ナザリックの核弾頭   作:プライベートX

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英雄計画part3

 死屍累々の大惨事の現場と化したバレアレ邸の倉庫に一人立ち尽くすタイラント。

 その原因の一端である二人組は既に逃走して此処には居ない。

 床に倒れた見るも無惨な姿になった漆黒の剣の面々を見下ろしてハァと一つため息をつく。

 久々に感じる吐き気と頭痛をミックスしたかの様な気分の悪さ……の様なもの。

 自己嫌悪とでも言えば良いのか……はっきりとした答えは出ない。

 時々起こる表現しがたい気分の悪さだが、これが起きる度にある意味自分の【人間性】を再確認してしまうのは何かの皮肉なのだろうか。

 

 見知った人間を躊躇いなく壊す、自分はここまで残酷で残忍だったのだろうか?

 

 心の中で無意味な自問自答をしている自分に唾棄をする。

 そして不意に沸いた不安の様な疑問を強制的に振り払うと拳を強く握りしめる。

 

 (この身体になって散々人殺しをしておきながら、今になって“良心の呵責“に苛まれているとでも言うのか?)

 

 ナンセンスも甚だしい、今さらにも程がある。

 この世は弱肉強食、強き者が正義で弱き者は悪。

 弱さは罪であり自己責任。弱い故にコイツ等は死んだ、只それだけだ。

 今感じているのは知己故の同情、いや哀れみと言った方が正しいか。

 しかし、それは人死に対すると言うよりかは飼っていた愛玩動物が死んだ時に感じるものに近い気がする。

 だから別にコイツ等の敵討ちをしてやろうとか思った訳ではない。

 何せ、漆黒の剣にトドメを刺したのは他ならぬ自分自身、そんな事を思う事自体がお門違いと言うものだ。

 だがタイラントは部屋中に倒れている漆黒の剣の骸を拾うと整然と並べ始める。

 そして欠損した部分は判る範囲で本人の所へ置いてやった。

 並べてやる事で先程の部屋の惨状よりは多少マシなった様に見える。

 しかし、何故タイラントが有象無象の人間にそこまでしてやるのか?

 

 理由は二つ。

 一つは、ナザリックの駒として働く筈だった者への義理。

 二つは、一応冒険者として変な波風を立てない為の保身的な意味合いから。

 

 仮にも同業者の死体を前に放置していたらどんな悪評が出回るか分からない。

 ましてこれから名声を上げて行かねばならないのにマイナスなイメージは必要ないのだ。

 まぁ、この惨事の元凶がタイラント自身だとバレたら身も蓋も無い話なのだが……

 

 「ンフィーレアやーい、モモンさんが来たよー」 

 

 時同じくして、バレアレ邸にしわがれた声が聞こえて来る。

 どうやら家主がモモンを伴って帰って来たようだ。

 タイラントはこの時、心底死体を整頓しておいて良かったと思った。

 あんなブラッド・バスの中心に仮面被った男が立っていたら容疑者と勘違いされてもおかしくない。

 取り敢えず、死体を調べてるフリでもしておけばこの場は大丈夫であろう。

 タイラントは拷問死したであろうニニャと呼ばれた術師の遺体の前に膝をついた姿勢になる。

 

 「ひっ!一体なんじゃこれは!アンタは誰だい!」

 

 本来ならば薬草保管する倉庫、今現在では猟奇殺人現場と言える倉庫へ家主が到着した。

 

 「リイジーさん、彼なら大丈夫です」

 

 あまりの惨状に腰を抜かすリイジーを下がらせ、タイラントに近付くモモン。

 そして変わり果てた漆黒の剣を見て、ある程度状況を察した。

 

 「少佐、状況は?」

 

 「……死亡4、生存1」

 

 「成る程、漆黒の剣は全滅……か」

 

 「……ああ、それも随分と遊ばれてな」

 

 タイラントはニニャのフードを捲りその顔を見せた。

 その顔はパンパンに腫れ上がり、眼球は潰れ水晶体が涙の様に垂れていた。

 その常人なら直視出来ない酷い有り様は顔だけでなく指先に至るまで全身に及んでいる。

 他のメンバーは正に一目瞭然の言葉通りの様子だ。

 だが敢えてタイラントは説明する。

 そうする事によって話しを聞く第三者に、事態の深刻性をより鮮明に印象付ける事が出来るから。

 

 「……他の残りは動死体にされたのでな、俺が始末させてもらった」

 

 「舐めた真似をする、不快だな」

 

 「……ああ、同感だ」

 

 二人は立ち上がりながら不快感を露にする。

 

 (団長に至っては俺よりも長く漆黒の剣と接していたんだ、何か感じるものがあったのだろう)

 

 何となくそう感じたが、タイラントはモモンにその事を聞かなかった。

 詮索屋は好きじゃないし、過度な詮索などをして良い事など無い。

 健全な人付き合いは適度な距離感が必要なのだ。

 

 「それで、生存1と言うのはまさか……」

 

 「……薬師の小僧が生存している、今の所は(・・・・)な」

 

 「今の所は……か」

 

 「ンフィーレアは無事なのかい!」

 

 「……あの小僧なら下手人共に拐かされた。まぁ拐かす位だ、何か利用価値があるのだろう」

 

 「ふむ、私が考えるに時間はあまり残されてないと考えるべきだ」

 

 「……ああ、あのネクロマンサーの慌てた様は見ものだった。確か計画どう……とも言っていたな」

 

