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プラントの最終防衛ラインであるヤキン・ドゥーエ宙域の最外縁部付近には、無数の人工デブリによってデブリ帯が形成されている。そのため、ZAFT軍はそのデブリ帯を特に警戒しており、その為だけに偵察用のジンまで開発されているくらいである。
そんなデブリ帯の一角に、偽装を施された二隻の戦艦が静かに待機していた。その片割れ、元地球連合軍所属、現在は暫定的にだがオーブ軍に籍を置く強襲機動特装艦"アークエンジェル"のレーダーに反応が返ってくる。
「これは・・・・。艦長!プラントで戦闘らしき反応を探知!」
「やや予定時刻より早いけれど、スバルさんかしら・・・?総員、第一戦闘配備!とはいえ、まだプラント側に私達の情報を渡すわけにはいかないわ。展開中のモビルスーツ隊で対応を!」
CICのミリアリアからの報告を受け、艦長のマリューが矢継ぎ早に指示を出す。すると待機していたもう片方の艦"イズモ"から通信が入る。
「ラミアス艦長。今入った情報で、戦闘はZAFTの新造艦"エターナル"が何者かによって奪取されたモノである、との事だ。確定ではないが、穏健派によるものではないか、と思われる」
「穏健派、となれば最有力候補はシーゲル・クライン氏かしら・・・」
「それと同時刻に、ZAFTの新型二機がプラントのマイウス市から離脱したらしい。こちらはどちらかがスバル一佐だと思われる。アークエンジェルは敵のナスカ級に、バリアントとミサイルの照準を合わせておいてくれ。砲撃後は錯乱も兼ねて、ドレイク級型の時限式ダミーを展開して現宙域を離脱。調査と追撃部隊の錯乱も兼ねて、一度メンデルに向かいたい」
イズモの艦長代理を務めるレドニル・キサカからの要請に、マリューは了承の意を示す。
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同時刻、デブリ帯のあちこちに展開していたオーブ軍のモビルスーツ隊にも緊張が走る。指揮を執るのはオーブに亡命し、余計な詮索を避けるために三佐の階級を(半ば無理矢理)押し付けられたニコル・アマルフィ。プラントではすでに死人扱いであるため、ニコル・サルヴァーレの名前を現在では名乗っている。
「各機狙撃戦になります。また、未確認情報であったZAFTの新型機のどちらかにスバルさんが乗っている可能性が極めて高いので、IFFに注意を。ディアッカは追撃の準備をしているローラシア級のスラスターを狙撃してください」
「了解だ。機動戦じゃなけりゃ確実に当ててやるさ」
「ニコル三佐、離脱した二機がエターナルに合流。こちらに向かっているそうです」
「これは間違いなくスバルさんが誘導していますね。各機、タイミングを合わせてください。一斉射後にダガータイプのダミーと71式機雷を撒いて反転し、イズモに合流。現宙域から離脱します」
ニコルの指示に、やや緊張気味にディアッカが言葉を返す。ニコルの試製二号機の近くにいたアサギがイズモからもたらされた情報を伝える。ニコルはそれを聞いてからプランを決めると、各員に伝えるのだった。
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プラントの最終防衛ラインであるヤキン・ドゥーエ防衛本部は、蜂の巣を突いたかのように喧騒に満ちていた。エターナルが何者かに強奪されたとの報を受け、追撃部隊の編成を行っていた時に告げられたアスラン・ザラの離反。更には、パトリック・ザラから告げられたエターナルの轟沈許可とアスラン・ザラの殺害許可。唖然としていた防衛本部の兵士達だったが、そこに追い打ちをかけるかのように、シホ・ハーネンフースが新型機"ゲイツ"と共に離反の報。挙げ句の果てには、ネットワークに匿名で投稿された、シーゲル・クライン前議長とラクス・クライン殺害許可をパトリック・ザラ議長が出していたという情報に、プラント市民が抗議デモを敢行。
結果的にZAFT軍は穏健派や潜入していたスバルの情報工作、更にはデブリ帯からの攻撃によりナスカ級やローラシア級のスラスターが中破したため、即座に動ける戦力の追撃が困難となる。またプラント側も抗議デモへの対応など、眼前の問題の対処に追われる事になるのであった。
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C.E.71 7月5日
L4コロニー"メンデル"
そこはかつて"禁断の聖域"あるいは"遺伝子研究のメッカ"と呼ばれたコロニーであった。しかしC.E.68に大規模なバイオハザードが発生。X線による消毒によりメンデルは無害となったが、それ以前にもテロが発生していたなどの背景から、事実上の廃棄コロニーとなっている。
しかしながら内部はまだ無傷な部分も多く、水などの補給も可能であるため、ZAFTを離反したエターナルを加えた3隻は、情報の交換やアメノミハシラを出発する直前に得た情報の調査も兼ねて、メンデルに身を隠していた。
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「こうして顔を合わせる機会があるとは不思議なものだね。改めて名乗っておこう。アンドリュー・バルトフェルドだ。」
「マリュー・ラミアスです。・・・・こうして直接顔を合わせる機会があるとは、私も思っていませんでしたわ」
