ナザリックの核弾頭   作:プライベートX

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検証:実戦:カルネ村

 自室、心休まる憩いと癒しの空間。

何気に部屋の中は拘って作った気がする。

見よ、このウェポンラックを!

ロケットランチャー、対物ライフル、ガトリング……

大小、遠近様々な武器の数々……

素晴らしい光景だな。

もう軽い武器庫だよ、これは。

そしてそして……

何だか良くわからない液体が充填されたカプセル群を!

中には生物兵器的なヤツが培養されてる。

うん、キモいな。だが、それが良い! 

乱雑に見えて不思議と整った我が家!

近代化パッチで得られる家具家電を結集した……

【研究施設の様な】部屋だっ。

いやぁ、色んな事起こり過ぎて疲れたよ。

実際、疲れなんて感じないみたいだけど……

精神的な疲れは蓄積されている気がする。

だってキリキリと胃の辺りが痛むんだよ……

しかし、とりあえず今は落ちつける空間にいるんだ。

思う存分癒されなくては……

 タイラントは大きな作業台の上にガトリングガンを置き、分解した。

この武器の特徴は使用毎に【整備(メンテナンス)】をしないと性能が低下する。

近代化パッチで取得した多くのアイテムは整備が必要なのだ。

しかも、専用の作業台でしか整備は出来ない縛りもあり結構面倒くさい。

消費アイテム【潤滑油(ガンオイル)】も必要なので尚更面倒に拍車をかける。

馴れた手つきで分解をしていくタイラント。

カチャカチャと金属音が部屋の中に響いている。

暫く無言で作業をしているとノックの音がした気がした。

 

おや、一体誰が俺の部屋に来たんだ?

別に誰かを呼んだ覚えも無いし、団長なら用事があれば〈伝言〉するはず。

なら、この来訪者は誰だ……?

今両手が塞がって、それどころじゃないんだ!

 

「入レ……」

 

もう誰でも良いや、とりあえず入ってくれ。 

考える事を諦めて作業に集中しよう。

まぁ、何かしら用があるんだろ。

だが、コレが終わるまで待っててくれ。

結構繊細な作業なんだよ、これは。

整備の出来高によって威力がUPするのだから……

負けられない戦いが此処にある。

 

「失礼致します……」

 

ん?何か女の声が聞こえた気がしたぞ……

おいおい、俺も遂にヤキが回ったのか?

幻聴まで聞こえてきたとかヤバイなぁ……

いよいよ精神がやられているな。

早いとこ整備して休まねば……

いや、待てよ。

気のせいかもしれんが確認は必要だよな。

きちんと確認しなければ、うん。

緊張からか錆び付いたブリキのオモチャの様な動きになっている。

意外にもタイラントの心は繊細なのだ、ある意味では。

振り返ると其処には薄いピンクの髪をしたメイドがいた。

メイド服の随所に迷彩柄が混じっている。

服装のセンスに凄く親近感が沸いたタイラント。

ウッドランド迷彩マフラーが素敵ですよ。

 

「プレアデスはシズ・デルタ……

御身の前に……」

 

 あれは幻聴ではない、これは幻でもない。

瞬き出来ないがシズをガン見している。

何故に……戦闘メイドが俺の部屋に?

全く解らんな、俺呼んだっけメイド。

いや、呼んでないな。

と言うか自分の事は自分でやる主義だし。

一体、何の用なんだろ。

 

「何ノ用ダ」

 

「私は、タイラント様の、お世話を命ぜられました」

 

「ソウカ」

 

 え?誰から?誰から命令されたの?

俺は聞いてない、聞いてないよ!

落ち着け、落ち着くんだ……

まずは状況と気持ちを整理しようか。

タイラントは大きく深呼吸をした……つもりだ。

実際は呼吸などしていないからこの行為に意味は無い。

だが、何故だろうか急激に感情が抑圧されていった。

(あ、何か速効で落ち着いたわ)

お世話と言われても別にしてもらう事ないなぁ。

今の所、メンテの手伝い位しかないよ。

寧ろメイドにメンテをさせるってどうなのよ……

へへっ、オイラの身体のメンテなら大歓迎だがなっ!

………………。

って違う、違うってばよ!

