デスゲームでの日常を   作:不苦労

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お待たせしました。具体的には半年ほど。
仕事仕事の毎日で、ちょっとずつ書き進めていたんですが、やっと完成しました。


あとは任せた

白骨、と言うよりは銀骨とも言い表したくなるような人骨を模した頭蓋骨。首から繋がった体はアルゴの情報通りムカデのように長く、無数にある脚はボス戦が始まったときから変わらず、それぞれが全く別の生き物のようにうごめき続けている。

 

異質な見た目の中でも特に目を引く巨大な腕が、俺の目の前で大きく振りかぶられた。

 

「真上からの攻撃だ!避けたまえ!」

「わかってる!」

 

ヒースクリフの言葉通り、持ち上げた鎌はそのまままっすぐと俺の方へと落ちてくる。大きく左に距離を取り、真上から振り下ろされた右腕を避けきった瞬間、間髪をいれず左腕からの攻撃が右側から迫る。素早く攻撃の軌道上に刀を乗せ、斜め上方向へ攻撃が逸れるよう受け流し、バックステップで大きく距離を取った。

 

「これだけの巨体で連続攻撃タイプってのはどう考えても反則だろ。ゲームバランスどうなってんだ」

 

吐き捨てるように不満を漏らしながら追撃を警戒したが、素早く俺の前に割り込んだヒースクリフによってスカルリーパーの攻撃が防がれる。

 

「それに加えて攻撃範囲も広い。やはりタンク隊が大鎌を防ぎ続けるのは厳しいだろう」

「一通りの攻撃パターンを引っ張り出したとは思うが、どれもモーションから攻撃に移るまでが早い。やるなら今の俺達みたいに少数精鋭で大鎌をひきつけたほうが良いな」

 

俺達は敵の攻撃が終わった後のインターバルを利用して情報交換を行いながら、今後どう動くべきかの作戦会議を行っている。自分が死なないことはモチロンだが、俺達がやっているのはあくまで情報収集だ。俺の集中力が保っている間に、こいつへの対抗策を導き出す必要もある。

 

ボスの攻撃を避けつつ情報共有をして、なおかつその対抗策まで考えながら動き続ける。言うのは簡単だが実践して見るとかなりきつい。

 

タゲが移動したのか、スカル・リーパーはヒースクリフめがけて攻撃を仕掛けている。薙ぎ払うような一撃を巨大な盾で防ぎ、その後に続く追い打ちもすべてその盾に遮られている。ヒースクリフが攻撃の波を防ぎ最後の一撃で繰り出された鎌を真上にパリィした瞬間、俺は刀を握りしめ走り出す。

 

「スイッチ!」

 

ヒースクリフの後ろから勢いよく飛び出し、がら空きになった喉元にめがけて、体重を乗せて刀を突き刺す。わずかに怯んだスキに距離を取り、もう一度ヒースクリフの後ろへと体を隠す。5本に伸びたボスのHPバーを確認すると、僅かではあるが減少しているのが見て取れる。

 

「STRポーションでブーストしてるとはいえ、AGI型の俺の攻撃でも少しは削れる。もとからVITが低めに設定されているか、正面からの攻撃は通りやすいかのどっちかだな」

「おそらく後者だ。この巨体ならば攻撃を当てること事態は難しくない。そんな相手がVITが低めに設定されているとは考えにくい」

「となると、大鎌を引きつける役は火力が高めで、回避型の奴が適任ってことか…」

 

思わずボス部屋の端で待機しているプレイヤーへ目を向ける。距離のせいでよくは見えないが、真っ黒の装備に身を包んだプレイヤーと一瞬だけ目が合ったような気がした。

 

「結局、あいつが頼りってわけか。情けない話だな」

「その彼の生存率をあげるための作戦だろう。現にこのわずかな時間でかなりの攻撃パターンを引っ張り出すことができた」

 

