ナザリックの核弾頭   作:プライベートX

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すみません、また王都に行けませんでした。


素顔

 

 

 

 

 

 冒険者組合から出たタイラントとシズは、仮拠点と決めた安宿へ向けて歩みを進めていた。

 

 「おい、なんだアイツ……」

 

 「気味の悪い仮面だぜ」

 

 「ママ、あの人「しっ!見ちゃ駄目!」

 

 相変わらずの妙な服装、妙な仮面なタイラントは一歩街中を歩けばこの様である。

 最早、慣れたと言うべきか直接ちょっかいを出されなければ別にどうと言う事は無い。

 しかし、やはり好奇の目で見られるのはあまり良い気はしない。

 そもそもだ、この"ガスマスク"変じゃなくてカッコいいだろう……

 

 

 「……煩わしい事ばかりだ、全く」

 

 先のギルド内の騒動、ある程度予想はしていたとは言え少々頭に血が上り過ぎた。

 自動精神安定効果で直ぐに落ち着いたが、全く無様を晒してしまったものだ。

 あの程度の小物共相手に、一体俺は何をやってんだ。

 

 「……あれか、中途半端だからスッキリしないのか?」

 

 中途半端に発散しきれてないモヤモヤが俺を惑わしているのだろうか。

 

 (いっそ、"G"でも投与するか?)

 

 恐らく俺が本気に、いや本来の力の半分以下でもこの街の人間など皆殺しにするなど容易い。

 もっと言えば、全力を出したら瞬きする間に街ごと灰にする事すら可能である。

 まぁ、そんな労力の無駄な事などするつもりは無い。

 だが、必要とあれば躊躇なく実行するつもりではある。

 しかし、仮にも軍人である俺が非戦闘員を皆殺しする算段を平気で考え、あまつさえ実行するに躊躇や良心の呵責すら感じない……か。

 

 笑えるな、本当に。

 

 「……ふっ、いよいよ俺も異形に染まってきたって事か」

 

 「何か?」 

 

 「……いや何、お前には貧乏クジ引かせてしまったな」

 

 「!その様な事は……」

 

 「……嫌でも目立つお前達をあんな所で待たせた俺達も短慮だった。お前はナーベを良く御した、失望したと言ったのは撤回する」

 

 「でも、いえ私は……」

 

 「……正当防衛での反撃は許可している。気にする必要などない」

 

 何かを言いそうなシズにそれ以上は言うなとタイラントは手をかざして制する。

 部下の揺るぎない忠誠心は嬉しく思うが、これ以上のやり取りは最早必要ない。

 其よりも、早急に考えねばならん事だらけなのだ。

 まずギルド長アインザック直々の依頼である"森の賢王"ことハムスケの討伐は、当然失敗に終わった。

 代わりと言っては大層なものだが、秘密結社ズーラーノーン壊滅と妖巨人の首の功績でモモンと共にミスリル級へ昇格は出来た。

 この段階で銅級からミスリル級に成れたのは僥幸と言って良い。

 一重に団長ことモモンとの共闘が功を奏した。

 では、このままモモンとずっと組んで冒険者活動するかと言ったらそうではない。

 当初の予定通り、それぞれ別れてこの世界の情報収集及び、他のプレイヤーの存在の有無を探る。

 Yggdrasil〈ユグドラシル〉と共通する魔法、モンスターが存在するこの世界。

 俺達以外にプレイヤーが居ないと考えるには些か早計過ぎる。

 対策無しに敵対的な高レベル・プレイヤーと接触して、戦闘ともなれば死ぬかもしれない。

 もっとも前衛職の俺と後衛魔法職の団長がタッグを組めば、大抵の単体プレイヤーならば返り討ちに出来る。

 しかしながら、それは万全の態勢と対策を用意した上での話だ。

 ことPK戦において相手の情報を先取りする事は基本中の基本である。

 不意なエンカウント、或いは逆に奇襲でもされたと考えると背筋が寒くなる。

 俺達は相当恨みを買っていたから、問答無用で襲って来る輩は割と多い筈。

 

 「……敵を知り、己を知れば百戦危うからず。確か"孫子の兵法"だったか?」

 

 確か古い諺だったと認識しているが、割りと的を得た格言だ。

 あんまり詳しくは知らないが、インテリな上官がよく言っていた様な気がする。

 

 「少佐、着きました」

 

 「……うむ」

 

 これ……見たら分かる、安い宿やん。

 とりあえず、ギルド紹介された安宿に来てみたが予想通りの宿であった。

 一階が受付と酒場兼食堂、二階が客室と言った所か。

 まぁ、汚染防止個人用簡易シェルターよりかは幾分マシって感じである。

 その気になれば野宿でも良いが、そもそも休養を必要としないこの身体。

 ある意味、微かに残った"人間性"を失わない為だけに無理やり休養をとろうとしている様な気がする。

 無意味だと、理解した上でだ。

 

