ナザリックの核弾頭   作:プライベートX

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検証:運動と武器と魔法

 モモンガさんに言われ円形闘技場に来たタイラントは立ち尽くしていた。

目の前のNPC 、この子供は確か【アウラ】だったはず。

ダークエルフだけあって耳が尖ってる。

左右の瞳の色が違うな、オッドアイってやつか。

流石はぶくぶく茶釜さんが作ったキャラだ。

一見、軽装に見えるが結構防御固いぞこれは。

ナザリック地下大墳墓第六階層守護者の名は伊達ではないな。

魔獣使い兼野伏の【アウラ・ベラ・フィオーラ】。

タイラントは嬉しそうに顔を見られ、恥ずかしさから目をそらした。

しかし何で俺こんな好印象なのだろうか。

アウラ……このNPCとは殆ど接点は無い。

俺が勝手に闘技場で戦闘していただけ。

何故なら凄く雰囲気出たから。

正義面した異形種PK野郎を誘いこみ決闘気分でぶち殺すのに最適な場所だった。

アホは雰囲気出せば直ぐに乗る。

ナザリックを攻略しようとした馬鹿野郎共も此処で迎撃したっけか。

罠とも知らずに滑稽極まりない光景だったな。

此処は俺の【処刑場】でもあって頻繁に来てたはずなんたけど……

アウラとかNPC ってあんま見かけた事なんて無かったなぁ。

 

「いらっしゃいませ、タイラント様。

あたしの守護階層へようこそ!」

 

「ソウカ……」

 

 全然言葉が出てきません。

本当にありがとうございました。

いや、違う。

違うんだ、もっと俺は喋りたいんだよ!

挨拶はコミュニケーションの基本中の基本。

第一印象は凄く大切!

このままでは俺はコミュ障なデカ男になってしまう。

何とかせねば……

 

「ジャマヲスル」

 

「お邪魔なんてとんでもないっ

至高の御方であられるタイラント様を邪魔者扱いなんて……

このナザリックに誰も居ませんよ」

 

 よかった、何とかコミュ障にはならなくてすんだぜ。

まぁ俺の巧みなコミュ力(キャバクラにてスキルup)

ならばそんな心配をする必要も無かったか。

さて、団長が来る前に俺も色々試さないとな。

じゃないと盾としての使命が果たせん。

闘技場だし肩慣らしにはちょうど良い。

 

「マーレ!タイラント様が来てるんだよ!

早く来なさい!失礼でしょ!」

 

「無理だよぅ……お姉ちゃん……」

 

「憤怒の化身タイラント様を怒らせたいの!

とっと来なさいよ!」

 

 ……なんだって?

憤怒の化身?イヤイヤ、俺別に怒ってないよ。

怒るつもりもないよ?

まぁ、とりあえず自分の顔をまず見てみよう。

自己分析から始めなければ何も解らないしな。

因みにリアルの俺はフツメンだ。

取り出したハンドミラーを顔の前へと持ってくる。

……………。

あ、これ駄目だわ。

完全にキレッキレですわ。

白濁した目!

顔色がすこぶる悪い!

そしてスキンヘッド!

どうみても怒ってます。

激おこぷんぷんドリームでした。

だってしょうがないじゃない!

悪魔に作られた【生物兵器】(設定)だもの!

 

「ヨイ、アワテルナ」

 

「でも……」

 

「ケガシタラ、アブナイ」

 

 タイラントはドスンドスンと足音を立てて走り出す。

最初は凄く遅いと思うが、それは間違いだ。

人外、規格外の重量が爆発的な加速力を阻害しているだけ。

大型トラックが全速で突っ込んで来る。

この表現がピッタリ当てはまるだろう。

圧巻の一言に尽きる。

それを臆病なマーレが見たらどう思うだろうか……

迫り来る、タイラントを見たらどうなるか……

 

「ひ、ひぃい!ごめんなひゃい!」

 

 タイラントの有り余る迫力に身体が硬直し……

目の前が真っ暗になった。

マーレは貴賓席の縁で気を失いかけていた。

 

 あ、あれ?マーレが落ちそうだ!

あれは危ないぞ!待ってろマーレ!

俺が必ず助けてやる!

約束だ、必ず助ける!

タイラントは一目散に駆け出したのだが……

マーレは実際落ちそうになどなっていない。

降りるタイミングを図っていただけだ。

臆病な性格故に飛び降りる事が出来なかっただけ。

完全にタイラントの勘違いとお節介である。

踏み出した一歩は走るごとに地面にめり込む。

走ること、風の如く。

そして大きく踏み出し跳ぶ体勢をとった。

片足で全体量を支え、爆発的な跳躍力で一気に跳ぶ。

足がめり込んだ大地は弾けとび、砂埃が舞った。

落下するマーレを空中でキャッチするタイラント。

抱えながらあとは落ちるだけ。

重力に従いタイラントは落下する。

巨体が地面に着地した瞬間、地震と共に地面に穴があいた。

まるで隕石でも落下したのではないかと錯覚するような光景だった。

 

「ダイジョウブカ」

 

 タイラントがマーレを地面に降ろしながら言った。

事の原因であり震源地の中心人物が被害者に声をかける。

そう全てはタイラントが悪い。

別に助ける必要など皆無だったのだが結果的には良かったのか?

