ビアンカちゃんが死ぬほど好きなんだ!!   作:nao.P

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海の上

僕は甲板へと駆け上がって流れてくる潮風の匂いを一気に吸い込んだ。

 

うーん。しょっぱい。

 

空は青、海も青。ずーっと水平線が続いていて、まだなーんにも見えない。

 

「ちぇ」と僕は舌打ちをする。

 

でもまだ分からない。船首の方へ行ったら何か見えるかもしれない。

 

僕は全力で船の進む方向へ走った。凄い。今の僕は船より速く走っているぞ。

 

「おうおう坊主。元気がいいな」と船乗りのおじさんが走る僕に声を掛けてきた。

 

「おじさん! 今の僕船より速いんだ!凄いでしょ!」

 

船乗りのおじさんは「全然凄くねえな。追い越せやしねえからな」と意地悪を言った。

 

「あとな。俺はおじさんじゃねえ。お兄さんと呼べ」

 

「あっ! そうだ! ねえねえおじさん聞いて!!」と僕は、今度はおじさんに向かって駆け寄ってさっき疑問に思ったことを訊ねてみることにした。

 

「坊主、お前はまず人の話を聞け」

 

「うん、わかった! でね、おじさんに聞きたいことがあるんだ」と僕は続ける。

 

おじさんは舌打ちをする。おじさんはとても太い腕をしている。お父さんほどじゃないけど戦ったら結構つよそうだ。

 

「お前は船から降りるまで俺のことをおじさんって貫き通しやがる気か。まあいいや。で、なんだ坊主?」

 

「うん! あのね! 男の子は女の子のこと守ってあげなくちゃダメって言われたんだけど、そうなの!?」

 

と聞いてみた。おじさんは目を丸くする。

 

「どうした坊主。色気付きやがって。好きな女の子でも出来たのか?」

 

「好きな女の子? ビアンカのこと? 僕は別にビアンカなんて全然好きじゃないよ!! もう何勝手なこと言ってるのさ!」

 

「ビアンカって誰だが知らねえが、なあ坊主」

 

「なに?」

 

と言って答えを待っていた僕に向かって突然におじさんは大きな声を張り上げて

 

「がおおお〜!!!!」

 

と驚かせる様な真似をしてみせた。

 

僕は少しだけビックリしちゃったけど「何するのさ!」と言い返す。

 

「大したもんだ坊主」

 

「おじさんなんかモンスターなんかより全然怖くないもんね!」

 

と少しだけ腹が立っている僕に向かっておじさんは「すまん」と言って会話を続けた。

 

「いいか坊主。お前は今泣かなかった」

 

「これくらいなんかで泣くわけないよ! 僕男の子だもん!」

 

僕がそう言ってみせると、おじさんは拳を作って親指だけ立てて「ナイスだ坊主」と言った。

 

「何がさ?」

 

「男の子は泣いちゃダメなんだろう?」

 

「そうだよ。僕は泣かないよ」

 

「それと同じだ。男の子は泣いちゃダメだし、男の子は女の子を守ってあげなくちゃダメなんだ。理由なんかいちいち聞くんじゃねえ。格好悪いだろ。分かったか坊主?」

 

と言った。

 

僕は「うん分かった!」と言ってお礼をした。

 

「尊敬したか? だったらおじさんとは言わずお兄さんと呼んでいいぞ? 」

 

「うん! おじさんみたいなお兄さんありがと!」と言った。

 

おじさんは、今度は本気で僕に向かって「がおお〜!!」と叫んで追っかけてきたので僕はたまらず走った。

 

「おい待て坊主!」

 

「なんだよおじさんみたいなお兄さん! 話はもうじゅうぶんだよ!」と走りながら言う。

 

「アレ見ろアレ!」

 

おじさんみたいなお兄さんの指さした方向を見ると、微かに水平線に薄っすらと岸の影が見えたのが分かった。

 

「やったあ!! やっと降りれるよ!」

 

「嬉しいか坊主。お別れだな」

 

「うん!短い間だったけどおじさんみたいなお兄さんのおかげで楽しい船旅になったよ」と言った。

 

船乗りの人は皆して力持ちで口は汚いけど、心は海みたいに広い人ばかりだなって思った。

 

「ちっ。生意気なガキだ。おい坊主。お前の親父さんに降りる支度をしろって伝えて来い。待ち兼ねただろうからな」

 

「うん! 分かった!」

 

僕はお父さんのいる船室に向かって走った。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

バタン!

 

 

「お父さん! もうすぐ着くよ」

 

部屋に戻るとお父さんはまだ机の上で難しい本を読んでいた。

お父さんにもまだ分からないことがあるのかな、と思った。

 

僕にはまだ分からないことだらけで、いちいち訊き返さないとわからないことばかりで、さっきも船乗りのおじさん以下略に訊ねたばかりだった。

 

お父さんも、そうしてきたのかな。

 

「そうか。村に着くのは二年ぶりだな」

 

とお父さんは本を閉じてそう言った。

 

「皆、僕のこと憶えてるかな?」

 

「お前は、村の人達のこと、憶えてるのか?」

 

「うん! 村の人は皆家族みたいだし! 早く会いたい! でも僕のことなんか忘れてたらどうしようかな?」

 

僕は急に怖くなる。

 

僕なんかあの頃、豆つぶみたいにすごくちっちゃかったから、もしかしたら皆の記憶からすっかり消えちゃってるのかもしれない。

 

そう思ったらビアンカに会うのが怖くなっちゃった。

 

憶えてくれていたら嬉しいけど、……でもまあいいや。憶えてなかったらその時は知らんぷりしてやるぞ。知らんぷりだ。ざまあみろ。

 

「憶えているさ。お前が憶えているなら、相手も同じように憶えているものだ」

 

お父さんは支度をしながらそう僕に言う。

 

「じゃあ! じゃあビアンカも僕のこと憶えていてくれてるの?」

 

たまらず僕は訊く。

 

「もちろんさ。また仲良く遊んだらいいだろう」

 

「仲良く? 別にビアンカと仲良くなんかないよ! けど、お父さんがそうしろって言うなら、そうしようかな」

 

そう言うとお父さんは、何故だか笑った。なんだか少し腹が立ったけど、ビアンカが憶えてくれてるって言うならまあ、いいか。

 

「忘れものはないか?」

 

「うん、ばっちり! 剣も持ったし! 薬草も持ったよ!」

 

剣はひのきの棒だけど、立派な武器だ。モンスターを追い払うくらいなら子供の僕にだってできるぞ。

 

お父さんが居ないと戦うのは無理だけど。お父さんが居ればちっとも怖くない。

 

「では行くとしよう」

 

「うん!」

 

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