空き時間にコツコツと書き連ねているので、気をつけてはいても誤字や脱字が目立つかもしれません。気がついた方がいれば誤字報告をいただけるとありがたいです。
それでは今回もよろしくお願いします。
突然だか、SAOの凄さの1つとして天候の変化がある。
晴れ・曇り・雨はもちろんのこと、季節によっては雪も降るし嵐のような天気もある。気温や湿度も明確な数値として現れていなくても確かに感じる。
そんなSAOだからこそ、現実世界と同じように過ごしやすい日もあるし、そうじゃない日もある。誰とは言わないが、最高に気候設定が良かった日に堂々と外で昼寝をしていたやつもいるらしい。
まあ、つまり俺が何を言いたいのかというと……
「クッソ暑い……」
今日はSAOで最悪に気候設定が悪い日だってことだ。
暑すぎる。
なんなんだよこの暑さ。現実世界の気温に換算すると38度くらいいってるんじゃないか?
SAOに近代的なものはない。世界観の関係か、暖炉のようなものはあってもエアコンみたいにあからさまな機械はない。季節の移り変わりによって外の気候は変化し、室内の気温は外の気温を調整して過ごしやすくなるようになっている。
それなのに今日は室内でこの暑さだ。
試しに一度外に出てみたが、転移門まで歩く気にもならなかった。攻略組はこんなくそ暑い中鎧を着こんで迷宮区に潜ってるのかと思うと恐れ入る。ほとんどサウナ状態だな。
「クレハさぁん……」
「ん?」
店の入り口から今にも消えてしまいそうな声が聞こえた気がした。
客か?一応店を開けてはいたが、こんな暑い中わざわざ来るやつなんていないだろうと思ってだらけきっていた。
暑いとはいえ、さすがに客の前でだらけてるわけにもいかない。多少気合いをいれるか。
そう意気込んですぐ、ドアの向こうから見覚えのある薄茶色の髪が覗いた。2つに結んだその髪の上には、蒼色の小さな竜が飼い主と同じようにぐったりとした顔で乗っかっている。
見覚えがあると思ったのも当然、完全に知り合いだ。
「ああ、なんだシリカか。どうした?こんなクソ暑い中」
「こんにちは、クレハさん。実は依頼したいことがありまして……」
「……依頼?」
シリカが店に来ることはたまに有るが、基本的にお茶会かチーズケーキを買いに来る位だからな。わざわざ依頼しに来るのは初めの一回以来か。珍しいこともあるもんだ。そもそもビーストテイマー自体が珍しい上に、初めて受けた依頼も『テイムモンスターを助けたい』なんていう初めて受けるたぐいの依頼だった。
シリカの周りに居ると珍しいものだらけだな。
「まあ構わないが、なんの依頼だ?」
「ピナを助けてあげてください!」
「……は?」
世にも珍しいテイムされたフェザーリドラが、主人の頭の上で小さく鳴いた。
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シリカの使い魔である「ピナ」。
さっきも言ったが、ビーストテイマー自体が珍しいSAOの中で、シリカがテイムしたフェザーリドラのレア度は群を抜いている。おそらく現在のSAOで飛竜系のモンスターの使い魔はピナを置いて他にはいないだろう。
全身を覆う蒼白い羽は、飛竜というよりは猫やキツネのような小動物に近い。戦闘面でのサポートだけでなく、ビジュアル面でもフェザーリドラの評判は高い。
そう。全身を覆う蒼白い羽は……
「この暑さじゃあ辛いだろうな」
「キュルウゥゥ……」
「朝からずっとこの調子なんです。ここ最近は暑い日が続いていて、あまりフィールドには出ていなかったんですけど、今日は街の中を歩くのも辛くて」
「部屋の中でジッとしているのもしんどいくらいだからな」
ソファに腰かけているシリカにうちわで扇がれながら、机の上でピナはぐったりと突っ伏している。
今日はプレイヤーの俺達ですら嫌になるほどの暑さだが、モンスターも例外ではないらしい。