被害者のマーレは目を回しながらアウラの方へと歩いて行った。

 

良し、これで一つ目の検証は終わりだ(キリッ

中身の男は凄いドヤ顔をしている。

タイラントの方は全く変化は無い。

相変わらず顔は悪いままだ。

身体の動かし方はゲームと変わりはない。

寧ろ、調子が良いと言っても過言じゃないぞ!

まるで自分の身体の様に動かせる。

ラグや時間の遊びが全く無い。

思考と身体がダイレクトにリンクしている。

 

『タイラントさん』

 

 何時の間にか闘技場に到着していたモモンガから<伝言>で話しかけられた。

玉座での指示はどうやら終ったようだ。

ここからは情報の共有と検証か。

 

『団長、身体の調子が良すぎます。

恐らくゲームの範疇を超えてるかと』

 

『えぇ、その事を含めて俺達の力を見せ付けます。

まぁ私は本当に魔法が使えるかどうか試すのが目的ですが』

 

『確かに魔法職の団長が魔法使えないんじゃ……

ヤバイっすね』

 

『だからこそ、検証します。

あと各階層守護者を此処に集合させますので……

留意と警戒お願いします』

 

『了解です団長。

【ナザリックの核弾頭】の本領見せたりますよ』

 

 モモンガがスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを掲げる。

あのギルド武器はギルド皆で作った最強の武器。

世界級のアイテムにも匹敵する汗と血と涙の結晶。

今のモモンガさんこそ持つべき物だと強く思う。

孤独と仲間が消えて行く絶望感に負けずにギルドを守ってくれた……

ギルドマスター・モモンガ専用にするべきだ!

彼が矛なら俺は盾だ、迫り来る脅威は全て排除する。

今まで出来なかった分、これから恩返しよう。

まだあんまり良く状況解ってないけども。

次々と攻撃魔法を藁人形に放ってゆく様子を黙って見ていた。

魔法のリキャストタイムはユグドラシルと同じか。

共通する部分と違う部分を探すのは大変だぞ……

と言うか俺もやらなきゃ駄目だろ。

 

 

『団長、お願いがあります』

 

『何ですか?』

 

『アンデッドって召喚出来ますか?

それも結構大量に』

 

『召喚系はまだ試していませんが……

やってます』

 

 モモンガがスタッフを掲げると大量のアンデッド……

ゾンビが闘技場、タイラントの目下に現れた。

どうやら召喚系魔法行使も問題無いらしいな。

 

「うわぁ、この量のアンデッドを楽々召喚するなんて……

流石モモンガ様!」

 

「そうだね!凄いよね!お姉ちゃん!」

 

 双子がえらく団長に感心している。

此処は俺の凄さも見せつけねばならん……

ぐぬぬぬ……と若干の嫉妬と焦りを感じたタイラント。

ガトリングガンを取りだしエンジンを起動させる。

けたたましい機械音が唸りを上げ、引き金を引く。

六連のバレルが回転しながら大量の弾をばらまき始めた。

ゾンビ達を薙ぎる様に銃口をスライドさせる。

魔力をコーティングされた弾丸はLv80相当の戦士相手にも通用する。

それが毎分3000発の速度で発射されるのだ。

当然、ゾンビ達に当たればどうなるのか?

木っ端微塵、バラバラになってしまうに決まっている。

いや、バラバラどころかミンチより酷いのかもしれない。

タイラントはこの武器を【ビーハイブメーカー(蜂の巣製造器)】と呼んでいる。

目の前にある物全てに等しく穴をあける武器に愛着をこめて。

無限弾倉(インフィニットマガジン)】のスキル効果がちゃんと発動していれば弾が無くなる事はない。

それでも銃本体にする弾倉交換と排熱のリキャストタイムはある。

火薬の匂いと凄まじい爆音が闘技場に響き渡る。

薬莢が滝の様に吐き出され地面に落ちてゆく。

永遠に続くかと思われた騒音は突然止んだ。

空転する銃身の虚しい音だけが聞こえている。

見てみれば銃の真横にあるモニターに【弾切れ】とリキャストタイムが表示されていた。

空になった弾倉を引き抜いて新しい弾倉を装填する。

あとは排熱リキャストのカウンターが【0】になれば射撃が出来るな。

眼下に広がる光景はひき肉と化した【ゾンビだった物】しかなかった。

 

「あの量のアンデッドをあっと言う間にミンチにしちゃうなんて!

流石タイラント様!

闘技場の覇者に相応しいです!」

 

「そ、そうだね……

凄いよね、凄いねお姉ちゃん……」

 

 あ、あれ?

何かマーレに引かれている気がする。

何故だ……?

解せぬ。




ぶくぶく茶釜さんの闇は深い。

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