そんなある日の日曜日 作:唐笠
ナギSIDE
「ハヤテ!?」
いつになく積極的なハヤテにあたふたしていると、急にハヤテがテーブルに突っ伏してしまった。
その衝撃で食器類が散乱する。
「おいハヤテ!
いったいどうしたのだ!?」
「おろぅさま…」
ハヤテの肩を揺さぶってみるが、寝ぼけているのか呂律がまわっていない。
まずい…
このままでは確実に店員に追い出されてしまうだろう。
「お客様、どうかされましたか?」
そう危惧したさなか、私たちに声がかかる。
追い出されたとなれば面汚しも甚だしい。
なにより、ハヤテに私と出かけるとろくなことがないと思われるのがイヤだった。
「き、気にしなくても大丈夫です。
あまりにも美味しくて飛び付いてしまっただけなので…」
私はあくまで笑顔で接する。
たぶん引きつっているだろうけど…
「は、はぁ…」
ヤバい…
この店員、私の言うことを信用してないな…
って、あんな言い訳じゃ当然か……
「ね、ね!
お兄ちゃんも謝ってよ!」
と言っても、この言葉が通じてるならば、今の状況に追い込まれていないわけだ。
仕方ないので、ハヤテの頭を掴むと謝ってるふうに見えるように上下させる。
余談だが、お兄ちゃん呼びなのは、客観的に見て私が呼び捨てではおかしいからだ。
「ベブチッ!」
ゴンゴンゴンゴン!
なんかハヤテが変な声をあげた気がするが今は我慢してもらおう。
「お兄ちゃんたら、謝りながら食べるなんてはしたないよ」
もともとハヤテが突っ伏した位置には食器があるので、どうしても食器に顔を突っ込む形になってしまうのだ…
「ガベラッ!ボクンチャ!」
もはや、なにを言っているかわからない…
そもそも、ハヤテ自身も言語を発している気はないだろうが…
「お、お客様…」
まずい!まずい!まずい!!
こういう時に頼りになるハヤテが今の元凶だし、いったいどうすればいいのだ!?
「おっ、あそこにいるのはナギちゃんじゃないか!」
「にははは、ハヤ太君もいるよ~」
「げっ……」
振り向かなくてもわかる…
今、会いたくない人物ベスト5の内の3人がすぐに近くにいるのだと…
あの3バカに関われば、更に状況が暗転することは間違いなしだろう。
「2人でこんな所にいるとは、主と執事の禁断の愛というやつか?」
そう言いながらニヤニヤするのは朝風理沙。
あながち間違いではないが、なんかムカつくな…
「なら私とヒナも……」
とりあえずお前は黙れ。
と言うか、そこまでオープンじゃなかっただろ…
そう花菱美希に心中でつっこみをいれておく。
「えっ、ナギちゃんとハヤ太君デートしてるの?」
「あぁ、あれはデートだな」
「で、でも、ナギちゃんがハヤ太君をいじめてるようにしか見えないよ?」
「これだから泉は甘いんだよ。
もしあれがヒナの食べた食器だとしたら、あの状況は私にとってのご褒美だね!」
「って、ことはもしかして…」
「その通り!
あれはナギちゃんの使った食器なのだ!」
本当に黙れ3バカトリオめ…
いつもだったら即刻追い払いうところだが、今は状況が状況のため後回しだ。
「お兄ちゃん、しっかりしてよ!」
「聞いたか美希。
どうやらハヤ太君はナギちゃんに兄弟プレイを強要してるようだな」
「しかも自然と言えてる辺り教育が行き届いているなぁ」
「は、ハヤ太君がそんなことする人だったなんて…」
「泉、現実とは残酷なものなのだよ」
「いつも我々見せてる、あのツンツンとした態度はこのプレイの隠れ蓑だったのか…」
こ、こいつら…
私が黙っているのをいいことに、好き放題言いおって……
「えぇい!
黙れ3バカどもめ!
私とハヤテはそんなにやましい関係ではないし、お前たちにとやかく言われる謂れはないわ!!」
流石に我慢の限界がきた私は怒鳴ってしまう。
そして、言い終わった後にすぐに気付くのだ…
これでは本末転倒だと……
「お客様。
まことに申し上げにくいのですが、店内で騒がれると他のお客様のご迷惑となりますので、お引き取り願えますか?」
「はい…」
ここまできてしまっては、言い逃れもできないので素直に頷くことにする。
はぁ…
なんでいつもこんな風になってしまうんだろうな……
そう心中で嘆くが、今はそれも後の祭というものだろう。
~公園~
「すまないな…」
あの後、間髪入れず立ち退きを余儀なくされた私とハヤテだが、不幸中の幸いというべきか、3バカがハヤテを運ぶのを手伝ってくれたのだ。
近くの公園のベンチにハヤテを寝かすと、ここまでのお礼を3人に言う。
「なに気にすることはない。
我々とナギちゃんの仲じゃないか」
そう言いながらグッと親指を立てる理沙。
いい台詞に聞こえるが、元はと言えばお前たちのせいなんだからな…
「これが動画研究部の絆なのだよ」
こいつは、なに決まったみたいな顔してるんだ…
第一、私は動画研究部に入部した覚えなどない。
「にははは、困った時はお互い様だよナギちゃん」
あぁ、こいつら本当に腹立つな…
なんで自分たちが慈善活動したみたいな気でいるんだよ……
「あぁ、ほんとに感謝してるからとっとと帰ってくれ」
「だが、そうはいかんな!」
いや、帰れよ…
と言うか、お前らも食事しにきたんだろ…?
「まったくだね。
このまま、ナギちゃんがハヤ太君の毒牙にかかってしまうのを見逃すわけないじゃないか」
「はぁ?
