ナザリックの核弾頭   作:プライベートX

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漆黒の英雄

 エ・ランテルの外周部の城壁内、その約四分の一の広さを誇る巨大な共同墓地は西側地区に存在する。

 わざわざ巨大な墓地の区画を作るのにはアンデッドの発生場所を限定する事で、万が一の不測事態が起きた時に対処しやすくしているのだ。

 そもそもアンデッドが何故発生するのか、その原因は不明な点が多い。

 基本的に人が死んだ場所、特に戦場跡や遺跡、ちゃんと弔われる事なく放置された遺体等がアンデッドになると考えられている。

 このエ・ランテル近郊も帝国との戦場がある為に巨大な墓地が必要だったのだ。

 王国も帝国も互いの戦死者は戦時であっても丁重に弔う協定すら結んでいる。

 アンデッドは生者にとって共通の敵と言うのがこの世界にとって常識だった。

 故に、この共同墓地を囲む外壁は当然頑丈に出来ている。

 そして、日夜衛兵や冒険者達が巡察しアンデッドを退治して共同墓地の平穏を守っていた。

 

 「な、なんだこりゃあ!」

 

 「ア、アンデッドの群れが……」

 

 外壁の上で警備していた衛兵達は目の前に広がるその凄惨な光景に絶句する。

 一面に広がる墓地全体に蠢く動死体の群れを見れば当然の反応と言えよう。

 まるで墓地をひっくり返して死体を全部出したかの様な、いやエ・ランテル中の死体が一斉に動き出したと言っても過言ではないだろう。

 更にその中にはより強力なアンデッドも確認出来る。

 土を掘り返した匂いと腐った死体の匂いが辺り一帯に広がり、絶望的な状況をより鮮明にさせる。

 

 「か、鐘を鳴らせ!応援を呼ぶんだっ!」

 

 「下に、中に残った連中はどうする!?」

 

 「諦めろ!今門を開けたら終わりだぞ!」

 

 圧倒的な死の濁流が迫る中、衛兵達は慌ただしく動き始めるが何一つ統制は取れていなかった。

 正に蜂の巣をつついた騒ぎとはこの事を言うのだろう。

 

 「突き続けろ!絶対に門に近付けるなっ!」

 

 衛兵達は手に持った槍を一斉に突き出す。

 外壁の高さはおよそ4m、取り敢えずは安全地帯と言える壁上から攻撃する事は今出来る上での最良の策であろう。

 門に近づくゾンビを片っ端から突いていく。

 焼け石に水と分かっていてもやらずには入れなかったのだ。

 

 「た、助けてくれぇ!」

 

 突然、外壁の衛兵の一人が叫ぶ。

 その身体にはピンク色の紐の様な物が巻かれていた。

 

 「か、絡まって取れない!助けてくれ!」

 

 駆け寄る仲間に必死に捕まるが、抵抗虚しく壁の下へと引き摺り落とされた。

 やがて断末魔の叫び声の後に、グロテスクな咀嚼音が聞こえてくる。

 その一名を皮切りに次々と壁の下へと落下する兵士が続出する。

 一瞬にして壁上は安全地帯ではなくなったのだ。 

 

 「くそっ!【内臓の卵(オーガン・エッグ)】だ!」

 

 卵の様な形をし、その裂けた腹の中には大量の内臓が蠢く非常にグロテスクなアンデッド。

 この触手の様に伸びる腸が腹から飛び出し、壁の上の兵士達を絡め取って落下させていたのだ。 

 アンデッドを放置するとそこにはより強力な個体が生まれる。

 これだけ大量にゾンビが湧けば強力な個体が短時間で発生するのは必然だ。

 

 「さ、下がれ!全員下がれ!」

 

 衛兵隊長はたまらず撤退命令を下す。

 安全な筈の外壁の上から槍を突き刺して門を何とか守っていた。

 しかし、その優位性も危うくなった今、いたずらに兵士を失う訳にもいない。

 当然その決断は、現状をより悪化させたのは言うまでもない。

 濁流を辛うじでくい止めていた障害がなくなり、これ幸いと死者の群れは一気に門へと殺到する。

 そして、門へと到達したアンデッド達は原始的な本能の欲するがままに、ひたすら門を叩く。

 死して尚、満たされる事のない”食欲”の赴くままに、生ある者を”喰らう”為に、門を叩く。

 

 ドン……ドドン……ドンドン、ドンドンドンドン!!

