数分間の間暴れる美鈴を羽交い締めにしている間篝火に現在の状況を教えてもらった。
「………つまり今ここのラボの奥に伊邪那岐があって、侵入者達が伊邪那岐も奪おうとしていたのでそれを奪われないためにここで銃撃戦が勃発していたということですか?」
「うん、そゆことだよ~」
口笛を吹きながら的確に敵を撃ち抜いている歴戦の兵士顔負けのことをやってのけている篝火を見てようやく落ち着いた美鈴が少し興味を持ったのか「ねぇ、何で研究職のあなたがそんな場馴れしてるの?」と聞いた。
「それはね。たまに脱走する生物兵器とか職員を仕留めてたらこうなったんだよ」
「「はい?」」
予想をはるかに上回るレベルの意味不明さだった。
「生物兵器ってなに?ていうかここで何育ててるのよ!」
「えーとね。かなり昔の娯楽で『〇イオハザード』とか『マブ〇ヴ』とか『〇ップをねらえ!』に兵器を圧倒する生物が出てたんだけどね。同僚からその話を聞いたときISを生物兵器で仕留められないかなぁーって徹夜のテンションで思い付いたんだけど思いの外皆のノリもよくてね。作っちゃったの」
「作っちゃったっておい」
「それで溶解液とか物理で強化カーボンで作られたケージを破壊して脱走したりしていたのを私たちが泣く泣く処分していたってわけ」
あまりにも現実味がなく一歩間違えてたら昔のゲームよろしく
「ちょっと待って。あんたさっき職員も仕留めたって言ってたけどあれは?」
「あぁ、それはね。あの人知を超越したきもさも持っている生物兵器を飼育しているとどうも飼育している職員のsun値がゴリゴリ削れるみたいでね。たまにわけわからないことを叫びながら脱走したり生物兵器と駆け落ちしようとするからその阻止をね」
ブラック企業も真っ青な職場の環境にドン引きした俺たちの表情を見て篝火は何を勘違いしたのか「もちろん職員には麻酔銃使っているからね」といらない弁明をしてくれた。美鈴はこの意味不明すぎるラボの実態に頭を痛めながら俺のもう一つの疑問を篝火に問いかけていた。
「だったらあんたのお気に入りの生物兵器を使ってあの侵入者達を撃滅すればいいじゃないい」
「あぁ、それはできないんだよ」
ふっ、と篝火は酷く寂しげな表情をして呟いた。
「どうしてです?」
「それはね。生物兵器を無断で作っていることが十夏ちゃんにばれてね。私たちに重いペナルティーを科した上に問答無用で生物兵器に関する全てのデータを抹消したんだよ・・・」
「って無断で作ってたのかよ!!」
無駄にシリアスな空気が台なしだった。というかそんな人間の正気度を吹き飛ばすような危険生物即処分されて当然だ。とそのとき外部につながる扉が爆発でこっちに飛んできた。
「おわぁ!そ、そういやここ戦場だったんだよな」
「この人のせいで私もすっかり忘れてたわ・・・」
「ていうかお前も人のこと言えないからな?分かってるのかカンフーゴリラ」
「あ"あ"?今なんつったおい?」
「お二人さん。仲がいいのはいいことだけどちょっち状況がまずいよ」
篝火は飄々とした表情に冷や汗を流しながら目の前の状況を分析していた。
「奴さんたち痺れを切らしたのかISまで持ち込んできた」
「IS!?ちょっとまずいんじゃないのそれ!」
「幸い
「そこでだ」と篝火は今までで一番まじめな表情をした。
「私たちで何とか敵の足止めをするから冬樹君、君はこのラボの奥にある伊邪那岐に乗って敵を倒して欲しいんだ」
「このまま奪われる訳にもいかないしね」と付け加えビームアサルトライフルの弾倉を取り換え排熱を行っていた。いきなり責任重大な役目を押し付けられた俺は思わず手が震えてしまった。もし俺が失敗してしまったら美鈴や篝火は死んでしまうのだ。
(俺に出来るのかそんなヒーローみたいなことを・・・)
そんな俺を見ていた美鈴はため息をつきながら俺の背中を思いっきりたたいてきた。
「シャキッとしなさい冬樹!」
「いってぇ!!力強すぎんだよ、この怪力女!」
「ふふんあんたが貧弱すぎるのよ。だからこっちのことを気にせず思いっきりやりなさい」
