デスゲームでの日常を   作:不苦労

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鼠の憂さ晴らし

ここ数日はバカみたいに忙しかった。

ヒースクリフとの交渉から始まって、そのまま大勢のプレイヤーの前で決闘をこなして、その決闘を見たプレイヤー達からの以来が殺到。

それも殆どが『あの戦い方を教えてくれ』という内容だった。

新聞だったり人から聞いたりで知っていたけど見たのは初めてだった、っていうプレイヤーが影響されたらしい。

 

一応依頼だからきちんと教えはしたが、全員が『これは無理』と言い残してリタイアしていった。

『攻撃を受け止める』ならまだしも、『攻撃を受け流す』となるとかなり繊細な武器操作が求められるわけで、それに伴ってかなりの集中力を要する。

俺の場合は盾をもてない刀スキルを使っているっていうのと、『防御するのが苦手』って理由で回避と受け流す事に特化した戦い方になっているが、普通の人だったら盾とか刀で直接防いだほうがはるかに安全な上に楽だ。

 

言ってしまえば俺の唯一の自慢である集中力を十分に発揮するための構えで、他のプレイヤーがまねしてもただやりにくいだけだろう。むしろマイナスに作用する。

きちんと盾で防いで戦えるプレイヤーだったらそっちの戦い方を鍛えたほうがいいだろうし、俺だって防御が上手く出来るならそうする。

 

そんなこんなで俺は、やっと迎えた定休日とそれを提案したリズに内心感謝しつつ、久しぶりにコーヒーを飲みながらだらだらと時間を浪費していた。

 

 

 

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「儲かるのはいいが、昔みたいに暇な店番が恋しいな」

 

「暇なときはもっと客が来て欲しいって嘆いてたじゃないカ」

 

「まあそれはそうなんだが・・・・」

 

 

今店には俺とアルゴの2人だけ。ここ最近はお茶会メンバーの全員が忙しくしていたせいであまりゆっくり話をする時間が無かったんだが、ひとまずいろいろと一段落したおかげで今日やっとお茶会ができるようになったわけだ。

 

 

「まあ今日はゆっくり休むよ。だらだらすごすのも久しぶりだからな」

 

「客の量はともかく、最近のクー坊が大忙しだったのは事実だナ。イヤ、それを言ったらキー坊もカ」

 

「あー。あいつはヒースクリフとギルド加入も賭けてたからな、いろいろと面倒な手続きみたいなのしてたみたいだぞ。結構でかいギルドだし」

 

「けどキー坊の団服姿にはかなり笑ったナ、白い服があんなに似合わないなんて思わなかったヨ。クー坊も見に行けばよかったのニ」

 

「・・・・・・確かに似合わなそうだな」

 

 

アスナが着てるような真っ白な鎧に赤の模様とか、キリトと正反対のイメージカラーだ。想像する事すら出来ないくらいだ。

ほかにも団員はたくさんいるから色んな奴が着てるっていうのは分かってるんだが、あの制服を見るとアスナのイメージしか沸かなくなってしまっている。そのせいでキリトが着てたらアスナのコスプレをしているようにしか見えなくなりそうだな。

 

 

「今日来るのを楽しみにしとくかな」

 

「それがいいナ。ちなみにキー坊の血盟騎士団バージョン写真はもう500枚は売れタ」

 

「お前そんなもん売ってやるなよ・・・・」

 

「オレッチは客の需要にこたえただけダ」

 

「お前情報屋だろうが」

 

「ニャハハハハ!細かい事はきにするナ!」

 

 

なんだかんだで、こいつもエギルと同じくらい商魂たくましい奴なんだよな。

『自分のステータスですら情報として売る』ってのをまことしやかに囁かれている、情報屋の『鼠のアルゴ』って言えば、今のSAOで知らない奴はいないだろう。

日常に役立つ情報からクエスト情報やらボス攻略情報まで、色んなプレイヤーがこいつを頼ってくるくらいだからな。さぞかし儲かってそうだ。

 

職業柄敵が多くなりそうだが、みんなこいつを敵に回すとどうなるかが目に見えているみたいで、意外と平和にやれているらしい。

・・・・・そういえばつい最近敵に回した奴がいたな。

 

