目の前で起きた事が信じられなかった、いや理解出来ないと言うべきか。
突如、街に来襲した魔獣コカトリス。その名に違わぬ力をもって街は人命と共に多大な被害を出したが、その最後は呆気なかった。
赤目の妙な仮面をした全身黒づくめの男と、まるで人形の様な隻眼の美女の二人組に意図も容易く討伐されたからだ。
コカトリスに命懸けで挑んだ俺達が決して弱い訳ではなかった、それだけは間違いない。
幾度の修羅場を切り抜けた手練れの冒険者達が束になってもコカトリスと言う魔獣はそう易々とは討伐なんて出来ない非常に獰猛な魔獣なのである。
だが、一部の例外で言うのならばオリハルコンいや、アダマンタイト級冒険者、または噂に聞く王国戦士団長ならば単騎での討伐も不可能ではないかもしれない。
それこそお伽噺に登場する勇者、十三英雄の領域に踏み込んだ力が有れば。
しかしだ、目の前のコカトリスをパンチ一発で物言わぬ屍に変えたのは見た事も、聞いた事もない奇妙な二人組だ。
鋼の刃すら弾き返す魔獣の体毛を貫く拳を持つ者なんて存在するのか?暴れる魔獣の眼を正確に撃ち抜く、それこそ針の穴を通す様な緻密な射撃が出来る者がいるのだろうか?
最早これは馬鹿げた夢ではないかと錯覚さえした。
少なくとも俺は、このエ・ランテルにそんな事が出来る人間など知らないし、聞いた事すらない。
……でもまぁ、今はそんな事を考えても仕方ない。
あんな化け物の鳥を真っ向から相手して、挙げ句にドテっ腹に一発食らった上でこうして生きていられるのは他でもないアイツ等のおかげ以外のなにものでもないからな。
後であの赤目の野郎に(あの美人さんも含めて)一杯奢らなければならねぇな……
【生存者】ゴールド級冒険者 孤狼のディアッカ。
「貴方達、無事だったの!?」
負傷した者や応援で駆けつけた冒険者達でごった返す組合に連行され、つい先程まで問答していた受付孃に組合に入るやいなや、凄い剣幕で言われた。
冒険者のプレートを投げ返した手前、心配されるいわれは全く無いのだが、表情を見るにこの女は本気なのだろう。
「……無事だ」
言葉少なく、要点だけを正確に返したつもりなのだが仮面女に何故か脛を蹴られた。
「もっと他に言う事があるだろう、馬鹿者」
脆弱な存在が何を偉そうにとも思う……が、致し方ない。階級社会において上下関係、先輩後輩の関係は絶対だ。個人の実力はともかく駆け出し冒険者?であるのだからここは黙って従う他に選択はない。
瞬間湯沸し器の如く沸き上がった負の感情は、これもまた一瞬で抑圧される。
アンデッド特有の精神耐性の恩恵に感謝せざるを得ない。
何故なら一時の感情に流されずに済むからだ。
元人間の俺が言うのもなんだが、ナザリックの一般的な認識として【人間は淘汰されて当然な存在】が浸透している。
下等な虫の様な存在、害虫、良くて家畜と言った所か。まぁ十人十色と言う古いことわざが言う様に別に個人が何を思っていようが別に良い。
しかし、その感情を所構わずむき出しにするのは、場合よっては非常に不利になる。
今回の様な潜入工作作戦にはアルベドを筆頭に偏った至上主義を持つ者は特に作戦の成否に直結する影響を及ぼす可能性が高い。
人間とは自身に向けられる【感情】に敏感な生き物だ。
誰だって自分の事を嫌いな者と仲良くしよう、理解しようとは思わないし、そんな奴とは距離を置く、あるいは排除しようと考える。
それが個人からその家族、友人、他人へと広がってゆき、マイノリティの排除、弾圧へとなる。
だからこそ、その根元たるこの内に湧くこのドス黒い憎悪の感情を上手くコントロールし、抑圧出来なければ円滑な任務遂行など出来ないと俺は考える。
顔にも、態度にも、その空気すら出さない鉄壁のガード、ポーカーフェイスが求められる任務なのだ。
「……先程の無礼を詫びる、すまん」
カツンと踵を鳴らし気を付けをすると、タイラントはそのまま頭を下げた。
高圧的な物言いだが、その謝罪の諸動作は洗礼されており、どこかの騎士団の儀礼にも見えた。
脱帽時の敬礼をタイラントはしたに過ぎないのたが、長く軍隊に居た為か、新兵時代に身体と心に叩き込まれた"基本教練"はこの異世界においても通用した。
因みに余談だが最敬礼はこの敬礼の頭の角度が10度から45度になり、天皇陛下又は隊員の棺以外に実行する機会はない。
(何故、タイラント様が頭をさげているのか)
至高の御方の一人、暴虐の権化たるタイラント様がたかが人間にこうまで従う必要性はあるのか?
