駒王友人帳   作:にゃんこ

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少し遅くなってしまいました。


夢が魅せる断片

 

 

アーシアさんはおれの返事を聞いた後、何処か興奮した様にまた教会に遊びに来てくださいね! と言葉を残し手を振りながら笑顔で去っていった。

 

「なぁ先生、アルジェントさんの事どう思う?」

 

彼女の姿が見えなくなった後、おれはにゃんこ先生に問いかけた。

 

「お前があの小娘の言動全て偽りだと思うなら、それは相当な道化だろうな」

「そう、だよな」

 

……疑い過ぎているんだろうか、人というモノに。

 

「悪いにゃんこ先生。変な事聞いて」

「気にするな。まんじゅうの礼として受け取っておけ」

 

最後のまんじゅうを口にした先生がげっぷ交じりにそういった。そんなマイペースなにゃんこ先生を見て思わず笑ってしまった。

 

ーーー時々、自分が妖だったら良かったと思う時がある。それはいつも虐げられて傷ついた時や、何かから逃げ出したい時だ。

自分にだけ見えていた妖達はどれもみんな自由で、何にも縛られる事もなく過ごしていた。それがとてつもなく羨ましくて、自分もその輪に入ってみたいと思っていた。

 

自分でもかなり矛盾していたと思う。憎んでいた時もあったのに、その存在になりたいと思った時もあった。

 

「ーーー小僧。あまり妖者や人外に心を許し過ぎるなよ。いつか身も心も喰われてしまうからな」

 

目を細めて言うにゃんこ先生がとてつもなく怖く見えた。まるで心を読まれているような、そんな感じがした。

 

「お前は妖者に近づき過ぎている。その距離を改めないと、いつか痛い目に遭うぞ」

 

……距離を、か。先生の言う通りなのかも知れないな。兵藤家の人たちは優しい。……いや、今まで出会った人たちもみんな優しかったんだ。自分という異物を家に入れてくれた。

 

「今此処でお前を喰うのも一つの選択だが….…それでは面白くない。何より、錦神の頼み事を断るのも忍びない」

 

本気なのか冗談なのか、判断はつけづらい事を言ってくるな。

 

「そういえば、にゃんこ先生と錦神ってどんな関係なんだ?」

「私と錦神は古い友人と前に言っただろう? まぁ酒を飲みあっただけだがな」

「妖怪達は酒を飲みあっただけで友達になるんだな」

「ヒトとは感性が違うからな妖は。友であるか友でないかなどの境界線なぞ、あって無いようなものだ。酒を飲めば友と呼ぶ者もいるし、戦う事で友と呼ぶ者もいる。お前達ほど複雑ではないさ……まぁ例外もいるがな」

「例外って?」

「気にするな。ほれ、帰るぞ小僧。私ばかり話していてつまらん。お前の事も話せ」

「え? ……あ、あぁ」

 

 

……………

 

 

兵藤家のみんなの話をにゃんこ先生に一通りし終える時にはもう家に着いていた。にゃんこ先生は時々返事とかをしてくれていたけど、こういう話を他人にする機会が無かったから、つい夢中になってしまった。

 

にゃんこ先生を抱き抱えながら玄関の扉を開き、ゆっくりとリビングまで進むと、幸子さんが野菜などが入った袋を両手に立っていた。多分おれと同じで今さっき帰って来たんだろう。

 

「おかえり貴志くん。あらあらどうしたのその猫ちゃん。大きいわねぇ」

「にゃん」

 

幸子さんはにゃんこ先生を見て目を少し見開いていた。にゃんこ先生みたいな大きな(デブ)猫は中々いないから驚いて当然なのかも。

 

「えーっと……捨てられていたのを見て放って置けなくて……幸子さん。この猫飼ってもいいですか? 餌代とかはおれが出すので」

「うーん。猫ねぇ……」

 

頬に手を当て、何かを考えている幸子さん。……やっぱり住まわせて貰っている上に猫まで飼いたいっていうのは図々しいか。

 