 

「結局ヒースクリフに『お礼』はできたのか?」

 

「んー? ああそれカ。いろいろ調べたんだけど、あんまり大きなスキャンダルが出てこなくてナ。小さい事でチマチマ『お礼』し続けてるって感じだナ」

 

「小さなことでチマチマ・・・・ねぇ」

 

 

『お礼』って言葉を使ってはいるが、早い話が仕返しだけどな。

自分を人質みたいに使われたことで俺が決闘を受ける羽目になったことに対して結構怒ってたからなー。リズと一緒に何をすれば一番ヒースクリフが嫌がるのかって話をずっとしてたくらいだ。

 

 

「小さい事ってたとえば?」

 

「ヒースクリフが行こうとしたレストランを混ませて食事できないようにしたり、執務室に『頑張って作りました。食べてください』って手紙を添えた失敗料理をおいたりだナ」

 

「地味に嫌だな・・・・・・」

 

「毎日欠かさずやってるヨ。料理に関してはたまーにアーちゃんが作った成功料理も混ぜてル。見た目は変えないようにしてナ」

 

「えげつないな」

 

 

そんなもん毎日されたらたまったもんじゃない。

というかアスナが作った料理か失敗料理かのロシアンルーレットをさせるって発想がえげつない。レストラン混ませたりして外食しにくくしてるあたり徹底してる。

アルゴが情報を流せばレストランに人を集める事くらい簡単だろうし、冗談じゃなく本気でやってるなこいつ。

 

 

「SAOプレイヤー唯一の楽しみの食事を利用しての仕返しって、たちが悪いな」

 

「流石のオレッチも攻略の妨げになるような仕返しはしたくないからナ。ヒースクリフ個人が嫌がる事だけを考え抜いてみたわけダ」

 

「まあ、それはたしかにそうか」

 

 

なんといってもトップギルドの団長様だ。直接的に妨害なんかしたらかなりのプレイヤーにも飛び火する可能性がある。今やってる事程度だったら、ヒースクリフが言わない限り他のプレイヤーに伝わることも無いし、そういうのわざわざ人に言うタイプじゃなさそうだから、1人で鬱陶しい思いしてるんじゃないかな。

 

 

「なかなか良い仕返しを思いついたもんだな」

 

「リッちゃんとさんざん話したからナ。これが通用しなくなっても次のを用意してるから安心してくレ」

 

「安心できねえよ」

 

 

ヒースクリフも面倒な奴らを敵に回したもんだ。半分ぐらい自業自得とはいえ少し同情する。

まあその変わりにキリトを血盟騎士団に引き込む事もできた上に、大事な部下のメンタルケアもできたんだから、プラスマイナスで言えばプラスだろう。

キリトが加入した事でギルドのレベルも一気に上がっただろうし、キリト目当てで入団を希望する奴だって何人かいるだろうしな。

 

 

「そういえばキリトとアスナは今日任務なんだっけか?」

 

「ああ、そうらしいナ。けどキー坊とアーちゃんは別々のパーティらしいゾ」

 

「はあ?あの2人を分けて大丈夫なのか?」

 

「血盟騎士団としても戦力はバラけさせたいだろうからナ。いつまでもキー坊とアーちゃんでパーティ組ませるわけにも行かないって事じゃないカ?」

 

「それはそうだろうけど、キリトが他のメンバーと上手くやっていけるとは思えんのだが」

 

「キー坊もこれを期にボッチを脱却すればいいじゃないカ」

 

「・・・・・相手が友好的だったらいいけどな」

 

 

団長自らヘッドハンティングしてきたうえに、美人副団長と交流が深い。加えてユニークスキル持ちの元ソロプレイヤーって、流石に団員全員が受け入れてくれるとは思えないんだよなー。

俺とアルゴの情報操作で、キリトのプレイヤーとしての立場はかなり良いほうだが、ギルド内でとなるとまた話は違ってくるだろう。今まで支えてきたギルドにいきなり入ってきて、尊敬してる幹部連中からちやほやされてる新人がいたら、良い思いはしないだろう。

 

 