今頃迷宮区の蒸し暑さででぐったりしてるモンスター達と、鎧を着込んでサウナ状態のプレイヤーが鉢合わせてるのかと思うとシュールだな。有利なのか不利なのかわからん。
ともかく、シリカから久しぶりにきた依頼は『暑さに苦しむピナを助けてあげてほしい』ってことらしい。またしても珍しい依頼を持ってきてくれたもんだ。
俺たちプレイヤーは薄着になれば多少暑さも紛れるが、ピナの場合は服なんて着てないし、ましてや羽を全部むしり取るわけにもいかない。
「水浴びとかをさせてやるのはどうだ?多少気分が紛れるとは思うが」
「最初はそうしてたんですが、すぐにぬるま湯になってしまって……」
「まあ、この暑さじゃそうなるか」
今もピナの頭には氷の入った袋を乗せてやってはいるが、まだまだぐったり感はぬぐえていない。
飼い主のシリカは俺が作ったアイスカフェオレを両手で抱えて飲みながら涼んでいるが、その様をピナが若干恨めしそうに見ているのは気のせいだろうか。
「それじゃあ冷たい飲み物でも用意するか。外側から冷ませないなら内側から冷ましてやるってことで」
「あ、それはすごくいいと思います! 私もカフェオレを飲んでから暑さが紛れましたし」
残念ながら、そのカフェオレはピナに分けてやれるほど残っていない。ピナを涼ませたいって依頼を聞く前に用意したからシリカ1人分の飲み物しか用意しなかったし、シリカ自体もよっぽど暑い思いをしてここに来たんだろう。渡してからすぐ一気飲みだったからな。
「それで、ピナって何飲ませればいいんだ? 氷水とかよりさっきのカフェオレみたいなほうがいいか?」
「そうですね……美味しいもののほうが喜ぶと思いますよ。お店で買った物を上げるより、クレハさんに作ってもらった物を上げたほうが喜んで食べていますし」
「ほう。そりゃあうれしいね」
プレイヤーだけじゃなくモンスターからもお墨付きだ。そういえばユイの時もそうだったが、プレイヤーじゃなくて本当の意味での『ゲームの住人達』も、俺たちが好みの味が好きなのかもしれない。
NPCのレストランの味があまり良くないのは、それがこの世界で好まれている味だからじゃなくて、単純にNPCの料理の腕が問題ってことか。
「とはいえ、ピナは俺たちの言葉を理解してるみたいだけど、俺たちはピナの言葉を理解できないからな。何が飲みたいのかなんてわからんぞ。適当に作ってくるか?」
「あ、それなら問題ないですよ。私の好物がピナの好物ですから」
「ん? どういうことだ?」
「クレハさんの料理だけじゃなくて、お店で買った物もそうなんですけど、私が美味しいって感じたものはピナもすごく喜んで食べるんです。逆に私が嫌いなものを代わりにピナに食べてもらおうとすると、決まってピナも嫌がるんです」
「へぇ……似た者同士だな」
それか、テイムしたモンスターは飼い主に似た性格や行動をとるようになるのかもしれないな。
四六時中一緒にいるわけだし、リアクションや表情を見て同じように行動するんだろう。
「はい! なんだが通じ合ってるって感じがして、私は嬉しいんです」
「……そうだな」
そんな風に考えられなかった俺は心がすさんでるんだろうか。
フラワーガーデンに行った時もそうだが、シリカといると現実的にものを考える自分の思考回路が恥ずかしくなってくるな。ゲームの中の世界でくらい夢を持ったほうがいいんだろうが。
「ともかく、ピナを涼ませるために飲み物作ってくるよ。シリカの好きなものが好きなら、いまシリカが飲んでるカフェオレでいいだろう」
「はい!それでお願いします」
「そんじゃあちょっとだけ待って……あ、そういえば」
「どうかしたんですか?」
「ちょっといいことを思いついただけだ」
この前試しに作ったあれを出してみるか。
御茶会で出した時の評判も良かったし、暑い時には旨さも倍増だ。むしろ暑い時にしか食えないようなものなんだから、作れるうちに作っておくのがいいだろう。
