ナザリックの核弾頭   作:プライベートX

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深夜の決闘

 夜も更け、草木も眠る丑三つ時。

 カルネ村から少し離れた森の開けた一画にタイラントとモモンガは対峙していた。

 漆黒の鎧を纏った大男と漆黒のBDUを着た大男。

 ナザリックの頭領と大幹部の二人が何故こんな時間のこんな所に居るのか? 

 

 時は遡ること約2刻程前の話しになる……

 

 

 

 

 

 【漆黒の剣】との軽い顔合わせも終わって直ぐの事だった。

 森での一件の疲労もあってか割りと早く終わった顔合わせ。

 早く終わったら終わったで二人は特にやる事がなかったのだ。

 この世界の娯楽、一般的に酒飲むか女を抱くかだろう。

 それも出来なきゃ後は糞して寝る位だが、アンデッド故に酒も女も睡眠すら必要無い。

 ならば有り余る時間を二人は一体どう潰すのか?

 

 色々試した結果、雑談位しかやる事がなかった。

 

 普段からメッセージで雑談しているが、やはり面と向かって話す方が落ち着く気がする。

 それは元は人間だからか、まだ完全にアンデッドに染まりきってないからか……

 だが対等に話せる相手がいたのは良かったとはっきりと言える。

 ナーベラルやシズとでは命令、もしくは業務的になってしまう。

 それでは最早会話ではない。

 それに本来の自分をさらけ出す訳にも行かないので凄く気を使うのだ。

 その点、あーでもない、こーでもない、他愛もない会話が出来てこそ雑談。

 同じ価値観を共有出来るありがたさをお互い身に染みて感じていた。

 思い出話しから始まりそのうち白熱したPVP議論に発展、そして現在能力が縛られた自分の強さは如何程のものなのかと言う疑問にぶち当たる。

 お互い本気で戦う機会はあまり無い。

 今まで本気を出す前に皆相手が死んでしまうので自分達が強すぎるのか相手が脆弱過ぎるのかの境が良く分かっていなかった。

 まぁ恐らくナザリック勢の強さはこの世界では群を抜いている事は確かではある。

 だが、この世界に存在する未知の魔法やアイテム、そして武技なる物の存在。

 己の力を過信し油断をしていたら、痛い目をみるのは自分自身だ。

 いずれ徹底的に調べなくてはならないが、今は現状をしっかり把握しようとの結論に至った。

 そうと決まれば即断即決、二人は直ぐに村を後にする。

 

 要するに、二人は超暇だったのだ。

 

 

 

 淡い月の光を受け反射する漆黒の鎧と真紅のマントが映えるヒーロー然とした装いのモモン。

 一方、無駄を省いたデザインの黒一色の戦闘服に赤黒い色のアイピースが特徴的なガスマスクとフリッツヘルメットの怪人。

 一見すると古い特撮ヒーローの決戦みたいな構図になっている。

 中世対現代、時代を越えた装備クリエイトが出来たのもユグドラシルの醍醐味だった。

 

 「さて、始めようか」

 

 「……ああ」

 

 モモンは二本のグレートソードをタイラントはコンバットナイフと拳銃を取り出し構える。

 

 絶望と憤怒。

 

 人ならざる者の濃厚な殺気が辺りを支配すると先ほどまで鳴いていた夜鳥や虫の音がピタリと止んだ。

 深夜の森の静寂の中、一体何が合図になったかは定かでは無いがその激闘の火蓋は唐突に切って落とされた。

 

 「ぬん!」

 

 手に持ったグレートソードを全力で振り抜くモモン。オーガの強靭な筋繊維と皮下脂肪で守られた体も容易く両断した強烈な一撃。

 一切手加減をしていない、そんな一撃を向かってきた黒い影に遠慮無く叩きこんだ。

 

 「……」

 

 一方、一息で間合いを詰めモモン渾身の一撃を体を捻るだけで回避するタイラント。

 その爆発的な加速のまま飛び込み前転すると体を大きく捻り、胴回し蹴りに発展させた。

 鋼鉄のハンマーと化した足をモモンは剣で弾くとガキーンと言う金属音と共に火花が宙を舞った。

 

 (くっそ、やっぱり速い!)

 

 タイラントの予想以上の速さの攻撃、反撃の流れとタイミングの良さに動揺を隠せないモモンガ。

 そもそも、中近距離戦闘の専門家と魔法職の自分とでは土俵が違い過ぎる。

 PVPは相手の正確な情報、そして何より経験がものを言う。

 情報と言う点ではお互いの手の内は大体分かってる。

 ならば後は経験とセンス、どちらもタイラントの方が自分よりも一枚上手なのは当然の事だ。

 

 (これ、本当にヤバいかも……)

 

 間隙なく振っている筈の二本の剣は空を斬るばかりで掠りもしない。

 対してタイラントは少ない動きで剣を避けては、蜂の一刺しの如く反撃をしてくる。

 たまらず距離を取れば、容赦なく拳銃を発砲して立て直す暇も与えない徹底ぶりだ。

 

 久々のPVP、弱体化&アイテム使用禁止のタイマンバトル。

 ごり押しでは通用しない相手との戦う難しさを久々に痛感する。

 

 「くっ!」

 

 パンパンと乾いた銃声と同時に銃弾が鎧に当たり火花を散らす。

 ジワリとダメージを受けた感覚があると言う事は弾丸は聖属性の物を使用しているのだろう。

 今回はルール上拳銃だけで済んでいるが、普段タイラントの持つ重火器であったらと考えるだけでゾッとする。

 だが効いている素振りは絶対に出さない。

 何故ならPVPは騙し合い、出し抜いてこそ勝機を見いだせるものだから。

 この一方的な状況を打破すべく、モモンは再度攻勢に打って出た。

 

 

 

 (畜生、火力が足りねぇ!)