 タイラントとモモンの会話を聞いているリイジーの顔色は真っ青を通り越して蒼白になっている。

 下手人はこの赤目の仮面の予期せぬ反撃を食らって慌てて逃げた。

 赤目の話しぶりから下手人は顔も見られている。

 と言う事は、手段を選ばずに計画とやらを早める可能性は十分考えられる。

 だとすれば孫の生死が切迫している事は明白だ。

 

 「一体、どうすれば……」

 

 「依頼したらどうだ?」

 

 意気消沈するリイジー・バレアレにモモンが静かに告げた。

 

 「まさに冒険者に依頼する案件だ、違うか?」

  

 更に畳み掛ける様にモモンは呆けるリイジーに言った。

 リイジーの瞳に僅かながら希望を見いだした光が灯る。

 

 「リイジー・バレアレ貴女は幸運だ。目の前に居る我々こそ、この街で最高で最強の冒険者だ」

 

 「……おぬしなら兎も角、その赤目もかい?」

 

 「ああ、言ってなかったな。彼は私の唯一無二の相棒で戦闘の専門家だ、実力は私が保証しよう」

 

 「そうかい、なら私から言う事はないよ。おぬしらを雇うよ!孫を救っておくれ!」

 

 「賢明な判断だ、リイジー・バレアレ。報酬は、そうだな……お前の全てを貰う」

 

 「す、全て……」

 

 「そう、全てだ。それで孫が助かるんだ、安い代償だろう?」

 

 最早、冒険者との契約ではなく悪魔と契約したかの様な恐怖を感じたリイジーだが、背に腹は代えられない。

 感じた気味の悪さを振り払いモモンに再度懇願をした。

 

 「承知した、わしの全てを差し出そう……必ず孫を助けておくれ」

 

 「契約は交わされた、後は我々に任せて貰おう」

 

 そう言うとモモンはタイラントの方を向いて会釈をする。

 

 「……情報収集系魔法など使う必要はない。手は打っている、シズ」

 

 タイラントは極小の羽虫型ドローンを先程のクレマンティーヌとのやり取りの最中に仕込んでいたのだ。

 あえて相手を泳がすのもPK戦では必要な駆け引きの一つだ。

 この偵察用【マイクロ・ドローン】は使い捨ての課金アイテムの一つで、一度きりしか使用出来ないが発見が極めて困難な挙げ句、敵の対抗魔法によるカウンターの心配がない。

 何故ならドローンに対して何か外的、魔法的な干渉があった場合、即座に爆発してしまうからだ。

 ドローンと受信機又はそれに類する物か種族であれば使用可能と言う、実に使い勝手の良いアイテムである。

 しかし、一応レアな部類に入る課金アイテムなので数に余裕はなく乱用は出来ないのが珠に傷である。

 

 「コピー」

 

 シズはおもむろにスカートの中から街の地図を取り出すとテーブルの上でバッと広げた。

 何故そんな所からと思うが突っ込んではいけない。

 古来よりメイドのスカートの中は神秘のベールに包まれているのだから……

 

 「……奴らの反応は此処、墓地だ。シズ【マイクロ・ドローン】の映像は受信出来るか?」

 

 「受信レベル:低 静止画像になります」

 

 「……構わん、映せ」

 

 「コピー」

 

 シズの目から壁に映し出された画像には夥しい数の動死体が蔓延る墓地だった。

 次々とスライドされた写真の中にはンフィーレアとおぼしき人物が写っているものもあった。

 それを見たモモンは大きく頷き、地図の墓地の部分を指を差して言った。

 

 「決まりだな、これより我々は墓地へと強襲を仕掛ける、各々準備をしろ!」

 

 「……合点承知」

 

 その号令を聞いたタイラントは即座に次元武器庫(ディメンション・アーモリー)を発動させた。

 激しい光と共にバレアレ邸の倉庫が一瞬にして物々しい武器庫へと変わる。

 その変わり果てた倉庫を見たリイジーは無意識の内に呟いていた。

 

 「あ、あんた達は一体何者だい……?」

 

 「……この事は墓場まで持って行く事だリイジー・バレアレ。さもないと貴様の短い余生が更に短くなる」

 

 「最早我々は一蓮托生だ、その事を良く肝に銘じる事だリイジー」

 

 ショーサと呼ばれた赤目の仮面男とモモンに睨まれたリイジーは無言で頷く。 

 寧ろこんな非常識な事を他人に言った所で到底信じて貰えないのは明白だが。

 

 タイラントは壁や棚に置かれた銃や弾を無造作に手に取り、カートを転がしながら追従するシズへ渡す。

 そして二人は山盛りになったカートから物を取り出しながら、銃には弾薬を装填し、予備の弾倉やナイフや手榴弾、果てはロケットランチャー等過剰な迄の武器を全身に装備していく。

 

 「……シズ、敵の本拠地に殴り込みだ。細かい事は気にするな、遠慮は要らん、全力で叩き潰すぞ」

 

 「コピー」

 

 一通り装備が終わった二人が機関銃を肩に担いで立ち上がると……

 何故か\デェェェン/と言う効果音が聞こえた気がした。

 

 「モモンさ……ん、あの二人は何を始めるつもりなんでしょうか?」

 

 「多分、第三次大戦だろう」

 

 そう言うと四人は颯爽と墓地へと向かって走りだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は装備で終わったしまった。
次で冒険者ハンク編完結予定です。
次回:墓地がドンパチ賑やかになったら奴が居る!(嘘

感想の返事返せなくてすみません……
時間を見つけてまとめて返信したいと思っています。

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