ナザリックの核弾頭   作:プライベートX

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冒険者【ハンク】編
行動準備


 その日、アインズは絢爛豪華な自身の執務室でタイラントと談話をしていた。

 他愛もない雑談から始まり、お互いの情報整理、今後の方針や必要なアイテムの有無、戦略的拠点の確保、人員の割り振り、資源や脅威になりうる国家の情報収集等、ゲームでは無い本当の統括者の立場になってみると考えなくてはいけない事は山の様にあり、しがないサラリーマンだったアインズにとっては未知の悩みでもあった。

 

 天の助けか、偶然かは神のみぞ知る所だがタイラントの中身の職業は国防軍人であり又指揮官でもある。士官学校での成績は中の上辺りだったが、若くして佐官まで上り詰めたその実力と行動力。

 それは数多くの実戦と修羅場を経て培った経験とその手腕があってこその実績だった。タイラントがギルドを離脱したのも狂乱と混沌が渦巻く中東近辺へ派兵されたからだとアインズも知ってはいたが、積極的に仕事の話はしない様にしようと言うギルド暗黙のルールがあった。それに配慮し今まで遠慮していたが事態が事態な為にアインズはタイラントに助言を求めたのだ。

 

『ふむ、独裁者として部隊、ましてや【国家】を運用した事が無いから分からん!』

 

『いやいや、分からんって早くないですか?!』

 

『団長、軍隊ってのは命令があって初めて行動が出来る。これは分かりますね?』

 

『ええ、まぁ……それぐらいは』

 

『今の我々の立場は国家元帥と将軍みたいなもんな訳で、俺がやってた木っ端中隊長とは立場が違い過ぎるんだ。指揮官には指揮官の、兵隊には兵隊の役割ってのがあってだな……俺はどっちかって言うと後者の方で前線指揮官だったからなぁ』

 

『一般人から見たら違いが良く分かりませんよ』

 

『うーん、命令を出す側と実行する側の違いか?要するに「明日此処で死ね」と言う有難い命令を俺は「明日此処で共に死のう」と部下に命令する立場だっただけさ』

 

『な、成る程……』

 

『だから団長は難しい事考えないでドーンと構えておけば良いんだ、ドーンと』

 

『でも、現場でなきゃ分からない事もありますよね?』

 

『勿論、現場は常に変化している。あらゆる状況を分析し判断する能力が現場に居る指揮官には必要不可欠だな』

 

『だったらやはり現場に出てある程度の地位を確立するのも悪く無いか……』

 

 髑髏顔を歪めながら……実際には歪んでいないが腕を組んで深く考えこむアインズ。カルネ村以降、中々地上進出は進んではいない。アンデッドである以上、迂闊に人間と接触すれば当然敵対されるだろう。なら、不可視や人間に限りなく近い見た目の者に人間社会に送り込めば良いのではないかとも思う……が、現場は常に変化している、慎重な判断を求められる場合もある。一つの判断ミスが大事を引き起こすかもしれない。ナザリックの存続を揺るがしかねないリスクを背負うのは精神的にも大変よろしくない。

 

『まぁ思うに団長、今後は情報収集に力を入れるべきさね』

 

『確かに、特に"ユグドラシルのプレーヤーの有無"ですね』

 

『その通り、俺達の脅威になりうる存在の有無を確かめ、必要に応じて排除する』

 

『只でさえ、アンデットってだけでPKする奴が沢山居ましたし、我々も相当敵作りましたしね……』

 

『ほとんど嫉妬と因縁の類いだがね、ゲームと現実の区別出来ない廃人共は恐ろしいぜ』

 

『この転移がナザリックだけとも限らないですし、いきなり攻め込まれたら堪ったもんじゃあない』

 

『繊細な判断が必要な作戦だ、俺が直接出張るしかなさそうだな』

 

『その見た目で(笑)?』

 

『ええ、何か(キリッ』

 

 HAHAHAHAHAHA……

 

 死体顔と髑髏顔が笑っている。不気味を通り越して最早恐怖絵図でしかないが本人達はツボったのか大爆笑している……何が面白いのかは不明だが。

 

 アウラからの現時点での報告ではナザリック地下大墳墓近くの森林ではプレーヤーの存在は影もなく、森を抜けた先の山脈のふもとに広がる湖まで順調に進んでいる。元々、人が住みやすい環境ではない地域だったからかも知れないが一先ず、ナザリック近辺にプレーヤーの存在がなかった事に安堵していた。

 故にもっと足を伸ばして都市規模の場所での情報収集が必要だとちょうど考えていた所だった。アインズはタイラントも同じ事を考えていた事に改めて感心し、安堵していた。

 しかし、一番の問題はアインズの不在を守護者、特にアルベドが承知するかが焦点になるとタイラントは踏んでいた。タイラントもアインズも上位道具創造(クリエイト・グレーター・アイテム)を使用すればアンデッドの見た目の問題は解決される。一時、アインズが束縛された生活に嫌気がさして部屋から抜け出てたのを柱の影で見ていたから知っている。その不自然に柱からはみ出た巨体と様子をエントマに見られて本気で心配されたのは秘密だ。

 兎に角、アインズ不在間のナザリックを取り纏め、運用出来るのは守護者統括のアルベドをおいて他に居ない。そもそも、アインズが不在するならタイラントが残り指揮をすれば良いのではとも思うが長らく席を空けた事とと極めて複雑化された地下要塞とも言えるナザリックを長らく不在したタイラントに完全に御せる自信がなかった。不完全な運用をする位なら完璧な運用が出来る部下が居るなら任せた方が良いに決まっていると団長を説き伏せて晴れてアインズとタイラントは地上へと出る決意に至った。

 

 

 

