今回は完全にトークのみになります。
万屋「秋風」を開いてからずいぶん時間が経ったが、振り返ってみると色々なことがあった。
リズと知り合って俺の店に入り浸るようになって、アルゴと以前以上に情報交換をするようになった。
リズからアスナを紹介されて、そのままキリトと再会して、俺がずっと抱えてきた不安が解消される事件が起こって死にかけるし、そのまま『
その後事件の関係者のクラインと知り合って、今度は別の依頼でシリカと知り合ってオレンジギルドとやり合って・・・・・
本当に色んな事が起こったな。
昔みたいに暇で気ままな生活からかなり生活が変わったし、俺を信頼してくれるプレイヤーも増えてくれた。
そんな色々なことが起こって、俺はこう思う。
「今日は一切働かねぇ」
「はあ?」
今日は定休日らしく、一足先に俺の店に来ていたリズが呆れている。
何を言っているんだと言いたげな目で俺を見ているが、そんな物は関係ない。
忙しすぎるんだよ最近!なんなんだよここ最近の密度の濃い生活は!
知り合いが増えるたびに何かしらの問題が起こってるじゃないか!
しかも名前が売れたことで依頼人も増えたから、最近は殆ど自分の生活を投げ捨てて働いてた。そろそろ何とかしないと過労死するわ・・・・
「というわけで今日は俺も店を休む」
「まあ気持ちは分かるけどね、それはあんたに問題が有ると思うわ」
「は?」
「あんたがテキトーに店の経営してるからでしょ。定休日なしで従業員一人なんて自分から死にに行ってるじゃない」
「う・・・・だって昔は1日に3人来ればいいほうだったし・・・・」
「忙しくなり始めた段階で予定組みなおしなさいよ」
「めんどくさかった」
「あんたドンだけマイペースなのよ・・・・」
マイペースというか、やらなくても大丈夫だと思ったんだよなー。
店を開きたい!っていう漠然とした考えから店を作ったし。
「最初はまあ何とかなるかなーと思ってたんだよ」
「何とかならなかったのね」
「ならなかったな」
シリカの依頼を受けたあたりは少しずつ落ち着いてたから大丈夫かと思ったが、攻略が進んだりするとどうしても依頼が増える。
忙しい時期とそうで無い時期の波が激しすぎてどうしようもならなくなったから、そろそろ店の定休日なりスケジュールなりを決めないといけなくなった。
というか定休日なんて作っていいのか?俺の仕事内容的には困ったことがあったら来るって感じだから、その日に店が開いてなかったら客足に影響が出そうだが。
「確かに鍛冶屋みたいに予定が組みやすい仕事じゃないわね、一つの仕事にどれくらい時間が掛かるか分から無いし」
「そうなんだよなー。クエストに同行するとなると、物によっては半日拘束されることもあるし」
「そういえば、あんたの店って報酬どうなってるの?」
「どうなってるって?」
「だから、あんたはどういう基準で報酬を貰ってるのよ。仕事内容とか拘束時間とかあるでしょ?」
「その場で俺がテキトーに決めてる」
「あんたね・・・・・」
報酬はその仕事を始める前に俺がテキトーに決めている。この程度に情報だったら1000コル位かなーとか、この情報ならこれぐらいは貰わないと割に合わない。とかそんな感じだ。
「本当によく今までやって来れたわね・・・・」
「SAOだからな、他の収入源もあるし」
「それでもずぼら過ぎよ」
「まあそのしわ寄せが来てるから、今日を無理やり休みにすることになった訳だけどな」
「まったく。じゃあ今日のうちにすませましょう」
「ん?何をだ?」
「決まってるでしょ?」
そういうとリズは胸を張って誇らしそうな顔をした。
長い付き合い。といっていいか分からないが、経験上リズがこういう顔をしたときは大抵俺にとって面倒なことが起こるんだよなぁ・・・・
「あんたの店をちゃんとした店にするわよ!」
ほらな・・・・・
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リズの言う『ちゃんとした店』っていうのは、今まで俺がテキトーにしてきた店の経営をしっかり決めて、無理の無い運営をしていけるようにするってことらしい。
確かにちゃんとしてる。けどちゃんとするのって面倒なんだよなー・・・・。
