駒王友人帳   作:にゃんこ

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錦神

小さな頃から不思議な物が見えた。それは多分、妖怪と呼ばれるものの類でそれが見える所為でおれは親に捨てられ、親戚の家をたらい回しされていた。

出会う人の顔色を伺い、妙な行動を極力しないように生きてきた。いつか、いい子にしていれば妖怪が見えなくなるんじゃないか? なんて事を願いながら……。

 

 

一時期は妖怪の事を少し憎んでいた。お前達の所為で、とか幼い頃は随分と感情的だった。

そんな時だ。林の奥に横たわる傷だらけの黒猫と出逢ったのはーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

「お前が、にゃんこ先生……」

 

正直、なんて反応すればいいのか分からなかった。

 

祖父の話の中でしか出て来なかった妖怪が今目の前にいるからだ。

 

「ふむ。どうやら話くらいは聞いていたようだな」

 

そう、何というか……。

 

「イメージと違う……!」

 

にゃんこ先生はもっとこう……かわいくて時に凛々しい妖怪かと思ってた。だが実際のにゃんこ先生はイメージと180度違っていた。大きいし、重そうだ。何よりかわいくない。

 

「勝手なイメージを抱いて勝手に失望するな! 全く。そういう所は彼奴に似ておる」

「そんなにおれと貴志さんは似ているのか?」

「似ている。まるで彼奴の生き写しの様だ。ヒョロくてモヤシっぽい所とかな」

「モヤッ……」

 

何気に気にしていることをさらっと言われてしまった。

 

「さて、そろそろ本題に入るとするか。ーーー小僧。友人帳を私に渡せ」

 

ボンッと煙が立ち上がるとにゃんこ先生の姿が、変化していた。

 

『食われたくなければな』

「ーーーぁ」

 

その姿を見たおれは恐怖した。その白く、大きな()に。額には赤い文字が描かれており、無数の鋭く太い牙を持つ妖に。

 

『これ、そう驚かす必要はないだろうに』

『貴様は……』

『お主が本当に友人帳目当てで来たのなら、初見で此奴を食っておったろうに。それをしないとならば、何か理由があるんじゃろう(まだら)?』

 

いつの間にか肩から降りていた小人が、おれを庇うように立ち白い獣を見上げていた。その小さな背中が今はとても頼りに見えた。

 

『ふん。この家から妙な気配がすると思っていたが、まさか貴様がいるとはな錦神(にしきかみ)

「にしきかみ?」

 

今まで名前を教えてくれなかったこいつの名前をにゃんこ先生は知っていたのか。

 

『懐かしいのぅ。その名前で呼ばれるのは……』

『ふん、よく言うわ。自らの力を削こいつと友人帳をこの家に呼び込んだのはお前だろう』

 

そう言ってにゃんこ先生はおれの方を見た。

 

「おい、一体どういう事だ? 自分の力を削ってるって……」

『そろそろ潮時かのう……』

 

思わずそう問いかけた。小人……錦神は少し考える様に顎の髭を撫でるとポツポツと語り始めた。

 

 

 

……………

 

 

 

昔、この辺りでは錦神はそれなりに有名は妖だった。人間が好きな変わった妖として。

妖怪がたくさんいた頃、錦神は今の姿からは想像できないほど大きく立派な姿をしていたらしい。

錦神は大きな姿とは間逆に人一倍優しく、傷を負っていたり病に侵された人間達を気まぐれに治していった。ーーー自分の力を犠牲にして。

 

「ありがとう……」

 

実際にその人に錦神の姿が見えていたわけではない。だが、確かに感じていたんだろう。錦神が与えた暖かみが、自分の身を削ってまで人間を治した妖の優しさが。

 

錦神に治してもらった人達は錦神に感謝しその後錦神の為の社を建て、

錦神を奉った。人々はその名も無き妖怪に錦神と名づけ毎日の様に祈りや供物を捧げに来ていた。

 

ありがとう。そう笑顔で言われる事が錦神は大好きだった。

 

 

ーーーだがある日、一人の人間が錦神の社に立ち寄りある願いを祈った。

 

「錦神様、お願いです。私に、生活できるお金をください」

 

そう願った。

その男はとても貧乏で、毎日を生活するのもやっとという生活を送っていた。このままではいずれ自分は死んでしまう。だから、最後の頼みの綱として噂になっている錦神に願ってみよう。

そんな、神にも縋る想いだった。

 

錦神はその男の願いを考えに考え抜いた末、叶える事にした。

 

「ありがとうございます……! ありがとうございます……!」

 

錦神に願った次の日、男の家に大量の金がばら撒いてあった。

男はその金を泣きながら懸命に掻き集め、その金を生活費に当てた。

その様子を偶然にも見てしまった隣人は錦神様に祈ると願いが叶うと周りの人達に言いふらした。

 

錦神様は病気や怪我以外にも何でも願いを叶えてくれる、と。

 

次の日から錦神の社に多くの人達が詰め寄り、我先にと次々に身勝手な願いを錦神に祈っていった。

 

ある者はお金が欲しい。ある者は作物を立派に育てて欲しい。ある者は誰にも負けない様な力が、ある者は……。

 

錦神は良くも悪くも人間が好きだった。来る人来る人の願いを叶える為、自分を削り見上げる程だった錦神はとうとう人間の子供くらいの大きさになってしまった。

 

やがて、願いを叶えられなくなった錦神は人々に理不尽な怒りをぶつけられた。

作物が育たなくなったのは錦神の所為だ。病気になってしまうのは錦神の力がなくなったからだ、と。

社は人間たちに踏み潰され、焼かれ、錦神の社は瞬く間に無くなった。そして錦神を奉る人も徐々に消えていった……。

 