「・・・・・おぅ」
こんな状況でも変わらない態度で接してくれたおかげで少しだけ気が楽になった。俺は篝火からエネルギーシールド発生装置を受け取り、美鈴は予備の弾薬を受け取っていた。
「ほかの研究員達の準備も完了したよ。私の合図で君は飛び出してただひたすらに後ろの扉まで走ってくれ。簡単でしょ?」
「確かに簡単ですね。単純明解でやりやすい」
「はっはー!その意気だよ冬樹君」
篝火さんによるとエネルギーシールド発生装置は敵の銃撃なら120秒、第三世代機のビーム攻撃は4発耐えられるらしい。
「それじゃカウント開始。3」
篝火さんがカウントを始めた同時に俺は直ぐ飛び出せるように準備をし、美鈴は自分の周囲に予備弾倉を置いた
「2」
じわりと手のひらが汗で滲んだのが鬱陶しくてシャツで拭き、ただその瞬間を待った。
「1」
俺は足に力をこめ篝火さんは閃光手榴弾のピンに手をかけ、美鈴はトリガーにかかっている指に力を入れた。
「ゴーゴーゴー!」
篝火さんは閃光手榴弾を正面のゲートの方に放り、瞬間眩い光がこの空間を覆った時俺は物陰から飛び出して後ろの隔壁に急いだ。俺に気づいたISが攻撃を仕掛けようとしたとき篝火さんたちからの銃弾の嵐と爆風で狙いが逸れ俺の横をビームが通りすぎていった。
「死んでたまるかぁぁぁ!」
恐怖で足が止まりそうになるのを抑えるために叫びながらただひたすらに隔壁を目指した。何回か『キン』と何かが弾かれた音がしていたので正常にエネルギーシールド発生装置が働いているようだった。
とそのとき重い衝撃が俺の背中を襲い、思わず足が縺れて転びそうになりながらも何とか隔壁までたどり着いた。見ると下の方が何とか潜り込めそうなくらい開いていたので転がるようにして下をくぐった。
「織斑冬樹さんですね。主任から話を聞いています。こちらです」
整備を担当していた整備兵に誘導され、俺は機材とコンテナが散乱しているガレージの中央に案内された。そこには灰色をベースにした機体がケーブルにつながれ鎮座していた。
「これが伊邪那岐………なのか?」
「はい、この機体こそが三番目の第七世代型IS。新時代のISです」
伊邪那岐の周囲で作業をしていた整備員達がコンソールを忙しなくたたいていたりケーブルを着けたり引き抜いていたりと忙しそうに働いていた。
「伊邪那岐のスラスターエネルギー充填完了です!」
「弾薬の補充完了しました!」
「伊邪那岐いつでも起動可能です!」
「わかりました。冬樹君、伊邪那岐に触れてください。それだけで装着が出来るはずです」
「それだけでいいんですか?」
俺は伊邪那岐に近づき灰色の装甲に触れた。すると部屋一帯まばゆい光が覆い尽くした。俺は自分の体を伊邪那岐に預けるようにするといつの間にか鋼鉄の装甲を身に纏っていた。頭部の装甲が俺の頭を覆った時頭部のスピーカーから機械音声が聞こえてきた。
ーーー生体認証開始
ーーー正規の操縦者織斑冬樹と断定
ーーー操縦者へのスキャン開始
ーーー健康状態良好。しかし肉体の強度が規定値を下回っています
ーーー肉体強度を上昇させるためナノマシンを投与。
「痛。な、何だ?何が起きてるんだ?」
突然俺の首筋にチクリとした痛みがしたのを不審に思っていたがISの謎の処理はまだ終わっていないようなので今は気にしないようにした。
ーーー肉体強度が基準値を上回ったことを確認
ーーースラスター、サブブースター正常に稼働開始
ーーー※※エンジン安定
ーーー火器管制システム正常
ーーー関節ロック全て解除
ーーー
ーーーシステムオールグリーン。第七世代型IS伊邪那岐起動します
「伊邪那岐が起動したよ!総員退避ーー!」
「ケーブル切断します」
「隔壁開けろー!伊邪那岐が出るぞぉー!」
「織斑冬樹、伊邪那岐出撃します!」
灰色の装甲に色が付きまるで新雪のように白と暗闇を凝縮したかのような黒を基調にした騎士が今新たな戦場に飛び立った。
Q生物兵器の開発費はどこから出てたの?
A研究員たちの財布から