話を続けつつも、ヒースクリフはスカルリーパーの鎌を防ぎ続けている。

ヒースクリフの言うとおり、スカルリーパーの攻撃パターンはかなり引っ張り出すことができた。初動のモーションさえ分かれば、スイッチで反撃を入れることができるくらいには動きをパターン化できている。俺の作戦は思っていた以上の成果をあげているが、そんなに楽観視できる状態でもない。

 

「ペースは早いが、その分俺の消耗が激しい。集中してるときに脳を並列で使うのは正直しんどい」

 

もともと1つのことを考え始めるとそれに没頭して周りが見えなくなるタイプだ。そういえばアルゴにも昔指摘されたような気がする。

 

『クー坊は典型的な直列思考タイプだナ。ひとつのことに集中するとそれ以外見えなくなるし、周りの声も届かなイ。クー坊の集中力は大きな武器かもしれないけど、同時に大きな弱点だナ』

 

アルゴの言うとおり、俺は複数のことを同時に考えている時は、集中力を維持することができない。複数の敵を同時に相手にすることはむしろ得意だし、それが出来るなら問題ないだろうと思っていたがそうじゃない。複数の敵を相手取っている時は、あくまで戦闘中の選択肢を瞬時に選んでいるだけで、別々の行動を同時に行っているわけでも、別のことを考えながら戦っているわけでもない。

 

そう考えると、ヒースクリフとの戦闘(デュエル)の時が今の状況に一番近かったのかもしれない。初めに立てた作戦が失敗したあとは、戦いながら作戦を立てて策を巡らせていた。よくよく考えるとあの時も限界はいつもより早く来たような気がする。

 

ヒースクリフとの戦闘(デュエル)とスカルリーパーとの戦闘で違うのは2つ。

1つは戦闘スタイルの違いだ。ヒースクリフは基本的に積極的に攻めてくるタイプじゃない。相手の攻撃を防ぎ、カウンターを狙うタイプの戦闘スタイルは俺に近い。相手が仕掛けてこないなら、その隙に策を考えて出し抜くことを狙うタイプ。そんな戦闘スタイルの2人の戦いだったからこそ剣を交えているインターバルは意外と多く、戦闘と作戦立てを切り離して戦えた。

 

だがスカルリーパーは違う。

ボスモンスター特有の巨体から繰り出される、異常なまでの攻撃速度で攻め立ててくる。今みたいにラッシュの合間に一言二言交わすのがやっとなくらいだ。戦闘と作戦立てを切り離してすすめるなんて土台無理な話だ。

 

そして2つ目。これが一番大きな理由。

 

負けたら死ぬ。

 

たったひとつのシンプルな理由だが、この事実以上の精神的な負荷はない。相手の火力が分からないからダメージは喰らえない。1発のダメージでスタンでもしたらそれこそ終わりだ。リスクを考えると回避に妥協は許されない。俺はヒースクリフみたいに正面切って防ぎ切れるようなユニークスキルなんて持ってないんだ。

 

受け流す。避ける。隙を探す。ただこれを完璧にこなし続ける。

その中で手に入れた情報を組み合わせて、ここに居る全員が生き残れるように、最小限のリスクの隊列と作戦を導き出す。

 

あぁ、作戦立てくらいは予めアスナ辺りに任せておくんだった。

実際に戦っている俺の方が集められる情報が多いから、自分で立てたほうが効率がいいなんて考えていた昨日の自分をぶん殴ってやりたい。

 

 

無駄なことを考えている間にもスカルリーパーのラッシュは止まない。

集中力を途絶えさせるな。脳を並列に使い続けろ。

これは、お前が望んで参加したボス戦なんだ。最低限

の仕事ぐらいこなしてやらないと、さっきから真剣な表情でこっちを見ているあいつらと、送り出してくれた2人に顔向けができないだろ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

腕が重い。正面を見ているはずなのに視点が定まらなくなってきた。

 

ヒースクリフのフォローでなんとかごまかしてはいるが、ここまで無傷でさばききれているのが奇跡なくらい、俺の動きは鈍くなっている。これまでの情報収集で攻撃パターンが分かってなかったらもう5回は死んでるぐらいだ。

