ナザリックの核弾頭   作:プライベートX

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23:59:53

ちくしょう……

復帰したその日にサービス終了なんて……

こんな事って、あんまりじゃあないか。

いや、モモンガさんのがもっと辛いはずだ。

俺が居ない間もきっとギルドをずっと……

彼だって社会人で仕事をしている。

それでもギルドを管理し維持し続けてくれた。

皆の居場所を守ってくれていたんだ。

ユグドラシルがもう過疎化していたのは知っていた。

でも俺はずっと好きだった。

下らない雑談が好きだった。

心踊る冒険が好きだった。

時間さえあれば15分でも入りたかった……

だが、俺は出来なかった。

ギルドの最後、最後に心の底から思う。

もっとこの場所に……

【ナザリック】に居たかった……と。

 

(あ、そういえばペヤ●グにお湯入れっぱだ)

 

 感傷的な気分に浸かっていたと思ったらこれだ。

自分の気持ちの切り替えの速さに嫌気がさす。

それは俺が社会人だからか軍人だからか。

いずれにせよ今回の休暇は退屈なものになりそうだな。

もうすぐ退屈で下らない【現実】へとログアウトする。

 

(この為に代休を貯めたのになんたる不覚だ……

いや、さしあたっての問題はペヤ●グだ。

捨てるべきか食うべきか……

これは筋肉ルーレットで決めよう……

あ、あれ?何か変だぞ……)

 

00:00:23

あれ?なんか時間過ぎてね?

あれ?あれれ?

 

「ナゼダッ!」

「どういうことだ!」

 

 二人共、ほぼ同時に憤怒の声を上げた。

違和感を感じた時点で二人の行動は早かった。

幾つもある可能性をきって捨て、冷静を装いながらコンソールを開こうと……

反応せず。

もう一度、手を何時も様にかざす。

反応せず。

あ?故障か?何か深刻バグでも発生したか?

それとも何だ、運営は俺を、俺達を馬鹿にしているのか?

なんたる事だ、覚悟を決めた男に生き恥を晒せと?

栄光の終わりを汚した、己を侮辱された思いが溢れる。

タイラントに関しては休暇を潰された事もあってか怒り倍増だ。

モモンガと違って殆ど利己的な事だが。

二人の怒号が静まりかえった玉座に響く。

本来ならばその声に反応する者など居ない。

そう、隣に居るプレーヤーの……

【タイラント】と【モモンガ】以外には。

 

「ど……どうかなさいましたか?」

 

 聞き覚えの無い綺麗な女性の声にタイラントは即座に反応した。

玉座に座るモモンガの前に巨体を滑りこませる。

アインズ・ウール・ゴウンの盾である自信と誇り。

不測事態から大将を守る為、身体が自然と反応していたのだ。

右手に持つガトリングガンのポインターが声の主へと向けられる。

豪華絢爛な部屋に不釣り合いなエンジン音が響いている。

毎分約3000発の火力は圧巻であろう。

タイラントは油断無く状況を見極めようとしていた。

 

「も、申し訳ありません!

至高の御方の許可も無く発言したご無礼……

何卒、何卒ご慈悲をっ」

 

 目の出来事が理解出来ない。

融通の利かないプログラムでしか動かないNPC が喋っている。

しかも何故か凄く謝られている。

あれ?あれれ?オカシイなコレ。

あ、夢かコレ。

実は全部夢でした~ってオチだろ。

疲れているんだな。

うん、違いない。

俺は騙されない、騙されないぞ!

 

『タ、タイラントさん!

落ち着いて!落ち着いてください!』

 

 突然のメッセに驚くが直ぐに反応した。

 

『何だ、何が起きているんだ?

バグかパッチか?

団長!これは一体……』

 

『タイラントさん、一先ず落ち着きましょう。

運営に連絡しようと思いましたが繋がりません。

そもそも分かっているでしょうが……』

 

『コンソールが開かない』

 

『それです。

しかし、この<伝言>は使える様ですね』

 

『確かに無意識に起動していた……』

 

『どうやら此処での会話は聞こえないようです。

見た限りでは深刻バグではなさそうですし……

まずはその、物騒なヤツを仕舞いましょう。

うるさいですし……』

 

『確かにうるさいからなコレ……』

 

『とりあえずNPC 達に劇的な変化がある。

直ぐに襲ってくる気配も無いし……

ここは上位者として振る舞いましょう』

 

『了解、でもいざって時は【殺ります】よ』

 

 タイラントはガトリングガンを仕舞い元の位置へと戻る。

白眼で見ているか見ていないか解らないがアルベドの方を流し目でチラ見した。

見て見ればガタガタと身体は震えている。

まるで叱られる前の子供の様だ。

タイラントは凄い罪悪感に襲われた。

女性には常に優しくがモットー。

その精神はこのユグドラシルでも変わらない。

 

(ガトリングガン向けちゃった……)

 

 何時もの癖って言うべきなのか。

染み付いた習慣がゲームまで反映されているとは……

なんだワーカーホリックだったのか俺は。

しかし、NPC とは言え少しやり過ぎたか?

