ナザリックの核弾頭   作:プライベートX

7 / 43
実戦:カルネ村:暴君降臨

 その者は歩く。

全てを薙ぎ払い、踏み潰しながら。

 

 その者は進む。

立ち塞がる全ての者に、死を振り撒きながら。

 

 

 そして生者達は悟った。

自分達の運命を、逃れられぬ死の運命(さだめ)を。

 

 

 

 

 

「ゴミダナ……」

 

 硝煙が射出口から漂う中、タイラントは呟いた。

元々、職業柄か【殺人】に対して一般人よりは耐性はあった。

命令とあらば敵を、人を殺す、其処に私情などは無い。

祖国の平和と国民の平穏と言う大義名分の元……

数知れない戦場を、人知れず渡り歩いて来た。

多くの人を救い、また多くの人を殺した。

初めて人を殺した時は震えが止まらなかった。

何度も何度も、胃の中の物を吐き出す。

命令だから、殺した。

念仏の様に唱えたのを今でも覚えている。

得体の知れない恐怖に怯え、眠れない夜を過ごす。

目を閉じれば、死んだ者の断末魔が聞こえてくる気がした。

良心の呵責を無理やり押さえ込み、必死に心を殺す。

暫くすると、悩む事もしなくなる。

仕事に【慣れた】と言うべきなのか。

死者の事を考えるのを止めたのか。

いつの間にか敵を、悪党を殺す事に抵抗が無くなっていた。

命令の元に人を殺す事に躊躇しなくなっていた。

だが、今回は今までとは少し違う。

命令ではなく、自らの意思で、自分の気に食わない人間を殺す。

だがまぁ、ある程度予想はしていたが……

 

特に何も、何も感じなかった。

 

足下に転がる、頭の潰れた死体を見ても。

前方に散らばった、惨たらしいバラバラ死体を見ても。

私的殺人をした罪悪感も恐怖も後悔もない。

路端の邪魔な石をどかした程度の気持ちしかないな。

 

「ククッ、人間ナド、止メテイタノニ……」

 

 全く、一体俺は何を考えていたのか。

とっくに地獄行きの片道切符を死神から貰っている。

まともな死に方など、この俺が出来る訳がない。

それなのに、今さら人を殺した事に何を思うのかなど……

そんな事を考えていた自分に笑えてくる。

手に持つ撃ち終えた発射筒を捨て二人の少女の方を向く。

ドスンと重量物の落ちた衝撃で少女の姉妹がビクっ反応した。

良く見ると背中を怪我をしているではないか。

フム、どうしたものか。

丸太の様な腕を組んで考える。

そこへ、タイミング良くモモンガとアルベドが転移門(ゲート)から出てきた。

正に魔王と近衛の暗黒騎士の登場だ。

 

「露払い御苦労」

 

 モモンガから発せられた労いの言葉。

だがしかし、苦労など全くしていない。

雑魚の頭を握り潰して、逃げた薄情な奴を爆殺しただけだ。

 

「流石はタイラント様。

見事なお手前でございます」

 

 続くアルベドの過大な賛辞。

いや、だからね。

全然、流石でも見事でもないの。

頭をパッカーン、逃げた奴チュドーン。

簡単過ぎて正直ビビってるのよ私。

もっとギリギリのバトルがあるかと思ったの。

まぁ大抵の攻撃なら耐えられる自信あるけども。

 

「それで、その生きている下等生物の処分はどうなさいますか?」

 

 おやおや、アルベドさんが物騒な事を言っているぞ。

さては、あんまり今回の主旨を理解していないな。

モモンガさん、しっかり説明してやって!

タイラント・ボイスじゃ複雑な説明出来ないの。

日本語、ムズカシイネ……その気持ちが良く解ったわ。

 

「怪我をしているようだな……

飲め……」

 

 おぉ、流石は団長だぜ。

アンデッドなのに下級治癒薬(マイナー・ヒーリング・ポーション)を持っているとは。

やっぱ、皆の事を考えていたんだなぁ。

 

「の、飲みます!だから妹には……」

 

「お姉ちゃん!」

 

 怪我をしている姉を必死に止める妹。

涙ながらに展開される姉妹愛、いや家族愛か。

だが、おかしい。

団長は怪我をしている姉を心配して下級治癒薬(マイナー・ヒーリング・ポーション)をあげた。

何故、彼女達は使う使わないで揉めてんの?