 

 墓地の門を叩く音は徐々に増えていると同時に

ミシミシと堅牢な筈の門が悲鳴を上げて始めている。

 

 圧倒的な数の暴力。

 

 一体一体は脆弱な個体だが、その数はその脆弱性を補ってあまりある脅威だ。

 応援が来るのが早いか、門が破られるのが早いか。

 これから起こるであろう大惨事を想像すると、背中に流れる汗は凍てつく様な冷たさに感じられた。

 剣を握る手の震えは全身に広がり、鎧がカチャカチャと音を立て始める。

 衛兵として職に殉じるか、恥も外聞も捨てて逃げ出すか。

 衛兵達は究極の二者択一を迫られていた。

 

 

 

 

 

 

 「やれやれ、やっと着いたか」

 

 「……途中からハム助に乗って「よーし、さっさと始めようか!」」

 

 不意に場違い極まる会話が後ろから聞こえてくる。

 衛兵達は恐怖で硬直した身体を何とか動かして、振り返る。

 そこには、あまりに奇妙な姿の男女合わせて4名と巨大な魔獣一匹が居た。

 派手なフルプレートの鎧を纏った男と赤い妙な仮面をし、見たことのない装いの男。

 そして、こんな状況でも息を飲んでしまうような美女が二人。

 あまりにも、あまりにも怪しい。

 半ば諦観した様子で奇妙な集団を眺めているとその首元や腕に金属のプレートが確認出来た。

 

 冒険者だ!

 

 絶望の闇に一筋の光が見えた様な気がした……がその儚い光は一瞬にして消えた。

 

 【銅のプレート】

 

 その男達のプレートは駆け出しも駆け出しの冒険者が着ける物だったのだから。

 最低ランクの冒険者にこの状況を打破出来る力などある筈はない。

 此方の過度な期待などで駆け出しをいたずらに死なせる必要などないのだ。

 衛兵隊長はあえて語気を強めて言った。

 

 「お前達!早く此処から……」

 

 そう言いかけて不意に気付く背中から感じる何かの気配。

 衛兵達は外壁の向こう、墓地側から見える異様な姿に自らの死を直視した。

 無数の死体が集まって出来た巨大なアンデッド、集合する死体の巨人(ネクロスオーム・ジャイアント)が壁越しに此方を見ていたのだ。

 

 あ、死んだ。

 

 死体の巨人を見た者は直感的に悟った。

 隊長に至っては最早逃げる気も起きなかった。

 絶叫し、無様に逃げ出す部下達を責める気もない。

 衛兵とて人間だ、偶々衛兵と言う職について、訓練して、武器を持っているだけの人間なのだから。

 

 「少佐、やれ」

 

 鎧の男がそう言うと、仮面の男が何かを背中から取り出し突きだす様に構える。

 それは先端部が丸く、大きな【こん棒】の様な物だった。

 

 (まさかあんな物で戦うつもりなのか?)

 

 やはり馬鹿な奴だ、どうしようもなく愚かで、間抜けな駆け出しだと確信する。

 

 (馬鹿は死ななければ治らない、まぁアイツが死んだらその次は俺だ……)

 

 諦めの境地に至った隊長はもう考える事を止めた。

 この馬鹿な冒険者の次はどうせ自分が死ぬのだから。

 どの道、壁を越える様な巨体のアンデッドなど並みの冒険者でも歯が立たないだろう。

 変な期待などしないで潔く死……

 

 !!!!!!

