東方霊無鏡 〜Per hour 2.5 minutes 【完結】 作:LOORUME
その際のお話です。
ハッキリ言おう――あれは災難だった。
時を遡る、これは数ヶ月前の話だ。
今じゃ鏡源郷などと人里で騒がれてるが、その数ヶ月前にはそんな話、欠片も聞いたことがなかった。
僕がいつも通り香霖堂で店番をしている時、とある人物が訪れた。
「はあい♡ お客さんよ」
「....君か。客ならそこの出入り口のドアから入ってきてくれ」
彼女――八雲紫、スキマ妖怪などと呼ばれている――が僕がいつもいるカウンターの向かいににゅっと現れた。
「分かったわ」
にゅっと消えた。
そして店内に響くドアのベル音。
からんからん。
「はあい♡ ゆかりんよ」
「いらっしゃい。何の用だい?」
何か色々と突っ込みを受けるのを期待していたようだが、ここはあえてスルーだ。話を円滑に進めるにはこういうことも必要だ。
「なによ、色々言うことがあるんじゃないの?」
が、今回は円滑には倒れなかったようだ。むしろ遅鈍になってしまった。絶対。
「はあ...君は面倒臭いね。えーと、♡とか歳に合わないんじゃないか?あとは、『ゆかりん』も」
絶対にだ。
「なによ!失礼ね!」
ほら。
「ち、違うのかい?突っ込むところが?
じゃあ一体何に対してどう言えばいいんだよ」
「『お客さんよ』のところよ。そこに『お客はドアから入るべきだ』って」
一番最初じゃないか。しかも突っ込んだし。
だから君の相手をするのはつかれるんだよ。ため息をつきながらそう思う。
閑話休題
「で?何の用だい?」
「賄賂で買収されてちょうだい」
用とは、口裏を合わせて欲しいという内容のものだった。
ここで、ここまで読んでくれた読者の諸君に質問がある。
魔理沙が鏡について聞いてきたことに対して僕が、「霊夢がその鏡を奪っていった」と答えたことを覚えているかい?
そこで、矛盾が発生する。
そう、霊夢は鏡を霖之助から奪っていないはずだ。紫の計画によって鏡を見せられたのだ。
ではなぜ矛盾が発生したのか?その原因は紫の依頼の内容に起因する。
『口裏を合わせる』
それは、鏡の情報については全く言わないこと。
紫が犯人だということの発覚を防ぐため、嘘の情報を流すこと。
「報酬は?」
「私から直接は無いわ。けれど、鏡の世界の住人が来たら、絶対ここも繁盛する。そう言えるわ」
紫らしからぬハッキリとした態度に、納得し信用するしかなかった。
いつもの僕ならばきっと断っていただろう。
だが数日前、魔理沙からこんなことを言われていた。
『ーー香霖は商売する気があるのか?(笑)』
ここは、漢としても意地を魅せねばならないという謎のプライドが霖之助の中で爆発した。
あんなことを言われて引き下がれるわけにもいかない。どんな悪どいことをしてでも儲けを求める、そのような気概が元から自分には少ないと、自覚していた。だが、ここは漢の意地だ。
その話に僕は乗った。
今思えばそれも紫の思惑通りだったのであろう。だがそれも良い、結果的には儲けが出たのだから。
時を戻そう、その数ヶ月後だ。
巷では鏡源郷との同期も、博麗神社での大宴会も終わって数日後の事だった。
「失礼しますわ」
腰を抜かしそうになった。なんと紫が、あの紫が、ドアから礼儀正しく入店したのだ。
「失礼な事を考えられている気がするけど...どう?調子は」
「ああ、売り上げは紫のおかげで上々だよ。ところで、そちらの方は?」
紫の隣には、真っ白な地に虹色のフリルがあしわられた和服を着た幼...少女がいた。
まあ、白髪だし妖怪だとは思うけど。
「ああ、初めまして。うちは八岐鏡映だよ」
「! 鏡源郷の主の?」
「そう。よろしくね」
「どうも森近霖之助です。こちらこそどうぞご贔屓に....で、紫?どんな用だい?」
「あなたはどれだけ人を急かせば気が済むのかしら。
ああ本題だけど、この子の家に飾るものが欲しいから、この店の物を片っ端から頂戴」
なんちゅう大人買いじゃ。
「え?紫?さすがにそこまでは失礼じゃ...」
「大丈夫。一割くらいは残すわよ」
「いやいや、譲歩の仕方がおかしいでしょう。きょ、鏡映さん本当の用は何ですか?」
紫はやっぱり面倒臭かった。Q.E.D.