「殆どのプレイヤーはキー坊に対して友好的みたいだナ。ただビーター時代にキー坊が直接関わったプレイヤーは、あんまり友好的じゃないみたいダ。逆恨みだけどナ」

 

「ビーター時代に関わったプレイヤー?」

 

「つい最近なんだけどナ? アーちゃんがキー坊に手料理を振舞うって話になった時、護衛のプレイヤーがすごい突っかかってきたらしいゾ」

 

「ああ、エギルがラグーラビット食い損なった時か」

 

「その場ではアーちゃんが帰らせたんだけど、次の日の朝に家の前でずーっとアーちゃんが出てくるのをまってたらしイ」

 

「・・・・・・・うわぁ」

 

 

アスナも苦労するな。普通にストーカーじゃん。

ファンが多いとは聞いていたけど、そりゃあ女性プレイヤーだもんな。そういうヤバイ男性プレイヤーに目を付けられる事も有るってことか。

 

 

「そいつがキリトに対して友好的じゃないのって、アスナと仲良いから許せないみたいな理由か?」

 

「それもあるだろうけど、そいつがキー坊にデュエルで負けたからだろうナ。その日にアーちゃんとキー坊がダンジョンに行く約束してたみたいで、待ち合わせ場所まで追いかけてきたそいつとキー坊が戦って、キー坊が返り討ちにしたって訳ダ」

 

「なんか、前に聞いたキリトの風評被害に似たような内容だな。明らかに相手のほうが悪いだろ」

 

「いつものことだけどナ。一応血盟騎士団からお叱りは受けたみたいダ」

 

「でかいギルドも大変なんだな。そりゃあヒースクリフみたいな奴じゃないと無理だわ」

 

 

自分の意志を通すために強気になれる奴。もしくは圧倒的なカリスマ性を持っている奴じゃないと、あそこまで大人数のプレイヤーは指揮できないのかもな。

 

強気な意思でプレイヤーを指揮してる『アインクラッド解放軍』。少人数だがクラインのカリスマ性で引っ張ってるところがある『風林火山』。それでその両方を兼ね備えてるヒースクリフの『血盟騎士団』か。ギルドってのギルドマスターでかなり空気が変わる物なんだな。

 

 

「そういえばクー坊はギルドに入ったりしないのカ?」

 

「入ったら開きたい時間に店を開けなくなるからな。エギルみたいに商売系のギルドに入るのも考えたんだが、正直めんどうだからやめたんだよ」

 

「ホントニ、かなり適当な経営してるヨ」

 

「ほっとけ。それにそういうギルドでやる事って言ったら基本的に情報交換とかだろ? 俺にはお前がいればいいしな」

 

「・・・そ・・・そうなのカ」

 

 

何時からそうなったかしらんが、客から聞いた話だとアルゴは俺の専属の情報屋みたいな認識らしい。アルゴの情報を持って万屋の仕事をしているから、クエストの助っ人とかだと信頼度がかなり高いとか何とか、そんな感じらしい。

アルゴの方だと、『アルゴを敵に回すと剣影も敵に回る』みたいなかんじの認識になっているらしい。なんだかんだでWINWINの関係だな。

 

 

「私がいれば・・・・いい・・・・」

 

「どうした?」

 

「いいいや!!なんでもないっテ!!」

 

「まあそれなら良いけど・・・・」

 

 

 

.

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外はもう黄昏色で、普段の閉店時間と同じぐらいの時間になってしまった。

どうして休みの日ってのはこんなに早く過ぎるんだろうか。久々の休みだったのにアルゴと喋って、午後からリズを交えてお茶してただけだった。なぜかアスナとキリトはいつものお茶の時間になっても来なかったから3人になったが、殆どいつもと変わらずに終わった休日だった。

 

こんな日常も後何日続く事になるのやら。

クォーターポイントの75層の攻略も着々と進んでるみたいだし、このままだと半年もすれば俺達は開放されて現実世界に戻れるのかもしれない。少し複雑な気持ちもあるが、SAOプレイヤーの悲願だ。攻略組を応援しておこう。

 

 

そんな事を考えていると、店のドアが開く音が聞こえてきた。

こんな時間に誰だ? リズとアルゴも帰ったし、アスナとキリトが遅れてきたのか?

