翌朝、私は部屋の姿見に映る自分の姿に見惚れていた。
と言うのも。
「すっごく似合ってるのですっ」
「いーじゃん、よく似合ってるよぉ」
「帽子、要る?」
「ま、まあ……私程じゃないけど、よく似合ってるわよ」
「あ、ありがとうございます」
昨日の歓迎会中に渡してもらったお揃いの制服を着たからである。だから正確には、お揃いの制服姿の自分に見惚れている、と言える。
「でもさでもさ、電はちょっとだけ嫉妬とかしちゃってるんじゃないの?」
「そんなことないのです」
「末っ子属性が消えちゃうじゃん」
「そんなこと、考えたことないのです」
「本当は?」
「す、少しだけ……なのです」
「やっぱあるんかーいっ!」
突然、雷と電が何かを始めたけど……これってもしかして、あの提督の影響?
「ツッコミのキレ、まだ鈍い」
「電もまだ照れがあるわね。そんなんじゃ立派なレディにはなれないわよ?」
「アンタらもかいっ!」
私としたことが、思わずツッコミを……。
「闇雲、キレが良い」
「やるわね。私程ではないけど」
「師匠、って呼ばさせてもらうわねっ」
「すごいのですっ」
「あはは……」
やっぱ大丈夫かな、ここ。
顔合わせをする、ということで私は今、お姉ちゃんたちよりも一足先に執務室へと訪れていた。
そこで待っていたのは、提督の相も変わらずの腑抜け顏。
「お。その服よく似合ってるな。溶け込めたようで何よりだ、うん」
「どうも。それと……その、まだよくは分かりませんけど、貴方が言って下さったこと、少しだけ分かった気がします」
「僕が言ったこと?」
「その……笑い合う為に、とかの話です」
「ああ」
もしかして。
「あの、忘れていたんですか?」
「いやいや。さすがに昨日の今日で忘れないさ。ただ、こんなにも早く分かってくれるとは思っていなかったからさ、驚いただけだよ」
「とか言いつつも、これが狙いであの部屋割りにしたのではないですか?」
この提督はタヌキだ。
これくらいの化かし、やってのけるに決まってる。
「確かに。何れは、程度に考えてはいたんだけどな」
「やっぱりそうでしたか」
「怒ったか?」
「いえ……今はその、感謝しています」
「なら良かったよ」
そんな無邪気な笑みを向けられると、本当に化かされてしまいそうになる。
そう思って目を背けた時、ちょうど執務室の扉が盛大に開け放たれた。
バーン! 誇張も誇大もなしに、本当にそんな音を立てて。
「愛宕、入室しまーすっ!」
「あ、貴女は昨日の――」
「あら? 昨日着てた物より、その服の方がお似合いね」
声からして視線を移さずとも分かったことだったが、今し方この執務室に姿を現したのは昨日の金髪の女性だった。
名は愛宕というらしい。
「えっと、昨日はありがとうございま――うっ」
「ふふふ。やっぱりあの娘たちと同んなじで、抱き心地がイイわぁ」
何故だろうか。胸の脂肪で圧死されそうになっていることよりも、この圧倒的な肉付きの差という事実の方が遥かに、私の心を蝕んでいく。
「お、おい愛宕、闇雲が動かなくなったぞ……」
「あら、ホントだわ。少しだけキツく抱き過ぎたかしら」
「……命に別状はありません。ありませんが、海水よりも冷たい何かが、私の中に溢れかえっています」
「闇雲。俺はな、無いは無いなりに大好ぶ――」
「もう提督さん? あんまりお口が過ぎると――私の連装砲が誤射しかねませんよ?」
「愛宕の連装、砲……」
どうしてこの流れで青ではなく、顔を赤くしているのでしょうか。やはりこの提督、よく分からない……。
「居ないと思ったら、先に来てたのね闇雲」
次いで扉をくぐって来たのは暁お姉ちゃんだった。
「すみません。提督と少しだけお話がありましたので」
「ん、そうだったのね。ならいいのよ。ただ、今度からは一声かけてから行ってちょうだい」
「はい」
「何だ闇雲。暁の前ではそんな可愛い笑顔、見せるんだな」
「え?」
笑顔? 私が?
「ふふふ、ホントに素敵な笑顔よ」
「昨日の夜から普通に笑ってたわよ?」
気づかなかったけれど私、笑えてたたんだ。
どうしよう。何だか気恥ずかしくなってきた……。
「そ、それは私だって笑えますよ。一応は艦娘ですし……」
「そっか」
またあの笑顔だ。
「それよりもさ司令官、顔合わせはいいのかしら?」
「あ、すっかり忘れてた――と言っても、もう愛宕とは知り合ってる訳だし、いいんじゃないか?」
「そうね。私だって闇雲ちゃんのこと知ってる訳だし」
そんな適当な……。
「失礼ですけど、まだ私の所属する部隊についてお話を伺っておりませんが?」
「部隊と言ってもな……この鎮守府には闇雲、君を入れた六人しかいないんだ」
「は?」
私を入れたって……愛宕さん、暁お姉ちゃん、響お姉ちゃん、雷お姉ちゃん、電お姉ちゃん、そして私の六人?
終わってる……いやそこは、さすが沈守府と揶揄されているだけはある、のかな。
「って、そんな拠点あってたまるかーっ!」
「おお」
「わあお、すごいツッコミねぇ」
「ま、まあ私程じゃないけど、さすがね」
本当に大丈夫か、ここ……。
次回予告!
顔見せを無事(?)に終えた闇雲。
しかし彼女は気付いていなかった……
自分が単装魚雷しか装備出来なかったことを!
次回「闇雲、ドックに散る」お楽しみ!
闇雲「お腹を出して寝ると、深海棲艦になっちゃうぞ」