「成る程、アインズ様とタイラント様は長らくお出かけになると、タイラント様はシズを連れて行くのですね?畏まりました。ではアインズ様のお供は……」

 

 段取りを決めてアインズは緊張した面持ちでアルベドを呼んだ。タイラントとの綿密な作戦を実行する時が来たのだ。

 然り気無く、自然に、さも当然な会話の流れでナーベラル・ガンマだと伝える……

 

 遂にこの時が来たかと、アインズとタイラントはそう思った。生唾を飲み込み(気のせい)吹き出す汗もそのままに(気のせい)、覚悟を決めてアインズは言った。

 

「いや、アルベドにはナザリックに残っ「お供は私が致します」……え?」

 

 アインズに被せる様に満面の笑みでアルベドは言った。そう、【ナザリックに残って】の部分を上書きしたかの如く、完璧なタイミングで【お供は私が】を被せたのだ。

 アルベド……先の先を潰しに来たかっ!出だしの時点で想像よりも遥かに強敵たとアインズは確信した。

 

『こちらアインズ、タイラント応答せよ』

 

『らりるれろ!らりるれろ!らりるれろ!』

 

『ちょ、ま、タイラントさん?!』

 

『ハハッ!無様だな!アインズゥ!!』

 

『タイラントォォォォ!』

 

 脳内無線の様式美をするアインズとタイラントだがアインズの置かれた状況が好転することはなく、アルベドの説得はやはり相当難しいとタイラントは思った。

 まぁ、アインズが言って駄目なら片言タイラントvoiceでは絶対無理だとタイラントは確信していた為、暇なので久々の上位道具創造を使用する事にした。

 

 幻想的な光が身体を包みこむと、体格が異常な巨体から一般的な巨体へと縮む、身に纏う漆黒の戦闘服と真紅のアイピースが特徴的なガスマスクと黒色の鉄帽、身体にフィットした防弾チョッキ、鋭利なバヨネットと拳銃を持った近代的な兵士のそれになったタイラント。

 軽く跳び跳ねたり、試しに拳を突き出してみる。シュッっと拳が空気を切り裂く鋭い音を鳴らし、ならばと振り抜いた蹴りはブーツの重さを感じさせない速度で空を切った。

 繰り出される拳と蹴り、鋭く振られる銃剣、【CQC】とも言われる近接戦闘技術はタイラントの最も得意とする事の一つだが、現実での身体よりも良く動く、いや動き過ぎる。

 それは最高峰のモンク故に当たり前と言えば当たり前だが、あまりの身軽さにタイラントは驚愕し、感動していた。

 

「この姿になるのも久しぶりだな」

 

 高ぶった感情のあまりに発した言葉がコレかとタイラントは自身のボキャブラリーの貧相さに少し呆れた。

 もっともガスマスクを通しての声はお世辞にも良い声色ではなかったが片言タイラントvoiceではなく、ちゃんと喋れていた事に遅れながら本人、及びその場に居た者は驚きを隠せなかった。

 

「普通に喋れているのか?タイラント」

 

「マスク越しを普通と言えるのか疑問だが片言ではないらしい」

 

「そうか、だがその姿……まるで【死神】だな」

 

 全身、黒一色と真紅の目をしたその姿は死神の名に相応しいとアインズは称賛した。

 

「あぁ、ナザリックに楯突く愚か者限定だがね」

 

 タイラントは親指を立て、自身の首を切る様に横に一線した。見た目は縮んだがパワー自体は変わっていない、むしろ身軽になった分凶悪さに磨きがかかったと言っても過言ではないだろう。

 モンクとガンナー、中近距離戦闘に対応出来るタイラントに死角はない……とも言えない。

 この姿では重火器の使用は当然制限を受ける。筋肉モリモリマッチョマンの変態ではないのだから。固定砲台や重機関銃などは撃てない。精々、軽火器程度まであろう。しかし、あまり人目がある場所で近代兵器を使うのも問題ありだ。面倒事になるに決まっている。

 剣にしろ魔法にしろ、技術と才能がものを言う。だが、銃は違う。素人でも使う事が出来て、簡単に剣や魔法の達人を葬れる。

 剣の技術も、武技も、詠唱も要らない。尚且つ連発が出来て、大魔法に匹敵する威力……そんな便利な物があると権力者が知ったとしたらどうなる事やら。

 顔に群がる虫をいちいち叩き潰す時間が勿体ない。時は金なり、善は急げ。せっかくの現地行動を有象無象に邪魔されては堪ったもんじゃない。既に拳が凶器、ならばそれを生かさねばとしみじみ思う。

 

 隣でアルベドを必死に説得するアインズを見て御愁傷様と心から思ったタイラントではあったが無情にもその場を後にする。

 扉を開けると入れ替わる様にデミウルゴスが部屋へと入ろうとしていた、デミウルゴスはタイラントに深々と一礼するとアインズとアルベドの痴話喧嘩にしか見えない戦場へと身を投じていった。

 

『タイラントから団長へ、援軍を投入した。繰り返す、援軍を投入した、オーバー』

 

『援軍確認、これより我は突貫します!』

 

『幸運を祈るっ』

 

 頑強に抵抗していたアルベドだったがデミウルゴスが投入された事により、結果的には作戦は成功した。

 だが、デミウルゴスの魔法の一言にもアルベドは鋼の精神力で正に悪魔の甘言をしりぞけ、すったもんだ揉めた結果、出発日までの間アインズと添い寝(おさわり可)でアルベドが遂に折れた。

 デミウルゴスをもってしても簡単には攻略出来ぬ恋する女はある意味でナザリック最強なのかも知れない……




久しぶりの投稿です。
誤字脱字は見つけ次第直します。

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