ナザリックの核弾頭   作:プライベートX

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制裁

 「……挨拶代わりだ、コイツを食らいな」

 

 タイラントは、狼狽えるカジットやその取り巻きの反応や返答を待つ事なく、グレネードランチャーを発射した。

 容赦の無い先制攻撃、完全に敵だと分かっている相手に何を躊躇う必要があるのか。

 “先ずは殺してから考えろ“これはタイラントの行動指針の根幹である。

 ポン!と言う気の抜けた音と共に擲弾は発射され、カジット達の頭上より少し上へ向け飛んで行った。

 

 (あ、外れた)

 

 なまじ弾速が遅いので、その弾道が目標よりもだいぶ頭上へ飛んで行くのが良く見える。

 絶対手元が狂ったのだろうとモモンは思った。

 そう思うのも、タイラントは発射前にわざわざ銃をクルリと回転させてからだ。

 その無駄極まる動作は決め台詞も相まって格好は良かった、昔の西部劇みたいで。

 しかし、それで攻撃を外してしまっては本末転倒である。

 こと、戦闘に関しては真面目なタイラントらしくない、そうモモンは思った。

 

 だがその刹那、KKKの黒バージョンの覆面集団の真上辺りでボンッ!弾が破裂、爆風と共に鋭利な針の様な物が辺り一面、その爆煙直下に降り注いだ。

 タイラントが使用したのはフレシェット弾、鉄製の矢弾を投射する主に対人用の特殊な弾頭。

 ほんの挨拶代わりの軽いジャブ、本当にそんな気軽さでタイラントはこの弾を選んだのだ。

 数ある特殊弾頭の中でも攻撃範囲は優れるが威力は最弱の部類に入っていたフレシェット弾。

 最初期の頃に対人特化の範囲攻撃と言う事で勇んで使ってみるが……

 

 「がっかりだよ!ホントにもうがっかりだ!」

 

 そう叫んでしまった程、蓋を開ければ残念な仕様だった。

 見た目派手なエフェクトの割に肝心の威力は据え置き、更にそこまで範囲も広くないと言う使い勝手の悪さ。

 なまじ実物の威力と脅威を知っているだけに、ショックを受けた事は忘れてはいない。

 だからこそ、この程度の攻撃で死ぬ様な三下は眼中にすらない。

 御大層な格好をしているだけの只の“案山子“と言った所だろうか。

 

 「グギギギ……」

 

 瀕死の人間の弱々しい呻き声が静まりかえった墓地に響く。

 フレシェットの矢弾の雨をもろに浴びた者の様は正に針ネズミ。

 その比喩が全く比喩になっていない部下達の有り様にカジットは絶句する。

 間一髪の自身の防御が間に合ってなかったらと考えると冷や汗がドッと噴き出した。

 

 「……この程度の攻撃も防げないとは。全く呆れた部下だとは思わないか?」

 

 やれやれと、心底呆れた様子で地面に転がる針人間を見下ろしながら、タイラントはそう一方的に語りかける。

 それも、さも他人事の様な飄々とした態度で。

 タイラントの足下では、血だるまの針人間が浅い呼吸と激しい痙攣を起こしビクンビクンと歪な動きをし始めた。

 その凄惨な部下の姿を見てカジットは中々その問いかけに答える事が出来なかった。

 

 「……少し、見苦しいな」

 

 ドン!

 

 そう呟くとレッグホルスターから銃を抜き、痙攣する針人間の頭を次々に発砲していく。

 大口径の拳銃で撃たれた頭は熟れた果実の如く弾け飛ぶ。

 もっとも、飛び散っているのは果汁などではないが。

 一発で頭部の大半を欠損し、あれほど活発に動いていた身体はピクリとも動かなくなった。

 その様子は、まるで機械が黙々と作業しているかの様だった。

 淡々人間を処理する殺人機械。

 その何の感情も、躊躇も無く頭をぶち抜いていく様子は、数々の殺人や拷問をしてきたクレマンティーヌですらその異質さに背筋を冷した。

 一通り処分し終えると、首と肩を回しながらモモンに近くに歩いて行く。

 

 「……さて、そろそろ仕事するか相棒」

 

 「そうだな、我々の務めを果たすとしよう」

 

 モモンとタイラントがそう言うと、各々が武器を構え戦闘体勢を取る。

 モモンは背中から剣を取り出し、ナーベはバチバチと両手に魔法を蓄積させ、タイラントとシズはガチャンと銃に初弾を込めた。

 準備万端、いつでも殺れる。

 この一触即発のピリピリとした空気が漂う段階に来て、漸くカジットは言葉を発した。

 

 「貴様等は何故、儂の邪魔をするのだっ!?」

 

 「……はっ、散々待たした挙げ句のセリフがそれか?」

 

 「わ、儂の数年の計画を!こんな所でっ!」

 

