「なあークレハよー・・・・・なんでキリトのやつばっかり女の子に囲まれてるんだよぉ・・・・・」
「お前その話するの5回目だぞ」
「明らかに飲みすぎだ。クレハも大変だな」
今俺が居るのは俺の店である秋風じゃない。
全体的に木製の印象が強く、少しうす暗いカウンター式のバーに座っている。カウンター席に座っているのは俺とクラインの2人。そのカウンターを挟んで向こう側に居るのはこのバーのマスターであるエギル。エギルの店は昼は雑貨屋だが、夜はこうしてバーとして開放しているらしい。今日は男3人でキリトの結婚報告の話に華を咲かせていたわけだ。
クラインとエギルは1層のころからキリトと面識があったらしいし、俺はβテスト時代からの縁だ。まあ55層まで接触を避けていたから少し違和感があるかもしれないが、ここに居る全員キリトとは長い付き合いってことになる。そんなキリトのことをよく知ってる3人が結婚報告を肴に飲み交わしたところで罰は当たらないだろう。
・・・・・・まあ俺が飲んでるのはコーヒーだけど。
「というかクライン。お前最初のほうは『よかった、よかった』って言ってたじゃないか」
「それとこれとは話が別なんだよクレの字よぉ・・・・」
「何だそりゃ」
もうどれだけ飲んでるのかは分からないが、クラインはさっきから机に突っ伏しながら話している。祝い酒から自棄酒になってるなこれは。
最初はキリトに心を許せるようになった人ができた事にかなり喜んでいたクラインも、酒が進むに連れて自分の周りの女気の無さに対する愚痴がメインになってきて、今じゃこんな状態だ。
「だいたいエギルはリアルで嫁さんが居るって言うし、クレハは店にいっつも女の子がいるしよぉ。寂しい野郎は俺だけじゃねえか!」
「おいちょっとまて。今の聞き捨てならんぞ」
「なにがだよ」
「俺が仕事場に女を連れ込んでるみたいだろうが」
「事実じゃねえか」
「事実じゃねえよ」
いっつも居るって言ってもリズとアルゴとアスナぐらいだろ。それにそのアスナはキリトと結婚してるし、アルゴは情報交換とかの仕事の話をしに来てるだけだし、リズは俺の店に菓子食いに来てるだけじゃないか。
「というかクラインだってお茶会に参加した事あるだろ。あの時みたいにただ集まったメンバーでだらだら駄弁ってるだけだ」
「だとしても女の子に囲まれてるのは事実じゃねえか!」
「まあそれはそうなんだが・・・・」
「おいクライン。男の嫉妬は醜いだけだぜ?」
「エギル・・・・。だったら俺はどうすればいいんだああ!」
改めてみるとすごい光景だ。
20代前半位の男がカウンターに突っ伏して女気の無さを嘆いている。まあ酒の力とかいろいろあってこうなってるんだろうが、やってるのがクラインだからか情けないって感想よりも仕方ないってのが強いな。
「それなら、目の前に居るモテ男にモテるコツでも聞いてみたらどうだ?」
「コツ?・・・・・・・・・それだぁ!!」
「はぁ?」
エギルがまた面倒な事を言いやがった。何だよコツって。
・・・・・というかクラインの反応からものすごく嫌な予感がする。
「クレハに依頼だ! 俺に女の子を紹介しろ!」
ほらきた。
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.
