ナザリックの核弾頭   作:プライベートX

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事後のち報告、時々トラブル

 

 

 

 

 

  ロケットランチャーと特大の雷撃を受けたカジットは、千切れた腕だけを残して跡形も無く消えてしまった。

 千切れながらも後生大事握っている宝玉をまじまじと見るタイラント。

 召喚系、或いは操作系のアイテムだと言う事は分かったが、専門外の為か其ほど詳しくは分からなかった。

 まぁ、団長が見れば何かしら分かる事なので別段気にしてはいない。

 それよりも、今回の騒動の首魁を灰にしてしまったのは少々やり過ぎたと思っている。

 しかも残ったのは千切れた腕だけと言う。

 果たして、この腕だけでカジットの身元が分かるだろうか?

 

 否、分かる訳がない。

 

 現代のDNA鑑定や細胞再生技術でも有ればワンチャンで身元確認出来たかもしれないが、そんな高度な医療技術をこの世界に求めてどうする。

 せめて首だけでも残っていれば良かったものを、こう木っ端微塵に吹き飛ばしては最早どうにもならん。

 だが、もう殺ってしまったものは仕方ない。

 この宝玉だけでも残ったのだ、これだけでも十分な収穫だろう。

 いや、そうであって欲しい。

 

 

 「……と、とりあえず団長の所に行くか」

 

 バツが悪そうに呟くと、収納空間からMG-42を取り出し重そうなコッキングレバーを勢い良く引く。

 ガチャンと金属音と共に初弾が装填されるのを確認し、脚を持って腰だめに構えた。

 

 「……南無阿弥陀仏、精々成仏してくれ」

 

  簡単過ぎる念仏と共に耳を劈く射撃音を響かせながらゾンビを掃射するタイラント。

 機関銃の中でもトップクラスの射撃レートを誇るMG-42は、この場においても"ヒトラーの電動ノコギリ"の異名通りの性能を発揮した。

 そして本日2度目の掃射、その効果の程の詳しい説明は不要であろう。

 只々、目の前に存在する物が"電ノコ"で解体されているだけたから。

 

 なに?もし射線上に冒険者や衛兵が居たらどうするかって?

 そんなもん、大小様々な異形が犇めいていて、かつトリガーハッピーな銃に狙って撃てと言う方が無理な話しである。

 まぁ出来なくはないが、仮に人間が居たとしてタイラントから言わせてみればそんな所に居る方が悪い。

 所謂"死人に口無し"。

 生ける者も死す者も皆仲良く、風穴こさえて死んでくれって事さ。

 あぁ大丈夫、安心してほしい。この銃は、"無痛ガン"だ。

 痛みなど感じる前に逝ける(・・・・・・・・)筈。

 

 眼前に存在する全てに等しく死を与え、偽りの命を容赦無く刈り取りながら、黒い死神は散乱する屍を避ける事なく歩を進めた。

 

 

____________________

 

 

 

 「終わったな」

 

 モモンは鋭く突き出されるレイピアを弾き返し、バックスッテプで距離を取ると意味深げに呟いた。

 

 「あ?何言ってんだテメェ」

 

 「終わった、と言った。貴様の相棒、いや上司?まぁどっちでも良いか……あの男は死んだと言う事だ」

 

 「下手な嘘で……「嘘ではない」

 

 「貴様もあの爆発音を聞いただろう?少佐は殺しのプロだ、間違い無く奴は死んだ」

 

 「ごちゃごちゃと五月蝿ぇんだよ!クソ野郎!」

 

 低い姿勢からスティレットを喉元へ突き上げる。

 その致命の一撃をモモンは辛うじて弾き、お返しとばかりにグレートソードを袈裟斬りに振り落とす。

 人間離れした腕力から繰り出される一撃、細身のスティレットで受ける事など到底出来る訳がない。

 しかし、武技"不落要塞"を発動させたクレマンティーヌは、そんな一撃ですらスティレットで軽くいなしてしまう。

 直撃すれば只では済まない、二本のグレートソードから繰り出される怒涛の連撃。

 上下左右から振られる剛刃を避けながら、鎧の隙間を狙って鋭い刺突を穿つ。

 正に戦士としての経験の差が如実に現れていると言っても過言ではなかった。

 状況としてはクレマンティーヌの優勢、装備と腕力は凄いが間違っても負ける事の無い相手である。

 しかし、何かがおかしい。

 何か得体の知れない不安感が身体をじわじわと支配してくるのだ。

 

 (クソッ、何なんだこの違和感は!) 