 

「クレハ君、戦闘開始から30分を超えた。当初の予定時間だ」

「その言葉を待ってた。こっちはもういつぶっ倒れてもおかしくないくらいだ。こいつの全攻撃パターンも引き出したし、それぞれ10回以上は見せられたはずだ……あっぶねぇ!」

 

迫る大鎌を紙一重で回避して、体制を立て直す。敵に大きなスキが生まれているのは明らかだが、始めみたいにこれから追撃を仕掛けられるほど余裕はない。

 

「これだけ情報が集まれば攻略組メンバーが遅れを取ることはない。死者0名での突破も夢ではないだろう」

「そりゃあ無茶したかいが有った。問題はHPが半分を切ったときの攻撃パターンの変更だ。流石にそこまでの情報収集なんてできないからな」

「そこは攻略組の腕を信用したまえ。パターン変更時に大きく隊列が崩されていなければ、彼らなら無事にこなしてくれるはずだ」

 

激しい頭痛に耐えつつ、右の鎌を抑え続けるヒースクリフとの情報共有を交わす。ヒースクリフの言ったとおり、ここまで攻略を進めてきた精鋭達だ。攻撃パターンの変更がきても素早く対応してくれるはずだ。

俺の限界は耐えてなんとかなるものでもないし、かろうじてでもスカルリーパーの攻撃をさばけるうちに撤退した方がいい。

 

くそ、頭が痛い。多少予想してはいたが、前に気絶するまで戦った時と比べて症状が悪化している気がする。肉体的な痛みを感じないSAOなのに、脳が感じている違和感と不快感は頭痛のような感覚で伝わってくる。ヒースクリフからの提案が後数分遅かったら、俺からギブアップ宣言していたところだ。

 

「俺は一旦引く。ぶっ倒れるまでやるより、多少動けるうちに引いたほうが、足手まといにならなくていいだろうし」

「了解した。集めた情報を元に組み立てた作戦を全体に共有して貰いたい。私は、キリト君とアスナ君とともに、正面から大鎌の処理で良かったかな?」

「……大正解。あなたのやることは変わらず、正面でこいつの動きを抑えて欲しい。俺がやっていたことをキリトとアスナのペアが引き継いで、隙ができたら攻めていく。長期戦になるがそれが一番安全だ」

 

一緒に戦っていたとは言え、俺がヒースクリフに任せようとしていたポジションをしっかり理解してくる辺り、流石攻略組トッププレイヤーだ。

 

何はともあれこれで75層の攻略は大丈夫だろう。俺に出来るのはここまでだ。

合図を出してエギルを呼んで、エギル経由で全体に今後の隊列と戦い方を伝えよう。よくよく考えると、俺が引くタイミングが一番危ないな。どうやってもヒースクリフ1人でスカルリーパーを抑えておかないといけないし、俺とエギルは隙だらけだ。まあ、そのへんもヒースクリフならなんとかするだろう。

 

あわよくばこの作戦中にあれの確認(・・・・・)もして、全部終わらせてやろうかとも思っていたんだが、そこまで求められるほど俺に余裕がなかった。スカルリーパーが手ごわすぎたってことと、俺が自分の直列思考っぷりを甘く見ていたことが敗因だ。

 

走り寄ってくるエギルがちらっと視界に移ると、思わず安心して溜息がこぼれる。

ヒースクリフがスカルリーパーのタゲを取っている間に大鎌の射程を抜け、後ろに回り込むようにして前線から離脱する。エギルの後ろには戦闘準備を万全にした攻略組メンバーも走り寄ってきている。このタイミングなら俺と入れ替わりでヒースクリフの援護が出来るはずだ。最初の数分間は俺の考えた隊列どおりでなくても全く問題ないだろう。敵の攻撃パターンは把握しているはずだしな。

 

 

 

何にせよ、ひとまず俺の仕事は終わった。あとはエギルに作戦を伝えて…………。

 

 

 

 

 

 

 

「避けろクレハ!」

 

