ナザリックの核弾頭   作:プライベートX

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カルネ村:暴君覚醒

 それは絶望。

その始まりは唐突だった。

耳を突き抜ける咆哮が合図かの如く……

大男(化け物)の一方的な殺戮が始まった。

 

 

 

 その異様な大男は手に持った鉄の筒を捨て歩き出す。

一歩、また一歩と着実に此方へと進んでくる。

本当に嫌な汗が全身から出てきた。

地面に転がる同僚の死体に目を向け思う。

全身鎧(フルプレート)を着た人間が引き千切れているとは……

だが、鎧ごと胴体を千切れる人間など居る訳がない。

少なくとも、俺はそんな人間など見た事がない。

しかし、目の前の大男の左手には転がる死体の下半身が握られている。

丸腰の男を前に誰一人、向かって行く者は居なかった。

 

「く、くそったれがぁ!」

 

 恐怖と緊張に耐えられなくなった一人の騎士が絶叫と共に斬りかかった。

半狂乱で絶叫しながら、力の限り剣を振り落とすが……

大男はまるで目障りな虫を払うように腕を振る。

本当に邪魔な物を退かす様に、振り向く事なく。

斬りつける剣を粉砕し、騎士の顔に男の拳が当たった。

 

「うぎっ!」

 

 嫌な音と声と共に、首を歪な方に曲げふっ飛んだ。

剣や鎧、そんな物はこの化け物には全く意味が無い。

一発、たった一発の拳で即死だ。

無理だ、勝てない。

そもそも勝てる見込みが無いとか、そう言う次元ではない。

死ぬか生きるか……

この場からどうやって我々は生きて帰れるか……

それ一点に尽きる問題だ。

 

「神よ、あぁ神よ……

どうか我等を御守り下さいっ」

 

 ロンデス・ディ・グランプはそう吐き捨てる様に言う。

何故、神は敬虔なる信徒である我等をお救いにならないのか。

神の救いなど無いと分かった上で、言った。

身体が震え、鎧がカチャカチャと音をたてている。

そして、手に持った剣を見て痛感する。

自分の持つ剣がこれ程、頼りない物なのか……と。

 

 

「うあぁああ!」

 

 死の恐怖に負けた一人が、逃げ出す。

一目散に死にもの狂いで逃げようとするが……

大男の投げた木材によって、数歩も踏み出さないうちに串刺しになった。

男が腕を伸ばして人差し指を左右に振っている。

逃がすつもりは無い。

不気味な程、無表情の顔がそう言っている様に思えた。

そして、目の前には息絶えた同僚の串刺しオブジェ。

貫かれた身体から臓物がはみ出し、強烈な臭いを放つ。

我々が此処から逃げる事は出来ない。

あらためてその事実を痛感する。

 

「オオオオォォォ!」

 

 空気が、魂が震える。

感情など無い、死体顔の男が吼えたのだ。

だが、それは人の叫び声ではなかった。

そう、例えるならまさに化け物の咆哮。

自分の圧倒的な力誇示する獅子と同じ様に吼えた。

今まで俺達は命を【狩る】側だった。

無抵抗な者を一方的に只、殺るだけ。

だが、その立場が逆転した今、自分達に何が出来るのか?

答え?答えなど分かっている。

自分達が殺してきた者達と同様、祈るだけだ。

救われぬと分かっている上で、神に祈るだけ。

それしか、弱者にはそれしか出来ないのだから……

 

 

 

 怯える敵を前にタイラントは咆哮する。

色々溜まったストレスを解消する為。

大声出せば少しは胃の痛み、ムカつきがとれるかと思ったから。

だがしかし、実際はストレス解消どころか力が湧いてきた。

何故だ、何故俺はこんなに熱くなっているんだ?

 

(タイラントもっと熱くなれよ!甘えんなよ!全力でいけ!)

 

俺の心の師匠がそう言っている気がする。

う、うおぉ!やったる!

俺、やったるで!それはもうガツンと!

 

 

『ふぅ……』

 

 目を瞑り、大きく深呼吸をした。

すると、カチっと頭の中の何かが切れた気がする。

タイラントが仕事場に、鉄火場に向かう時と同じ仕様にした。

仕事をする時の様に、感情の一部のスイッチを切ったのだ。

これから自らが行う、【私刑】をする為に……

 

 見下ろす騎士達が怯える様子が一目で解る。

あれは、【死の恐怖】を知らない兵だと。

安全かつ無害な者しか殺した事が無い奴等だ。

……軍人の風上にも置けねぇよな。

俺には解る、コイツ等が殺しを楽しんでたって事が。

武器持たぬ者を殺す事になんの罪悪感を抱いていないって事が。

【命令だから殺す】

俺達軍人は命令の下、武器を持ち戦う。

国の為、家族の為、信じる神の為、金の為。

戦う理由なんか、皆人それぞれだ。

何が悪で何が善なんて誰にも解らん。

俺だって沢山殺したさ、それはもう数えきれない程に。

それでも、それでもだ。

人間としての良心、軍人の誇りを捨てた事は無い。

不正規戦争であっても、難民、市民を襲った事など無い。

武器持たぬ者を守るのが本当の防人だろうに。

荒んだ心や考えは環境のせいだとずっと思っていた。

だが、どうもそうでは無いらしい。

こんな綺麗な自然がある場所でも、人は……

人は殺し合いしている

【人間】って奴は本当に罪深き生き物だ。

 

「ハハッ」

 