「いいわよ貴志くん」

「ほ、本当ですか!? あっ……すいません」

 

こんなにも早く了承が得られると思って無かったので大きな声を出してしまった。

 

「えぇ。うちには猫アレルギーの人はいないし、満さんも猫が好きだし。イッセーも大丈夫だと思うわ」

 

……良かった。断られなくて。

 

「ただし! ちゃんと面倒を見なきゃダメよ? 貴志くんなら大丈夫だと思うけど….…」

「はい! 勿論です」

「名前は決めたの? その猫ちゃんの」

「えーと……にゃんこ先生です」

「にゃにゃん」

「まぁ、可愛らしい名前。その猫ちゃんにピッタリね!」

 

誇らし気に胸を張るにゃんこ先生と手を合わせ笑顔で言う幸子さん。とりあえず、にゃんこ先生を家に入れることの許しが出たので一安心と言った所か。

 

「あっ、そうだ貴志くん。今日の夕食はハンバーグだからあんまりおやつとか食べたりしちゃダメよ?」

「はい、分かりました」

 

 

 

自分の部屋に辿り着くとおれは真っ先にベッドに倒れこんだ。横になる事がこんなに気持ちいいと思う日が来るとは思わなかった。というか、今日一日で一週間分の体力を使った様な気がする。

 

「はぁ……疲れた……」

「モヤシだとは思っていたが体力もやはりないんだなお前は」

「仕方ないだろ……今日は色んな事が起き過ぎてるんだよ」

 

にゃんこ先生と出会い錦神と別れ、一誠が死ぬ運命を聞かされ。そしてアルジェントさんと出会う。こんなに濃い一日は初めてだ。

 

「体力を付けろ体力を。それにしてもこの部屋、無個性にも程があるぞ何にも無いではないか」

 

にゃんこ先生は部屋を見渡して言った。

 

「物なんかほとんど置いてないからな……趣味と言った趣味も無いし」

「そう言うのを無個性というのだ」

 

おれの部屋にはベッドと本棚、勉強机、タンスくらいしか物が置いていない。本棚にも参考書とかしか置いていないからガラガラだし、服もそんなに持っている訳でも無い。……確かに無個性かも知れない。

 

「来たばかりの頃は、高校に合格したらバイトなり何なりしてこの家を出て行くつもりだったからなぁ……節約とかの為にあんまり物を置かなかったんだよ」

「今はどうなのだ? 出て行かんのか」

「そうだな……今はまだ、出て行く気は無いよ」

 

この家に居れば、自分でも何か変われるんじゃないかとそんな気がするんだ。そうにゃんこ先生に伝えると少し口元を歪ませ、おれの隣まで歩いてきた。

 

「やはり血は争えん様だな。お前に預けた友人帳、帰して貰うには時間が掛かりそうだ」

 

なんて意味深な言葉を言うとにゃんこ先生もベッドの上に上がりこんで来て、体を丸めた。

恐る恐るにゃんこ先生の体を撫でてみた。……柔らかいな、やっぱり。まるでクッションみたいだ。

あぁ……やばい。本格的に眠くなってきた。

 

襲ってくる眠気に逆らう事なく、おれはゆっくりと瞼を閉じた。

 

 

 

……………

 

 

 

ーーー夢を見た。

 

陽の光が眩しい場所にポツンと建つ一つの小さな教会。其処に居たのは見覚えのある修道服に身を包んだ少女。おれが知っている彼女よりは少し幼い少女はそこで祈りを捧げていた。何故、幼い少女がこんな人気のない教会に一人でいるのか。おれは不思議に思った。

 

『ーーーー』

 

少女は両手を胸の前でぎゅっと握りしめ、小さく何かを呟いていた。何を言っていたかは分からないけどその様子は何故かとても悲しく見えた。

 

『よぉ、まーたカミサマなんかに祈りを捧げてるのか? よせよせ。カミサマなんて碌なもんじゃねぇから』

 