メンデルの中でまだ機能が生きていた一室に集まった面々。最初に口火を切ったのは、エターナルの艦長となっていたバルトフェルドだった。隻眼となり、片腕を失ってなお、数々の幸運により生き延びていた知将は穏やかな笑みを浮かべてマリューらに名乗る。
マリューもまた、予想外の人物に驚きはしたものの、バルトフェルドと共にいた人物に目をやりつつ笑みを浮かべる。バルトフェルドの傍には、かつてアークエンジェルに保護をしたことがあるプラントの歌姫"ラクス・クライン"のみならず、右腕を吊った状態の元最高議長"シーゲル・クライン"も居たのだから。
「しかし意外といえば意外ですね、クライン議員や元ザラ派の方までいるというのは。あなた方は、和平を目指している人々である、という認識でよろしいのでしょうか?」
「そう、捉えてもらって構わない。・・・・私も、娘も、自分の立場や影響力を軽視していた事実を"彼ら"に突きつけられた。だからこそ、私はこの戦争を止めるつもりだ。・・・・・パトリックを止められる位置にいながら、理由はどうあれ感情に任せて戦争を始めた一人として、私は責任を負うつもりでいる」
マリューの問いかけに、シーゲルは複雑そうな表情で告げる。
「ところで"彼ら"とは?あなた方クライン派の方、ではないような言い方だったが」
「"彼ら"は後々紹介する。今は再会を喜ばせてやりたいからね。だからまずは情報の共有からいこう。この戦争を主導している人々、プラントはザラ議長の独裁状態というのは知っているだろうが、連合側の主導者は誰か、という所からかな」
クライン派との接触に備えてアメノミハシラから同行していたウズミからの問いに、バルトフェルドが数枚のデータディスクを取り出しながら真剣な表情で語り出す。
「我々クライン派や独自に動いていた"彼ら"の調査結果、連合側の主導者はブルーコスモスの盟主"ムルタ・アズラエル"という男とだと判明した。また、プラント側にアズラエルと内通しているヤツがいる、という所までは判明している」
「オペレーション・スピットブレイクの際、JOSH-Aへの攻撃目標の急な変更。これが参加予定のZAFT兵が全く知らなかった程の機密作戦だったのにも関わらず、サイクロプスがJOSH-Aに前もって仕掛けられていたことから、内通者はザラ派の中枢に近い人物であると思われる」
バルトフェルドが真剣な表情で情報を開示する。シーゲルも政治の中枢にいたからこそ判明している情報を明かす。
「また、核搭載機はフリーダム、ジャスティス以外に三機が開発されていると聞く。詳しい内容は不明だが、一機は連合のガンバレルに酷似した武装を搭載する事が決まっているそうだ。核搭載機の雛形として開発された、ドレッドノートから発展した機体であると聞いている」
「また、未確認情報だが、大型の大量破壊兵器が開発されており、最終防衛ラインであるヤキン・ドゥーエ宙域に運び込まれているらしいが、それ以上は不明だ」
シーゲルも現状で判明している内容を話し、バルトフェルドもギリギリまで調査して判明した内容を話す。
「ガンバレルの系統となると使い手は限られると思うぜ?グリマルディ戦線のエンデュミオンクレーター攻防戦で投入された3個小隊15機。これが連合で運用されていたメビウスゼロの全機だったし、それも俺を除いて全滅してるしな。いくらコーディネーターといえど、ガンバレル系列に必要な高度な空間認識力はそう持ってるわけじゃねえ。てか、持っている奴が多いなら、俺のメビウスゼロに対応できる奴はもっと多かったはずだしな」
「例のバックパックのテストの為に行われたシュミレーターでも、ガンバレルを使えたのはキラ君とスバルさんの二人だけ。同じくテストに参加したアスラン君やディアッカ君、ニコル君が使えなかったことから見ても、かなり稀少な才能によるものと言えるわね」
「機体操縦しながらXYZの三次元における座標軸の計算するわけだからねえ。コーディネーターでもそれだけの演算能力を持つのは、ドレッドノートのテストパイロットだったコートニー位、そのコートニーはエターナルに乗り込んでるから除外。と、いうかコートニー以上の空間認識能力を持つ奴がいれば、ソイツにテストパイロットやらせるだろうしなあ」
投入されるであろう機体の武装に思わずムウがボヤく。マリューもムウが乗る事になっているストライク用バックパックとしてスバルが提案した兵装のテストの際、そのテストに参加した面々の阿鼻叫喚の惨事を思い出して苦笑いする。バルトフェルドもZAFT軍の内情を思い出して思わず呟く。
「とりあえずはメンデルの調査を行いましょう。"グレムリン"と"ミーミル"の方は準備できたのかしら」
「あれは調整がとても難しいから、もう暫くかかるそうだ。最悪現地で調整しながら運用することになるかもしれない、とシモンズ主任から連絡が入った」
雑談に流れそうな空気をマリューが切り替える。しかしながら、メンデルの調査に必要な装置の調整が思いのほか進んでいないことを、連絡を受けたウズミが伝える。
「なら今のうちに"彼ら"について話してくれませんか?バルトフェルド艦長」
「まあ構わないよ。"彼ら"とは端的に言えばスバル君に関わりを持ち、なおかつ彼の扱いに納得がいかなかった面々の集まりなんだ」
まだ時間がかかると分かり、ならば、とばかりに謎になっていた面々の事を聞くマリュー。バルトフェルドも時間を潰せる話題だから、とばかりに話すことにする。
彼等は知ることになる。今はスバル・クロガネと名乗る青年の抱える闇を。そしてそんな彼を慕い、助けようとしていた人物達の存在を。
2019/5/24 文書を一部修正