「・・・・・本当にやるのか?」
「逆に今までやってなかったのがおかしいのよ」
「そういうもんなのか?」
「あんたは人の為に動く時は全然手を抜かないのに、自分のことになると手を抜きすぎよ。もっと自分の周りのことにも気を回しなさい!」
「お前は俺の母親か」
俺の性格をバッチリ言い当てられて正直ちょっと戸惑った。自分の事となると途端に手を抜くっていうのは、現実世界でも散々いわれてきてた事だったし、マイナス思考と合わさって友達からは『面倒身のいい面倒な奴』っていわれてた。
その点リズは『面倒見のいいしっかり者』だな。さばさばして小言も言うけど、結局は皆のことを考えてるし、母親っていうかどちらかというと委員長みたいな奴だな。
・・・・・というか、『仕事をしない!』って言ったのに結局仕事の話をすることになるのか。
「いいからやるの!まずはスケジュールの変更よ、週に2日位の定休日を作りなさい」
「作りなさいって言われてもな・・・どういう基準で作れば良いんだ?」
「あたしは一週間の中でお客が少なかった2日間を休みにしてるわね。クレハの店のお客の少ない日を考えれば・・・・」
「それは無理だな」
「・・・・なんでよ」
「客が多い日が不規則すぎる。定期的な流れで依頼が来る物じゃないからな」
「まったく面倒な店ねー」
「ほっとけ」
さっきも言ったが、新しい層が開放されたり、クエストが発見されると俺の店が忙しくなる。けどそんな物は何かの法則性があって起こるものじゃない。
そのせいで、俺の店のスケジュールは組みにくくなる訳だ。
「仕方ないわね・・・・・じゃ、じゃああたしの店と同じ日にしなさい」
「なんでだよ、同じ層で2つの店が定休日だったらまずいんじゃないか?」
「だ、大丈夫よ!仕事内容が全然違うし問題ないはずよ」
「・・・まあそれもそうか。無理にでも休みを入れるしかないし、リズと一緒の休みにしとくか」
「そうね、そうしなさい!・・・・・・・・・・・・色々と誘いやすいし」
「なんだ?」
「なんでもないわよ!!!次の問題に移るわよ!!!」
「何怒ってんだよ・・・・」
「怒ってない!!」
「じゃあ声がでかいぞ」
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その後俺達は店のシステムをどんどん話し合い、問題のあるところを変えてった。
というより、今のシステムを俺が話す⇒リズが呆れる⇒リズが新しい方法に変える。
の繰り返しだった。俺なにもして無い。
「最後は報酬の問題よね」
「ああ、これに関してはどうしていいかわからんから今のシステムになってる」
「たしかに難しいところよね」
万屋の報酬は、武器屋や防具屋と違ってものを売っているわけじゃないから、値段の設定が難しい。そういう話だと情報屋は万屋と近いかもしれないが、情報屋と違って俺の場合は結果を出すまでにどれくらい時間が掛かるか分からないってのがある。
情報屋は情報を専門としているから、『この情報を集めるにはこれくらい時間が掛かる』とか『その情報は集めるのはほぼ不可能』っていうのが依頼を聞くだけで大体は把握できる。
けど俺の場合、それは
クエストの助っ人が依頼だったとしても、入るパーティによってどれくらい苦戦するかが分からない。『今パーティでは30分で終わっても、次のパーティでは1時間掛かるかもしれない』って感じだ。
「本当に面倒な商売を始めたものね・・・・」
「俺もこんな問題が起こるなんて思って無かったよ」
「けどさすがに今のままって訳にもいかないでしょ」
「それはそうなんだが・・・・」
「なんかいい案はないかしらねー」
「そうだなー」
2人してうーんと頭をひねっているが、一向にいい案なんて浮かんでこない。
だいたい年齢的に俺もリズも学生だ。報酬の話に限らないが、こういった話はリアルで商売をしていた奴のほうが有利だろう。
となると・・・・・
「しかたない。詳しい奴に聞くか」
「詳しい奴?アルゴのこと?」
「いや、アルゴも俺と同じ特殊な仕事だが、情報屋のセオリーはまかり通らないだろう。だから色んなところに手を出してる奴に聞く」
「そんな人居た?」