バカ言ってないで、さっさとレストラン行くなり帰るなりしたらどうだ?
なんなら、腕利きの脳外科や精神科も紹介してやるぞ?」
正直、こいつらとは関わりたくないため冷たくあしらおうとする。
しかし、理沙と美希はニヤニヤとするだけで、まったく動じる気はないようだ。
「その様子ではナギちゃんは気付いていないようだな」
「いやいや、奥さん。
きっと気付いていても、わざと見過ごしているのですよ」
いつものノリで、理沙と美希がおばさんの井戸端会議風の話方になる。
今度、こいつらにサクでもあわせてやるか…
そんなことを考えながら、私はこいつらが帰るのをぼんやりと眺め始める。
「えっと…
理沙ちゃん、美希ちゃん、なんの話なのかな?」
「おやおや、ここにも気付いてないふりをしてる人がいますよ」
「これはいけませんねー。
ドMに引き続いて、天然でキャラ作りとはあざとい!」
「そんなに人気投票一桁に食い込みたいか!」
そういうネタはここでやるな…
原作でやってこい、バカどもめ……
「ほ、本当に解んないんだってば~」
「あくまでシラを切るつもりだな!」
「いや、これは本当に解ってないのかもしれないぞ。
ナギちゃんと同じの可能性があると思うのだよ」
「ななっ!
ナギちゃんと同じだってぇ!」
「えぇい!
本当にうるさいやつらだな!
第一、私をこんなバカと同列に並べるなぁ!」
捲し立てるように3バカに怒鳴る私。
こいつらは私を怒らしたくてここにいるのか!?
「ナギちゃん、悪かった!この通りだ、許してくれ!」
「ナギちゃん、ごめんなさい…」
怒鳴ったのか効いたのか、理沙は土下座し、泉はうなだれている。
別にこういうことをやらせたいわけではなかったのだがなぁ…
「ナギちゃん、どうかヒナには黙っていてくれ!」
「なんでヒナギクが出てくるんだ?」
意味の解らないことを言い出した美希に私は首を傾げる。
今までの話の内容でヒナギクが出てくる意味が解らないのだ。
「もし、ヒナにレストランでバカやったことがバレたら…」
そう言いながら美希は震えだした。
と言うか、バカやっていた自覚があったならやめろよな…
「そうだ、ヒナにバレたら私たちが殺される…」
「ナギちゃん見捨てないでぇー」
「死ぬならせめてヒナのまったいらな胸で死にたいんだ!」
とりあえず、お前は今すぐ死ねよ…
そうつっこみたいが、どうやらその必要はなさそうである。
「あら、美希、理沙、泉、こんな所でなにやってるのかしら…?」
3人が恐れている鬼神のご登場である。
3人の背後。即ち、私の正面から迫ってきたため気づかなかったのであろう。
しかし、あの笑顔はいつ見ても怖いものである。
「「「ひ、ヒナ(ちゃん)……」」」
3人が一様に蛇に睨まれた蛙のようにすくみあがる。
と言うか、関係ない私まで恐いのだが…
「あなたたちに食事に誘われたから来たのに、なんでこんな所にいるのかしら?」
まぁ、それには私にも多少なりとも責任があるのだが、ここで助ける義理もないだろう。
元はと言えば、こいつらの責任だし…
「私があんな高い所で、どんだけ待ったと思ってるの?」
そう言えば、ヒナギクは高所恐怖症だったな…
そりゃ、あんな最上階にあるレストランで待たされたらたまったもんじゃないだろう…
「ヒナ、これには海よりも高く山よりも深い意味があって!」
「要するに理由はないって意味ね!正宗!!」
木刀を召喚したヒナギクが一度こちらに振り向くと、にっこりと笑った。
私に敵意はないのだが、やっぱり怖いものである…
「ナギ、せっかくの休日に邪魔したわね」
「「「今だ逃げろぉぉぉ!!」」」
「待ちなさぁぁぁい!」
逃げる3バカ。
それを追うヒナギク。
まったく、日本は今日も平和だなぁ…
「っと、そう言えばハヤテはっと…」
自分に言い聞かせるように呟くと、私はベンチに寝かせてあるハヤテの顔を覗きこむ。
規則正しい寝息を立てていて、至って正常そうに見える。あくまで見えるだけなのだが…
そう言えば理沙がなにやら気になることを言っていたな…
たしかハヤテの毒牙がどうのこうと。
もしや、今日のおかしなハヤテに関係があるのか…?
そう考えてみるが、私にはわからなかった。
どうやら、私は本当に泉と同じ知能しか持ち合わせていないようである…
「しかし、それにしても気持ち良さそうな顔で寝ているな…」
寝ているハヤテの隣に座る私は思わず笑みがこぼれてしまう。
本当に気持ち良さそうに寝ているから、起こすのさえ憚られてしまう。
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「コホンッ
まぁ、ハヤテがいつまで経っても起きないし、ベンチで寝るのは痛いだろうしな。
別に私がそうしたいとかそんなことはちっともないんだからな!」
誰が見ているでも聞いているでもないのに、私はそう言わずにいられなかった。
いつもと同じだ…
私の中の小さなプライドが私を素直にさせてくれない。
だけど、今日はいつもと違う特別な日にしたかったから…
「いつもありがとう………ハヤテ」
そう言って、私はハヤテの頭を私の膝にのせる。
ふと空を見上げれば、夕日が沈もうとしていた。
どうやら、そろそろ夜がやってくるようだ…
星々が輝く、私の大好きな夜が……
「ハヤテ……」
お前といられる毎日が特別だよ…
という訳で短編は終了です。
あえてハヤテがおかしくなった理由は伏せということで←オイ
次回から連載の更新に戻ります。
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