  

 この異変を感じたのは、カジットが死んだと言われた直後辺りから。

 あれは只の駆け引き、単なる揺さぶりとして切り捨てるべき戯れ言。

 普段ならば、笑いとばして終わる弱者の戯言にしか過ぎない。

 しかし、先程確かに聞こえた大きな爆発音。

 そして、それに続くように聞こえてくる散発的な破裂音。

 小刻みに聞こえる破裂音はだんだんと此方に近付いて来ている。

 その近付く破裂音に反応する様に、クレマンティーヌの身体は自然と震えが生じていた。

 

 「くっ!?」

 

 唐突に、脳裏に焼き付いた悪夢が鮮明に思い出される。

 "死"そのものを可視化した、或いは体現したあの"赤目の化け物"の事を。

 そんな化け物が、絶対的な殺意を持って近付いて来ると思うと正気ではいられなかった。

 

 「ア、アイツが、アイツが来る……」

 

 頭から爪先まで一気に駆け巡る悪寒は、敵を前にして無様にもガタガタと身体を震わせる。

 ある意味では人間らしい反応、恥ずべき事ではないのだが。

 

 「ほぅ、ちゃんと"恐怖"は感じるらしい。狂人と言っても所詮は女か……」

 

 だが改めて"それ"を指摘をされる、いや馬鹿にされると恐怖を塗り潰す怒りが瞬間湯沸し器の如く一気に沸いた。

 自分より弱い奴に嘗められる程、癪に障るものはないからだ。

 

!!!!!!!!

 

 それは人間とは思えぬ絶叫、ある意味"咆哮"と言うべきか。

 恐怖で固まる身体を動かす為の噴火の如し怒り。

 

 「アイツなんか怖くねぇ!野郎ぶっ殺してやぁぁるっ!」

 

 恐怖と怒りが入り混じった絶叫と共に、クレマンティーヌはモモンに突撃を敢行する。

 その爆発的な加速からの突撃は、彼女の生涯において最速にして最高の刺突であった。

 全ての思考をかなぐり捨てた捨て身の馬鹿力と複数の武技を重ねて発動させた最速の刺突。

 その切っ先はモモンの顔面、兜の僅かな目の部分の隙間を正確に捉え、深々と突き刺さった。

 

 「まだまだぁ!!」

 

 突撃の勢いそのまま、脚をモモンの体に絡ませ固定させると、もう一本のスティレットも突き刺す。

 更にはだめ押しの仕込み魔法の同時発動。

 

 <火球>(ファイアーボール) <雷撃>(ライトニング)

 

 必ず殺す、読んで字の如くとは良く言ったものである。

 正に必殺のコンボをクレマンティーヌはモモンに叩き込んだ。

 炎と雷撃を眼球部分に突き刺してお見舞いしたのだ。

 間違いなく、コイツは死んだ。

 確信の手応えに漸くクレマンティーヌの顔に笑顔が戻る。

 考えてみれば初から気に食わない野郎だった。

 赤目の腰巾着風情でイキってタイマンすると抜かしやがるクソ野郎。

 御大層な装備を着けていたが、戦ってみれば武技も使えない只の見かけ倒し。

 力任せに剣を振り回すだけの木偶の坊に、負ける筈がない。 

 微動だにしないモモンから飛び降りると、身なりも整えずにクレマンティーヌは一目散に走りだした。

 早くここから逃げなくてはならい、その一心で。

 

 

 「クソッ、今日は厄日……」

 

 

 その時、カラン、カランと甲高い金属音が後ろからした。

 同時に感じる異様な気配に、恐る恐るクレマンティーヌは振り返る。

 

 

 「致命の一撃と武器の仕込み魔法か。やはり勉強になるな、実戦と言うものは」

 

 

 其処には髑髏(しゃれこうべ)の目の部分に刺さる二本目のスティレットを抜きながら、気怠げに喋る髑髏が居た。

 

 「エ、エルダーリッチ……!」

 

 「もう少し遊びたい所だが、少佐を待たせる訳にもいかんからな……」

 

 クレマンティーヌは驚愕していた。

 目の前の戦士の正体がエルダーリッチだなんて誰が想像出来るだろうか。

 エルダーリッチは主に魔法攻撃を主体とする魔物。

 そんな魔物が鎧を着て、剣を振り回して戦うなど聞いた事もない。

 "武技抜き"で見ればかなり手練れの戦士であった……

 いや、エルダーリッチだったからこそ武技が使えなかったと考えれば辻褄が合う。

 ならば自分は、"魔法を使うまでも無い相手"だったとでも言うのか。

 モモンの戦士ごっこ、所謂"ナメプ"は彼女に僅かに残っていた戦士としてのプライドを完全にへし折った。

 直情的な怒りや大きな敗北感は、自己の思考や判断力を著しく鈍らせる。

 その結果、彼女は敵を前に"呆けてしまう"と言う決定的な隙を生んでしまった。

 こと決闘、いや戦場において相手に隙を見せればどうなるのか。

 歴戦の戦士ならば嫌と言う程分かっていた筈だったが……

  

