「お…………ん」
(ん?何だろう、誰かに呼ばれたような?)
俺はまどろみの中、かすかに聞こえた声に気づいた。
「お……し……さ…」
(誰かが、呼んでる?)
「音無さん!起きてください!」
「ひゃい!!す、すみません!」
いつの間にか教卓の前にいた女性が涙目で俺の名前を叫ぶように呼んでいた。慌てて起きて周りの様子を見てみた所、苦笑している人、生温かい目でこっちを見ている人、不快そうな表情でみている人で別れていた。
(ていうかさっきの俺の奇声全然男っぽくないよな……)
なんだかどんどん男らしさが消えていくのを感じ気が重くなっていく。だが落ち込む前にやらなければならないことがあるのでまずはそっちを優先することにした。
「あ、大声出してごめんなさい。でも、次は次は音無さんの番ですから自己紹介お願いします。だ、駄目ですか?」
「い、いえ。眠ってた私が悪かったんですから駄目じゃないです。だから落ち着いて………」
「そ、そうですか?よかったです」
そのとき斜め後ろから殺気にも似た視線が飛んできているのを感じた。間違いなくサーシャさんだ。というかサーシャさんいくら俺がへんな悲鳴を出してばれるリスクを高めたからって教室内でそんな戦場にいる時のような殺気を出さないでくれますか。そのせいで「うひぃ!?」って山田先生が悲鳴を上げちゃってるじゃないか。
「え、えっと。
「シルバーラビッツコーポレーションってあの?」
「テストパイロットってすごくない?」
「もしかしてエリートなのかな?」
確かに
だが、敵意の視線に晒されることは予想外だった。しかもちょうど真後ろから。
(確か俺の後ろって百春だったはずだ。何で俺に敵意を向けてきてるんだ?)
と考え込んでいる間に百春の番になったらしく俺に敵意を向けるのを止めて立ち上がった。流石に注目が集まっている中では評判に関わるようなことはしないらしい。
「世界で一人目のの男性操縦者になった織斑百春です。至らないところがあるでしょうがどうかよろしくお願いします」
とほぼ完璧ともいえる百春の自己紹介が終わった時、後ろの扉が開く音がした。教室に居た全員の視線の先には黒いスーツをきっちりと着た俺の姉だった人ーーー織斑千冬が立っていた。
「織斑先生、もう会議の方は終わったんですか?」
「ああ。山田先生にクラスへの挨拶を押し付けてしまってすまないな」
「いえ。これも副担任の仕事ですから気にしないでください」
千冬が教卓に立った時一瞬だけ鋭い視線をサーシャさんの方に向けた気がした。だがすぐに視線を正面に戻したので俺は気のせいだと思った。
「諸君、私が織斑千冬だ。私の仕事はお前たち新人をを三年間で使い物になる操縦者に育てるために最低限の基礎を徹底的に叩き込むことだ。私の言うことはよく聞き、そして理解しろ。出来ない者には出来るようになるまで指導してやる。理解できなかった者は遠慮せずに質問しろ。
私の言うことには「はい」か「イエス」しか許さん。口答えも許さん。いいな」
正に独裁者のような挨拶が終わった時教室内は静まり返った。そのとき俺は嵐の前触れのような気配を感じ取り慌てて耳を塞いだ。俺の勘は見事に的中したらしく、耳を塞いだのとほぼ同時のタイミングでまるで音波兵器のような歓声が教室内に響き渡った。
「キャァァァァァァァ!本物よ、本物の千冬様よ!」
「千冬様が現役のころからファンだったんです!」
「千冬様に憧れてこの学園に入学したんです!北海道から!」
「貴方のためならなんだってできます!それこそ貴方の椅子にだって!」
引退しても尚織斑千冬の人気は些かも衰えておらず、織斑千冬に憧れて入学したという発言からどれ程の影響力があるのかがうかがえる。というか熱狂的過ぎて完全な変態もいるのは多少同情する。
現に織斑千冬は不愉快そうに顔をしかめていた。
「毎年毎年何で私の受け持つクラスには馬鹿者ばかりが集まるのだ。私に対する嫌がらせなのかこれは」
声色と表情から察するに本心らしい。まぁ、毎年毎年同じ感じの生徒ばかり担当しているのなら嫌にもなるか
「きゃあぁぁぁぁぁぁ!お姉さまもっと罵って!」
「でもたまには優しくして!」
「そしてつけあがらないように躾してぇ!」
「うわぁ…」
あまりにレベルの高い変態淑女に思わずドン引きしてしまった。俺これから三年間上手くやっていけるのだろうか。
「相変わらずの人気ぶりだね千冬姉」
「百春、学校では織斑先生だ」
「あぁ、ゴメンゴメン織斑先生」
このやり取りで二人の関係に気づいたクラスメイト達で教室内がざわめいた。
「もしかして百春君って千冬お姉さまの弟?」
「世界初の男性操縦者にして千冬様の弟ってすごく羨ましい……!」
俺は仲のいい兄弟といった雰囲気を出している織斑兄弟を直視出来ず顔を背けた。
(俺にはあんな穏やかな表情見せてくれなかったのに百春には見せるのか。俺の何が悪かったんだ…………)
一時間目の終了のチャイムが鳴るまで俺は手から血が出るほど強く握りしめて決して晴れぬ疑問を問い続けた