ナザリックの核弾頭   作:プライベートX

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英雄の条件

 そう広くない部屋を灯すランタンの淡い明るさがタイラントの出で立ちをより不気味に見せる。

 隣に並び立つ、誰が見ても屈強な戦士だと一目で分かる漆黒の鎧を纏ったモモン。

 そして、誰が見ても暗殺者か変質者にしか見えない黒いBDUを着たタイラント。

 

 この不気味な二人に共通するのは無駄に黒く、無駄に強い。

 

 諸行無常、弱肉強食の世界に於いて強さとは一つの正義とも言える。弱い者は死に強い者が生きる。崇高な信念あれど力無くしては意味は無い。勝った者が正義であり、負けた者が悪なのだ。

 命の価値が現代、いや現実よりも軽いこの世界では力こそが正義、力こそが全てだとタイラントは確信していた。

 幸いな事に現状で脅威と成りうる存在は確認されてはいないが一寸先は闇、今後絶対に現れないとは言い切れない。

 なんせ未知の世界、自我を持ったNPC達、自分達以外のプレイヤーの存在の有無、等々不確定要素は相変わらず満載だ。

 最早この世界自体が夢、若しくはストレス過多による精神崩壊が原因で作り出した妄想、虚構類いなのかもしれないとも思えてくる。が、目の前に居る奴等は確かに"人間"だ。

 精巧なデータで再現された"物"ではない。一人一人が確かな意思を持ったれっきとした人間だった。

 この世界に飛ばされ随分経ったが、こうまじまじと人間観察する機会はあまり無かった気がする。

 愚かにも我らに楯突いた人間、打算的に接触した組合員、考えてみれば団長以外とまともに会話していない。

 まぁ会話する必要がなかったのだからしょうがないのだが、今後の活動の事を踏まえ積極的に行動していかねばならない。

 

 「……モモンは戦友だ。隣にいるのはシズ、短い間だが宜しく頼む」

 

 タイラントに促されシズはスカートの端を持って挨拶をする。何気ない挨拶動作だが、シズの見た目の美しさもあって皆見とれていた。

 見た事のない装いの男と美女の不自然な二人組だが、モモンの知り合いと言う事もあり、二人の怪しさはさほど気になっていない様子だ。

 しかし何だろうか、気まずい雰囲気が漂っている気がする……

 

 モモンから端的に紹介され、そして言葉少く自己紹介したタイラントだったが、標準装備されている筈のコミュ力(笑)はあまり発揮されず、気のせいかと思われていた気まずい雰囲気は確信に変わり、かつその空気は部屋を完全に支配していた。

 聞きたい事は山ほどある、しかし聞くに聞けない空気を経験した事は誰しも少なからずあるだろう。

 例えば合コン等で女性陣に話を切り出す時とか、特にこの空気になる。

 

 『空気を読むスキルは大切にしたい所だが、この際そんな物は捨てちまえ!!』

 

 『タイラントさん、心の声がだだ漏れですよ!』

 

 『おっと、こいつぁうっかり……』

 

 『『八平かっ!!』』

 

 『『HAHAHAHAHAHAHAHA』』

 

一体何が面白いのか、いまいちギャグのセンスと笑いのツボが解らない大人が二人居るが気にしないで貰いたい。

 寧ろ、何故このフランクさを出せないのか。まぁ出したら出したで問題だが。

 

 「……何か質問があれば遠慮なく聞いてくれ。答えられる範囲で答えよう」

 

 沈黙を破るタイラントの問いかけに素早く反応したチャラ男がシュッと手を挙げた。

 チャラ男は尻込みする仲間を横目に無駄に大きな声で質問した。

 

 「お二方はどのような関係なんでしょうか!」

 

 チャラ男の突拍子のない質問に部屋に静寂が訪れた。

 

 ふむ、シズと俺の関係と言われても健全な上司と部下の関係だとしか言えないが客観的に見るとどうなのか?

 謎のイケメンマスクと謎の美女のコンビ、好奇心を掻き立てられるのは致し方あるまい。

 だが待てよ、もしや年頃の娘っ子を連れ回す不気味マスクとでも思われているのではないだろうか……

 

 (だとすれば非常に度しがたい、度しがたい事態だ)

 

 大切な事なので二回言ったが、正直何と返せば正解なのか解らず、返答に困りぐぬぬ…とマスクの中で唸っているとシズが自分と俺を指さし淡々と質問に答えた。

 

 「部下、上司」

 

 そう、それ。それが言いたかった。

 流石はシズ、余計な事を混ぜないシンプルな回答が即座に出来るなんて痺れるし憧れるぜっ!