 

『げ、解せぬ……』

 

 モモンガ魂の呟き。

なんで親切であげたのに、拒絶されるのか。

理不尽すぎる仕打ちに肩を落としていた。 

 

『ハハッ、それは団長の容姿が問題なのさ!

僕に任せて下さいよ!』

 

 ドヤ顔(中の人)でタイラントはアイテムボックスから取り出した……

完全治療薬(応急スプレー)を争う姉妹に向かってスッと差し出す。

全ての傷を癒す、魔法薬。

まぁ、近代化パッチで見た目が変化しているだけだが。

刮目せよ、ジェントルマンとはこう言う事だっ!

 

ツカエ(お嬢さん、コレを使ってね!)

 

………………………。

 

「い、い、いも、妹だけ、だけは……」

 

「うぁああん!」

 

 あ、あれ?家族愛どころの話じゃなくなった。

何故か必死に命乞い&大泣きをしだしたぞ!

どう言う事だ、俺は君たちを助けたんだよ?

ほら見てよ、この頑強タイラント・ボデー!

カッチカチやぞ、カッチカチやぞ!

ゾクゾクするやろっ!

 

『げ、解せぬ』

 

『なんなの……これ』

 

 二人の異形の者は頭や眉間に手を添え考えこんだ。

ぐむむむ……と唸り声が聞こえてきそうな迫力。                    

この見た目でそんな格好をすれば、否応にも不気味さは増す。

まして、髑髏顔の魔王と死体顔の化け物が……だ。

二人は自身の容姿と人間であった頃のギャップに慣れていない。

考えこんでいると優しげなアルベドの声が聞こえた。

 

「御方々の恩情を無下にするとは……

万死に値する、懺悔をしながら死になさい!」

 

「マテ、アルベド」

 

振りかぶられたバルティッシュを掴み、タイラントは言った。

タイラントの有無を言わせぬ覇気。

アルベドは即座にバルティッシュを下げた。

そう、せざるを得なかった。

 

 こ、この美人さんは短気でいかんよ。

俺の危機管理危険関知センサーが反応してなければヤバかった。

そのバルティッシュで首切りとか本当に洒落にならん。

もっと落ち着いて物事を考えて貰わんとなぁ。

まぁ、アルベドの気持ちも解らんでもないが。

 

「コレ、ツカエ。

キズ、ナオル」

 

 方膝を地面について目線を下げ、姉妹に喋る。

これは一つのコミュニケーションテクニック。

目線を下げる事によって威圧効果も下げる事が出来るのだ。

精一杯、優しく、分かりやすく話したつもりだ。

これで駄目なら、もう知らん。

無理やりでもその背中の傷にスプレー噴射したる。

それはもう、容赦無くブシューっと噴射したるで。

 

「わ、解りました……」

 

 姉がスプレーを受け取り妹が恐る恐る背中にスプレーを噴射した。

神秘的な輝きの粒子が背中を包み込み、傷を一瞬で癒す。

不可思議なアイテムによる、不可思議な効果。

死体顔の無慈悲だと思われた大男が渡したアイテム。

まさか、自分達を殺さず助けてくれるとは思ってもみなかったのだろう。

正しく、鳩が豆鉄砲をくらった様な顔を姉妹達はしていた。

落ち着いた所で団長が姉妹に簡単な質問をしている。

こんな時でもしっかり情報収集とは抜け目がない。

俺達が知らない事やユグドラとの共通点を潰していく。

いや、もう貴方何者ですか団長さん。

しかも、ご丁寧に防御魔法増し増しと小鬼(ゴブリン)将軍の角笛まであげてるよ。

ぐぬぬぬ……アフターケアが半端ない。

 

『さて、団長。

俺は少しゴミ清掃に行ってきますわ』

 

『お願いします、あとタイラントさん。

タイミングを見て止めますので皆殺しは避ける方向で』

 

『……理由を聞いても?』

 

『我々の他にもユグドラシルから来た人がいるかも知れません。

そこで、分かりやすく宣伝してやるんですよ。

アインズ・ウール・ゴウン此処にありってね。

ユグドラで我がギルドの名を知らない奴はモグリですから』

 

