デスゲームでの日常を   作:不苦労

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久しぶりの完全オリジナル回

メインストーリーを進めるのもいいですが、こういうのもたまには書きたくなります。


ドライ・ド・ライフ

「それで?何か言い訳はあるわけ?」

 

「……ありません」

 

 

アインクラッド第48層リンダース。

俺は川沿いに建てられた水車付の家、リズベット武具店にいる。

 

店の店主はというと、右手に持った片手サイズのハンマー無造作に扱いながら、ピンク色の髪が逆立つんじゃないかと思うほどに怒りのオーラを出している。

 

その怒りの対象は言うまでもなく俺だ。

リズの前で正座をさせられて、目を合わせることもできずうつむくしかない。

 

俺とリズの間には可視化モードに設定された俺のアイテムウィンドウが浮いているわけだが、リズの怒りはこいつが理由だったりする。

いや、正確にはここにあるべき物がない(・・・・・・・・・・・)のが問題だ。

 

 

「じゃあ言わせてもらいますけどね…」

 

あるべきものっていうのは他でもない。

 

 

「なんであんなバカみたいな耐久値の刀が壊れるのよ!!」

 

 

俺の刀だ。

 

 

 

.

.

.

 

 

 

 

いつかキリトと話した記憶もあるが、俺の戦い方だと武器の耐久値っていうのは必要不可欠だ。キリトみたいに剣を2本使うなら、攻撃を受けたほうの剣の耐久値が減るだけだから問題ないが、俺の場合は刀と鞘だ。どちらで攻撃を受けても減る耐久値は同じ武器の耐久値になる。

 

そうすると必然的に高い耐久値を持った武器が必要になる。

俺は馬鹿みたいに固いモンスターの素材や鉱石をあつめまくって、リズに刀を作ってもらったんだが、今回壊れた刀っていうのがまさにそれだ。本当にバカみたいな耐久値を持った刀だった。普通の刀の2倍以上はあっただろう。

 

 

「ほんとに、壊れた時はさすがに焦ったな」

 

「焦ったなじゃないわよ!あれ作るのにどれだけ時間かけたと思ってるのよ!」

 

「丸1日……」

 

「14時間よ!!」

 

 

丸1日って言葉を日が上ってから沈むまでの8~12時間っ考えるとそれ以上か。細かいとこに突っ込んでくるなーと思う反面、怒られても仕方ないなとも思う。

 

 

その間俺はだらだらとリズの部屋で寝たりコーヒー飲んでたりしてたわけだが、リズはずっと刀を作り続けてたわけだ。下手したら俺以上に愛着を持っていてもおかしくはないな。

 

 

「まったく……それで? 結局どうやって壊れたのよ。普通に戦ってたくらいじゃあの刀は壊れないわよ」

 

「あー…と、それはだな……」

 

 

まあ、やっぱりその話題になるか。

実はそれを話すのが嫌で、なかなかリズに刀が折れたことを伝えに来れなかったんだよなー。だって言ったら絶対起こるだろうし。

 

 

「なによはっきりしないわね。別に頭ごなしに怒ったりしないわよ」

 

「ホントか?」

 

「武器だってアイテムなんだから、壊れるときには壊れる物よ。まああんたの刀は耐久値が異常だったのと、作るのにものすごく苦労したからちょっと驚いただけ」

 

「……分かった。じゃあ説明する」

 

 

ついさっきまで確実に怒っていた気がするが、まあそれは置いておこう。追求したらそれこそ怒りそうだし。

 

とはいったもののどこから話し始めればいいんだ?

折れた原因をいきなり話してもわけがわからないだろうし、これは本当に初めから話さないといけないみたいだな。

 

 

「昨日の夕方ぐらいにクラインが来てな、とあるクエストの情報をもらったんだよ」

 

「クラインから?珍しいわね」

 

「ああ。多分俺とクラインが昔やったのと似たようなクエストだったし、手に入るのも似たような物だったから俺に教えてくれたんだろう」

 

「そういえばS級食材のクエスト受けてたわね、コーヒー豆だっけ?」

 

「マイルドベリーだ。今回クラインから聞いたのも、コーヒー豆が手に入るクエストの情報だったんだよ。内容は全然違ったけどな」

 

 