 「しまっ……!?」

 

 それは"時既に遅し"と言うのだろう。

 一瞬、時間にしたら一秒にも満たない。 

 呆けた意識を戻した時には、グレートソードの刃はクレマンティーヌの眼前にまで迫っていた。 

 その剛刃は一刀のもとに首を両断し、勢い余った頭部は吹き飛び、それは高く宙を舞った。

 顔は"信じられない"驚愕した様な表情ままで。

 程なくして、頭部を無くした身体は鮮血を噴水の様に吹き出しながら、崩れ落ちる様に倒れる。

 それは、墓場の骸がまた一つ増えた瞬間だった。

 

 「PKで弱みを見せたら死ぬ、それだけだ」

 

 そう言うとモモンは、恨めしそうに睨む頭部を軽く蹴り、骸の海へと沈めた。

 

  元漆黒聖典第九席次クレマンティーヌ。

 その波乱と狂気に満ちた女の人生の最後は、実に呆気ないものだった。

 

 

____________________

 

 

 

 墓場のゾンビパニックから翌日、モモンと少佐は朝イチで冒険者ギルドへと赴いていた。

 先日の墓場の騒動の報告をしに来ていたのだ。

 ギルドに着くなり、奥の応接室の様な部屋に押し込まれた二人は取り敢えず目の前のソファーに腰掛けた。

 お供のプレアデスの二人はギルドの待合室に置いて来たのには理由がある。

 下手に人間嫌いのナーベラルを立ち会わせて、不敬な態度をお偉いさんにとられたら面倒な事になるのは明白。

 第一印象はとても大切だと断言したモモンの判断で待機して貰う事にしたのだ。

 シズはナーベラルの監視、と言うよりお守りだ。

 待機させたナーベラルを一人にしたら、何をしでかすか分かったものでは無い。

 その為の保険と言った所か。

 

 うん、ナーベラルとても扱い難いぞ。

 

 しかしながら、トラブルと言うものは本人が起こさない努力をしていても、寧ろトラブルそのものが自分に降りかかってくる場合がほとんどではないだろうか。

 そもそも、この二人自体がトラブル発生装置の様な物だと言う認識をモモンとタイラントは過小に評価してた。

 二人はこの認識の甘さを事後、嫌と言う程思い知る事になる。

 

 

 

 

 「なんだろう、無駄に待たされてる気がするぞ。嫌な予感がするなぁ……」

 

 この部屋に案内されてから既に1時間は待たされている。

 いくら銅(カッパー)とは言え仮にもエ・ランテルを救った冒険者には変わりはない。

 此方を焦らしているのか、馬鹿にしているのかは分からないが、やはり銅級は銅級なりの扱いなのであろう。

 

 「……俺はナーベの方が心配だよ。人間相手だと堪え症が無いから」

 

 やれやれと深いため息をするタイラント。

 それは、ガスマスク越しでも分かる程デカイため息だった。

 今更だが、人間嫌い同盟の若手エースを目の届かない所に置いて来た事に不安を覚えたからだ。

 その心境は、不出来な子を持つ親と言った所だろうか。

 

 「おおぅ、確かに待合室に置いて来たのは少し迂闊だったな……」

 

 「……うーむ、まぁシズも居るし大丈夫だろ」

 

 とても嫌な予感がする、が考え過ぎだろうと邪念を振り払う二人。

 そして、未だに現れないギルド長を待ちながら、タイラントとモモンは不毛な時間をしりとりをしながら過ごしていた。

 

 

 

 

 所は変わり、待合室で待機するプレアデスの二人に場面は移る。

 現在二人が置かれている状況は、やはりと言うか何と言うか、案の定トラブルに巻き込まれていた。

 

 前提として、プレアデスは総じて並外れた"美女"である。

 人間のあらゆる方面の美と欲望、そして願望を詰め込んだ終着点の造形美。

 そんな黄金に輝く甘い樹液を出す木を、飢えた雑虫共が見逃す筈は無い。

 要するにトラブルが起こらない筈がないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 




なるべく早めに続き投稿します……
いや、したいです……

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