 「……オヤジ、二人部屋だ」

 

 「見慣れねぇ面だな、新人か?」

 

 「……二人部屋だ」

 

 「一応言っておくぞ、銅級の新人は普通は大部屋を選ぶもんだ。その意味は分かるか?」

 

 「……明日にはミスリルになる。二人部屋は有るのか?無いのか?簡潔に答えろ」

 

 無意味な問答に嫌気が差したタイラントは少しイラついていた。

 余計なアドバイスなど聞いていない。 さっさと此方の要求に対する正しい返答をしてほしいのだ。

 

 「み、ミスリルだって?大口叩く新人は沢山みてきたが……その中でもお前さんは一等だ!」

 

 受付のオヤジの笑いは、瞬く間に酒場の中に伝染した。

 

 (また……このパターンか)

 

 タイラントのイライラゲージが急上昇するが、沸騰寸前の所で強制冷却される。

 怒りで見境なくなる心配が要らないのは本当に助かる。

 全く、この機能は便利だと感心する。

 

 「おい!お前の腕にあるプレートは銅だぞ~、ミスリルじゃねーぞ!」

 

 一人の酔っぱらいがタイラントに肩を組んできた。

 そして、腕に巻いたプレートをわざとらしく引っ張る。

 隣のシズが腰に着けた銃剣に手をかけるが、手を伸ばしてそれを制止する。

 思った通りの反応が無いタイラントに業を煮やした酔っぱらいは更なる暴挙に出てしまった。

 

 「気味の悪い仮面着けやがって、おら!恥ずかしがらずに……顔みせてみろよ!」

 

 調子に乗った男は、無抵抗を良い事に面白半分でタイラントのガスマスクに手をかけると、そのまま一気に剥ぎ取った。

 

 ガスマスクを取られたタイラントは、男の方へゆっくりと顔を上げる。

 

 「ははは!は、はは……」

 

 「見 た ナ」

 

 その時は、ほんの"軽い気持ちだった"と後に男は語る。

 見栄張った新人に手荒い洗礼のつもりだったと。

 あわよくば、隣の美人にお近づきになる口実てもあれば、と。

 だが、次の瞬間。

 下品な笑いが響いていた宿の酒場は一瞬で静まりかえった。

 

 「ひ、ひぃ……」

 

 赤目のガスマスクに隠されていた、タイラントの素顔。

 それを見た、いや見てしまった一同は皆絶句をしていた。

 

 「ば、化け物……」

 

 誰かが、絞り出す様にそう言う。

 そして、酒場の誰もがそう思っていた。

 何故ならば、その顔面に存在する肌の全体は、焼け爛れたケロイド状。

 片目は完全に潰れ、残った目は白く濁り、鼻はない。

 口に関しては唇は無く、口を閉じていても歯茎が剥き出しの状態になっている。

 そして顔の中心を頭部から斜めに割る様に縫合された大きな傷。

 一体どんな事をすれば、どんな事をされればこんな顔になるのか。

 最早、人間の顔の要素など微塵も残ってなどいない。

 アンデッド、リッチと言われてもおかしくない、其れほどまでに酷い……とても酷い顔だったのだ。

 

 「……ドウシタ、何をソンナに驚イテいる」

 

 「あ、あぁ……」

 

 「貴様等ガ見タがった、男の顔ダ。ドウだ、満足カ?」

 

 尻餅をついた男は、この段階において自分の行いのツケの大きさを悟った。

 "俺はなんて事をしてしまった"のか、と。

 しかし、後悔先に立たずと世間では言う。

 この場に至って、酔っていたので覚えていない。

 そんな、子供染みた言い訳など通用する筈もなかった。

 

 「か、勘弁してくれ!知らなかったん……がっ!」

 

 必死に謝る男の首を掴むと、タイラントは箸でも持つかの様に軽々と男を持ち上げた。

 鎧を着こんだ大の男を片手で持ち上げるのだ。並大抵の腕力では到底出来ない芸当である。

 

 「……今俺ハ、トデモ機嫌が悪イ。何故ダか解るカ?」

 

 「がっ!ぐっえっ」

 

 「……煩い駄犬二吠えられル、酷く不快ダ。ん、死なぬと分かラなイか?」

 

 冒険者ギルドでも同じ様な事に巻き込まれ、移動した宿でも同じ様な事に巻き込まれる。

 トラブルの梯子に、タイラントはいい加減ウンザリしていた。

 

 (フッ、所詮この世は"力"が物を言う……か)

 

 そう"力"こそ全て、"力"こそパワーなのだ。

 

 (ならば、ぶっ潰してやる……何もかもなぁ!!フハハハハ!!)

 

 ……………………!!