人間が好きで好きで、人間の為にした行為の末残されたのは小さくなってしまった錦神ただ一人だった。

 

 

人間好きな変わった妖。それは今でも変わらないのだろうか、人間にされた仕打ちに錦神は怒ってないのだろうか。

 

 

「錦神、お前は……人間を恨んではいないのか?」

『あの時の事は未だに覚えておるよ。だが、人間を恨んだ事も怒った事もない。儂は、人間が大好きだからのう』

「でも……! それじゃあ!」

 

錦神自身、何にも報われていないじゃないか……。

 

『良いのだ人の子よ。儂が好きでやった事だ。それに、お主は泣いてくれておる。それだけで儂は嬉しい』

「え……?」

 

ふと、自分の頬を撫でると垂れた雫が指に当たった。泣いてしまっていたのか、おれは。

 

『……のう斑。儂がこの子と友人帳を呼び寄せたのは、ある頼みごとがしたかったんじゃよ』

『頼みごとだと? この私にか』

『あぁ。この家に住む兵藤一誠という子がいるんじゃが、その子はどうも奇妙な運命に囚われておる』

「お前が言うとなれば相当厄介事だな。全くめんどうな事を」

 

にゃんこ先生はそう言って顔を顰めた。

 

『その兵藤一誠という子供は、近々死ぬ』

 

錦神が言った内容は衝撃的な物だった。

 

「一誠が……死ぬ? ほ、本当なのか錦神! だって一誠は今日も……」

『元気じゃった、か? そりゃあそうじゃろう。何せ兵藤一誠は殺されるんじゃからの』

「こ、殺されるって、誰に?」

『堕天使じゃよ。妖が見えるお主なら噂くらい聞いた事があるかも知れんの』

 

堕天使。一度聞いた事がある。確か、悪魔と同じで妖怪達が嫌っていた存在だ。

 

「堕天使がわざわざその小僧を殺しに来るっていうのか? ふん。馬鹿馬鹿しいな。何の力も持たない人間を殺して何にもなる」

『理由までは分からん。分かるのはただ、兵藤一誠が殺されるという結果だけじゃ。その運命はどう足掻いても変える事が出来ない言わば呪いじゃ。儂はどうにかしてその子を助けたかった。じゃが……儂にもう力は残されておらん』

「だから、夏目と友人帳餌に私を呼び寄せたのか。錦神」

『強力な妖怪を従える事が出来る友人帳と、それを扱う夏目の噂を儂は前から知っていた。だから、最後の力を振り絞り夏目と友人帳をこの町に、呼び寄……せ…た』

「おいっ錦神! 大丈夫か!?」

 

胸元を抑え膝を着きそうになった錦神を優しく支えた。

 

錦神は言っていた。最後の力を振り絞りおれと友人帳を呼び寄せた、と。小さくなった錦神が力を使うという事は自分が消える覚悟をしていたという事。

 

『チッ……そいつはもう手遅れだ。力を使いすぎて妖力が無くなっている』

「そんな……にゃんこ先生、どうにかならないのか!?」

『夏目を継ぐ者よ、どうか、あの少年を……導いてやってくれないか。大切な何かを失う前に……』

 

普通の人には決して見えない妖が、人の子の為に自分を捨てその人の未来を託した。錦神、お前は本当に人間が大好きだったんだな……。

 

「……分かったよ錦神。おれは、一誠を導いて見せる」

 

錦神が消えていく。ゆっくりと、足元からキラキラと粒子になり。自分の体が消えて行っているのに錦神はその顔に笑みを浮かべていた。

 

『ありがとう……人の子よ。勝手な頼みごとをして悪かったのぅ。お主の様な人に出会えて良かった』

「……おれだって、お前みたいな妖に会えて良かったよ」

 

誰かを想う事が、こんなにも美しい物だったなんて思わなかった。人が大好きだった妖は最後まで人の事を想いながら消えていった。

愛するという気持ちはおれにはまだ分からない気持ちだけどきっとその気持ちは、とても尊いもので口では説明出来ない程暖かいものなんだろう。

 

「……にゃんこ先生、少しだけでいい。おれに力を貸してくれないか?」

『分かっているのか小僧。その兵藤一誠とかいう小僧の運命を変えるという事は、厄介事に自ら突っ込む様なものだぞ』

「分かってる。だけどおれは、そういう性分なんだ。錦神のためにも諦めていい訳ない。それに、一誠はおれにとって大切な人だから」

 

真っ直ぐにゃんこ先生の目を見て答えた。先ほどまで怖いと感じていたその姿が、何故か怖く無くなっていた。

 

ーーーぼんっ。

 

煙を立てながらにゃんこ先生は獣の姿からまねきねこみたいな姿に戻った。……やっぱりかわいくはなかった。

 

「仕方がない。私も古い友人の頼みを断るのも忍びない。だが忘れるな、友人帳は私の物だという事をな」

「ありがとう……にゃんこ先生」

「ふん。素直に礼を言うな気持ち悪い」

 

ーーーにゃんこ先生にも、思うところがあったのかも知れない。妖は人の人生よりも多くを生きる。その中には多くの出会いと別れがあったんだろう。きっと貴志さんも同じ様に多くの人と妖と出会い、大切な人を見つけられたんだろう。

 

「これからよろしく、にゃんこ先生」

「よろしくお願いします、だ。この小童」

 

 

 

 

こうしてにゃんこ先生とおれは奇妙な縁の元、契約を交わした。

 




ようやくプロローグが終わった気がする。

錦神はオリキャラです
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