前回はコーヒーを飲んでそれがどんなコーヒーか当てる、いわゆる利きコーヒーだったわけだが、今回は違った。フィールドでてアイテムを集める物で、道中モンスターとも戦う。いわゆる収集系のクエストだった。

 

 

「71層のフィールドに生えている大きな木に実なっててな、それを取って来いっていうクエストだったんだよ。クエストを出してくるNPCがハンマーをくれて、それで木をたたけば実が落ちてくるって感じだ」

 

「ふーん。なんだかありきたりというか、普通のクエストね。その内容で武器が壊れるとは思えないど、フィールドボスでも居たの?」

 

「いいや。ボスはいないし、迷宮区の中でもないから出てくるモンスターは基本的に雑魚だ」

 

 

ついでに言うと、このクエストで手に入る予定のコーヒー豆は前回みたいにS級食材ってわけじゃない。ごくごくありきたりな収集クエストなんだし、それ相応のランクのものしか手に入らない。……ほとんどのプレイヤーはだけど。

 

 

「だったらなおさらよ。あんた一体どうやって壊したのよ」

 

「まあ最後まで聞いてくれ。普通の取集クエストだったんだが、ちょっと特殊なクエストでな。たまにあるだろ? 持ち帰るアイテムによって報酬が変わるクエスト」

 

「ああ、確かにあるわね。フィールドボスを倒さなくてもクリアできるけど、倒した時に出る素材があったほうが得するってやつ」

 

「今回のクエストはそういうタイプのクエストだったんだよ。持って帰る木の実の質で報酬のランクがかなり変わるってやつだ」

 

 

正直そういうタイプのクエストは知っていないと普通にクリアしてしまうことが多い。事前に情報を集めるか、やっている最中にNPCの言動に注意していないといけない。普通にやっているだけだとほぼ間違いなく見落とす。今回はかなりわかりやすかったから気づけたんだが…

 

 

「ハンマーでたたいて木の実を落とすクエストって言っただろ? 木には色んな色の実がなってるんだが、一つだけ明らかに質の違う虹色の実があったんだよ」

 

「なるほど。それを持って帰れば質のいい報酬がもらえるわけね」

 

「そうだ。けどハンマーを使って木を叩いてもその実は落ちてこなくてな、しかもそのハンマーは使い捨てで1回使っただけで砕けやがった」

 

「じゃあ一回のチャンスで虹色の実が落ちてこなかったらおわりってこと?」

 

「みたいだな。くじ引きみたいなものだったんだろう」

 

 

1回こっきりの運試し。福引とかでよくあるガラガラ回して玉が出てくるようなもんと同じで、落ちてきた実の色によって報酬が変わるってものらしい。ちなみに俺がハンマーで叩いた時に落ちてきた実は青色だった。福引でいうと4等くらいか?

 

 

「ふーん。それじゃああまりいい報酬はもらえなかったわけね」

 

「……いや、一応虹色の実を手に入れてS級のコーヒー豆を手に入れることはできた」

 

「え? いや、けどあんたがハンマーで叩いた時には虹色の実は落ちなかったんでしょ?」

 

ハンマーでたたいた時(・・・・・・・・・・)はな」

 

「どういうこと?」

 

 

いよいよ本題だ。俺がどうやって刀を折ってしまったのか。ここまで話しておいてなんだが、正直話しづらいな。なんかこう……ふざけてて窓ガラスを割った学生が職員室に行く前、みたいな気分。

 

 

「目の前に見えてるのにあきらめるのがどうしてもいやでな、いろいろと試行錯誤したんだよ。それで試しに刀で木を思いっきり攻撃したら、普通に実が落ちてきたんだよ」

 

「……は?」

 

「別にハンマーじゃなくても武器で衝撃を与えるだけでも実が落ちてくるってことに気付いたから、虹色の実が落ちるまで何回も殴ってみたんだよ。15回くらい」

 

「ちょっと待ちなさい、あんたまさか……」

 

「それでやっと虹色の実を手に入れたんだが、ちょうどそのタイミングで刀の耐久値が0になったみたいで、パリィンっと」

 

「…………」

 

よくよく考えたらハンマーを一発で破壊するぐらいの木だもんな。思いっきり攻撃したら耐久値がごっそり減るに決まってるよな。あの刀じゃなかったら4回くらいで砕けるだろう。あの刀だからこそできたごり押しの攻略法だ。

 

これで俺の話は終わりなんだが、リズは無言でうつむいている。

どんよりしたオーラというかなんというか、正直嫌な予感しかしない空気だ。

…いや、でも怒らないって初めに言ったよな?