 

 

 

 

 

 

普段めったに聞くことのないエギルの焦りを含んだ大声が聞こえた瞬間、

左の脇腹に強い衝撃が来たかと思うと、俺の体は真後ろへ吹き飛んだ。

 

 

「ガハッ………!」

 

 

唐突に訪れたノックバックの不快感と衝撃で、俺はろくに受け身も取れず地面に叩きつけられた。

 

「ぐ、クソ……」

 

HPゲージは確認できていないが、どうやら即死は免れたらしい。

不快感に耐えつつ体を起こしながら、俺はなんとか体を動かそうと藻掻くがうまく体が動かない。腕に力を入れてなんとか上半身だけは起こすことができたが、立って回避行動を取れるほど体制を整えることができていない。

 

ヤバイヤバイヤバイ。

 

ただでさえ頭痛でフラフラだったのに、不意打ちで食らった衝撃とノックバックのせいで体がうまく動かない。

 

そもそもなんであんな不意打ちを食らったんだ!? 離脱するとき大鎌は確かにヒースクリフに向けられていた。あんな状態で俺に攻撃を出せるようなパターンなんて無かったはず……

 

 

そう思った瞬間、真っ白な骨が振りかぶられるのが視界に写った。それは今まで必死になって避け続けていた大鎌ではなく、完全の意識の外に置いてあったもの。いや、正面からスカルリーパーに向かっていたなら全く意識する必要の無いものだった。

 

 

「尻尾も攻撃として使ってくるのかよ……!」

 

 

高く振り上げられた尻尾は、今までの大鎌と同じように容赦なく振り下ろされ、一直線に俺めがけて振り下ろされる。

いつも通り、スローモーションで流れていく視界。右手に持った刀と左手に持った鞘。攻撃速度事態はそんなに早いわけではない。だが、知らないモーションと攻撃パターン。そして、自由の効かない体。たとえこの一撃を回避しても必ず追撃が来る。

走り寄ってくるエギルも、攻略組も間に合わない。むしろ下手に割り込むと俺と同じ目に合いかねない。

 

この状況で俺が生き延びるために出来ることは、

……………もう何もない。

 

離脱を始めた時以上の激しい頭痛とめまい。未だに残るノックバックの不快感。それらを抱えたままの俺はまっすぐとボスを見据えて、

 

 

 

思わず笑みを浮かべる。

 

 

 

迫りくる鋭い尾と俺の間に割って入ったのは赤い鎧と白い盾。無駄のない盾さばきで尾の攻撃を弾き、左から来る大鎌の追撃も素早い反応で遮られ、俺まで届かない。敵をまっすぐと見据えながらすべての攻撃を捌き切ったヒースクリフは、そのままの姿勢で声を掛けてきた。

 

「無事かね?クレハ君」

「あなたの……おかげでなんとか。さすが団長…さん」

「ふむ。この状況で軽口が叩けるのなら問題ない。当初の予定通り、一度引きたまえ」

 

遅れて到着した攻略組メンバーがヒースクリフの後ろにずらりと並び、スカルリーパーに対峙する。

 

「全員回避優先!クレハ君離脱のための時間をかせぐ!」

 

ヒースクリフの号令に攻略組が一斉に動き始める。戦闘態勢に入ってはいるが、攻撃をしかけようとするわけではなく、ただ時間をかせぐことに特化した動きだ。

さすが攻略組の精鋭達。ついさっき死にかけたプレイヤーを見たにも関わらず、焦ることなくトップの指示通りの行動に入っている。

 

「おいクレハ! 無事か!?」

「砕け散ってないん…だから大丈夫だろ。けど立ち上がれない。……肩貸してくれ」

「そのために来たんだよ。ボスの対処は一旦他のメンバーに任せて、俺達はさっさと引くぞ」

 

走り寄ってきたエギルに担がれながら、俺はボス部屋の端へと移動する。何だかんだ言って時間が惜しい。移動しながらでもいいからエギルに作戦を伝えよう。

 