 身も心も本当に人間を止めたからか。

凄い客観的に考えられたもんだな。

人殺しって事は俺もコイツらも何も変わらないのに。

だから、綺麗事は言わねぇよ。

これは弱肉強食だ。

因果応報、自業自得、又は八つ当たり。

その身をもって知るが良い。

【死の恐怖】ってものを。

貴様ら本当の【絶望】を教えてやる。

弱者共よ、精々神に祈れ。

そして、後悔しながら……

死ね。

 

 タイラントは駆け出す。

その巨体と重量からは想像も出来ない速度で。

ドスン、ドスンと足音を立てながら重戦車はドンドン加速した。

あっと言う間に騎士の身体の震えが視認出来る距離まで縮まる。

咆哮と恐怖で固まる騎士達を剛腕で次々と撥ね飛ばして行く。

タイラントの進行方向に居る者全て、例外無く蹂躙された。

必殺、剛腕アイアンクロー。

必殺、タイラント重み。

必殺、右ストレート。

必殺、ハガー市長仕込み回転ダブルラリアット。

頑強タイラントボディから繰り出される肉体アクション。

当たった瞬間、即死亡。

半狂乱で逃げる奴、向かってくる奴。

皆、平等に叩き潰す。

 

「母さん!母さん!お母さん……」

 

良い年してお母さんかよ……

まぁ、余談だが良く死に際で叫ばれる【お母さん】。

実は結構多いのだ。

【お父さん】って叫ばないのは何故だろう。

不思議だなとしみじみ思う。

そんな泣き叫ぶ煩い奴の頭を掴むと……

円盤投げの要領で思いきり、投げた。

もの凄い勢いで燃えた民家の壁をぶち抜き、家は崩壊する。

まだ生きていたのか、中から火だるまで暫く叫んでいたが……

直ぐにその断末魔は聞こえなくなった。

返り血を浴びても黒色のコートは相変わらず不気味な光沢を放っている。

圧倒的な死の権化。

騎士達の【絶望】の始まりだった。

 

「神よ、お助けください……」

 

「神よ……」

 

 自分達の死を悟ったのか一所懸命に祈っている。

まぁそんな都合良く、救ってくれる神なんか居ない。

そう、【神は死んだ!】って言ってやりたい。

首を左右に傾け、左右の拳を身体の前で二回打ちつける。

ガキィン、ガキィンと強化合金で出来た手甲が音と火花を放つ。

 

「貴様らぁ!あの男を抑えよ!」

 

 震えながら良くもまぁそんな事言えたもんだ。

声のした方を睨むタイラント。

恐怖からか、元々なのか音程の狂った男の金切り声。

腰が引け、お前本当に男か?と思える程滑稽な男だ。

 

「俺はこんな所で死んで良い人間じゃあない!

お、お前!この村人共に雇われたんだろ?

なら金をやる!二〇〇金貨!

いや、五〇〇金貨だ!」

 

 お前は一体何を言っているんだ?

俺に、お金を寄越してどうするつもりなんだ?

まぁ見た目は人間っぽいけどさ。

人間ではないって普通解るだろうに。

さてはコイツ馬鹿か、馬鹿なんだな。

頭が、頭が腐ってやがる……早すぎたんだ。

やれやれ、このチャンプ級のノータリンをどうしてやるかね……

タイラントはため息をしたのち少し考えた。

そして、閃いた事を即座に行動に移す。

 

「……オギャアアァァ!」

 

 タイラントは馬鹿な奴の頭と脚を掴み、持ち上げると……

左右に思いきり引っ張る。

そう、身体を引き千切る事にしたのだ。

だいたい気に食わん事をするコイツが悪い。

金で何でも買えると思ってる奴。

命と信用は金じゃあ買えないんだよ。

こういう奴が平気で山や川、尊い自然を破壊する。

傲慢な成金馬鹿は死なねば治らん。

だから、楽には殺さない。

苦しみながら死ぬが良い。

更に腕の力を増して本格的に殺しにかかる。

 

「たじゅ、たじゅけで!

お願いしまじゅ!なんでもしまじゅ!」

 

 必死にもがくが【必殺タイラント握力】の前では無駄な抵抗でしかない。

ミチミチと嫌な音と鎧がひしゃげる音が聞こえてる。

口から胃の中身と血が混じった物が出て周囲に飛び散った。

耳を覆いたくなる男の絶叫が更に響き渡る。

 

「おかね、あがねあげましゅ!

おだじゅげぇてぇてぇ……

う、うえぉおがぁ!!」

 

 絶叫と共に男の身体は真っ二つに千切れた。

本当に腕力だけで人間を引き千切ってしまった。

それを見た騎士達は次々に吐き出す。

辺りに雨の様に飛び散る内臓と大量の血。

大男に握られる哀れな人間だった【物】。

その【物】の名はべリュース。

この殺戮部隊の指揮官で資産家だったゲスな男。

だがタイラントにそんな死に行く【物】の事なんて関係ない。

つまらない物を捨てる様に事切れた身体を投げ捨てる。 

臓物が千切れた所からはみ出た死体。

それを見た騎士達の心は完全に折れた。

いや、木っ端微塵に砕けたと言って良い。

 

「いやだ!いやだ!死にたくない!」

 

「た、助けてくれぇ……」 

 

 その異常で凄惨な光景を見て、あちこちから錯乱した悲鳴があがる。

此処に居たら間違いなく殺される。

だが、逃げても同じく殺される。

騎士ロンデスは決断を迫られていた。

逃げて死ぬか、逃げずに死ぬか。

この究極の二者択一を。

 

 

 




速報、皆大好きべリュース隊長がお亡くなりになりました。

本作で登場する対物ライフルは【ゲパード】を想定しています。
バレットでも可ですが、個人的にはゲパードを押します。
悪しからず、ご容赦くださいまし。

次回、タイラント逃がさないってよ!の巻き
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