ちょっとした若気の至りなんだよ、あんまり若くないけど。

これでは只の変態オヤジじゃあないか……

ん、さっきから何かフリーズしてるぞ?

どうしたんだ?

 

 

「気二ナルノカ?」

 

「……凄い」

 

 シズさんがウェポンラックに見とれてる。

何故だ?俺の武器が珍しいのかな?

確かにユグドラでもマイナーな武器ばっかりだけども。

まさか、ミリオタなのかな?

うむ、解らんな。

でも手持ちぶさたでも悪いからな……

よし、此処は共通の話題でコミュニケーションをとるか。

優しい上司だってアピールせねば。

タイラントは作業に切りをつけて道具を置くとウェポンラックの前へと立つ。

メイドが特に見ていた対物ライフル(アンチマテリアルライフル)を取った。

それをシズの前に持っていき前につき出す。

眼帯をして片目しか出ておらず人形の様に無表情だったが……

一目で分かる位に動揺していた。

 

「持ッテ、見テ、待ッテイロ」

 

「で、出来ない!御方の物を……」

 

「オ前ノ、仕事ハ、無イ。

ダカラ、ソレ見テ、待ッテイロ。

壊シテモ、気二スル事ハ無イ」

 

 半ば強引に持たせると作業台に戻るタイラント。

チラ見でシズを見たが満更でもなさそうだな。

ガトリングガンの下位互換の武器だからな。

別に壊れても全然、問題ない。

むしろコミュニケーション取れたってだけでお釣が出る。

ふぅ、喜んでもらえて良かったぜ。

気まずい上司の部屋に居るのはキツいからな。

俺は空気の読める上司になるんだ。

なんか良い事したらテンション上がってきた!

折角だから強化しておくかな……

【止まらない、俺の創作意欲は、無限だぜ!】

タイラント本日の心の一句。

そうして時間は過ぎていった……

 

 

 

 時と場所は変わりタイラントとモモンガは四苦八苦をしていた。

遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)】。

テレビとも昔の携帯電話【スマホ】とも言えるアイテム。

使い方を二人の異形があれよこれよとしているのは……

やっぱり何か不気味である。

 

『本当に使い勝手が悪いなぁ』

 

『まぁ、団長の手のサイズじゃあないと使えないし……』

 

 タイラントは自分の手を見せながら肩を落とした。

この身体は良くも悪くもデカ過ぎる。

戦闘向きの身体ではあるが、一般生活するにはデメリットが多い。

まさか自分のアバターで生活する羽目になるなんて……

予想も想像も出来ないだろう。

寧ろ分かっていたのなら……

もっとイケメンなキャラにしたわっ!

 

『何だこれ、お祭りかな?』

 

 鏡を見ていたモモンガの呟きに気づき、タイラントも覗きこむ。

小さく映し出された集落の映像……

蟻の様な物が忙しなく動いている。

画面をスクロールするとその様子がより鮮明に見えてきた。

 

『団長、こりゃ虐殺ですぜ』

 

 タイラントは見馴れた風景にやれやれと頭を振った。

ファンタジーの世界に来ても人がやる事に変わりはなかった事に失望したからだ。

てっきりディ●ニーみたいな平和で夢みたいな世界かもしれないと思っていた。

それがこれだ。

人間の本質は何処に行っても変わらない。

吐き気がする程不快にな気分になる。

 

『団長、どうする?』

 

『見捨てる、危険を犯してまで助ける必要はない』

 

 モモンガを見ながらタイラントは思った。

きっと団長は自分の判断に納得はしていない。

指揮官としては素晴らしい判断ではある。

いまだ未知の状況で行動するには早すぎる。

まして俺達は【正義の味方】ではないのだ。

だが、何かがおかしい。

非戦闘員の虐殺が行われているのを見て何も感じない。

俺は職業軍人だ。

本来なら激昂し、上官殴ってでも救出しに行ったはず。

でも今は何とも思っていない、思えない。

頭をにあるのはナザリックとその仲間達がどうなるのか。

只、それだけだ。

 

『たっちさんなら……

迷わず助けに行くでしょうね』

 

 罪悪感を吐き捨てるようにモモンガは言った。

 

ー誰かが困っていたら助けるのは当たり前ー

 

『確かに、彼は正義の味方でしたね。

あの生き様は素直に尊敬する』

 