「いいこと、ですか?」
「ああ。シリカ、赤と青と黄色だったら何色が好きだ?」
「そうですねぇ……その中だと赤色が好きです」
「なるほどね、了解だ」
聞いておいて何だが、大方予想通りの選択だ。装備も赤を貴重とした防具だし、リボンも赤いもんな。
「あの、これなんの質問なんですか?」
「まあそれはお楽しみってことで。すぐに用意するから、ピナにもうちょっとだけ辛抱してもらっててくれ」
「わ、わかりました。…ピナ、もうちょっとだからね」
机でぐでっとしたしたまま、ピナがゆっくり頷くのが見えた。
………死んだりはしないだろうが、ちょっと急いでやろう。
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時間にして約20分。2人と1匹のお茶の用意をしていた割には早いほうだが、暑さに苦しみながら待っていたと思うと結構辛い時間かもしれない。
「おまたせ、ピナの様子はどうだ?」
「さっきから扇いでいるんですが、そろそろ私が音を上げそうです………」
「ずっと扇ぎっぱなしだったのか」
SAOで長時間体を動かしても、その部分が疲れるような感覚は確かにある。
俺が集中し過ぎると倒れてしまうように、現実の体を動かさないからと言ってSAOの世界にいる自分が疲れを感じないわけじゃない。現実世界で疲れを感じるような行動を続けていると疲れを感じる。
まあ異常に自分を追い込まないかぎり、文字通り感じるだけなのかもしれないが。
数十分間うちわを扇ぎ続けたらそれなりに疲れるってもんだ。
「これがピナの分のカフェオレだ。これで暑さも紛れるといいんだが」
「ありがとうございます!早速ピナに飲ませてあげて上げます。ピナ、クレハさんが作ってくれた………」
シリカがピナにカフェオレを渡した瞬間。さっきまでの机でうなだれていた姿はどこえやら、素早い動きでグラスに飛びつき、逆さまにしながらグビグビと飲み干してしまった。
「えぇ!!ピナ! そんなに勢いよく飲んだりしたら危ないよ!」
「キュルゥゥ!」
うろたえるシリカとは裏腹に、当の本人は上機嫌でシリカの周りを飛び回っている。さっきまで机でうなだれていて、動きもしようとしなかったのが嘘みたいに元気だ。多少の動きの悪さはあっても、さっきほど弱ってはいない。
ということはだ。
「………なあシリカ、一個聞きたいんだが」
「は、はい、なんですか?」
「今昼過ぎだよな? 今日ピナに飲み物とか、水分が取れるものって十分やったか?」
「…………あ」
キリトもそうだが、シリカもリアクションだけで質問の答えがわかるから楽でいいな。
「け、けど!私はいつもと同じように生活してましたよ? たくさんじゃ無いですけど、朝ごはんの時に飲み物もあげましたし、それなのにどうして今日だけ……」
「そうなのか」
いつもどおり過ごしていたのに、今日に限ってぐったりしていた。けどそれは今飲み物をやると治った。
となるとやっぱりこのバカみたいな暑さが原因なのか?いや、にしても飲み物一杯であそこまで変わるのは流石におかしい気がするしな。
いつもどおりと思っていてもいつもと違うところがあったのか?この暑さのせいで、無意識のうちにいつもと違うような生活を送ってしまったとか。
あれ?そういえば依頼を受けるときに確かシリカが…………
「クレハさん? どうしたんですかクレハさん! ……集中してるのかな?」
「キュルウ?」
「こうなるとクレハさんはなんにも聞いてくれなくなっちゃうんだよ、ピナ」
暑さが関係有るのは間違いない。けどのどが渇いていたならさっきシリカに渡したカフェオレをさっきみたいに飲み干せばいいのに、そうはしなかった。さっきと今で何かが違ったんだ。
