駒王友人帳 作:にゃんこ
小さい頃から時々変なものを見た。他の人には見えないそれらは、妖怪または妖と呼ばれるもの。学校へ向かう途中や帰り道、ふとした瞬間に現れるそれらは自分にしか見えていないのだと最近まで思っていた。
ーーーアーシア・アルジェント
この町にある少し古びた教会に派遣されて来た彼女は
同じ妖怪が見える人同士仲良くしたいとおれは思っているが、一つ彼女について気になる事がある。それは錦神が言っていた【一誠の死】に関する事、もう一つは彼女の力の事だ。
錦神によると一誠は奇妙な運命に囚われていて、その結果堕天使に殺される
……というものだ。信じられないと最初は思っていたが、妖怪達がいう予言と占い師がいう予言は勝手が違う。よく当たってしまうと言った方が分かりやすいかも知れない。
予言に出てくるその堕天使は、噂によるとアルジェントさんのいる教会に出入りしているらしい。噂の真意が分からない以上、彼女と堕天使の繋がりは否定出来ないのだ。
そしてもう一つ、彼女の力がどんな種族も関係なく傷を治す事が出来る治癒の力という事だ。彼女が前いた教会は、何故そんな凄い力を持った彼女をあんな古びた教会に派遣何てしたのだろうか? 夢に出てきたあの妖が関係しているとか? まぁ、こちらの方は先生にでも相談してみよう。
「だ・か・ら! 絶対こっちのおっぱいの方がいいに決まってるだろ!?」
「いいや違うねイッセー。お前は大きさだけを求めてるだけのにわかに過ぎない。見ろ! これを!? 大きさ・形・そしてこの写真だけでも分かるふんわり具合! お前のいう物とは格が違うのだ!」
「なんだと!? なら見ろ! これなんかーーーー」
ーーーなんて、何時もの様に騒いでいる一誠を自分の席から見ているけど特に変わった様子は無くいつも通りだと言えるだろう。
(絶対に守らないと……)
一誠は兵藤家になくてはならない存在だ。幸子さんや満さんの悲しむ顔も見たくない……もしおれが嫌われようとも一誠を死なせる訳には行かない。あの人たちの笑顔を曇らせたくないから。
「どうしたのさ夏目? イッセーなんか見つめて」
そんなに見つめていたのだろうか。前の席に座っていた桐生が不思議そうにおれを見ていた。
「元気そうだなって、そう思っただけだよ」
「はぁ……? いつも元気でしょあのバカ達は」
やれやれとでも言いたげな声色におれはただ苦笑いを返すだけだった。
そういえば、と桐生が思い出した様に話を続けた。
「昨日大丈夫だったの? 一応先生には言っておいたけど……」
「あぁ……ただの体調不良だから大丈夫だよ。よくあるんだ、ああいうの」
昔から妖怪達が絡んで来た時はよく体調不良だと言って学校を休んでいた。周りの人達はそういうと心配してくれたけど、おれにはその優しさが辛かった。いつか、こんな嘘を吐かなくて済むようになりたい。
おれの返事を聞くと桐生はへーそうなんだ、興味があるのか無いのか曖昧な態度を取った後女友達のいる方へ歩いて行った。それを確認した後おれは机に伏せて眠るふりをしたのだった。
……………
俺と夏目が出会ったのは、受験を控えたまだ中学三年生だった頃だ。
当時俺は最近共学になった元女子高である駒王学園に合格する為日夜受験勉強に明け暮れていた。全ては彼女を、ハーレムを作る為にーーーー。
そんなある日の事父さんと母さんから大事な話があると聞かされリビングに行くと普段明るい父さんと母さんが俯いて座っていた。まさか、何か変な病気でもなったんじゃないか? とゴクリと唾を飲みながら俺は椅子に座った。
「……一誠。明日からウチに新しい家族が出来るって言ったらどうする?」
真面目な顔をした父さんが言った一言に俺は思わず叫んでしまった。
「は、はあああああああ!? あ、新しい家族ってまさか妹とかか! 妊娠おめでとうございます?!」
父さんと母さんはもうそこそこの年だ、そんな年で子供を産むなんてーーー!
