ナザリックの核弾頭   作:プライベートX

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冒険者登録

 

「これより状況を開始する」

 

 ガスマスク越しの低い声が薄暗い部屋に響く。タイラントの研究室兼私室で最終的な作戦の確認と装備品の選定、点検をする為シズを呼び寄せたのだ。

 アインズとタイラントによる二方面作戦、敵対勢力下における情報収集活動及び、偽装身分での地位獲得が本作戦の骨子であり、ナザリックが存続する上で決して失敗の許されない重要な作戦であると改めて自覚させる。

 

「現時点をもって俺の呼称は【少佐】とする」

 

「少佐……了解しました」

 

 深々と頭を下げるシズを見るタイラント。少佐って名前と言うか階級じゃないかと思うだろう?

 

 まぁ……その通りなのだが。

 

 実を言うとタイラントは新しくゲームをする際の名前を決めるのに時間を掛けるタイプであった。自分の分身を作るのだから絶対変な名前にしたくないと出だしから毎回試行錯誤している。

 今回の作戦に当たっても偽名とは言えモモンガだから【モモン】と言う安直な名前にした団長に密かに驚愕し、言い知れぬやるせなさを感じていた。

 

「名前から【ガ】一文字抜いただけやんけっ!団長もっと熱くなれよっ!」

 

……と人知れず部屋で叫んでいたのは内緒だ。

 

 しかし、団長の名前を散々ディスっていた割に結局タイラントも新しく名前を決めきれず、最終選考に残った【タイラー】と【ボウク】も安直以外の何物でもなく結局の所、人が考える事など大体一緒だと言う事が判った。

 

 このまま安直な名前を使うのも何か癪なので生前、いや前職の階級【特佐】を制式な階級に直した名称【少佐】で何とか落ち着かせた。

 

「火器の使用は基本的に命令あるまで使用不可だ。代用としてコイツを使え」

 

 タイラントは棚から一挺のボウガンを取ると投げ渡した。急襲突撃メイドから火器を奪ったら存在する意味さえ危うくなってしまう。時代的にも不自然でない原始的だがレーザー兵器が蔓延る現代においても君臨する元祖無音兵器、弩。

 

 名を怒りの強襲弩(フューリー・アサルト・ボウガン)

 

 かつて、味方から見捨てられた兵士がたった一人で敵を壊滅させた。その際に使用した武器は辛うじて残ったコンバット・ボウだけだったと言う。

 その憤怒の兵士が用いた弓を参考に作られた経緯がある強襲弩だが、所詮弓矢でしょ?と侮るなかれ。

 この強襲弩はなんと鏃が変えられるのだ。通常の鏃だけでなく戦闘ヘリ、いやドラゴンすら木端微塵にする威力の擲弾鏃や、ワイヤー仕込み、鏑矢etc……多目的に使用できるボウガンなのだ。

 

「状況に応じて使いこなせ、出来るな?」

 

「問題、ありません」

 

「出発は別示する、解散」

 

「コピー」

 

 一礼をして部屋を出て行くシズを見送り、部屋に残るタイラント。先発のアインズ達が出発してから出るので後発組は出発まで多少時間があった。

 

(必要な装備も揃えた、認識の統一も良し、対魔法用具も万全……忘れ物は無いな)

 

 これではまるで遠足前の子供じゃないかと思うが高ぶった感情は精神抑制の効果で一気に冷める。

 だが、このじわりじわりと胸の奥で静かに燃える火はそんな簡単に消える様なものではない。異形の怪物になり人間性など欠片も無くなったと思っていたが、どうやらそんな事は無いらしい。

 精神は人間、身体は異形の怪物、本当の俺は一体どっちなのか。

 目の前に現れる自身の幻影に、もう幾度となく同じ自問自答をしている。しかし、明確な答えなど出る訳もなく、無意味な時は過ぎて行く。

 この神の悪戯としか言えないこの"イカれた世界"で俺はどうあるべきなのか?銃剣の切っ先を幻影に向けタイラントは一人呟いた。

 

「例え俺の行き着く先が、地獄の釜の底だったとしても俺は其処でも戦うだけだ」

 

 銃剣を横に一線鋭く振り、自身の幻影の首を切り裂く。幻影が消えるのを確認し、腰のホルダーに銃剣をしまうとタイラントは静かに部屋を後にした。

 

 

~リ・エスティーゼ王国~

 

 

 エ・ランテル、三重の城壁に囲まれた城塞都市。隣国のバハルス帝国とスレイン法国の境界に位置するリ・エスティーゼ王国の軍事拠点でもある都市だ。

 その三つ内、丁度真ん中に当たる市民の生活区、商業区エリアに"冒険者組合"は存在する。

 対モンスターに特化した傭兵とも言うべき冒険者だが、実力だけで成り上がる事が可能だと考えれば多少は夢がある職業かもしれない。

 だが、担保に自分の命を出さなければならないのは言うまでもないだろう。

 今日も冒険者達や依頼者がひっきりなしに出入りする組合を見るにやはり冒険者と言う職業は無くてはならないものだと言うことだった。

 

 そんな組合近くの薄暗い通路の影から往来する人を伺う怪しい奴が居た。

 

 情報屋【狐目のカパーゾ】

 

 このエ・ランテルで裏から表まで様々な【情報】を売る小悪党だ。

 情報を売ると言っても大した情報など当然持ち合わせている筈もなく、大衆紙や噂に毛の生えた程度の情報しか知らない詐欺師だ。挙げ句、駆け出し冒険者を狙っては粗悪な地図やアイテムを売りさばく本物の小悪党なので質が悪い。

