‡‡‡‡
C.E.70 8月10日
バルトフェルド隊旗艦レセップスの多目的ルームに4人の人物が集まり、とある紙面を眺めていた。というよりはプラント本国の発行している新聞のとある記事を、と言うべきか。
「これまた派手に喧伝してくれたものだねぇ」
「確かにスエズから暫く連戦連勝だったとはいえ、随時派手ですね、隊長」
「マーチン君の言うとうりね、アンディ。これから色々と厄介な事になりそうな気がするね」
苦笑混じりにバルトフェルドが紙面をテーブルに投げ出すと、副官のダコスタ、愛人であるアイシャが同じように苦笑しながら同意する。
紙面にはここ最近のバルトフェルド隊の活躍や、新星を巡る攻防戦の決着。更に各戦線が膠着状態になったなどが記されていた。
「しかし妙ね。スバルもアンディと同じくらい活躍してるのに、一切触れられてないよ。あんな目立つ機体なのに」
「言われてみたらそうですね。隊長は理由をご存知ですか?」
紙面に目を通していたアイシャが気になった事を指摘する。スエズ攻防戦ではリニアガン・タンク指揮官として有名(これは連合軍側がプロパガンダ的に流した異名)なモーガン・シュバリエと交戦、その後の戦闘でもかなりの数の連合軍のリニアガン・タンクや戦闘ヘリ、スピアヘッド等を撃破している。パーソナルカラーとしている漆黒のシグー、更にはカスタム機を操っているのにも関わらず一切話題に上がって居ないことに疑問を抱いたダコスタが、バルトフェルドに問いかける。
「あー、スバル君、話しても構わないかな?」
「構いませんよ。俺自身、気にしてませんから」
問われたバルトフェルドが若干躊躇いがちに問うが、問われたスバルはさほど気にしていない、と言う感じに答える。
「まず、第一に彼にはザフト軍に入隊するまでの経歴が一切存在しないんだ。親兄弟に至るまでね」
「・・・・・え?」
バルトフェルドの言葉に、ダコスタが理解できない、という感じに反応する。アイシャはバルトフェルドの言葉の意味を理解できたのか、思わずスバルの方に視線を向ける。
「いいかねダコスタ君。第一世代、つまりは受精卵に遺伝子操作を行うことで誕生するコーディネーターの事をそう指すわけだが、その遺伝子操作も完璧じゃないんだ。極稀に親の望んだ姿形、能力を満たさなかったという理由で親権を放棄する者も居るのだよ。ここまで言えば、彼の出自は分かるだろう?」
「あ・・・・・」
バルトフェルドが意図的に感情を排した説明を行う。ダコスタもその説明を受け、スバルがどういう人物なのかを理解した。
「気にする必要はないですよ。俺は、その容姿が望まれた形でなかった結果、名前すら与えられなかった失敗作で捨て駒ですから」
「そんな言い方はやめたまえよ。君の実力を少なくとも僕は理解している」
スバルは何てことない、という風に話すが、バルトフェルドは珍しく険しい顔でそれを窘(たしな)める。
「つまり、スバルちゃんは親が居ないから情報が不透明。下手に喧伝して実はスパイでした、だと大変だと上層部は疑心暗鬼になってるのね。地上に配備されたのもきっとそういう意図がありそうね」
「そんな、横暴じゃないですか!彼は常に隊長の策の・・・・!」
「ダコスタ君、あくまで上層部の要らぬ疑心暗鬼というものだよ。彼は僕の部下、それ以外に必要な事実はあるかい?」
アイシャの呟きにダコスタが過剰に反応する。その反応にバルトフェルドが釘をさす。ダコスタはバルトフェルドの瞳に上層部への憤りが隠されている事に気がつき、浮かせた腰を下ろす。
「スバル君はそれで良いのかい?自分の戦果が評価されてないんだよ?」
「別に興味はない」
それでも抑えきれない部分はあるのか、ダコスタは沈黙を貫くスバルに問いかける。しかし彼の答えは簡潔であった。
「そういえばいつの間にかスバルちゃんの機体、左肩に白い・・・・いや、あれは白銀ね。その毛並みの狼が描かれてたね。誰がやったの?」
「整備士の連中らしい。僕の部隊では随一の二脚モビルスーツ乗り、評価はされずとも我が部隊の一番槍を務めるだけの技量があると言うことで彼等が彼をイメージし、デザインして描いたみたいだ」
アイシャが気分転換とばかりに三週間ほど前からスバル機に現れた変化を、そのパイロットの後ろに回り込んで彼の伸ばされた髪を弄りながら話題にする。
バルトフェルドはそんな彼女の様子に苦笑しながらも答える。スバルの戦果は上層部に評価されずとも、現場の人員からはしっかりと評価されており、それは特にバルトフェルド隊の主戦力たるバクゥを整備する整備士が特に彼を評価していることを知っているからである。
「そういえばずっと疑問だったんですが、何故彼だけシグーアサルト、それもカスタム機の特別仕様なんです?砂漠地帯には不向きだと思うんですが」
「彼が配備された当日にね、バクゥの配備が間に合わなかったのさ・・・・」
ダコスタが今ではあまり気にならない点を問いかける。バルトフェルドは苦笑混じりにスバルが配備された当時を思い出しながら口を開く。
「スバル、それでずっと戦闘に参加してるのね。扱い慣れたからってバクゥの配備を蹴ってるね」
「アイシャの言うとおり、彼が一番扱いに慣れてしまったシグーをそのまま使ってるのさ。アサルトシュラウドはボクが申請した。砂漠に合わせたチューンは彼が整備士達に手伝ってもらったみたいだね」
スバルの後ろ髪を三つ編みにしたアイシャがダコスタの問いに答える。バルトフェルドも隊の人員の中では若い世代に当たる彼を考えていたらしく、ダコスタに答える。
「さて、と。僕は少し席を外すよ。良いコーヒー豆を手に入れたいからね」
「隊長、あまり羽目を外さないでくださいよ?ただでさえレセップス艦橋にコーヒーの匂いが充満するんですから」
「私はもう暫くスバルちゃん弄ってるね。私以上に長くて綺麗な髪だもの、もっともっと気を使わないとダメね」
席を立ったバルトフェルドと、その出立の準備を手伝うために続いたダコスタを見送ったアイシャはスバルの後ろに回り込むとスバルに立つよう促す。
配備されて以来、妙にアイシャに気に入られていると理解しているスバルは紙面を手にするとアイシャに促されるがままにその場を後にするのだった。
2017/4/11 やや行間を添削