 「……計画?馬鹿を言うな。お前は既に俺達の計画を台無しにしているんだぞ?」

 

 「な、なに……?」

 

 怒りから驚愕の表情に変わるカジット。

 まるで身に覚えがないと言った感じである。

 本当に呆れた感じのモモンが嫌悪感丸出しの態度でカジットに教えてやった。

 

 「薬師の家、冒険者、これで分かるか?」

 

 「あ、あの時のっ!!」

 

 カジットは後悔した。

 何故あの時クレマンティーヌの無駄な殺しを看過したのかと。

 コイツ等は仲間の敵討ちに来たのだ。

 あんな名も知らぬ冒険者程度の為に……

 

 「お前達が殺した冒険者達は我々の名声を高める為に必要だった。それを全部台無しにしたお前達は大変不快だ」

 

 故に、殺す。

 モモンがカジットに向けたグレートソードからは明確な殺意が放たれていた。

 

 「……俺はあの女に伝えておけと言ったのだがな、“必ず殺してやる“と」

 

 タイラントは「そう言ったよな?」とあさっての方向の暗闇に向かって拳銃を向けた。

 

 (あちゃー、やっぱりバレてるか……)

 

 クレマンティーヌは背中に鋭い殺意を感じ、墓場から離脱しようとしていた歩みを止めた。

 歴戦の戦士であるクレマンティーヌは勝てぬ戦いはやらない。

 フレシェットの雨を【不落要塞】で何とか凌ぎきり、早々に逃げの一手を選択した。

 赤目は大した攻撃ではないかの様に言っているが、それは大きな間違いだ。

 あの鉄針の雨を初見で凌げる者など、そうそう居ない。

 

 (まずい、まずい)

 

 数ある状況の中でも反吐が出るほどの最悪と言って良い。 

 何故か?

 離脱に失敗し、完璧に捕捉された。

 そして、見るからに完全武装した赤目の化け物と戦う羽目になった。

 

 【死】

 

 今までこれ程強く感じた事があったであろうか。

 

 【絶望】

 

 強者だからこそ分かってしまう力の差、万に一つ勝ち目の無い勝負。

 

 「……さて、役者は揃った。存分に殺し合おうか」

 

 「おい女、お前の相手は俺だ。同じ剣士のよしみだ、一対一で相手してやる」

 

 モモンはフードを深く被ったクレマンティーヌを指名し、さっさとかかって来いとばかりに挑発する。

 

 クレマンティーヌは歓喜し、そして激怒した。

 

 「はっ!赤目の取り巻き風情が調子乗ってんじゃねぇぞ!」

 

 「キャンキャンと弱い犬ほど良く吠える……」

 

 「てめぇ、殺すっ!ぶっ殺す!」

 

 モモンに剥き出しの殺意をぶつけるクレマンティーヌ。

 あの赤目の取り巻き、相当な手練れである事は分かる。

 だが、一つ言えるのはコイツは赤目程強くはない。

 あの絶対的な【死】のオーラを感じないのだ。

 随分と良さげな鎧を着こんでいるが、装備だけ立派で中身は微妙と言うパターンに違いない。

 

 「ふっ、少佐が居ては集中出来ないか。向こうでやるか?」

 

 心底馬鹿にした感じでクレマンティーヌに言うモモン。

 まぁ、あからさまな挑発である。

 この程度の挑発に簡単に乗るようなら、存外この女も大した事ないなと思う所だ。

 

 「その余裕、絶対後悔させてやる」

 

 「是非してみたいものだ、その後悔とやらを……な」

 

 「……安心しろ、俺は手を出さん。そっちはそっちで存分に殺ってクレ」

 

 タイラントはそう言うとモモンに向けて親指を立て合図する。

 【健闘を祈る】と。

 

 眼だけで人を呪い殺せそうな怨嗟の表情のクレマンティーヌ。

 温度差の激しい二人は、静かに墓地の奥へと消えていった。

 

 (絶対楽しいだろうな、団長)

 

 モモンにとって初の決闘、初のガチンコ白兵戦。

 手練れの戦士との戦闘で学ぶ事はきっと多い筈、是非とも近接戦闘のスキルアップに繋げて欲しい。

 まぁ、あの程度の相手なら団長が“本気になる“事はないから全然心配はしていないが。

 

 「……さて三対一だが、まさか卑怯とは言わないよな?」

 

 「最早、語る事などあるまいっ!」

 

 カジットはそう絶叫し、手に持った死の宝珠を掲げると珠は鈍く光だす。

 そしてカジットの切り札とも言える骨の竜(スケリトル・ドラゴン)が姿を現した。

 

 「……おいでなすったぞ、盛大に歓迎しようか」

 

 「センパー・ファイ」

 

 「シズ、その掛け声は何……?」

 