 

 はい、落ち着きました。すみません。

 

 最高にハイになったテンションは強制的に、賢者タイムばりにまで下がった。

 正に急降下、このテンションの上がり下がりの激しさは、人間であれば軽い鬱のそれである。

 だがまぁ、何事も感情のままに動いてやり過ぎてしまうのは戴けない。

 破滅的な結果をもたらしてからでは、取り返しがつかないし。

 

 (少しばかり、俺も反省しなければならないな)

 

 だが、このアホらしいやり取りを今後しない為にも、やはり一度位は徹底的にやらなければならない。

 悪い目立ち方は避けたかったが、最早仕方ない。

 この職業、一度嘗められたら今後もずっと絡まれるだろう。

 絡まれる度に貯まるイライラは正直不快以外何物でもない。

 馬鹿を躾るには言葉ではなく、鞭……いや鉄拳に限る。

 痛みは恐怖を呼び、恐怖は身体を縛る良い楔になるから。

 

 「で、次はドウする?ドウシタ、早く答えろ」

 

 万力の様な腕で首を掴まれ、窒息寸前の男はもがく事すら出来ず、口から吐瀉物を垂れ流しながら痙攣をしている。

 死へのカウントダウンは始まっていると誰が見ても明らかだった。

 このまま窒息で死ぬか、又は首の骨が折れて死ぬか、最早男に一刻の猶予も無い。

 

 「わ、悪かった!俺達が悪かった!だからそいつを放してやってくれ!頼む!」

 

 男の仲間とおぼしき奴が、慌ててタイラントに懇願をする。

 何と都合が良いのか、先程まで馬鹿笑いしていた奴とは思えぬ低頭ぶりではないか。

 所詮、人間なんてこんなものなのだろう。

 圧倒的強者には媚へつらい、弱者にはでかい顔をする。

 悪党を最後まで貫き通す度胸も、戦士としての誇りも信念も無い。

 脆弱で軟弱で貧弱な唾棄すべきクズ共には、つくづく感心させられる。

 

 「……ゴミめ」

 

 タイラントは掴んだ男をぶっきらぼうに投げ捨てた。

 酒場のテーブルや椅子をなぎ倒し、唖然とする酔っぱらい数人を巻き込みながら勢い良くぶっ飛んでいった。

 投げ捨てた死にかけの男を気にかける事なく、青い顔した宿の店主を睨むタイラント。

 正に、"蛇に睨まれた蛙"の表情をする店主。

 無修正の暴君フェイスの恐怖たるや尋常ではなく、所詮は一般人である店主のズボンを濡らすには十分過ぎた。

 

 「……二度も、言わせるなよ」

 

 「あ、ああ!ほら部屋のカギだ……」

 

 店主は慌てて、タイラントに部屋のカギを投げ渡す。

 カギを片手で受けとると同時にガスマスクを着け直し、完全R-指定の顔を漸く隠した。

 そして、腰から切り縮めた水平2連式散弾銃を取り出すとこれ見よがしに一番近くのテーブルに銃を発砲した。

 強烈な破裂音と共に木製のテーブルは一瞬で文字通り木っ端微塵になる。

 コレが"当たれば必ず死ぬ"。

 一目瞭然な結果と聞き慣れぬ銃声は、それを見た者全てを恐怖させた。

 

 「……次は、殺すぞ」

 

 マスク越しの濁ったその声は否応なしに不気味さを倍増させる。

 ましてや、その下に隠された顔を知ってしまったのならば尚更に。

 皆、凄い勢いで首を縦にふる以外に出来る事は無かった。

 

 カン!コロコロ……

 

 その時、腰を抜かした冒険者達の足元に見慣れぬ何かが転がってくる。

 それは、細長い小さな筒に穴がある妙な物だった。

 

 「??何だコレ……ぎゃっ!」

 

 次の瞬間、その筒はボンっと言う爆音と激しい閃光を放ちながら爆発。

 酒場に居た全ての者は、皆意識を刈り取られていた。

 

 "M84スタン・グレネード"

 

 非殺傷兵器、一時的な視覚阻害とスタン効果を合わせ持つ手榴弾の一種。

 不意討ちで使用すれば高ランクプレイヤーにも通用する非常に優秀な消耗品である。

 相手のレベルや耐性に応じて効果に差はあるが、有効範囲内であれば確実に敵は"怯む"と言う特殊効果がある。

 通常の破片手榴弾に比べ値は張るが、効果相応と考えば納得の値段ではある。

 長くタイラントの使用アイテムのレギュラー枠にラインナップされている消耗品だ。

 

 「……暫く寝てろ、屑共め」

 

 気絶する冒険者達を一瞥し、そう吐き捨てる。

 そして、静まり返った酒場を尻目にタイラントとシズは悠々と二階の部屋と移動をした。

 

 




 見た目のインパクト重視でマスクの下の顔は"ネメシス"しました。
 まぁタイラントの派生なので間違いでは無い筈。
 そして、似た様な展開が続いてすみません……
 当方の特殊な教育が終わるまで更新は相変わらず遅れてしまいます。
 年末の休暇に頑張りますので、今後も懲りずに宜しくお願いします。

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