そんな少女の後ろに一人の奇妙な女が立っていた。

狐の面で顔を隠し、ワザとはだけさせた和服に身を包んだ女はじゃらじゃらと数珠を胸に下げていた。とてもじゃないが教会に来る様な格好ではないと思った。そして、この女が妖だと何となく気づいた。

 

『こんにちわ。今日も来てくれたのですね』

 

少女は女の姿を確認すると先程の悲しそうな雰囲気を捨て、にこりと笑顔でそう言った。

ーーーにゃんこ先生が言っていた。アルジェントさんの治癒の力はどんな種族でも関係なく治すことが出来る。だから彼女にも妖が視えるのだと。

 

『ふっふっふ。今日はお前に面白い物を持ってきてやったのだ』

 

狐の面を被った妖が懐から取り出したのは銀色の鎖に繋がれた十字架だった。

大した装飾もなくシンプルなデザインだったが、少女はそれを受け取るととても喜んでいた。

 

『わぁ……! すごく綺麗です。いいんですか、こんなの貰っても?』

『気にするな気にするな。お前の為に盗っ……持ってきてやったのだ。感謝するが良い』

『ありがとうございます。そうだ、いつも私ばかり貰っていては悪いので、私もプレゼントがあるんです!』

 

少女が妖に差し出したのは少し萎れた四葉のクローバーだった。

 

『ほんとはもっと綺麗な状態で渡したかったんですけど……』

『ーーーいんや。構わないよ、ありがとね』

 

狐の面に隠されているため表情は分からない。だけど、少女の頭を撫でるその姿がおれにはとても仲睦まじく見えた。

 

 

 

 

「おい起きろ小僧。飯の時間だぞ」

 

ペシペシと頬を叩かれる感触と、おれを呼ぶ声に目が覚めた。

 

「今のは……」

 

また、夢を見たのか。ゆっくりと瞼を開けるとにゃんこ先生の巨体が目に映った。

どうやら結構寝ていたらしい。いつの間にか外は暗くなっていておれの上にはにゃんこ先生が乗っていた。……重い。ペシペシ叩いていたのはやっぱりにゃんこ先生か。

 

「何か見たのか?」

「あぁ……多分、アルジェントさんの夢を」

 

今まで妖の記憶を覗くことはあったけど人の記憶を見たのは初めてだった。

 

「なるほどな。あの小娘の妖力に反応したのか」

「反応って、そんな事があるのか?」

「あの小娘が着けていた十字架にはかなり薄れていたが妖の匂いが残っていた。恐らく妖から貰ったものだろう。匂いが未だに残っている所を見るとかなり大切にしていたんだろうな」

「妖の……そうか、夢に出てきたあの狐面の奴か」

 

匂いがかなり薄れているって事は、もうあの妖はアルジェントさんの側にはいないのだろうか。中途半端に見たから結末は分からなかった。そう言えばアルジェントさんは日本語を勉強したと言っていたな……もしかしてあの妖の影響なのだろうか。

 

「だが今はそんな事はどうでもいい。メシだメシ」

「分かったから早く降りてくれよ先生、重い……」

「重いとはなんだ! 猫一匹腹の上に乗せたくらいで情けないぞ」

「先生は猫じゃなくて妖なんだろ?」

「この姿は紛れもなく猫だろう。私は表の顔と裏の顔は使い分ける主義なのだ」

「訳の分かんない事を……」

 

溜息を吐きながらにゃんこ先生を上から退かし、ゆっくりと背伸びをした。

 

「いい匂いだな」

 

幸子さんが確か今日はハンバーグだって言ってたな。

 

「この匂いはハンバーグだ。幸子とかいう奴の料理の腕をこの私が測ってやろう」

「なんで上から目線なんだよ」

 

じゅるりと涎を垂らしながらいうにゃんこ先生を抱えながら、おれは食卓へと歩いて行った。

 

 




誤字脱字等があれば教えてください。
あと、評価して下さった人たちには感謝しかないです。これからもその評価に見合う様にがんばりたいと思います
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