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C.E.71 7月5日 コロニー メンデル
「まず、"彼ら"について話す前に理解してほしい事がある。大前提としてだが、我々コーディネーターの技術は完璧じゃない。そもそも、コーディネーターの技術の根幹は、生まれつきの潜在能力の底上げだとされている」
「以前、シモンズ主任もおっしゃっていましたが、生まれつきの潜在能力の底上げ、ですか?」
「そう。だからその潜在能力を伸ばす学習や環境がなければ、宝の持ち腐れになってしまう、というわけだね。見た目のコーディネートはあくまでも副産物なんだ」
かつては砂漠の虎と呼ばれた知将"アンドリュー・バルトフェルド"は重く語り始める。現在のコーディネーターの大半が間違って認識している、コーディネート技術の大前提を。その内容に、以前聞いた内容を思い出しながら、元は連合軍に所属していた女性"マリュー・ラミアス"が聞き返す。以前エリカ・シモンズが言っていた内容通りならば、やはりナチュラルの持つコーディネーター像が間違っている事になる。
「第1世代コーディネーターと呼ばれる彼らが各分野で素晴らしい成績を上げたのも、その分野を伸ばすために適切な環境を整え、なおかつその分野の正しい教育を受けたからだ。我々コーディネーターの高い演算能力なども、その副産物だと言われている」
「ファーストコーディネーターであるジョージ・グレンも同じことが言える。彼はその輝かしい成績の裏では、血反吐を吐くような努力を続けて来たという資料がちゃんと残っていたよ。ナチュラル側に残っていないのは、恐らくは認めたくなかったからではないかな?コーディネーターが努力する事でその才能を伸ばしていたなど、自分達と同じ"人間"だと認めるようなモノだからね」
驚くマリュー達にプラントから持ち出した資料を手渡しながら元プラント最高評議会議長"シーゲル・クライン"がコーディネーターの真実を語り始める。バルトフェルドもまた、密かに調べていた内容が記されている資料を渡しながら話す。
「実際、今のプラントでこの内容を知るのは非常に少ない。これらの資料だって、遺伝子研究者、しかもDNA解析の第一人者とまで呼ばれるデュランダル博士が、こちらに合流する際に持ち出したものさ。元々博士はザラ議長の元で遺伝子研究をしていたんだけど、今のプラントの婚姻統制が原因で恋人と別れる事になってね・・・・。その悔しさから遺伝子研究の更なる向上をザラ議長に求めたら、拒絶されたらしく、その足でウチに合流してくれたんだよ」
「彼はコーディネーターの真実を話して、ナチュラル、コーディネーターを問わずに優秀な人を集めて研究を進め、第三世代コーディネーターの出生率向上の為の研究や、コーディネート技術が発展する事を望んでいた。私も密かにソレを後押ししていたんだが、ナチュラルを憎んでるパトリックはそれを唾棄すべき内容だとしたらしい」
バルトフェルドやシーゲルの語る内容に、マリューらは自分達の持つコーディネーター技術へのイメージが大きく異なることを否が応でも理解していた。そして、自分達が一介の学生でしかないキラに、どれだけの負荷を負わせてしまっていたかを理解する。
「このメンデルは、デュランダル博士がかつて勤めていた場所でもある。彼と共に出来る限りの資料を回収して、次に繋げたい。協力してほしい」
「博士の話では、このメンデルには秘密の区画があるとのことだ。できればオーブで用意した"ミーミル"と"グレムリン"とやらはそちらに回したい。博士もその秘密区画の調査に同行してくれるそうだからね」
「クライン議員もバルトフェルド艦長も頭をあげてほしい。我々はそれに協力しようと思う。終戦後も考えれば、その要請はむしろ我々から頼みたい事だ。周辺も"グレゴリ"と"シェムハザ"で最大限の警戒にした方がよさそうだな。イズモとアストレイ隊、バスターはそちらに回しておく」
シーゲルが頭を下げて頼み込み、バルトフェルドもまた頭を下げる。ウズミは頭を下げていたシーゲルに頭を上げさせると、笑みを浮かべて頷く。
「では"彼ら"はどういう集まりだ?ザラ派やクライン派、穏健派とも違うように私は感じたのだが」
「"彼ら"を詳しく語るとなると、本当に長くなってしまうから、詳細はメンデルの調査後にしてほしい。故に"彼ら"を一言で話すならば、"スバル・クロムハーツの元部下"という事に集約する。我々プラント政府が、彼の出生が不明だからと、不当とまでいえる扱いをした事。そしてMIAではないかという内容がザラ分隊から報告されれば、碌に調べもせずに彼を死亡認定にした事を知り、不満が暴発した結果、
「その大多数は元バルトフェルド隊に
ウズミから投げかけられた疑問に複雑そうな表情で答えるシーゲル。バルトフェルドも苦笑しながらその疑問に答えて行く。
「彼らはナチュラルやハーフコーディネーターに偏見などを持たないんだ。ナチュラルでもコーディネーターより優れた人もいると、戦場で理解してるからね。デュランダル博士にオーブへの亡命、ナチュラルとコーディネーターの差別が比較的少ないオーブで、コーディネーターの出生率問題の解決を図る事を勧めたのも彼らさ。多分、彼らこそ一番未来を見据えた考え方ができてるんじゃないかな?」
「その根底にあるのが、恩人であるスバル君だけが評価されないのが悔しい、てのが彼ららしい、といえばらしいんじゃないですか?隊長。調査の準備ができたみたいですよ」
バルトフェルドの語りに唖然とする面々。まさかただの兵士がそこまでの考えを持って動いていたとは、誰も思いもしなかったのである。そんな中、バルトフェルドの副官"マーチン・ダコスタ"が苦笑しながらも報告に現れる。
「まだまだ語り足りないが、まずは眼前の問題から片付けていこうか。プラントからは快速のナスカ級が追撃として出ているはずだ。そして、その部隊は恐らくクルーゼ隊だろう。ヤツはザラ議長から重用されているしな」
「クルーゼ隊が来る可能性がわずかでもあるならば、作業を急がせましょう。連合側の動きにも注意した方が良いかしらね?」
バルトフェルドは苦笑しながら立ち上がる。マリューも、予想以上にスバルの経歴が"濃い"事に苦笑しながらも立ち上がる。
彼らは知る事になる。彼"等"の生まれの真実、コーディネーターの抱える闇を。そしてとある男の持つ因縁と、その狂った願望を。
2019/5/25 文書の内容を一部修正