作った人も作ったものも同じ、シリカに渡したっていうのも同じ。違うとしたら多分行動だろう。それも多分俺じゃなくて主人であるシリカの行動だ。さっきと今で違ったところと言ったら………
「ああ、なるほどな」
「あ、終わりましたか?」
「何がだ?」
「考え事ですよ。さっきから何回も声をかけたのに、クレハさん全く反応してくれなかったじゃないですか」
「……そうか」
本気で全く気がついていなかった。戦闘の時に本気を出すことはもう最近は全く無いんだが、こう日常生活で集中しすぎるのも考えものだな。気を失うことはなくても今みたいに周りに迷惑かけそうだ。
「ともかく、今日に限ってピナがこうなった理由が分かったぞ。まあ答え合わせができないから、辻褄が合いそうな推測って感じだけどな」
「え?本当ですか?」
「ああ」
いつもと違ったところはこの気温だけじゃなかった。この気温のせいで変わったことの方が原因だ。
「シリカはほとんど毎日フィールドに出てるんだよな? 当然ピナも」
「はい。そんなに長いことはいないですけど、一応はレベル上げに。けど最近は…」
「ああ、依頼についての話をした時シリカは言ってた。『ここ最近はあまりフィールドに出ていない』」
「暑さもありますし、最近は最前線がクォーターポイントっていうこともあって、中層にも攻略組の人がよく来るんです。そのせいであんまりモンスターのポップが取れなくて」
さっきは聞かなかったがそういう理由もあったのか。確かに最近は攻略組の依頼人が多かった気がするな。中層の情報なんて何に使うんだと思っていたが、上層でリソースが取れなかった攻略組が中層でいい狩場を探してたってことか。
まあそんなことより今はピナがこうなった理由の方が重要だ。1つ目の原因は、シリカが『フィールドに出ていないこと』だ。
「フィールドに出るときに必ず飲む物を飲む機会が減ったってのが理由の一つだ」
「必ず飲む物?」
「量はどうあれ、レベル上げするなら必須だろう。『回復ポーション』は」
「あ!」
「ビーストテイマーのことは詳しくないが、HPが用意されている以上ピナにだってポーションなりなんなりで回復をさせてやるんだろ?」
「はい。以前みたいなことにならないように、ポーションを頻繁に使って回復するようにしています」
ポーションだろうとなんだろうと、飲み物は飲み物だ。喉の渇きは潤うし、水分補給だってできる。
それがここ数日間なくなっていたってのは大きな原因だろう。
「けど、流石にそれだけでは……」
「ああ、流石にそれだけでこうなるとは考えづらい。あと2つほど原因を考えついた」
「2つ、ですか」
『2つ』とは言っても、究極的に言ってしまえば、この異常な気温が原因だってことで終わってしまう。だが、今後こんなことになった時に解決できるように、それ以外の原因をきちんとシリカに知らせておく必要がある。それ以外の原因っていうのがあと『2つ』だ。
「残りの2つは、多分テイムモンスターの特徴みたいなものが原因だと思う」
「テイムモンスターの特徴?」
「主人から与えられたものにしか手を出せないんだよ。テイムモンスターは」
「ええ!?そうなんですか?」
「ああ、テイムモンスターってのは極めてレアな存在だ。情報自体が少ないし、なにより情報を集めづらい。だから、こういう細かい特徴はビーストテイマーですら知らないこともある」
その集めづらい情報を的確に集めてくる情報屋が相棒じゃなかったら、俺だって知らなかっただろうしな。
「けどフィールドに居る時は勝手に色んな物を食べちゃったり、パーティーメンバーの人からアイテムを貰ったりしてますよ?」
「『フィールド』だからだろうな。考えても見ろ、圏内でピナが好き勝手に色んな物を食べたたりしたら、あっという間に露店なりプレイヤー経営のレストランが食い散らかされる」
「そ、それは確かに……」