 

 「惚れました!一目惚れです!つき「無理」あ、はい」

 

 チャラ男が何を血迷ったのかシズに告白したが呆気なく撃墜された。

 まぁ、被せ気味に無理と言われたらもう何も言えないよね。

 哀れチャラ男、精々身の程にあった女性を探したまえ。

 

 「この下等生物(ゴミムシ)は本当に懲りないわね。一度死になさい。そうすれば少しはまともな頭になるかもしれないわ」

 

 ナーベラルの容赦の無い毒舌がまた部屋に静寂を導いた。

 

 

 

 ータイラント脳内ー

 

 実況:(おおっと!ここでモモンの後ろに控えていたナーベラルから毒舌の追撃がチャラ男に仕掛けられたぁ!)

 

 解説:(いやぁ、流石は人間嫌い同盟の斬り込み隊長ですね。五感すべてから放たれる嫌悪感たるや親の敵を前にしてもそうそう出せるものではないですよ)

 

 実況:(一般人がこれをやられた立ち直れませんからね。特殊な性癖でも持ってれば耐えられるかもしれませんが、心的ダメージは相当なものでしょう)

 

 解説:(本当に人間が嫌いじゃなければ出てこない罵詈雑言ですからね、やはりナザリック代表クラスの実力を秘めた選手です)

 

~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 (い、いかんいかん。脳内タイラントの実況と解説に聞き入ってしまった)

 

 

 「仲間が大変失礼しました……、私はこの"漆黒の剣"リーダーのペテル・モークです」

 

 「……あの森を損害を出さず良く生き残れたな、大したものだ」

 

 「いえ、あれはモモンさんとショーサさんのお陰です。我々だけだったらどうなっていたか……」

 

 「確かにあれは流石にヤバかったな!あ、俺はルクルット・ボルブだ、赤目の旦那!」

 

 こ、このチャラ男、立ち直り早くないか?いや寧ろダメージを受けていないのか!?どんな強心臓の持ち主なのよ……

 

 「確かにお二方は英雄と呼ぶに相応しいのである!」

 

 「ええ、目指す頂きの高さを再認識しましたが……」

 

 小さい童顔の魔法詠唱者の見た目少年?とやたらデカイ男が話に割って入ってきた。

 会話が弾んできた流れに"計算通り"とマスクの中ニヤリと笑うタイラント。見よ!これが俺のコミュ力だと言わんばかりだ。

 人見知りなのに何を馬鹿な事を……とタイラントを知る人間ならば言うだろう、故に気にしたら負けである。

 

 「彼は魔法詠唱者のニニャ『術師』、そっちの大きい方は森司祭のダイン・ウッドワンダー」

 

 一通り自己紹介も終わって適当に雑談しているのだが、個人的にすごく気になる事がある。

 それはやたら会話の中に"英雄"と言うワードが出てくるのだ。

 この世界の事情は分からんが英雄にでも飢えているのか?まぁモンスターがその辺を彷徨く位だからやはり魔王とかいるのだろうか。

 しかし、何だろうか。英雄ってワードには良い思い出はあまりないな……

 

 

 

 

 

 

 『今時、戦争行くなんて正気かよ?』

  (至って正気だよ、間抜け)

 

 『なんだよ的場、お前"英雄"にでもなりたいのかよw』

  (そんな事知るか、なりたけりゃテメーがなれ)

 『お前達は"英雄"なんかじゃない!只の殺人鬼だ!』

  (利口だな、良く分かってるじゃないか)

 

 

 

  

 そう言えば、戦争に行く時も復員した時も周りからピーチクパーチク言われたからか。

 平和に浸りきった愚民共に何を言っても無駄だし、只仲間の為に命を懸けて戦う事の尊さなんか理解出来ないだろうから黙っていたが。

 誰しも英雄になろうとだなんて思っていない。

 

 只、結果的に英雄と勝手に呼ばれるだけ。

 

 やれやれ、真の英雄ってのは死んだ奴等の事を言うのにな…… 

 

 

 

 

 「……俺は英雄などではない」

 

 

 静かに、しかしハッキリと聞こえる声でタイラントは呟いた。その剣幕を前に皆、会話を止め振り向いた。

 

 「……本物の英雄と言うのは"自分の命"と"他人の命"の二者択一を迫られた時、迷わず他人の命を選択出来る者が英雄なのだ」

 

 蛇に睨まれた蛙が如く、漆黒の剣の面々は固まってしまう。

 

 自分の命と他人の命、どう考えても自分の命のが大切に決まっている。

 自らの命を捨てて他者を救う、言うは容易い。しかし、本当にそれを迷わず実行出来る者はこの中に居るだろうか?

 

 

 故に真の英雄と呼ばれる者は自身の死を持って証明されるのだ。

 

 

 「皆さんもお疲れでしょうし、今日は解散しましょう」

 

 気が付けば随分夜も更けていた。軽い懇談会みたいな感じだった筈なのに重い話題で締め括ってしまったな。

 あくまで俺の持論であってそれが全てじゃあないのだけど。

 まぁ、好き好んで英雄になろうとする奴は大概早死にするのが世の常だから精々気を付けてもらいたいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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