 所詮は冒険者くずれの"ダスクワーカー"だが小悪党らしく身の丈にあった依頼しか受けない事と弱者のみとしか戦わない、そして小心者特有の危機察知能力の高さから、ゴキブリ並みの狡猾さを持つ男として知られていた。

 今日も狐目が冒険者組合の入り口が見える所で冒険者達が首から下げるプレートに目を配る。

 狙い目は"銅"のプレートを下げる奴だ、そして見たことない顔の奴、ガキならば尚更良し。

 開いているのか閉じているのかわからない細い目で往来する人をくまなく観察する。

 見覚えのある奴ばかりが出入りする中、カパーゾは組合の前で立ち止まる二人組に目が止まった。

 

 一人は全身真っ黒な布製の鎧を着た男、大小のポケットが身体中に着いた変わった鎧だ。

 しかし、最も特徴的なのが丸い兜と顔を覆った奇妙な仮面だ。真紅の大きな目玉と頬に突き出た平たい筒の様なものが男の不気味さに拍車をかける。

 しかし、赤目の男以上に目が行くのは隣に居る美女だ。

 淡いピンク色の長い髪と片目を隠す眼帯、茶色の全身を覆うローブだけのシンプルな身なりだが、精巧な人形の様な美貌に只々目が奪われる。

 そもそも、最近も冒険者組合に絶世の美人が現れたと話題になった。

 数日前、黒髪の美人が現れたが今度のも勝るとも劣らぬ美貌である。

 だが、前回もそうだが美人の隣りには見るからに屈強そうな男が必ずいる。

 黒髪美人の隣りには絢爛華麗な全身鎧を身に纏い、二本グレートソードを背負った誰が言い出したかは知らないが"漆黒の戦士"だったか?

 

 そして今回の男は見る者が見れば分かるその立ち振舞いは「暗殺」を生業にしている奴だと直ぐに分かる。

 近寄り難い濃い殺気を放つあの仮面の男は一体何人の人間を闇に葬ったであろうか。

 まともな考えが出来る奴ならば不必要に近寄りはしない。

 俺だってあんなヤバい奴に商売なんてしない。金より自分の命あってのものだから。

 しかしながら、綺麗な花には得てして多くの虫が群がるもんだ。

 ほら、命知らずの野郎共があの二人にもう目をつけている。

 

「同業者か冒険者だが知らんが間抜けなこった」

 

 不幸な未来しか見えない間抜けにそう吐き捨てるとカパーゾは立ち上がり、目に付いた如何にも"お上りさん"な駆け出し冒険者の方へと近づいて行った。 

 

 

 

 

 タイラントこと少佐とシズは冒険組合の前で少し建物を確認すると中へと入った。

 中に入ると奥にあるカウンターが目に入り、そこが受付なのだと一目で分かった。

 まだ冒険者として登録していないのでまず登録から始めなければならない。異世界にもやはりお役所仕事ってのは存在するのかと自然とため息が出る。

 カウンターに向かって歩き出す辺りにいる有象無象の冒険者達が、タイラントの物珍しさからかシズの容姿からか知らないが舐め回すように見ている。煩わしい視線だが此方から問題を起こすつもりもないので、特に反応する事なく歩みを進めた。

 

「……冒険者として登録したい」

 

 ガスマスク越しの低い声に受付孃の笑顔が少し引きつった。まぁ、こんな不気味マスクに声をかけられたのだから無理もない。

 

「は、はい!新規登録の方ですね!」

 

「俺だけでなく、連れも同じく登録を頼む」

 

 後ろに居るシズの方を見てから受付に言う。その更に後ろの冒険者達はシズが単独かと期待していたのか「やはり連れだったのか!」と落胆の声と大きなため息が部屋に響いた。

 その後、受付孃から冒険者の軽い説明を受ける。説明されて分かったのはこの【冒険者】と言う職業は中々面倒だと言う事だ。

 冒険者になると渡されるプレート付き首飾り、これが冒険者としての力量を示す物であり、階級である。駆け出しに配られるプレートは銅。軍隊ならば二等兵と言った所か。

 当然、二等兵には二等兵に見合った依頼しか受注出来ない。行き急いだ冒険者を無駄に死なせない為の処置であった。

 

「こんな、小遣い程度の依頼しか出来んとは……」

 

 タイラントはマスク越しに見える張り出された依頼書を見て落胆する。文字解読と言語理解の効果もつ指輪を装備している為、日常生活に支障はない。

 一通り目を通し、深い落胆と共に受付孃に訪ねる。

 

「もっと難しい依頼は受けれないのか?」

 

「規則なので……申し訳ありません」

 

 主に採取と雑用とも言える依頼しか受ける事が出来ないとなると、冒険者として名を上げるには一体どれだけの時間が掛かるのか……想像するだけで憂鬱な気分になる。

 タイラントが受付孃とやり取りをしているさなか、組合の扉が勢いよくドカンと開かれ、開くと同時に息を切らし、血だらけの男が中へと転がりこんだ。

 突然の出来事にロビーは静まりかえるが、弱々しく立ち上がった血だらけ男の叫び声で一同は凍りつく。

 

 「城、門近くで、ま、魔物が……現れたっ」

 

 




花粉症の季節です。
鼻セレブが手放せません。
誤字脱字は見つけ次第直します。
報告してもらえると非常に助かります。

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