!覚悟を決めろ!えぇい、南無三!)

 

 

 

 

 

 タイラントが下した判断は……【自分の手で片付ける】だった。

 

 シズのRPGから撃ち出された弾頭の速度は、当初115m/sまで一気に加速、約10mで固体ロケットに点火し最大で295m/sに達する。そんな速度で飛翔する弾頭をタイラントは意図も容易く掴んでみせた。

 

(うおぅ、結構な推進力だ!流石ロケットランチャーの名は伊達じゃあないな……)

 

 片手で固体ロケットの推進を制御するのは見た目以上に難しい。しかも、タイラントはまだ【聖なる極撃】をその身で受けてる状態だ。いくらダメージを負わないと言っても濃密な光の滝に打たれている様なものだから、当然身体を動かすのに支障は受ける。掴んだ弾頭を投げ捨てるには体勢的にちょっと厳しい。安全かつ、敵にあまり損害が出ない方向へと捨てなければならい事を加味した結果、進行方向を上空に変更させる事にした。

 固体ロケットの燃料は約500m程しか持たない。その後は慣性によって進むだけなので暫くすれば自然に落ちるだけ、そんな変な所には落ちないだろうと少々楽観的に考えていた。

 案の定、弾頭は天使とタイラントの丁度真ん中位に落下し、接触信管は見事に起爆。小型の気化爆弾だけあって派手な爆発をしてくれた。大量の塵や砂が舞い上がり、爆風と熱風のコンビネーションならば最高の目眩ましになって、何も見えまい。

 

(フフン、俺はその間に天使をボロ雑巾にしてやる作戦を実は立案(今)していたのだっ!)

 

 思い付きとは言え、そうと決まったタイラントの行動はすこぶる速い。その強靭な脚力をもって発動した【縮地・極】。踏み出した音すら置き去りにする速度は残像すらも見せる。数十メートル離れていた威光の主天使まで一瞬で肉薄した。

 顔の無い天使なのでその表情は解らないが驚愕したに違いない。目にも止まらぬ速度から放たれた凶刃の突きは易々と天使を貫き、逆袈裟に切り裂く。哀れ上半身が真っ二つに割れた天使は無様にバタバタと身体を動かす、しかし怒り狂った暴君はその凶刃を止める事はなく、徹底的に身体を切り刻み、打ち砕き、引き千切った。

 【威光の主天使】、美しい羽の集合体であった嘗ての面影は無い。その身はズタズタに切り裂かれ、神々しく輝いていた羽も、威光の象徴たるその冠も、悪を滅ぼし善を救う為の腕も、その全てが形を残す事なく大地に散乱していた。

 驚くべきはこの惨劇、時間にしてほんの数秒の間に行われた事だ。凶化状態限定の必殺技とも言える威力爆発、最速の多連攻撃アクション。

 必殺技とは読んで字の如く、相手を必ず殺す【技】である。故にこの凶化連続攻撃はタイラントにとって必殺技である事に間違いはなく、数少ない切り札の一つと言っても良い。

 因みにこの技に明確な名前は無い。好きだったレトロ格闘ゲームの強キャラ、殺意の波動を極めし修羅の必殺技に敬意と愛着を込めてタイラントはこの技をこう呼んでいる……

【瞬獄殺】と。

 

 

 

 

 

「て、て、天使がぁ!天使がぁ!」

 

 先程までの威勢は何処に行ったのか、大の男がお漏らししながら叫んでいる。砂埃のカーテンも捲られて哀れな奴等の絶望劇場第二幕が盛大に開演した。

 まずは最高位天使(笑)の解体ショー、いや解体処理現場の見学と言った所か。既にその形を維持している事自体が不思議でさえある威光の主天使。その無惨な骸の上に立つ暴君は踏みつける脚に力を入れ、天使の骸を大地ごと容赦なく踏み潰す。

 限界を迎えた主天使の最後はゴシャっと音を立て、残った身体が砕け散り呆気なく現世から姿を消した。

 

 ニグンには、もう何も打つ手も切り札もなかった。

 

 天使が砕け散る様子は、まるで夢でも見ているかと錯覚した。あまりに信じられない事が一度に起きすぎて頭と精神的な処理が追い付かない。そして部下達が一斉に俺の方を見ているが煩わしくて堪らない。俺を見るな、俺を見ても何も変わらない!と怒鳴りたい衝動をグッと抑えた。

 

「ま、魔神だ……」

 

 【魔神】誰かがそう呟いた。

 古の伝説で十三英雄によって倒されたとも、封印されたとも聞く邪悪なる存在。

 目の前の化け物やその後ろの集団からら滲み出る禍々しい波動は封印から解き放たれた【魔神】と言った方が正しいだろう。だが、今更そんな事が解った所でどうにもならない。全ては遅すぎたのだ。何もかもが遅すぎた。

 

「流石のお手並みだ我が友よ、その力に最高の敬意を示そう」

 

 アインズが拍手をしながら静かにタイラントの隣へと歩いてきた。タイラントは首元に【Tウィルス抑制剤】を投与し、身体に満ち溢れる力の要因であるTウィルス活性を瞬時に抑える。すると凶悪なまでに膨張した身体はみるみる萎み、何とか人間に見える範疇に戻る。

 しかし、その様子はまるで安いスプラッター映画を見ているかの如くグロテスクであった。最後には何処から出てきたのか防爆コートと鋼鉄の拘束具がタイラントに装着され、プシューと言う蒸気の排出と共に元のタイラントになった。