「……エギル、これから始めるボス戦での作戦だ。お前経由で全体に展開してくれ」

「そうは言っても、お前フラッフラじゃねえか。喋って大丈夫なのか?」

「むしろ喋れるうちに…伝えとかないと、俺のやってたことが無駄に……なるだろうが」

「それもそうだな。分かった、責任持って伝えてやるから話してくれ」

 

脳の奥に響く頭痛に耐えつつ、正確かつ簡単に作戦を伝えられるよう頭を巡らせる。

 

「まず…全体を3つのチームに分ける。正面から大鎌を引きつけてカウンターを狙うA隊と、……サイドから攻撃するB隊とC隊だ」

「サイドから?」

「ああ、尾の攻撃は俺が思いっきり不意打ちを…食らっても即死してないレベルの…火力だ。普通に防御さえできれば十分戦える。……普段のボス戦と同じ要領だ」

 

事前の情報収集で確認できなかった、敵の火力を確認できたのは、不幸中の幸いだったのかもしれない。レベルの足りていない俺が即死しないレベルの攻撃力なら、攻略組ならきちんと防御ができれば問題はない。尾に関しては通常のフロアボスと同じ程度の火力ってことだ。

もっとも、初めは尾の攻撃なんて想定していなかったから、大鎌を引きつける隊のサポートも一緒にこなしてもらうつもりだったんだが、尾に攻撃判定が付いているとなると話は別だ。難易度が一気に跳ね上がる。

 

「問題は尾の攻撃パターンを引き出せていないってところだ。……尾があんな動きするなんてあの瞬間まで知らなかったんだからな」

「あん? さっきみたいな尾と鎌を合わせた攻撃パターンはともかく、尾の動きだけならさんざん見てたぞ?」

「………は?」

 

エギルから予想外の事を言われて思わず間の抜けた声が漏れてしまった。

 

「ああそうか、クレハは大鎌の相手をしていたから視界に入ってなかったのか。なるほど、お前が不用意に尾の射程に入った理由がやっとわかったよ」

「…どういう……ことだ?」

「アイツの尾だが、攻撃モーションに入るたびにブンブン振り回してたんだよ。あれに当たるとあぶねえだろうなってことで、俺達は尾の動きも確認し続けてたんだよ」

「…………なるほど、流石攻略組様だ」

 

俺は大鎌に必死でそこまで確認できてなかったが、周りからボスを観察していたメンバーたちにはしっかり尾の危険性を理解していたってことか。

 

「それなら…問題ない。さっき言ったとおり、3つの隊にわかれて攻撃を続けてくれ。……A隊はキリト、アスナ、ヒースクリフの3人。B隊とC隊はお前の……判断で割り振ってくれ」

「3人!?おいおい大丈夫なのか?」

「あの大鎌は…少数の方が回避しやすい。流れ弾なんかで………不意打ち食らったら、即死してもおかしくない。…クラインあたりならあのメンバーにも割り込めるだろうが、アイツには……B隊の指揮を任せたいからな。ついでに言うと……C隊を指揮するのはエギルだ」

 

SAO内で最強クラスの3人を集めたA隊がヒットアンドアウェイで大鎌を引きつけ、攻略組の精鋭で作ったB隊とC隊でサイドから攻撃。シンプルだがこれが一番効率がいい。

攻撃モーションが分かってなかったらかなり危険な作戦だが、モーションが分かっているなら話は別だ。殆どの動きをルーチン化出来る上に、防御よりも回避を成功させやすい。

 

「了解、隊列は理解した。他になにか伝えることは?」

「……A隊に関しては回避を最優先だ。大鎌の火力は確認してないが……相手は75層のボスなのに…ブレス攻撃なしのハンデ付き。十中八九あの大鎌の火力がバカ高いはずだ」

「B隊とC隊は?」

「そっちは防御優先……尾の火力なら下手に避けて食らうより、しっかり防いだほうが良い。B隊とC隊はメンバーも多いから、避けるとお互いを邪魔しかねない」

 