こういうのは本人に聞いた方が良い。
「うん、装飾品が欲しいのは本当なんだけどね。いいものをいくつか見繕ってくれないかなーと」
「ご予算は?お部屋はどのような雰囲気ですか?」
「予算、これはほぼ無制限だから考えなくても良いよ。部屋の雰囲気も、全部霖之助さんに任せるよ。今はまっさらだし何にでも出来る」
「絨毯や壁紙、家具とインテリアを選べばいいのですよね?」
「うん」
「ふむ....ではまた後日いらしてください。適当な物を幾つか見繕っておきます。」
「あ、でも十階分だよ?フロアの面積は....この香霖堂2件分くらい、かな?」
頼む場所間違ってるんじゃないかな。
「わっ、かりました。では後日いらしてください」
「よろしく頼むよ」
これは明日は色んな所を歩き回らねばいけないようだ。幻想郷の五郎さんと呼んでおくれ。
「ところでさ」
「どうかしたの?やまたん」
ん?何かあったのだろうか。
「ここの店、うちと同じ香りがするね」
「....どういうことでしょうか?」
「店が同じ香りなんじゃなくて、正しくは同じ香りの物が店にある、のかな?」
どういうことだ?一瞬では言葉を理解できなかった。
この店に鏡映さんが見たことがある物があるということか?
「あら、やまたん気付いた?」
紫には心当たりがあるらしい。店主より先に思い当たるとは...。
「? 何のことだかわかるのかい?紫?」
疑問符を沢山浮かべながら紫に尋ねる。
「ええ、この物の名前を聞いたら瞬時に合点がいくでしょう。
それは、草薙の剣」
なるほど。そういうことか。鏡映さんも納得したようであった。
というか紫、君は『友達の部屋の装飾の依頼』じゃなくて、最初からこれが目的だったのだろう。
「この店にあるのかい、霖之助さん?確か外の世界にあるはずなんだけど...」
「うん、たまたま落ちてる草薙の剣を魔理沙が見つけてきたんだ。それを八卦路と交換に貰ったんだ」
八岐大蛇が退治され、尾を割かれた際に草薙の剣が出てきた。この伝説が本当かどうかはわからないけど、そのようなことがあったのかもしれない。
「懐かしいねえ。見せてくれるかい?」
「はい、持ってきますね」
「その必要は無いわ。はい」
どうやら紫がスキマで引っ張り出してきたらしい。
「ほぉ、劣化してないねえ。さすがはうちの剣だ。引き篭もって鎚を振るい続けたかいがあったよ」
「それ貰うの?やまたん」
持ち主に返すのは道理なのだけれど、僕の手から離れてしまうのは....。
「あ、いいよ別に。だけど、これに見合う剣術使いが頼んできたら譲ってあげなよ」
「...はい」
僕は所詮失せ物売り屋。持ち主の意向に沿わなくてはならない。
「うふふ、じゃあまた来るよ」
「そうね、じゃあ私も帰るわ」
そう言い残して鏡映さんはドアから。紫は結局スキマで消えて行った。
気付いたら、1時間も話し込んでいたようだ。
あ、と僕が声を漏らす。
僕は客にお茶も出さずに、その上ずっと立たせたままなのであった。
やってしまった、という後悔も間に合わず、ちょっぴし落ち込むしかなかった。
そんな風に、僕に対する色々な意味で災難は過ぎ去って行った。
1ヶ月後、様子を見に来た鏡映さんにはちゃんと茶を出した。そしてルームメイキングも気に入ってもらえたようだった。
第4章 完
はい第4章は、これにて終了です。蛇足もそろそろ飽きてきた頃でしょうか?
まあ、第5章が(1話だけですが)どんな内容になるか、更新をお待ちください。
よろしければ、感想や指摘点などをお申し付けください。