 

 

「遅くにすまない。クレハ君はいるかね?」

 

「ん? ああ、何だあなたか」

 

 

銀色のオールバックの髪と赤と白の鎧。

正直めんどう事を持ってくるイメージしかないプレイヤーだ。

 

 

「ヒースクリフ団長がこんな時間に何のようです? それも定休日の俺の店に」

 

「・・・・・なるほど。今日は定休日なのか、それはすまない事をした」

 

「知らなかったってことは、依頼に来たって事ですか」

 

「ああ、急ぎの依頼だ」

 

 

この人が急ぎの依頼って、嫌な予感しかしないんだけど。

今日が定休日だってことを伝えたらめずらしく落胆してたみたいだが、前の『交渉』のこともあるから正直なところ素直に依頼を受けようと思えないんだよな。

 

 

「まあ、話くらいなら聞きますよ。知らない仲じゃないですし」

 

「ほんとうかね!?」

 

「え・・・ええまあ。また無茶な『交渉』でもふっかけてこなければ、ですけど」

 

「その事に関しては誠心誠意謝罪しよう。申し訳ない」

 

「え?い・・・いや、もう過ぎた事ですし・・・・・」

 

 

なんだ?前回と打って変わってかなり下手に出るじゃないか。

それだけ切迫した状態ってことなのか?

 

 

「とりあえず依頼内容を聞かない事には何にも出来ませんよ」

 

「ああ、すまない。では簡潔に話そう」

 

「お願いします」

 

 

この人がここまでして俺にして欲しい事って何だ?

前にも言ったが個人で抱える問題なんて、この人だったら団員達に頼めば解決できるし、そもそもこの人が問題を抱える事なんてそうそうないだろう。まったく予想が付かない。表向きとはいえSAO全体の事を考えて俺とキリトと戦ったような人だ、かなりやばい内容の可能性も・・・・・・・

 

 

 

「君に料理を作って欲しい」

 

「は?」

 

「一度で良い。私に食事を作ってくれないか?」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

 

 

想像以上にくだらない内容だった。

わざわざ俺のところまで来て今までの事を謝罪までしてやって欲しい事が飯って、個人が抱える問題とかそういう次元じゃないだろ。低すぎるわ、次元が。

 

 

「ダメかね? 報酬なら君が求める物を出そう」

 

「いや・・・・・・・全然大丈夫ですよ。すぐ作るんで待っててください」

 

「本当かね!? いや、ありがたい。最近まともな食事ができていなくてね・・・・・」

 

「ああ、知ってます」

 

「?」

 

 

アルゴの嫌がらせ、かなり利いてるみたいだな。アルゴとリズに伝えたら喜びそうだ。

ヒースクリフがこんなに感情表現豊かになってるの見るの初めてだし。鬱陶しい思いしてるとかそういうレベルじゃないくらいしんどそうだ。

っていうかこの人毎回律儀においてある料理食ってたってことか。団員が作ったかもしれないっていう可能性があるから棄てられないってのは分かるが、どんだけ律儀なんだ。失敗料理だって分かった瞬間に何か適当な物買いに行けばいいだろうに。流石にアルゴも店を全部混ませるなんてできないんだし、探せば有るだろ・・・・・

 

 

「それで、何を作れば良いんです?」

 

「ラーメンを頼む」

 

「・・・・・・・・・りょーかいです」

 

 

前の『交渉』に来た時みたいな空気がしびれるような圧迫感もない。普通に年上の知り合いと話してるみたいだ。

トップギルドの団長も人間ってことか。こっちのほうが話しやすくて楽だからこのままでいて欲しいもんだ。アルゴの仕返しも意外と良い効果を発揮したな。

 

 

「じゃあ10分くらい待っててください」

 

「了解した。・・・・・・実に楽しみだ」

 

 

けど流石に今日で辞めさせよう。

 




というわけで十九話でした。


久しぶりの日常会ですが、ストーリーはじわっと進めてます。
今後もこんな感じで日常とストーリ進行を同時でやっていきたいです。


ヒースクリフはちゃんとしてるけど、偶にちょっと素に戻るみたいなキャラでいて欲しいと思ってます。
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