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という事で万屋『秋風』出張版。
といっても場所はエギルの店な上に営業時間もとっくに過ぎているから万屋業としては成立させず、身内同士の他愛もない話のネタってことでクラインの依頼に乗っかるだけだけどな。
「あくまでも正式な依頼じゃあないから、ただの人生相談みたいなもんだ」
「全然かまわねえよ! 早速俺に・・・・・」
「とりあえずお前の要望の女の子を紹介するってのは無しだ」
「おいそりゃないぜ!?」
「当たり前だろうが。俺は日常で抱えている問題を解消しちゃいるが、食い物がなくて困ってるやつに食い物を与えても意味がないだろうが。食料の調達方法を教えないとな」
「確かにクレハの言うとおりだぜクライン。人から与えられて満足してたら成長しないからな」
「そ、そうはいってもよぉ・・・・・」
エギルは明らかにこの状況を楽しんでやがる。面白くなりそうなほうに適当に話を合わせてるだけだ。そういう俺も面白そうだからってことでクラインの話に乗っかってるわけだから似たようなものかもしれないけど。
ともかく、問題の根本的な解決ができなきゃ意味がない。クエストをクリアしたいとか、情報がほしいっていう1回で終わるような依頼だったら問題はないんだが、長期的な問題を解決したい場合はそうはいかない。レベルが足りてないパーティならレベリングに協力するだけじゃなくて、加えて多少のレベルが足りてなくても危険度を下げられるような立ち回りを教えたり、レベリングをする場所の選び方なんかを教えてやらないとな。
「今回の場合は、クラインに女の子を紹介するんじゃなくて、どうすればクラインが女の子から好印象を得られるかを考えないといけないわけだ」
「おおおお! そいつは良いぜクレの字!」
「クレハ・・・・そいつは難易度が高すぎると思うが」
「おいエギル! 失礼なこと言うな! 俺だってちょろっとモテるコツさえつかめば女の子だってきっと・・・・・」
「まあ無理だろうな」
「お前もかよ!」
そりゃあ一日二日でいきなりモテモテになれるんだったら、クラインなんかに教えてやる前に自分で実践してるって話だ。
「とりあえずそのガッついた性格を何とかすればいいんじゃねえの?」
「俺のどこがガッついてるってんだ!?」
「どこがって・・・・」
心当たりが多すぎて指摘するのに悩むくらいだ。
クラインがアスナに初めて会ったときなんか、横にキリトがいたにもかかわらず彼女募集中の意図を伝える自己紹介を始めたらしいし、偶然俺の店にシリカが居るときに店に来たときなんか舞い上がりすぎてシリカが若干引いてたぞ。
「クラインは女がいるときにテンパりすぎだ。クレハぐらいクールに立ち振る舞ってみろ」
「うぐ・・・・」
「はあ?俺のどこがクールなんだよ」
「ああ、クレハの場合はクールというより冷めてるって言ったほうがいいかもな」
横目でこちらを見ながらニヤリと笑うエギルは、外見のこともあってかなり絵になるが、こっちとしてはため息しか出ない。そう言われるのも心外だが、それに関してはリズにもアルゴにも言われたことがあるから正直思いっきり否定ができないってのもある。
「まあ俺の話はともかく、クラインがもう少し落ち着いたほうがいいってのは事実だな」
「けど、やっぱり俺は熱い男で居たいんだよ! 刀一本で戦い続ける漢武士ってのは男のロマンじゃねえか!」
「そういうなら『女にモテたい』とか言っちゃダメだろ」
男のロマンぶち壊しじゃねえか。
「そういう男の周りには自然と女の子が集まるはずなんだよ!」
「そううまくいくわけないだろ」
「まさに身をもって体感しているな」
「うっせーぞ2人とも!」
クラインをモテるようにする話だったのに、今となってはただクラインをいじってるだけになってるな。まあこの辺はいつものことか。
「そもそもSAOの中に女の子が少ないんだから、モテるようになるのってかなりハードル高い気がするんだが」
「確かに。俺やクレハみたいに店を開いてたら客としての出会いもあるが、攻略組の最前線で出会いを求めるってのは無理って話だ」
「そんなことは分かってるよ!だからクレハに紹介してもらおうっていったじゃねーか」
「さすがにそんな依頼は受けねーよ」
直接問題を解決しても意味がないってのはさっき言ったが、それ以上にうちの店を出会い系みたいな使い方されたくない。
失敗した後のアフターケアなんてできる気がしないし、色恋沙汰で生まれたプレイヤー間のわだかまりなんて面倒くさいにもほどがあるだろ。それに何かの間違いで成功なんてしてしまったら、そういう目的で店に来る奴が増えて余計に困る。
「女ってのはこう・・・。特別なものに惹かれるんじゃないか? クレハは『剣影』なんて呼ばれてるし、『黒の剣士』だってSAOじゃ知らないやつはいないだろう?」