いや、この解らない状況でやり過ぎたに越した事はない。

まずは俺達の安全の確保が第一優先だ。

それにしても流石は団長。

モモンガの会話を聞いているタイラントは思った。

王者に相応しい態度でNPC 達に的確な指示を出している。

こういった状況に慣れているのか?

まさに指揮官、それも司令官クラスの対応だ。

その素晴らしい手腕に拍手を贈りたい。

とりあえず俺にもやる事がある。

謝ろう。

アルベドに謝ろう。

NPC に謝るってのも複雑な気分になる。

でも絶妙なタイミングを見極めて切り込む。

モモンガの隣に立つタイラントは不動の姿勢で待っていた。

アルベドに会話を切り出すタイミングを……

 

「アル……ベド」

 

 低い、とても低い声でタイラントは言葉を発した。

 

「はっはい!

先程のご無礼平に……」

 

「ユルス。

ワレ、コソ……

スマナカッタ」

 

 声が低いです。

凄く低いですよ、俺っ!

しかも片言ときたよ!

いや、まぁこの見た目で喋りまくったら……

それは何だか嫌だなぁ。

 

「あぁ……

寛大なるタイラント様に感謝申し上げます!」

 

 アルベドの顔に笑顔が戻った。

よっしゃ!これで大丈夫、大丈夫だよな!

振り返って思わずガッツポーズを連発した。

もちろん、バレない様にね!

 

『タイラントさん、俺に考えがあります』

 

『何でしょうか……

いや、理由は聞きません。

やりましょうや、団長』

 

『ありがとうございます。

ではまずタイラントさんは六階層……

アンフィテアトルムへ行って下さい。

リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。

指輪の力が使えるか解りませんが……』

 

『了解、先に行って安全を確保してきますよ』

 

 解らないなら試せば良い。

駄目なら歩いて行くだけだ。

タイラントは何も心配していなかった。

 

『お願いします』

 

 タイラントは即座に行動を開始する。

玉座の階段を重い足どりで降りて行く。

左手のロケットランチャーの安全装置を解除した。

転送した瞬間、戦闘にならないとは限らない。

自身の持つ瞬間火力最強の武器に絶大な信頼を置いている。

手に持つランチャーを肩に担ぎながら巨体は姿を消した。

 

 

 

 

(相変わらず、綺麗な夜空だ)

 

 何故か夜空を見上げる【生物兵器】。

何度も言うが不気味だ。

そして誰がこの巨体が綺麗な夜空に感動していると思うだろうか。

意外にタイラントは感性豊かな男なのだ。

ブループラネットさんの自然に対する拘りには脱帽するしかない。

円形闘技場のど真ん中で大自然(人工的だが)に感動していると……

貴賓席から跳躍する影を確認した。

貴賓席か、俺は貴賓席で観戦するよりも……

愚かな侵入者を叩き潰していた方が多かったからな。

そう考えてみたら此処も俺にとっては居心地の良い場所だった。

跳躍する影にランチャーを構え照準する。

おもしれぇ、来るなら来い。

タイラントにはパッシブスキル【暴君の波動】がある。

同等及び格下の相手の行動を恐怖により阻害するオーラ。

動きが鈍った所にすかさずロケット弾と弾丸の雨を撃ち込む。

爆殺かミンチに出来ればそれで良し。

駄目なら肉弾戦で完膚無きまで蹂躙するだけ。

単純な攻撃だが今までコレを凌げた者はごく僅かだった。

重火器と巨体から繰り出される波状攻撃。

幾多のプレーヤーを葬った必勝パターン。

これで駄目なら奥の手を使うしかないのだが。

しかし、そんな懸念は空振りに終わった。

凄く見覚えのあるNPC。

確か【ぶくぶく茶釜】さんが作ったキャラ……

ダークエルフの男装少女と男の娘だったか?

そのキャラが目の前で臣下の礼をしていた。

 

「タイラント様?わぁ本当にタイラント様だ!」

 

 あれ凄く喜んでる……?

何故だ?何故に喜ぶ?

こっち殺る気満々だったのに?

腑に落ちない感じがしなくもないが考え過ぎも良くない。

ここは上官としての威厳を見せなくては。

タイラントは意を決してコミュニケーションを図る。

言葉足らずの仕様で喋り難いのだが。 

 

 

 

 

 

 

 




代休が消化出来ません。

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