「ねえねえ! サンチョ! ランプない? ランプ!」
洞窟へ行く前に僕は家に帰って中で掃除をしていたサンチョに訊ね物をしていた。
サンチョは箒を持っていた手を止めると、僕に丸々とした顔を向けて
「お帰りなさい坊ちゃん。ランプですか? ありますが何に使うんです?」と訊いてきた。
「なんでもいいじゃんか! 早く早く!」
サンチョは顔もそうだけど体もポンポンと膨れているから思わずそのお腹を急かすように僕は何度も叩いた。
「わかりました坊ちゃん。ですからそう叩かないでくださいな」
「だってサンチョは相変わらずたるんだ体をしてるんだもん! そんなんじゃ駄目だよ! 男だったらお父さんみたいにならなくちゃ!」
「そう言われる坊ちゃんはすっかり逞しい男の子になられましたね」
「でしょ!? 」と二の腕の力こぶを作ってみせる。まだちょっとだけしか膨らまないけど立派な力こぶだ。
「ええ。」
サンチョは重そうな体を動かして台所へ行くと奥からランプを持ってきた。
「ありがとサンチョ!」
「坊ちゃん、もしかして洞窟へ行くのですか?」
「え!? どうして分かったの!」と思わず僕はびっくりしちゃった。なんでバレちゃったのかな。
「坊ちゃんのことならなんでも分かりますとも」
「止めないの?」とランプを受け取りながら、僕は訊いた。
「はい。坊ちゃんももう6歳です。旦那様と旅をしてきっと冒険もたくさんしてこられて随分と大きくなられた。それがサンチョは嬉しいのです。ですから少しくらいなら目を瞑りましょう」とサンチョは目を細めておまんじゅうみたいな顔をした。
その顔はいつだって僕を笑顔にしてくれる不思議な笑顔だ。
お父さんも大好きだけど、やっぱり同じくらいにサンチョも大好き。
「さすがサンチョ! じゃあ行ってくるね!」と僕は言った。
「ええ。お気をつけて」
*****
ぼわわっとした明かりが、洞窟の暗闇を照らす。
洞窟の中はやっぱり暗かったけど僕はあらかじめ持ってきたランプに火を灯した。
それでも奥まで明かりは全然届かないくらいに洞窟の中は広いみたい。
「おとーさぁん!!」
思い切り叫んでみたけど返事は返ってこない。どうやら奥まで行っちゃったのかな。
僕も一緒に連れていってくれたらよかったのに。っと思ったけどまあいいや。一人で探険しちゃうんだもんね。
僕はひのきの棒を握りしめて洞窟の中を流れてる川に沿って進んでみることにした。
「あ、そうだ。その前にサンチョにビスケット貰ったんだった。一枚食べよーっと」
腰に結びつけた布の袋から、サンチョにおやつ用に焼いて貰っていたビスケットを早速一枚取り出して口に入れる。
「うーん! やっぱりサンチョの作る物は何でも美味しいな!」
甘くて、香ばしくてとっても美味しくて、洞窟へ一人で入った不安も和らいだ。
おかげで足はどんどん動いてランプの灯す明かりにも目が慣れてきて、気がつくともう結構奥まで進んでいることに気がついた。
「楽しいな。お父さんに会ったらびっくりするかも。にひひ」
カコンッ。
すっかりこの洞窟に慣れてしまっていた僕は背後の方で小石が転がった音に、ただなんだろうという感じで振り返った。
「わっわあ!」
僕は声を上げる。
目と口の付いた青い丸っこい物体がこっちに向かって跳ねてきたからだ。
「スライムだ!」
ちっちゃくてプルプルとしたゼリーみたいにぴょこぴょこ跳ねてくるけどちゃんとしたモンスターだ。
僕はランプを地面に置いてひのきの棒を両手で握りこんだ。
初めてたった一人でモンスターと対峙して僕は一気に緊張が高まった。
「大丈夫! 大丈夫!」
と自分自身を落ち着かせて、飛びかかってきたスライムを僕は身を構えてひのきの棒で受け止めた。
バゴンッ!
衝撃はそんなに無い。
しっかり顔と体を守ればスライムくらい怖くないって僕は知ってるんだ。
「えいやっ!」
「ピギギ!」
一発目は外れた。
本当はお父さんみたいに素早く攻撃を続けたいけど、そうすると僕みたいな子供じゃ力が入らないし、なにより攻撃が当たらないってお父さんが言ってたっけ。
「両手でしっかり握って相手の動きをよく見るんだ」
僕はお父さんの言葉を口に出して、飛び跳ねるスライム目掛けて狙いを定めてひのきの棒を思い切り叩き込んだ。
今度は見事命中!
スライムは潰れたみたいに変形して川の中へと飛んで消えていった。
「やったあ〜! 僕一人でモンスターをやっつけたぞ! わーい!」
と僕は声を大にして喜んだ。
「よーし! ガンガン進んでお父さんに追いついちゃうぞ!」
僕は再びランプを手にして奥へと進んで行った。