「それと、アイテムを貰うことができたのは、それがパーティメンバーだったからだろうな。フィールドに出たらピナもパーティの一員として扱われるはずだ。そのメンバーにアイテムが使えないんじゃあ、ピンチの時にシリカ以外のプレイヤーがピナを助けてやることができなくなるからな」
「なるほど。私がピナに飲み物をあげようとしないかぎり、ピナが勝手に飲んだり食べたりはできないんですね」
「そういうことだな。フィールドに出てれば自分の好きなタイミングで川なり果物なりから水分補給できるが、ここ最近それがなかったってことだ」
これが残り2つのうちの1つ目の原因。
珍しいからこその情報の少なさと、いつもと違う生活サイクルになったことが原因だ。朝食でいつもと同じくらいの飲み物はやっていたんだろうが、この暑さじゃあ足りなかったんだろう。
水浴びしたときだって、別にピナに水をあげたわけじゃなくて、用意した水にピナを漬けてやっただけだから、飲むことはできなかったってとこかな。
「最後はあれだ。ピナがこの暑さを感じていた時間が、俺達より長いってことが原因だろうな」
「それは……どういう?」
「ああ。異常に暑くなったのは今日からだが、問題はそれがいつからかってことだ。朝目が覚めた時にはこの暑さだったが、俺達が目を覚ます前の夜中くらいから暑さが始まってたとしたら………」
「確かにそうですけど、それが何か関係があるんですか?」
「俺たちはナーブギアを介してこの世界を感じてる。実際に肌でこの世界の気候を感じているわけじゃない。だからこそ、寝ている間はこの世界の気候を感じない」
「あ!」
そうだ。現実世界では逃れられない暑さからくる気だるさだったり、辛さは寝ている間は感じない。だがそれは俺達の体が現実世界にいるからだ。本当の意味でこの世界の住人であるピナは、さぞ寝苦しい一日を過ごしたことだろう。
「『暑さのせいであまり寝れない』『喉の渇きで力が出ない』。まあ、夏バテみたいなもんだろうな。飲み物を飲んでそれが少なからず解消されたって所だろう。現実世界とは違ってポーション1本で体調が治るんだし、喉の渇きが潤って楽になったんだろう」
俺の発言に対して肯定しているのか、甲高い声でピナが一声上げた。
この様子だと大筋は間違ってないみたいだな。
「理由が分かって良かったです。ありがとうございます。クレハさん」
「あくまでも推測だけどな。細かい原因は、アルゴと裏をとってから改めて教えるよ」
「はい。…………けど、わたしが寝てる間も、ピナは苦しんでたんですね」
少し悲しそうな目をしながら、シリカはピナの頭を優しくなでてやっている。飼い主を心配させてしまって申し訳ないのだろうか、ピナも心なしか悲しそうだ。
だが今回の件に関しては仕方ないだろう。現実世界で体を通して感じるものと、SAOで脳を通して感じるものはどうしてもズレが有る。現実世界で自分ものどが渇いていたなら、相棒もそうじゃないのかと心配になるはずだが、SAOはそういったものを感じづらい。せいぜい精神的な辛さや疲弊程度だ。SAOの住人と現実世界の住人は、文字通り住む世界が違うんだ。だからこそ…………
「相棒が苦しんでいることに気づけないことは確かに辛いが、それに気づくのはとても難しいことだ。…けど、シリカはそれ以上のことをしてやっているじゃないか」
「それ以上のこと…ですか?」
「『ピナが好きなもの』『何をしたら喜ぶのか』そして、『居なくなった時どれだけ悲しいのか』。言葉をかわせる人間同士であっても理解することが難しいことを理解してやっている。今日だって、ピナのためにわざわざここまで来た」
シリカはピナのことをゲームの中のMOBだなんて思っていない。辛そうにしていたら放っておけないし、楽しそうにしていた時のことはずっと覚えてる。家族みたいに。
「一回の気付いてやれ無かったことがあったなら、次をに気付いてやればいい。人間同士だって、そうやって知っていくんだ」