「エギルだよ。商売に関しちゃ、あいつの右に出る奴は居ない」
「なるほど。確かにエギルならそういうの詳しそうね、商売上手だし」
「そういうことだ。まあ忙しいだろうからメッセージだけでやり取りするか」
俺がエギルにメッセージを送ろうとウィンドウを開くと、何かを思いついたようにリズが口を開いた。
「・・・・・ねえクレハ」
「なんだ」
「最初からエギルに聞いてれば、今までの話全部解決してたんじゃないの?」
「・・・・・・・・・・・」
返す言葉が無かった。
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エギルに報酬に関する質問をしたが、やはり商売人ならではの提案をしてくれた。
俺達2人は全く思いつかなかった内容だった。エギルのメッセージに「なるほど」と感心したメッセージを返すと「普通は一番最初に思いつく」とか「今までどうやって商売してたんだ」とか散々言われてしまった。
しまいには「今度行くから経営方針の見直しをさせろ」とまで言われてしまった。あいつなら本気でやりかねんな。
「エギルの出した案は『前金』ね」
「そうだな」
「・・・・・私達どうして思いつかなかったのかしら」
「・・・・・そうだな」
エギルからの提案は、依頼を実行する前に『固定の依頼料』を貰い、成功報酬として『依頼内容にあった依頼料』を貰う。という物だった。
これなら収入に大きな差が出ることも無いし、依頼報酬の不安定性の問題も今よりかなり安定する。依頼の前に成功報酬の話を済ませておけば、客との間に問題が起こることも無いからな。
それにしても全く、どうして今まで考え付かなかったんだろうか。
「答えを聞いた後だと、それ以外に考えられないから不思議だな」
「本当にそうよね、悩んでたのかバカらしくなるわね」
「無駄な時間をすごした気がする」
「まったくね」
結局俺の休日の半分以上を使って考えた俺達の経営方針は、実際に商売をしているやつからしたら当たり前のこと、もしくは出来の悪い物だったらしい。
最初からエギルに聞いていたら1時間も掛からずにすべての問題は解決していただろう。
けど、そうしていたら今日のこの時間は無かったわけで。
「リズと2人だけで話すってのも、久しぶりだったな」
「そうね、最近は皆が居るのが当たり前になってるし」
「1人で居たのが、ずいぶん前のことみたいに感じる」
「・・・・・そうね」
なんだかしんみりとした気持ちになる。人が増えて喜ばしいことではあるが、今までの日常が変わったことを実感すると、それがどうあれなんだか寂しい気持ちが襲ってくる。
リズも俺の気持ちを感じ取ったのか、こころなしか寂しそうな顔をしている。
少しの沈黙の中、リズがゆっくり口とを開いた。
「ねえクレハ・・・・た、たまには、こんな風に話さない?・・・・その・・・・2人で」
リズは俺のほうを向かず、窓の外を見ている。いつの間にこんな時間になったのか、窓から刺し込む夕焼けの光りでリズの表情は読めないが、きっと俺と同じようになんともいえない表情をしていることだろう。
「ああ、たまにはな。昔の日常を感じるってのもいいもんだ」
「・・・・・はぁ、そうよね。あんたはそういう奴だったわ。こっちは気合入れて話したってのに気付きもしないんだから」
リズはため息をついて、拗ねたように机に突っ伏してしまった。
俺の返しが気に入らなかったのか?けどリズから言い出したことだしな。今日みたいな話じゃなくてもっと身になる話がしたいとかか?
「うーん?」
「いいわよ、あんたがどんだけ考えても分かるわけないから」
「そうなのか?」
「ああ、あとはキリトも分からなそうね。似た物同士だし、アスナも苦労してるわ」
「よくわからんが、まあいいか。そろそろそのキリトとアスナが来るぞ、後アルゴもな。コーヒーの準備するから手伝えー」
「はいはい、わかったわよ」
昔の日常も確かにいい物だった。けど、今の日常が昔になった時、いい思い出になるようにすることも大事なことだって事を、俺は最近知った。
というわけで第十話でした。
完全に会話だけで話を進めたので今までの話より短いです。
次回もこんな感じで行けたらなと思います。