『あの人に僕は救われたんです。

当時PKに合い続けて、だから……』

 

『団長、行きましょう。

迷って後悔する位なら……

俺は納得して死にたい。

あとは、軍人として虐殺は看過出来ん』

 

『たっちさん……貴方の恩は返します。

どちらにせよ実戦でしか分からない事ありますし。

行きましょう、タイラントさん!』

 

『了解だ、団長!』

 

「セバス!居るか!」

 

 モモンガさんがセバスを呼んでナザリックの警備について指示をしている。

この村は比較的ナザリックに近い。

別動隊が周辺に居るかもしれない。

用心に越した事は無いだろう。

画面に逃げる少女の姉妹が映っている。

むぅ、背中を斬られて倒れた!

あまり、時間は残されていないな……

タイラントは転移門(ゲート)の魔法を起動させると……

床から棺桶の様なカプセルが現れた。

カプセルは観音開きに開くと中にタイラントが入れるスペースがある。

そう、これは近代化パッチで転移門(ゲート)のエフェクトが変わっているだけ。

タイラントが転移門(ゲート)の魔法を行使するとこれになる。

 

『そのパッチは有効なんですね……』

 

 モモンガが苦笑いしながら此方を見ている。

骸骨故に表情は分からないが。

 

『うん、でも雰囲気出るでしょ……

では、お先に』

 

 タイラントがカプセルに入ると蓋が閉まり、勢い良く床に消える。

白い水蒸気の様な物がカプセルのあった場所に漂っていた。

床に消えたカプセルが何処に行ったのかは考えてはいけない。

転移門(ゲート)と同じく人知の及ぶ所ではないのだから……

モモンガは後詰めの指示と完全武装のアルベドを更に呼び万全を期す。

異世界初のPKだ、負ける訳にはいかない。

程なくしてモモンガも転移門(ゲート)をくぐり姿を消した。

 

 

 

 

 もう駄目だ、私達は此処で死ぬ。

村娘、エンリは震える妹を抱きながら諦めた。

どう考えても助からない。

自分達は目の前の騎士に殺される。

何故、こんな事になってしまったのか……

幾ら考えても答えは出ない、出る訳がない。

私達の様な弱者の命なんて、騎士達からしてみれば価値など無いのだろう。

偉い人の勝手な都合で、気分で殺される。

弱者には【抗えない】のだ。

絶対的な力の前では死神に命を刈られるのを待つしかない。

力一杯、妹に覆い被さり抱きながら自分の最後を待つ。

それが、今自分の出来る精一杯の抵抗だった。

一分、いや一秒でも妹を守らなくては……

その思いだけがエンリの体を動かしていた。

 

………ガゴォン!!!!

 

絶望的な状況の中、物凄い音がした。

今まで聞いた事の無い音が。

恐る恐る、伏せた顔を上げると……

見たことのない物が地面から突き出ている。

鉄の固まりが、【棺桶】の様な物が地面から生えていた。

 

 

「な、何だよありゃ……」

 

「知らねぇよ!お前見てこいよ!」

 

 騎士達も【棺桶】に驚いている様だ。

だが自分達の置かれた状況に変化はない。

ただ少しだけ、私達の寿命が伸びただけだ。

騎士達の興味が棺桶から無くなれば私達は死ぬ。

諦めと焦燥が心を蝕んでいく。

 

その時、重たそうな鉄の蓋が突然ドスンと倒れた。

 

音だけでその重さが分かった。

そして棺桶の中から霧が出てきている。

中は暗くて良く見えない。

いつの間にか私も騎士達も奇妙な棺桶に釘付けになっていた。

一体、この中には何が居るんだ?

呆然と棺桶を見ていたその時、中で何かが動いた。

確実に棺桶の中に何か得体の知れない【何かが】居る。

そして自身の心臓の鼓動が早くなるのが解った。

私の本能が此処から逃げろ、早く逃げろと言っている。

さっきの絶望が生易しく感じられるほどの……

圧倒的な恐怖の渦。

ガチガチと震えから歯が当たり音が出る。

妹も声を殺し、怯え泣いていた。

そして、その恐怖の原因がついに姿を現す。

鉄の棺桶の中から姿を見せた。

 

白濁した目をした……

黒服の死体の様な大男が。

 

「な、何だ貴様は!」

 