 

「では、余興は終わったか?こちらも忙しいのでね、終わりにしよう」

 

「ちょ、ちょっと待って!待って欲しい!アインズ・ウール・ゴウン殿、いや様!」

 

「全く、覗き見とは感心せんな。貴様等の仲間は覗きが趣味なのか?私の対情報系攻性防壁が発動したから大して覗かれていないが気分が悪い」

 

 ニグンは本国から監視されていた事に驚いたが、今はそれどころでは無い。何としても助かりたい、その一心だけがニグンを突き動かしていた。

 

「わ、私達!いえ、私だけでも構いません!い、命だけはどうか助けて下さい!」

 

 藁をもすがる思いでニグンは必死に懇願する。地位も意地もプライドも、恥すらかなぐり捨てた醜い【人間の本性】剥き出しの光景がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

『あーらら、指揮官が部下を見捨てたよ』

 

『死に物狂いってやつですね……生で見ると結構エグいなぁ』

 

『生の感情剥き出しでは、理性的な会話など絶望的だ』

 

『しかし、対応に困るなぁ。全員連れ帰るとなると正直面倒だ』

 

『団長、部下を見捨てた屑隊長だけで良いのでは?』

 

『確かに、仲間を、部下を見捨ててまで生き残りたいなら……生きてる事を後悔させてやりますよ』

 

『決まりだ、じゃあ俺とシズは先にナザリックに戻ってニューロニスト達に準備する様伝えるわ』

 

『お願いします。あぁ、やっと帰れる……』

 

『すこぶる疲れた……気がする。疲れない身体の筈なのに』

 

 必死に何か喋っているニグンを無視してタイラントとシズは歩き出した。この哀れな人間は死よりも恐ろしい事がこの先待ち構えている。まぁ、自らが望んだ事なので同情の余地は無い。我らナザリックに喧嘩を売った時点で人生終わった様なものだが。後は団長が上手くやってくれるだろうから何の心配も無い。早く戻って特別情報収集官に拷問部屋の準備と調整、各種重火器の整備をせねばならないので、帰ったら帰ったでやる事てんこ盛り。

 なのでタイラントとシズは足早にナザリックへと戻って行った。

 

 

 

 

~ ナザリック地下大墳墓 玉座 ~

 

 

「申し訳、ございません、でした……」

 

 シズ・Δは片膝を付き、深々と頭を下げ謝罪している。

 全てのやる事が終わり、アインズとタイラントはアルベドとシズに何か褒美でもやろう考え、玉座に呼んだのだがアルベドがその前にやらなくてならない事があると言った。先の戦闘でのシズの命令不服従に対する査問が優先され現在に至る。

 そこにはプレアデスの副長でもあるユリも呼ばれ、監督及び教育不行き届きを問いただされており、【頑張った者にご褒美あげるアットホームな雰囲気】は其処には無く、何となく重たい空気が玉座を支配していた。

 

「シズ、貴女の行動は間違っていない。でもアインズ様の御命令を無視するのはプレアデスとして、許されるものではないわ」

 

「全ては私の教育不足です。アインズ様、我々プレアデス如何様な処分でも甘んじてお受けいたします……」

 

 

「良ク、ヤッタ、シズ。許ス」

 

 重苦しい雰囲気をタイラントが一気にぶち壊しにかかった。こんなパワハラ紛いの雰囲気ではナザリックはブラック企業になってしまう、そんな事はさせない!強い使命感の乗った一言はアルベドをワンパンで沈黙させた。

 

「しかし、タイラント様……」

 

「良いのだアルベド。シズとて悪気があった訳ではあるまい。全ての罪を私は許す」

 

 アインズのこの一言で全ては片付いた。アインズとタイラントは顔を見合わせると示し合わせたかの様に頷く。

 

「この場の皆に徹底するが私の主義は【信賞必罰】だ。故に此度の件で厚い忠誠を示した二人には褒美がある。アルベドは私から、シズにはタイラントから褒美を渡す」

 

 アルベドはアインズから褒美を手渡され、身体を小刻みに震わせている。表情や佇まいに特に変わった様子は無い。しかし、アインズは思う。まるでアルベドが噴火前の活火山の様な気がしてならなかった。

 一方シズはタイラントの前まで来ると深々とお辞儀した。そして、顔を戻すと目の前には想像もしなかった【物】があった。

 

「し、射程400、フェイズドプラズマライフル……」

 

 それは間違い無く【神器級】に部類される武器であった。一発の威力は雷の第8位階魔法に匹敵する威力を誇り、その操作性や速射性能は数ある銃器の中でもトップクラス。入手方法も難易度も超絶級のプラズマライフルを前にシズの頭はショート寸前だった。

 

「あり、ありが、ありがとう、ござま、ござまスス……」

 

「いけない、シズったらショートしてしまいました。アインズ様、タイラント様、シズをお下げしてよろしいでしょうか?」

 

「良い、任せたぞユリ」

 

「畏まりました、では失礼致します」

 

「で、では私も持ち場に戻ります……」

 

「お、おう、アルベドよご苦労だった!下がって良いぞ!」

 

 アルベドは玉座の間の扉を閉める瞬間までは本当に優雅だった。

 

 

「いよっしゃあぁぁぁぁ!!」

 

 

 玉座の間の壁は思っている以上に薄い。アインズとタイラントはしみじみ思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




圧縮した一巻が終わりました。温かいご感想、駄文には勿体ない程の評価、本当にありがとうございます。



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