「違う! そういう意味じゃない! 全くお前は……」
「あなたが紛らわしい事言うからじゃない。そんな事急に言われたら 一誠じゃなくても驚くわよ」
「そうだな、悪い一誠」
「い、いや……別にいいけどさ」
良かった……この年で子供なんて産まれたら俺に15歳差の妹が出来るんだよな? ……ちょっといいかも。いや! ダメだダメだ! 俺がおじさんになって「お兄ちゃん臭い、近寄らないで」とか言われたら鬱になりそうだ。というか軽く死ねる。
「新しい家族というのはな、居候が増えるという事なんだよ」
「居候? なんでまた急に……」
「私の遠い親戚に当たるお家のお孫さんなんだけど、何でも一誠と同じ学校に受験したいからこっちに来るらしいの。でも15歳で一人暮らし何て無茶でしょう? だからウチで預かりますって事になったのよ」
「そうだったのか……(もしかして女の子かな?)」
「ちなみにお前と同じ男の子だから、妙な考えはするなよ」
なんでばれたし。
「い、嫌そんな事考えてないって! ハハハハ」
「どうだかな……。まぁ、此処まではいいんだ」
「ここまでって、これで話は終わりじゃないのかよ? 家族が増えるってだけなら別に俺は構わないけど……」
どんな奴か楽しみだし。もしかしたら俺と話が合うかもしれないし。
「一誠。その子はね、お前が考えている程簡単な子じゃないんだよ」
父さんはそういうと大きくため息を吐いた。何時もと違う父さんを見て俺は少し驚いていた。何時も笑顔な父さんがため息を吐いた所なんて久しぶりに見た気がする。
「その子の名前は
「え……? 捨てられたって」
「私も話位しか聞いたことがないけど、何でも変なものが見えたり、急に叫んだりするらしいの。始めは両親に捨てられたショックでそうなっている。って聞いたけどどうも違うらしくて……」
母さんもそういうとため息を吐いた。父さんも母さんも、その夏目って奴の為に真剣に悩んでいるんだ。
「貴志くんは普段とても大人しい子らしいんだが、どうもその奇行が原因で親戚の家や孤児院をたらい回しにされていたらしいんだ」
「………」
俺は黙って話を聞いていた。そして、その夏目という奴に少し同情した。俺も今目の前にいる両親に捨てられたら? なんて考えをしてみると少し気持ちが分かった気がしたからだ。
目の前で「もう、お前を育てていける気がしない」なんて言われたら俺は立ち直れないかも知れない。そんな経験をその夏目はして来たんだ。
「そして最後に引き取ったのが私の遠い親戚のお家なの。でもね、そのおじいさんは最近持病が悪化したらしくてこのままだとまた貴志くんが一人になるからって、こんな遠い親戚の私にわざわざ頭までを下げて頼みにきたのよ。本当にびっくりしちゃったわ」
「それで、母さんと相談してウチで預かる事になったんだ。悪い一誠、勝手に決めてしまって」
「……」
話は俺の想像以上に重くて、そして悲しかった。俺は何とも言えない気持ちになり黙っていることしか出来なかった。
「貴志くんは多分、愛に飢えているんだと思う。小さな頃に両親に捨てられ普通注がれる筈だった愛情を求めているんだ。だから、ウチにいる間はみんなで優しくしてやろうと思うんだ」
「一誠は丁度貴志くんと同い年だし、仲良くしてあげて欲しいの」
「分かった。任せとけ」
そして次の日、タクシーに乗ってやってきた夏目はとてもじゃないが友達になろうぜ! なんて言える雰囲気を纏っていなかった。必要な物だけを詰め込んだ小さなリュックサックに肩からかける鞄を持った夏目は少し疲れているというか、そんな感じだった。
「……今日から宜しくお願いします、兵藤さん」
少し間を空けどこか機械的な笑顔を浮かべそう挨拶した夏目は、少しだけ奇妙に思えた。だけどそれは多分、夏目がそうならざるを得ない場所に居たからだ。
「よろしく貴志くん。今日からよろしくね」
「いらっしゃい貴志くん」
父さんも母さんも笑顔で夏目を迎えていた。よし! 俺も挨拶しないとな!
「よろしく! 俺、一誠って言うんだ! みんなはイッセーって呼ぶから夏目もそう呼んでくれてもいいぜ!」
そう言って握手をする為夏目に向かって手を差し出した。
「えっと……よろしく」
夏目短くそういって頭を下げた。差し出した手は、握られる事は無く。ただ空を掴むだけだった。
夏目がうちに居候する事になってもう一週間が経った。そろそろ俺も受験勉強を始めなければ行けない時期になってきて、当然友達とも遊ぶ機会も減ってくる。ゲームで時間を潰すのもありだけど、やはり夢の為には勉強をしなければならない。
「えーっと、一緒に勉強しないか? お前も駒王学園を受けるんだろ?」
折角同年代の、しかも同じ高校を受ける奴が近くにいるから一緒に勉強しようと誘う事にした。夏目の部屋は元々物置きだった場所で、俺の部屋より少し狭い。
夏目の部屋には物と言う物はほとんど無くてあるのは小さな机と本棚、そして「たかしのもの」と少し汚れた、恐らく小さな頃に書いたであろう字が書かれたダンボールが隅の方に置いてあるだけだった。
「……あぁ。いいよ」
少し間の開いた返事だったけどOKを貰えた。ほっと小さくため息を吐いて、俺は夏目の対面に座ると持ってきた勉強道具を広げた。
「悪いな、いきなり一緒に勉強しようなんて言ってさ。何かしてる最中だったのか?」
「構わないよ。おれも勉強しないとって思ってたし」
夏目の後ろ横の方にある見ればダンボールの中身が取り出されていた。ビー玉やリボン、よく分からない物が並んでいるのを見て俺は思わず夏目に問いかけた。
「あのダンボールって何が入ってるんだ? 」
聞いてからしまったと思った。いきなり踏み込み過ぎた質問をしたと。
「わ、悪い! 答え辛いならーーー」
「ーーー新しい場所に来たから少し整理しようかなって思ってたんだけど、やっぱり捨てられなくて。そんな物ばかり入ってるんだよ。あの
目を閉じて何かを噛み締めながら言った夏目に、俺は何も言えなかった。それから夏目は一言も口を開く事は無く、俺たちは無言で黙々と勉強を進めていた。
誤字、脱字等があれば教えて下さい