 

 

「……バ」

 

「バ?」

 

「バッカじゃないの!!」

 

「ぐえぇ…」

 

「つまり破壊不可能オブジェクトを攻撃しまくったってこと!? ホントにバカ!キリトといいあんたといい、なんでそんな馬鹿な発想を実行に移して人の武器壊すのよ!!だいたいねぇ……」

 

 

やっぱり『怒らないから言ってみろ』は信用したらだめだな。思いっきり怒られた。

胸倉をつかまれて前後にグラグラ揺られながらしこたま怒鳴られた俺は、しばらくグロッキー状態で床に突っ伏すことしかできなくなった。

 

 

 

.

.

.

 

 

 

「本当に悪かった」

 

「はぁ…もういいわよ。最初にも行ったけど、いつかは壊れる物なんだし」

 

 

そういってもらえると助かるが、俺がリズの店に来た理由はただ武器が壊れたことを報告しに来ただけじゃない。愛用の武器が壊れたんだから当然だが、新しい刀を作ってもらいに来たんだ。

けどついさっき壊したことを報告した手前、なかなか言い出しづらい。それも俺の刀は作るのにかなり時間かかるし……

 

 

「それで、新しい刀を作るための素材は持ってきたの?」

 

「え?」

 

「『え』じゃないわよ。折れたんだから新しいのを作るんでしょ?」

 

「…いいのか? 作るのに半日かかるんだろ?」

 

「そんなのあんたに刀を折ったって言われたときから覚悟してるわよ」

 

 

それは有り難い限りだが、さすがにちょっと後ろめたい。

まあそれがリズの仕事だと言ってしまえばおしまいだが、かなり間の抜けた理由で武器を壊してもう一回つくてくれと持ちかけるのはなんだかな。

今度何かしらの礼をしないといけないな。

 

 

「素材はそろってる。前回よりかなりいい素材が集まったから、リズなら上物が作れるはずだ」

 

「極上のまちがいね、あんたが粗末に扱えないような刀にするから覚悟することね」

 

「……そりゃあ楽しみだ」

 

 

何だかんだ鍛冶が好きなんだろうな。

作る武器の話になったとたん表情が明るくなった。普段からずっとこの表情なら可愛いものなんだけどな。

 

 

「ほら、ボーっとしてないで素材出しなさい。これから夜まであんたの刀を作り続けないといけないんだから」

 

「わかった。とりあえず素材はこれだけだ」

 

 

俺は刀を作るように集めていた素材をリズに差し出した。

前回同様ひたすら固い素材ばかりで、我ながら圧倒される。それも前回刀を作った時よりも金に余裕があるし、仕事で色んなクエストを受けまくっていたから素材も質がいい。こりゃあ本当に極上の刀を期待できるかもしれない。

 

 

「これだけあれば十分ね。今回も耐久値がひたすら高い武器でいいのよね?」

 

「ああ。素材的にSTR値は問題ないだろうし、求めるのは耐久値だな。欲を言えばAGIにも補正をかけたいな」

 

「AGIって……あんたといいアルゴといい、速いのが好きよね」

 

「攻撃なんて当たらなかったらいいんだよ」

 

 

アルゴの場合は撤退用のAGIだが、俺の場合は受け流した後に素早く攻撃できるようにAGIが必要なんだよ。攻めるための速さだ。

 

 

「まあいいわ。それじゃあ作り始めるから、明日また来なさい」

 

「え?いやできるまでここで待ってるよ」

 

「何時間かかるかわかんないわよ? 徹夜も覚悟だし」

 

「だったらなおさらだ」

 

 

リズに徹夜で武器作らせてる中家でゆっくり休むなんてさすがにできない。

特にやることがあるわけでもないけど、ここで待つのが筋ってもんだろう。

 

 

「……それじゃあ待ってて。あたしが作り終えたら、クラインから聞いたクエストで手に入ったS級食材ご馳走しなさいよね!」

 

「ああ、わかったよ」

 

 

初めからそのつもりだ。

 

 

 

 

.

.

.