 

 突如、耳を裂く様な破裂音がこん棒から唸った。

 半ば呆然とこん棒の先端を目で追うと、勢いよく飛翔した先端は死体の巨人の上半身に吸い込まれる様に直撃する。

 そして、ボンッという破裂音と硝煙が死体の巨人を包みこむ。

 生暖かい風が煙を四散させると、そこには驚愕の光景があった。

 壁から大きくはみ出て見えていた巨人の上半身が……無い。

 そう、あのこん棒の先端が上半身を木っ端微塵に吹き飛ばしていたのだ。

 

 「う、嘘だろ……?」

 

 現実か夢かの区別がつかない、一度に多量の情報が頭になだれ込み理解が出来なかった。

 

 (あぁ、全部夢だ。こんなの夢でしかありえない)

 

 アンデッドの大量発生から今に至るまで全てが夢であるという結論を出す隊長。

 でなければこんな非常識な事の説明がつかない。

 無理矢理自分を納得させようとするが、直ぐに現実へと引き戻された。

 爆散し焼け焦げた大量の臓物の肉片が時間差で雨の様にびちゃびちゃと落ちてきたのだ。

 

 「一体、何が……」 

 

 突然の出来事に衛兵達は総じて何も反応出来ないでいた。

 自身に降り注ぐ血と臓物を拭う事なく、只々そのあまりにも不可思議な事態に呑まれていたのだ。

 

 「……きたねぇ花火だ」

 

 飛散する肉片を見てタイラントはそう不快そうに一言呟いた。

 

【パンツァー・ファースト30】

使い捨て携行対巨竜火器で一番グレードが低い武器だ。

 だが安価で取り回しが良く、そこそこの威力をインスタント感覚で発揮するのでタイラントのお気に入り武器の一つでもある。

 安心安定の威力に満足しつつも、ミディアム・レアの焼き加減の肉片と血が雨の如く降り注ぐ様子は正に地獄の釜の蓋を開けた様な光景だ。

 

 (しかしこの光景、何処かで見た事がある様な気がしてならない……)

 

 !!

 

 そうか、戦史資料室で見た【第一次世界大戦】だ。

 古い榴弾砲の弾が塹壕へ一斉着弾した時の吹き飛ばされる大勢の兵士か似た様な感じだった。

 そんな様子を生で見れてある意味貴重ではある、でも生ゴミが降ってくるのを見て良い気分になる訳がない。

 まぁ、今さら何を言っているのかとも思うが。

 

 四人+一匹は門の前まで進むと、呆然と立ち尽くす衛兵に向かって開門を迫る。

 

 「……おい、呆けてないで門を開けろ」

 

 タイラントは近くの衛兵にそう要求するが悲鳴の様な声で拒絶されてしまった。

 それは当然といえば当然の反応である。

 門の向こうの墓地は最早アンデッド達の巣窟と化しており、今この門を開けたら大惨事になる事は間違い無い。

 数多の化け物が蠢き、辛うじでその侵攻を防いでいる最後の防衛線である門を何故今開けねばならないのか。

 とても正気の沙汰とは思えない、そう考えるのが普通だろう。

 

 「お前達正気か!この先にはアンデッドの大群が居るんだぞ!」

 

 隊長が先へ進もうとするタイラントの肩を掴み止めようとする、が身体から発せられる威圧感に気圧され後退る。

 とても駆け出しとは思えない、それこそ名のある傭兵や一流の冒険者の様な覇気、いや殺気を感じた。

 生き急いだ虚勢やはったりでは無い。

 コイツ等は本気なのだ、本気でこの地獄に行くつもりなのだ。

 

 「……俺達は冒険者だ。其処に化け物が居る、ならば狩る、狩り尽くす……それだけだ」

 

 

 「その通り、理由などそれで十分だ。門を開けたくなければそれで良い。我々は勝手に行かせて貰おう」

 

 そう言うとモモンは背中から二本のグレートソードを抜き、タイラントは手に持った機関銃のコッキングレバーを引く。

 

 そして二人は一跳びで外壁を飛び越し、墓地の中に入って行った。

 

 「あ、あんたらも行くのか?あの中に!」

 

 「当然でしょう?ゴミむ……臆病者はそこで大人しくしてなさい」

 

 「早く、行かないと、おいて、行かれる」

 

 「ちょ、ちょっと待ってくれ!あんた達、いや、奴らは一体何者なんだ!?」

 

 ナーベとシズは妖艶に微笑み、こう答えた。

 

 「「漆黒の英雄よ」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




すみません、後二話位続きます。
年末休暇なんで頑張ります。

注意:この作品に登場するHEAT弾等、化学エネルギー弾は演出効果を高める為に爆発成分多目に書きます。 
あしからず、ご容赦下さいませ……
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