「薄気味悪い野郎だ……何者だ!」

 

 騎士達は突然現れた大男に叫んでいる。

だが、男は何も答えない。

代わりにドスン、ドスンと足音を立て此方に向かって歩き出す。

見た目のせいだろうか、まるで【死体】その物が向かってくる様だった。

 

「び、びびるな!相手は丸腰だ!」

 

 騎士の一人が向かってくる男に斬りかかった。

助走をつけながら、大きく振りかぶり斬りつける……が。

バキャーンと金属音が森に響いた。

鋭利な剣の刃が身体に触れた瞬間折れた。

剣の中程からポッキリと折れたのだ。

自分の折れた剣を見て呆然とする騎士の頭を大男は掴む。

そして、軽々と持ち上げてしまった。

完全武装した騎士を片腕だけで持ち上げている。

常軌を逸した怪力に開いた口が塞がらない。

私も、もう一人の騎士も口を開き呆然と眺めるしか出来なかった。

目の前の信じられない状況は夢ではないかとさえ思えてくる。

 

「ああぁあ!痛い痛い痛い!

離してくれぇ!頭が!頭がぁぁあ!」

 

 捕まれた騎士が痛みから絶叫し必死にもがいて懇願している。

 

ベキョ、ベキョベキョベキョ……

 

耳障りな音が捕まれた騎士から聞こえてきた……

良く見ると頭と顔を覆う鉄のヘルムが凹んでいるではないか!

ジタバタと暴れる騎士だが大男は気にもしていない。

大男は更に力を加え、ヘルムは歪さを増していく。

 

「いぎゃい!いぎゃい!いぎゃ!!」

 

そして、騎士は断末魔とともに頭を握り潰された。

鉄のヘルムの隙間から赤黒い血が垂れ流れている。

グチャリとまるでリンゴを握り潰すと同じように……

 

大男は平然と人間の頭を握りつぶした。

 

事切れた騎士の死体をゴミを捨てる様に放り投げた大男。

私達の目の前に死体が転がってきた。

落ちた衝撃で歪に変形したヘルムが外れ、露になる。

頭と顔の原形を留めない、見るも無惨な死体が。

 

「ば、化け物……」

 

 先程までの威勢は何処にいったのか、残った騎士はガタガタと震えていた。

大男は相変わらず無言で私達を見下ろしている。

この死の恐怖がいつまで続くのか……?

冷や汗が吹き出し、妹をより強く抱き締める。

 

………シ……ネ。

 

大男から低い、それは低い声が聞こえた気がした。

耳を澄まして、その声を聞いた瞬間。

エンリは声を聞いた事を心底、後悔した。

 

「死ネ」

 

はっきりと聞こえたのだ。

それは死神の死刑宣告の様に思えた。

騎士は手に持った剣を放り投げ、悲鳴を上げて一目散に逃げ出す。

情けない、あんな奴に私達は殺されそうになっていたのか。

女の様な悲鳴を上げ逃げる騎士を見てエンリは思った。

大男は特に追いかける様子もなく、その場から動かない。

だが、その目線の先には逃げ出した騎士の方をしっかり見ていた。

悲鳴を上げながら逃げる騎士に向かって大男は……

何処から出したのだろうか大きな筒を担いでいた。

私の身長位あるだろうか太い丸太の様な物に見える。

一体これか何が起きるのであろう。

エンリは目が離せなかった、いや離したらきっと殺される。

そうとしか思えなかったのだ。

 

!!!!!

 

その時、爆音と共に筒が弾けた。

耳を突き抜ける様な音と閃光、そして衝撃。

凄い量の砂埃が舞い、むせてしまう。

そんな砂塵舞う中、エンリはしっかり見ていた。

筒の先から火の魔法だろうか何が飛び出していったのを。

だんだんと離れる騎士に向けて煙りを吹きながら火の魔法は向かっていく。

そして、遠目から見ても分かる位に……

爆音と爆発で騎士はバラバラに吹き飛んで死んだ。

焼けた様な臭いが鼻をつく……

目の前に立つ大男(化け物)に……

私達はあの騎士と同じように殺されるのだろうか……

エンリは再び窮地に立たされた。

 

 




次回 タイラント変装どうするの?の巻き

 9月1日プチ修正しました。

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