 

 

 

それからどのくらい時間がたったのか図ってはいないが、外は真っ暗で明かり一つない。昼前にリズの店に来たから、半日は確実に過ぎている。工房からはハンマーが鳴らす甲高い音が響き続けている。

店の横で回っている水車の音と、それを回す川の静かな音と混ざり合ったこの音が、俺は結構好きだったりする。実際に経験したことがあるわけじゃないが、何とも言えないノスタルジーな気持ちになる。

 

リズが戻ってきたらすぐにコーヒーが出せるような状態にはしてあるし、今日一日ずっと工房にこもりきりだから飯の用意も済ませている。

 

こういう時SAOの料理ってのはかなり便利だ。作り置きしていても冷めたりすることはないし、耐久値もその日1日くらいはしっかり持つ。現実世界ではこうはいかないからな。

 

 

ふと今まで鳴り響いていた甲高い音が止まって、部屋には水車の音と川の音だけになった。静かになった部屋に、今度はゆっくりと工房に続くドアが開く音が響き渡った。

 

 

「お疲れさま。できたのか?」

 

「ええ、できたわ。極上も極上、キリトのダークリパルサーにも引けを取らない刀よ。……刀って言うのかしら?」

 

「ん?」

 

 

なんだかよくわからないことを言われたな。刀を作ってたのに『刀って言うのかしら』ってのはどういうことだ?

 

 

「見ればわかるわよ。性能は前の刀を大きく上回ってるわ。あんた要望の耐久値も前作以上、AGIも多少だけどプラス補正が付いてるわ」

 

 

そういってリズがウィンドウを表示し、オブジェクト化したのは……

 

 

「……長ドス?」

 

「へえ、これって長ドスって言うのね」

 

 

長さは前の刀と同じぐらいだが、鍔はなく鞘に納めると木刀のようにも見えるそれは、現実世界で長ドスと呼ばれるタイプの武器だった。

一般的にはこう……和装の怖い人たちが持っているタイプの武器だ。

 

 

「名前は『ドライ・ド・ライフ』だって。見た目は和風なのに名前は英語なのね」

 

「『乾いた命(ドライ・ド・ライフ)』ねぇ。皮肉った名前を付けられたもんだ」

 

 

紺色の鞘と紺色の柄のせいか、鞘に納めていると何とも言えない圧迫感というか、圧力を感じる。だが刀身は鮮やかな銀色で、反射した自分の目がしっかりと映っているのが見える。

 

 

「……だが、気に入った。本当に極上の刀だ」

 

「今度は折るんじゃないわよ。さすがにそれ以上の刀はもう作れない気がするし」

 

「肝に銘じておくよ」

 

 

逆に折ろうとしても折れないだろうな、この刀は。

刀身は細いがずっしりとした重みとしなやかさがある。それなのに振りぬくのに全く時間がかからない。俺の戦い方とはかなり相性がいいだろう。

 

 

「さあ! 依頼された刀も完成したことだし、しっかりお代をいただくわよ!」

 

「………」

 

 

もうちょっと新しい刀を堪能させてくれよ。

 

あんだけ長い時間工房にこもっていたのに、すぐにその話を出せる商売魂には恐れ入る。リズしかりアルゴしかり、俺の店の常連はなにかと商売人としての心持が強い奴が多いな。俺の店はあんなに適当にやってるのに。

 

 

「まずはご飯ね! さすがにお腹すいちゃったし。S級のコーヒーは食後に頂くわ!」

 

「そういうと思ってもう晩飯も作ってあるよ。さっさと準備するか」

 

 

作っておいた料理をオブジェクト化しながら、テーブルにどんどん用意していく。

リズへのねぎらいと感謝を込めて結構豪勢な晩飯だ。ついでに言うと、新しい武器が手に入る記念ってのもある。なんだかんだ言っても、武器を新調するってのはRPGの醍醐味というか、一番の楽しみだからな。俺だってワクワクしたりもするさ。

 

結果は上物を超えた極上の刀だった。

さすが俺御用達の鍛冶職人。支払い代わりの料理くらいいくらでも振る舞ってやるさ。

 

 

「あぁ言い忘れてたけど、あとでちゃんと別に料金は払ってもらうからね」

 

「…………了解」

 

 

 

ま、そりゃそうだよな。

 




というわけで第二十六話でした。


SAO編もそろそろ佳境です。
更新ペースのも落ち気味ですが、
デスゲームでの日常を今後もよろしくお願いします。
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