(否、考える迄もなく否)
従う必要性など皆無、何故ならタイラントは支配者だからだ。
圧倒的な力で立ち塞がる全てを薙ぎ倒し、蹂躙し尽くす【力】を持つ者。
動く的でしかない人間、そんな物が従がわせて良い存在ではないのだ。
あの鳥もそうだが何故、弱い者ほど身の程をわきまえないのか。
そう考えると、今までどうでも良かった人間と言う存在がとたんに憎くなってくる。
(堪え難きを堪え、忍び難きを忍べ)
出発前にタイラント様が言った事はこの事だったのかと確信した。
屈辱的とも言える状況、しかし堪え忍ばなければならない時があると。
自動人形とて感情が無い訳ではない。主君に対する侮辱を間近で見なければならない、手出しが出来ない苦痛がこれ程とは想定外だった。
無理やり抑え込んだ感情で内部の回線がショートしそうだ。
だけど、従者として選ばれたからには堪えてみせる。
【撃鉄を起こせ】
命令ある、その時まで。
「そ、そんなに畏まらなくて良いわよっ」
不気味マスクが割りと素直に頭を下げた事に少し慌てた様に受付孃ジャネットが言った。
その様子を確認してからタイラントは頭を上げ、首を左右に傾げコキコキと骨を鳴らした。
疲労など感じぬ筈の身体だが、どうもまだ慣れない気がするのだ。身軽になった分、今までの頑強タイラントボデーとのギャップだろうか?
首を捻りながらシズの方を見てみるが、何時もと変わらない表情でホッとした。
これがナーベナルあたりだったら大変だっただろう。
制止する間もなく第八位階魔法をぶっ放しそうだから恐ろしい。
それに比べてシズはどうだ。そう、何時もと変わらない無表情が素晴らしい。
まるで骨董品のPCの焼き付き防止のスクリーンセーバーが起動している状態と言うべきか。
無、ただひたすらに無だった。
「しかし、俺達が来るまでもなかったぜ!なぁ?」
自身の獲物の刺突戦槌を肩に掛け、タイラントの背中をバシン!と勢い良く叩いた。
ガガーランのパワーコントロール皆無の過激なスキンシップを食らうと大概の者は悶絶する。
しかし、人外を人間サイズに圧縮したタイラントにとっては子猫に噛まれたと同等程度、別段気にもならなかった。
「?ガガーラン、貴女達がコカトリスを……」
「違う違う、あの鳥野郎殺ったのはこの兄さん達だ、えぇと……」
「……少佐だ」「シズ」
「シズにショーサだな?そういやぁ自己紹介まだだったな?俺はガガーラン、こっちの小さいのイビルアイだ」
「この二人は王都でも有名な【蒼の薔薇】のメンバー、アダマンタイト級冒険者なのよ!」
まるでババーン!と言う効果音が聞こえてきそうな程何故かジャネットが二人を力強く紹介する。
「んで、この受付がジャネットだ。俺達の昔馴染みだからな、あんまり困らすなよ!」
正直あまり興味は無かったが、このガガーランとイビルアイは其なりに有名な冒険者なのだろう。
まぁ、人間にしては多少は出来る部類に入るだろう。だが、イビルアイと言う仮面の女はただの人間ではない。
寧ろ人間なのか、異形の者特有の気配と力を感じるに混じり者か、真祖か。
どちらにせよ、俺の脅威には程遠い存在ではあるが。
しかし、出る芽は早いうちに駆除すべきか……
「なんだ?何か言いたい事でもあるのか?」
不意にそう言われ、気が付くといつの間にかイビルアイを凝視していた。
「……変な仮面だな、と」
「お前に言われたくないわっ」
イビルアイ鋭い蹴りが脛にクリティカルヒットした瞬間、ビクっと反応しそうになった。
痛みなど当然感じないが何か嫌な感じはするのだ。画面越しの出来事でも股間を強打した時の息子がヒュンとする感じに良く似ている。
古来より、脛とは別名弁慶の泣き処とも言われる。
古の猛者、武蔵坊弁慶すら泣かした人体の急所の一つであると。
階段を踏み外し鋭利な角で脛を強打した時、魂に刻まれた痛みの記憶、思い出すだけでも恐ろしい。
要するに、脛を蹴るのは止めなさい(マジで)
誤字脱字は見つけ次第治します。
中々、更新出来なくてすみません……
感想の方も随時、返信しますのでよろしくお願いします
m(._.)m
全く関係ないですがダクソ3のファラン不死隊がカッコ良すぎて濡れた。