「…………そう、ですかね?」
「もとはといえば、このクッソ暑い気候が原因だ。ホットコーヒーも飲めやしない」
「フフッ…そうですね。クレハさんのそういうところも、そうやって知って行ったんですもんね」
多少元気になってくれたか。そういうところって所が気になるが、まあ笑顔が戻ったから良しとしよう。完全復活とは言わないが、ピナにも元気が戻ったみたいだし、依頼としては成功と言っていいだろう。
「そういえば、好きなことで思い出したんですが、さっき言っていた好きな色ってどういう意味があったんです?」
「ああ、完全に忘れてた。持ってくるからちょっと待っててくれ、『赤』を2つ持ってきてやるから」
「持ってくる?」
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「んん~!!冷たくて美味しいですね!」
「キュルゥゥゥウ!!」
「溶けたりはしないから慌てずに食えよ」
「はい!それにしても、かき氷なんてこの世界にあったんですね」
「レシピがあったわけじゃないから創作料理だけどな。溶けずに保管できるぶん現実世界より高性能だ」
俺のした色に関する質問はこのためだ。
シリカは赤いシロップの掛かったかき氷をシャクシャクと頬張っている。ぐったり気味だったピナにも好評みたいで、山になったかき氷に首を伸ばして食べている。動きが少し機敏になったように感じるし、夏バテは大分良くなったんだろう。
思いつきで作った料理だったが、まさかこんなところで役にたつとはな。
「赤がイチゴ味っていうのは分かったんですが、他の色は何味だったんですか?」
「ああ、青がブルーハワイで黄色がレモンだ」
「うわ~!どれも美味しそうですね……」
「次来るときには別のを用意してやるよ。その時にはレパートリーも増やしておく」
といっても、多分この流れだったら今日のお茶会に参加することになるだろう。
その時に2杯目を振る舞うことになるのかもしれない。冷たいものをたくさん食べても腹を壊すことがないってのもSAOで得するとこだな。
「他の皆さんはもう食べたんですか?このかき氷」
「全員じゃないけどな。いつもお茶会に来るメンバーとクラインのギルドのやつには振る舞った。キリトは赤と青と黄色って言ってんのに『黒がいい』とか言いやがったから、イカスミみたいな食材使ったやつを食わせた」
「た、食べれるんですか?」
「失敗料理だってくえるだろ?死ぬほどまずいけど」
「あははは……」
俺たちはピナみたいに夏バテにはならない。ここは現実世界じゃないからだ。だが、この世界で感じた感情は紛れもない本物だ。そこだけは揺るがない。出会った人達との思い出も、死んでいった仲間たちとの思い出も、偽物なんかじゃない。
けど、この世界の住人との出会いはどうなんだろうか。
このゲームをクリアしたら、この世界は現実世界に居る人間の手で消されるはずだ。帰ってくることはできないだ。そのとき、この世界にいる住人も消えてしまうのだろうか。ユイやピナのような、データとして生きている奴はどうなるんだろうか。
「それじゃあ、次はピナが青で、わたしが黄色をたべよっか。2人で分けっ子しながら食べよう?」
「キュル!」
「………ああ、それがいいだろうな」
こんなこと、面と向かってシリカには言えない。
シリカだけじゃない。SAOで知り合った奴らと、もう一度現実世界で出会える保証なんてないんだ。
ゲームクリアが近づくに連れて、俺たちは覚悟をしなくてはいけない。
別れの覚悟を。
というわけで第二十七話でした。
あまり執筆の時間が長く取れないので、少しの空き時間でさっと書ける小話を執筆してみようかと思っています。
クレハのモノローグなしの、キャラ同士の会話だけを綴ったような内容になると思いますが、需要がありそうでしたら本編との繋として書いてみようと思います。