『成る程、でもどうやって?』

 

『それはね……』

 

 暫く、モモンガとタイラントは立っている。

今後の方針を<伝言>で話しているからだ。

周りには聞こえない為、腕を組んだ大男と骸骨が立っている。

得体の知れない圧迫感が凄いが……

傷も癒え、気持ちも落ち着いた姉妹が二人に意を決して話しかけた。

 

「あ、あの、助けてくださって……

ありがとうございます!」

 

「ありがとうございます!」

 

「気にするな……」

 

 モモンガが姉妹の感謝に答え、タイラントは身の丈程ある【ある物】を取り出す。

アルベドとモモンガ、タイラントは村へと向かって歩きだす。

異様な容姿の三人だが、姉妹は叫ぶ様に訊ねた。

自分達を救ってくれた異形者の名を。

 

「お、名前を……」

 

 ゆっくりと振り返り、モモンガとタイラントは答える。

かつて繁栄と栄光を欲しいままにした、誇りあるギルドの名を。

ナザリックを守り続けた、誇りあるキャラの名を。

 

 

「我が名を知るが良い。

我が名は……アインズ。

アインズ・ウール・ゴウンだ」

 

「我ガ名ハ……」

 

対物(アンチマテリアル)ライフルのコッキングレバーを引いて初弾を装填する。

ガチャンと大きな金属音をさせるとライフルを片手に再び歩き出す。

 

「我ガ名ハ、タイラント。

ナザリックニ、仇ナス者ヲ、滅ボス者ナリ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 森の近くに居た若い騎士は逃げ惑っていた。

人生でかつてこれ程速く走った事があるだろうか。

武器を投げ出して、木々を縫う様にひたすら走る。

後ろから同僚の命乞いと断末魔、耳を突き抜ける様な異様な音が聞こえる。

だがそんな事を気にしている場合ではない、ないのだ。

7人居た仲間は今はもう、自分以外は居ない。

皆、爆音のした場所から突然現れた大男に殺された。

殺されたなんて生温い、挽き肉にされたとでも言った方がまだマシだ。

手に持った鉄の筒先から火が出たと思った瞬間。

隣の奴の首が落とした西瓜の様に弾けた。

唖然とする俺達をよそに人を、人間をまるで玩具を壊す様に殺す。

頭部を、身体を、脚を、腕を、千切り、潰し、捨てる。

あれは、人間では無い。

あれが、人間であってたまるか。

兎に角、村に居る仲間と合流せねば。

この異常事態を知らせないといけない。

走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る……

若い騎士は必死に走っている。

後ろで聞こえた炸裂音。

気になるが怖くて振り返る事など出来ない。

直後、ふと足に違和感を覚える。

何故か足の感覚が、地面を踏みしめる感じが無い。

おかしい、何かがおかしい。

そして、自分は走っている筈なのに何故……

俺は何故、空を見てるの……か。

 

対物ライフルの大口径の弾丸は騎士の鎧ごと身体を真っ二つにした。

単発の威力と貫通力はドラゴンの鱗すらぶち抜く。

そんな物を人間に撃ったらどうなるか。

結果は見ての通りだ。

騎士は自分が死んだ事すら気が付かないまま、叫びながら死んだ。

絶叫と爆音が同時にカルネ村に響いた。

村人も騎士も皆、一点を見ていた。

黒煙が上がっている森の方向を。

そして、その直後何かが宙を舞っていた。

液体の様な物が村人に降り注ぐ。

 

「雨……?いや血?」

 

目を凝らして落ちてくる物を見て皆、絶句した。

それは騎士の千切れた上半身が血と臓物を撒き散らしながら飛んでいたのだ。

広場の中央、人の集まる中心にグチャリと落ちた身体。

どんな事をしたらこんな死に方をするのか。

見るも無惨な仲間の死体を見る騎士と村人達。

素人でも解る圧倒的な殺意の波動と濃厚な血の臭い。

騎士達の見上げるその先、村と森の堺に何か居た。

 

それは漆黒のコートを着た、大男。

片手に細長い筒の様な物を持ち、もう片手には【人間】だった物を掴んで。

暴君が立っていた。

 




次回 タイラント、無双するってよ。の巻き

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。