 

 一方タイラントは自分の火力の無さにストレスを感じていた。

 この身体はいつものT-103型に比べて格段に速度と汎用性は上がっている。

 しかし、タイラントの代名詞とも言える圧倒的パワーと強靭さを引き換えなのが痛い所だ。

 重火器も使用制限され、耐久性も物理攻撃力も半分以下にまで下がっている。

 レベルで言えば大体60前後程の数値であろうか、全く著しい劣化である。

 

 (こんな事なら拳銃縛りしなければ良かったなぁ……)

 

 間合いを取るモモンに拳銃を発砲するがいまいち効いているか分からない。

 拳銃ではそこそこ攻撃力のある45口径でこの様だ。

 次回からは一段階上位のマグナムの装備を視野に入れないと駄目だなと思った。

 

 

 

 この手合わせする際に決めたルールは3つ。

 

 一つ、殺さない程度に本気でやる

 

 二つ、アイテムの使用不可(回復も含む)

 

 三つ、魔法、銃火器の使用不可(拳銃は可)

 

 である。

 

 恐らく、軽火器が使用出来ればもっと楽に戦えたと思うが無い物ねだりしても仕方がない。

 ならば対アンデッド用の弾丸、祝福が施された純銀製の弾を使用して被弾効果の向上を狙うしかない。

 アンデッド特効弾の使用は卑怯かとも思うが弾丸の指定はルールに無い。

 選択出来る全ての手段を使ってこその戦いだ。

 私情や罪悪感などで遠慮していたらこっちが喰われるだけ。

 本気を出して殺り合うからこそ、遠慮などしない。

 撃ち尽くし空になった弾倉を投げ捨て、素早く新しい弾倉を再装填する。

 そんな時、団長が一気に間合い詰めて攻勢に転じて来た。

 

 「……対アンデッド弾だぞっ!ちぃ!」

 

 一瞬の動揺から一瞬の隙が生まれる。

 反転攻勢、急に突撃してくるモモンの剣幕に気圧され、つい銃を乱射してしまう。

 対応としては悪手の極み、心理的に対アンデッド弾を過信していたのもいけなかった。

 被弾も恐れぬモモン決死の一撃はタイラントの持つ拳銃を見事真っ二つに切り裂いた。

 

 「よっしゃあ!」

 

 「……見事、だが甘い!」

 

 一矢報いたのも束の間、即座に体勢を立て直したタイラントはモモンに組み付くと首返しを敢行。

 不意急襲的な反撃にモモンは対応出来ず、呆気なく地面に倒され、かつ首元にナイフを突き立てられた。

 手合わせとは言えナザリックが頭領モモンガ、いやアインズ・ウール・ゴウンに泥を着けた。

 この状況、モモンガLOVEのアルベドが見ていたら発狂してしまうのではないか?

 【マーシャルアーツⅤ】の拘束効果も相まってモモンは完全に死に体になっていた。

 

 「……チェックメイト」 

 

 「降参だ」

 

 降参の宣言を聞いたタイラントは拘束を解きナイフを仕舞う。

 そして手を差し伸べ倒れたモモンを起こす。

 

 「流石だと言わせてくれ、タイラントさん」

 

 「……いや、俺もまだまだ甘い。早くこの身体に慣れないと駄目だ」

 

 「うむ、油断せずにお互い精進しよう」

 

 二人は軽く拳を合わせ、森を後にしようとするがその前にやらなくてならない事がある。

 

 『ふむ、ばっちり見られてたな』

 

 『ええ、見られてましたね』

 

 手合わせ開始して間もなくして感じてた気配が3つ。

 まぁギャラリー位居ても構わないし、プレアデスだしで何も言わなかったが……

 職業柄なのか覗かれるとあまり良い気がしないのも事実。

 たが前向きに捉えればこの状況、中々美味しいのではないか?

 

 『俺達最初から気付いていたんだぜ?(ドヤァ)が出来るのか……?』

 

 『おお、それは定番!定番ですよ!』

 

 『ありがてぇ、ありがてぇ!』

 

 古いアニメとかで良くある展開にテンションが上がる二人だが容赦のない精神抑制発動で速攻落ち着いた。

 

 

 「覗き見とは感心しないな」

 

 モモンは振り返ると、後ろの茂みに向かって言った。

 あくまでも自然かつクールに決める、これが重要だ。

 

 「ルプー、だから言ったじゃない……」

 

 「あー!そんな事言ってズルいっす!」

 

 「観念、する」

 

 

 茂みから出てきたのはプレアデスの3人娘、ルプスレギナ、ナーベラル、シズだった。

 まあ、別に見られたから何?って感じだが我々の威厳を保つ為にもビシっと指導するぞ。

 

 「さて、何か言いたい事はあるか?」

 

 モモンとタイラントの前に跪き頭を垂れる3人は観念した様子で特に申し開く事は無い様だ。

 覗きがバレたのだからしょうがない。

 見たければ見たいと言えば良かったのだ、見られて困るものでもなかったし。

 だが、罰を与える程の事でもない。

 この失敗を糧に是非とも成長してほしい。

   

 「……覗くならばバレない様にやれと言う事だ、精々精進しろ」

 

 「「「はっ」」」

 

 「では解散だ、我々は村に戻る。この失敗を次に生かす事だな」

 

 そう言うとモモンとタイラントは今度こそ森を後にした。  

 

 

 

 

 

 

  

 

  




更新遅れてすみません。
これからも遅れますが……
懲りずによろしくお願いします。

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