「俺の場合は悪目立ちの気がするが・・・。確かに知名度を上げるってのは大事かもな」
さっきからエギルばっかりアドバイスしてる気がするがまあいいか。
モテるモテないはともかくとして、知名度が上がれば自然と目につきやすくなるわけで、それに伴って評価が上がることは間違いないだろう。
「だったら『風林火山のクライン』様の名をもっと知らしめてやればいいわけか!!」
「そういうこったな」
「まとめると、『活躍して知名度上げろ』ってことか? 俺たちがアドバイスしたことだが、我ながらテキトーすぎるな・・・・」
「俺から付け加えるなら、『もっとクールに』だな。クレハとキリトを見習えってこった」
俺からのアドバイスは『活躍して知名度を上げろ』、エギルからのアドバイスは『もっとクールに』か。役に立つのか立たないのか分からんような2つが出そろったな。
エギルの方はともかく、俺の方はやっつけ感がすごいし、こんなもんでクラインが納得してくれるかどうか・・・・
「おっしゃああああああ!!明日からの攻略に俄然やる気が出てきたぜ!!」
「さっそくクールを忘れてるぜクライン」
「おっといけねぇ・・・・」
納得したみたいだ。すげー単純な奴。
こいつの魅力はこういうところだと思うんだが、異性にはうけにくいんだろう。どちらかというと同性の後輩とかに慕われやすいタイプだしな。
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俺とエギルのテキトーなアドバイスを聞いたクラインは意気揚々と帰って行った。なんでも『ギルド総上げで活躍してやるから楽しみにしとけよ!』とのことだ。
酒の力もあったのだろうが、今日の飲み会でやる気を出してもらえたのだったら御の字だ。当初の目的のキリトの結婚話が全然できなかった気がするけどそこはもう気にしなくていいだろう。
「随分素直な奴だな。いつか騙されないか不安だぜ」
「クラインのことか? まあ、なんだかんだでしっかりはしてる奴だから大丈夫だろ」
「ほう? 意外と信用してるんだな」
「・・・・それなりにはな」
俺たちの前ではあんな感じだが、攻略組のギルドをまとめているギルドマスターだ。初めて会った時も死の淵に追いやられたギルドメンバーを指揮しながら敵を押さえ続けていたし、客観的に見てもプレイヤースキルとカリスマ性は他のプレイヤーより高いのは事実だ。
「あいつはもったいないんだよ。他の奴より技術があるのに、それを披露する場が少ない上に、チャンスが巡ってきても人に譲っちまうんだから」
「それは俺も思っていた。たまにボス戦であいつのギルドと一緒になってタンクをやることもあるが、あいつの状況把握力と判断力はかなりのもんだ」
「なんだかんだ言ってやさしすぎるんだよ。自分より他人を優先して動くからああなるんだ」
「ハハハ! キリトの面倒を見る必要がなくなったら次はクラインか? 万屋業も大変だなおい」
豪快に笑ってはいるが、エギルもそう変わらないよな。
なんだかんだで商人っていう立場からあいつらを支えているって事ぐらい、同じ生産職だったらすぐに分かる。
「エギルもな。中層プレイヤーのサポートならたまには手伝ってやるよ」
「な・・・!お前なんでそれを知ってんだ!?」
「優秀な情報屋が付いてるんでね。俺たちに隠し事はできないぜ」
「・・・・厄介な奴を引き入れやがって。あいつの情報網から逃れられる奴なんて、SAOにはいないだろうが」
こいつが中層プレイヤーのサポートに店の売り上げをつぎ込んでる事なんて、俺の店に入り浸ってる奴だったら大体の奴が知ってる。本人は隠してるつもりみたいだが、アルゴの手にかかってしまえば全部丸裸だ。
「別に悪いことしてるわけじゃないんだからいいだろ。これからしばらくはキリト関連の依頼が無くなりそうだから、そっちの手伝いぐらいしてやるよ」
「仕事熱心で何よりだ。それじゃあ今度依頼に行かせてもらうか」
「ご贔屓に頼むよ。無駄に売れた名前も、中層プレイヤーに対しては結構便利だからな」
「よろしく頼むぜ『剣影』さん」
そろそろ俺も帰るとしよう。明日からは今まで通りに万屋業に専念しないといけないし、気が付けばもう75層だ。クォーターポイントのボス戦で犠牲を出さないように俺だってやることをやっておかないとな。
ひとまずは、さっき意気揚々と帰って行った『風林火山のクライン』様の活躍話が、俺の専属の情報屋から聞けることを楽しみにしていよう。
というわけで第二十一話でした。
少しづつSAO編が終わりに近づいていますが、SAO編が終わってALO編になると『デスゲームでの日常』じゃなくなることに最近気が付きました。デスゲームなのSAOだけですしね。
普通に章分けしてづつけるとは思いますが、少し違和感を与えてしまいそうです。