 腐っても鯛、もとい腐ってもドラゴン。

 そんな強大なモンスターを前にして、間の抜けたやり取りをする3人にカジットは憤怒した。

 

 「こ、こやつ等馬鹿にしおって……やれぃ!」

 

 カジットの号令で骨の竜が動きだし、三人を踏み潰さんとその巨体を急降下させる。

 素人じゃああるまい、そんな見え見えの攻撃など当たる訳がない。

 三人は一斉に分散回避、即座に反撃に移った。

 

 「……シズ斉射三連、ナーベは俺に合わせろ」

 

 「「御意」」

 

 シズは回避の最中いつの間にか取り出したブルパップ式大口径ライフル【GM6-Lynx】を担ぎ顔面目掛けて立て続けに発砲した。

 発砲と言うより破裂と表現した方が良いデカイ音がその威力をまざまざと物語る。

 発射された50口径弾が硬い頭蓋骨に直撃、火花と骨片を散らしながら骨の竜は大きく仰け反る。

 その間にタイラントとナーベは肉弾戦に切り替え、一気に距離を詰める。

 そして、隙だらけの骨野郎にタイラントはハンマーブローを、ナーベは殴りと蹴りの鋭いコンボを叩き込んだ。

 まるでアダマンタイト製のハンマーでぶっ叩いた様なタイラントの強烈な一撃は、たった一発で頭蓋に縦一線の大きなヒビを入れる。

 規格外の規格外による破壊的な一撃。

 まぁ、良く頭蓋の原型が残ったと言うべきか。

 

 骨の竜の強みは高い魔法耐性。

 故にこの場で言えば技縛りをしているナーベには相性が悪い相手だ。

 しかし、此処に居るのはナーベだけではない。

 脳筋ソルジャーとトリガーハッピー人形と言う魔法ともっとも縁遠い存在が二人もいるのだ。

 全くもって哀れとしか言い様がないカジットの切り札である。

 

 「……この程度でヒビ、カルシウムが足りてない証拠だな」

 

 「この程度でショーサ……さんのお手を煩わせるとは、やはりゴミ糞ゲボドブ野郎ですね」

 

 「……ご、ゴミ糞ゲボドブ野郎は少し言い過ぎではないか……?」

 

 部下の辛辣な相手への形容に少しだけ引いたタイラント。

 さすが人間嫌い同盟の期待のホープ、全くぶれないその姿勢、歪みの無さには脱帽だ。

 

 「……まぁ良い、火力で圧倒しろ。さっさと終わらせる」

 

 タイラントは背中から取り出した箱型四連装ロケットランチャーを引き出して展開させ、発射。

 ドシュッ!っと発射されたロケット弾は勢い良く翔んで行き、傷んだ骨の竜の頭蓋骨は直撃を受け爆散。 

 更にはナーベの電撃補助を受けたシズの50口径。

 最早それは電磁投射砲。

 強化された弾は四肢の骨、胴体を次々と撃ち砕き、骨の竜は完全に沈黙した。

 

 

 「くっ、儂にはまだ……ぎゃっ!!」

 

 カジットが再び死の宝珠を掲げようとした瞬間、シズはその腕を撃ち抜いた。

 50口径で身体の一部を撃たれたらどうなるのか?

まぁ、その惨状を想像するのはそんなに難しくない筈。

 結果はカジットを見れば一目瞭然。

 “腕は肩から下のほとんどが無くなる“だ。

 

 「儂の腕、腕がぁ!?」

 

 腕を無くした精神的ショックと経験した事のない激痛。

 耳付近を弾が通過した際の衝撃波で鼓膜は破れ、同時に三半規管はその機能を停止。

 激しい目眩と吐き気が一気に襲いかかり、傷口からは当然の大量出血。

 激痛、目眩、吐き気、激痛、目眩、吐き気。

 終わる事のない、絶望サイクルにカジットの心は完全に折れた。

 

 「……終わりだ、この愚か者を跡形もなく消し飛ばす」

 

 「ウーラ」

 

 「御意」

 

 シズはカジットの頭に狙いを定め、ナーベは両手に激しい電撃を纏わせる。

 そしてタイラントはロケットランチャーを構え、引き金に指をかけた。

 

 

 「おかぁ……」

 

 今際の際の最後のセリフを聞く事なく、三人は一斉攻撃でトドメを刺した。 

 三者三様の凶悪極まりない攻撃はオーバーキルも甚だしい。

 そもそも、人間相手に放つものではない攻撃ばかりだ。

 対物ライフルとロケット弾、ナーベの本気の魔法攻撃【二重最強化・連鎖する龍雷】。

 

 言うまでもないが、その直撃を食らった哀れカジットは肉片一つ残る事なく灰塵に帰し、漸く処刑は終わった。

 

 

 

 

 

 

  

 

  

  

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

  

 

 

 

 

    

 

 

 

 

  

 




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