色々と頭を巡らせたが、結局この方法が一番安定度が高いはずだ。この方法なら時間はかかっても死傷者0で倒すことも夢じゃない。大鎌の対処だけが少し不安だが、ヒースクリフは事前に予習済みなうえに、キリトの反応速度と火力にアスナのAGIでが加われば、完全に俺の上位互換と言っていい。

サイドからの攻撃隊も、メンバーそれぞれが俺以上のレベルと装備を整えている。尾の攻撃で消耗するとしても、命の危険が有るほどじゃない。

 

作戦を伝え終わるとほぼ同時に、ボス部屋の壁際まで到着した。俺はエギルから降り、壁際に座り込むようにして倒れる。

 

「よう、おつかれさん。後は俺達に任せろ。最初はボスを前にして少し怯えていた攻略組メンバーも、お前がガンガン攻撃避けるのを見て、大分強気になっていた。作戦立てもそうだが、そっちの効果も絶大だぜ」

「そりゃあ………良かった。」

 

命かけて体張ったかいがあったってもんだ。

 

「それじゃ、俺は作戦を伝えてくる。お前はここでゆっくり休んでな。多少居眠りしてても誰も攻めやしねえよ」

「俺がその気じゃなくても、勝手に……眠りこけることになるだろうな。もう視界の殆どが真っ暗だ」

 

だが、まだここで終わりじゃない。

 

「あと最後に……1個だけ伝えなきゃならないことが有る」

「ん?まだ何かあるのか?」

 

さっき偶然確認できたことがあるが、この場でそれを公開して良いのかは分からない。このタイミングで不用意に公開してしまったら、俺が眠っている間に、大惨事になってしまう可能性もある。

 

だから、後の判断はアイツに任せる。

闘技場でのことを知っているアイツなら、俺と同じ答えに行き着くかもしれない。

 

「ボス戦が終わったあとでいい。キリトにだけ伝えてくれ………『アイツは初めから知っていた』って」

「なんだそりゃ?ボス戦が終わった後ってことは攻略とは関係ないことか?」

 

エギルは俺が何を言っているのかわからないらしい。

まあ、当然か。

 

「わからないならいいんだよ………特に重要な事じゃない」

「まあ、お前がそういうんなら分かったよ」

「……頼んだ」

「あ、あとそうだ。今度は俺から1個だけ言わせてくれ」

 

そう言いながら、エギルはポーションの入った小瓶を俺に握らせる。

 

「お前のHPを見てるとこっちがヒヤヒヤするからな。せめてそれ飲んでから寝てくれ」

「HP?」

 

目線を左下に向けてHPバーを確認すると、俺のHPは1割も残っていなかった。

バーの色は真っ赤に染まり、危険を伝えるように僅かに点滅している。

 

「おいおい………まじかよ」

「やっぱり見てなかったか。特に焦る様子もなく作戦を話しだしたからもしかしたらと思ったが」

 

2撃目を食らったら死ぬとは思っていたが、まさかここまで削られているとは思わなかった。尾の攻撃でふっとばされたって事実と、その後のことで頭が一杯で自分のことなんて全く眼中になかった。

 

「助かったよ。……ああ、俺はもう限界だ。後はお前たちに任せるよ………」

「任せとけよ。目が覚めたら76層だからな」

 

斧を担いでボスに走っていくエギルを見ながら、俺はポーションを飲み干す。じわじわと回復しているHPを確認しつつ、俺の意識がゆっくりと落ちていくのを感じる。

 

 

俺のやるべきことはひとまず終わりだ。ボスの攻撃パターンを暴いて、ボス撃破のための作戦立てもできた。ついでにやろうと思ってた確認作業も最後の最後でやれた。

 

後のボス戦は攻略組メンバーに任せよう。

後の判断はキリトに任せよう。

 

 

 

 

目が覚めた時は76層。

そうなるかどうかは、キリト次第だ。

 

 




というわけで、第三十二話でした。

一体シリアスパートはいつまで続くのか……。
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