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C.E.71 7月12日 コロニー"メンデル"
"禁断の聖地"あるいは"遺伝子研究のメッカ"とまで呼ばれ、ある時に発生したバイオハザードが原因で廃棄されたコロニー"メンデル"
そこには終戦に向けて行動するオーブ軍と、クライン派が奪取した最新鋭艦"エターナル"と共にプラントから離反した穏健派や亡命組が、顔合わせと終戦後に役立つ情報を求めて集まっていた。
終戦への為に同盟を結んだ彼らは、かつてメンデルに勤めており、プラントにおいてDNA解析の第一人者とまで呼ばれていた研究者であり、とある人物達に諭された結果オーブに亡命の決意を固めた"ギルバート・デュランダル"博士の力を借り、コーディネーター側の問題解決になりそうな情報を求めてメンデルの調査を進めていたのだった。
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メンデル内部 G.A.R.M.R&D社
「デュランダル博士、進歩はどうですか?」
「ああ、クロガネ一佐。私がかつて行なっていた研究も含め、八割のデータを回収できたよ。今残りの二割、ユーレン・ヒビキ博士が中心になって研究していた区画への、正規のアクセスコードを見つけた所だ」
コーディネーター産出を一大産業にしていた企業"G.A.R.M.R&D社。その朽ち始めた建物の傍に設置された仮設施設の内部で、作業をしていた宇宙服を着ている男性"ギルバート・デュランダル"に、オーブ軍のパイロットスーツを着ている青年"スバル・クロガネ"一佐が話しかける。
元々G.A.R.M.R&D社に勤めていただけあり、広大な施設から多数の情報を取捨選択して集めた彼は現在、それを系統別に精査しつつ残りの情報を得るためのコードを調査していたのだった。
「しかしモルゲンレーテが考案した"グレムリン"は素晴らしいな。これとサーバーである"ミーミル"がなければ、ここまで情報を素早く取捨選択しながら回収する事は不可能だっただろう」
「元々オーブはメンデルの調査を行う予定だったと聞いていたので、その為に必要な機能をアメノミハシラに送っておいただけですよ。そもそも"グレムリン"自体が、"戦神の眼"に必要なOSを組んでいた際に作り上げたシステムの、失敗作を転用した急造品ですし」
「そうだったのか・・・・。道理で軍で使われるコードが随所に見受けられる訳だ。・・・・・しかしオーブの方々は懐が深いな。ラウ・・・・・いや"彼ら"に諭されて袂を分かった身だから言い直そう。クルーゼと関わりがあった私をも受け入れてくれたのだからね」
スバルの言葉に苦笑しながらデータを纏めるデュランダル。そんなデュランダルだったが、実はいざ調査を始めようとした時に、とある告白をしていたのであった。
「フラガ三佐は驚いてましたけどね。・・・・それでも貴方は過去ではなく、しっかりと未来を見据えることができている。だから"博士"はココにいる。違いますか?」
「・・・・・。私はプラントにいた時、恋人と別れる原因である遺伝子に絶望していた。ザラ議長に提案が拒絶されたのもある。だが何よりも私が絶望していたのは、この遺伝子の問題の解決策が浮かばないのに、周囲から遺伝子研究の第一人者と呼ばれる私自身に、だった。一人絶望していた私はプラントでの立場に不満がありながらも、遺伝子研究の第一人者と呼ばれる立場にしがみつくように、矛盾を抱えながら生きていた。そんな時だよ、彼らに出会ったのは。ちょうど荒れていた時期だというのもあって、不貞腐れたように話したら、聞いていた彼らの中の一人から殴られてね。"世の中に不満があるのなら、自分や視点、立場を変えればいい。それが嫌なら、耳と目を固く閉じて孤独に暮らせばいい""博士は自分の立場を失いたくないから、そうやって目を逸らして自分に言い訳をして不貞腐れているだけだ"と言われた。驚いたし、気付かされたよ、私が研究の本質から逃げてる事にね」
「コズミックイラ以前の世紀にあった創作文学の言葉、ですね。言ったのは創作文学の研究をしていたミーシャ辺りかな」
苦笑しながらも、デュランダルは見つけたアクセスコードをノートパソコンに移していく。そんなデュランダルがポツリと呟く。それこそがクルーゼと友の関係があったからこそ"人の可能性"に諦めを抱いていたデュランダルの眼を覚ます言葉であった。スバルはその言葉を聞くと、それを真っ先に言いそうな人物に心当たりがあったのか、小さく笑みを浮かべる。
「彼から話を聞いて、私は遺伝子研究の新規性を示す立場であるはずの自分が、真っ先に諦めていた事に気付かされたよ。だからこそ、私はココに居る。・・・・・スバル一佐、最後の区画の調査だ。そこに、あの時は確信がなくて語れなかった真実が眠っているはずだ」
「・・・・俺やキラ、カガリの真実、か」
デュランダルは真剣な表情で、宇宙服のヘルメットを片手に振り返る。スバルもまた、覚悟を決めて頷くと、仮設施設からパイロットヘルメットを被って出るのだった。
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休憩をしていたフリーダム専属パイロットの青年"キラ・ヤマト"と、オーブ連合首長国前代表の義娘だと判明した少女"カガリ・ユラ・アスハ"が連絡を受けて、パイロットスーツを着て合流する。
また、オーブが開発した試作型対電子用ハッキングシステム"グレムリン"の端子を、かねてよりオーブの工作員としてZAFTに潜入していたが、このたびオーブに帰還する事になった(プラント側から見たら離反した)少女"ティアナ・ルージュ"二尉が、パワードスーツの一種である"グティ"に身を包んで運んでいる。
「この区画は、G.A.R.M.R&D社の責任者であるユーレン・ヒビキ博士が、最も資金をつぎ込んでいた区画だ。そして同時に同社の、同僚のごく一部しか関われなかった区画でもある。ヒビキ博士を含めて全員が死んでいる以上、何が眠っているかはわからないが、クルーゼから聞いた話が正しいならば、碌でもない研究である可能性が非常に高いね。だが、これまでの調査の中で、キラ君とカガリさんの名前が出てきたのは偶然じゃないはずだ。ウズミ前代表の持っていたあの写真からしても、ね」
「アル・ダ・フラガからの依頼でクローン研究を受けてまで得た資金をつぎ込んでいた区画か・・・・・。ま、碌でもないのは間違いないだろうな」
「お父様の持っていた写真に写っていた私とキラ。そして私達が"きょうだい"である事。・・・・そしてキラの兄だと判明しているスバルの真実か」
「それが分からなくても、何かこれからに繋がる情報があればいいんだけど・・・・」
固く閉ざされた扉に備え付けられた装置にアクセスコードを打ちこむと、判明している事実を語るデュランダル。念のためにティアナがグティに持たせていた対重火器用のライオットシールドを構えて前に出ると、スバルが扉に張り付いて銃を構えてからボヤく。カガリもキラと共に、ティアナの構えたライオットシールドの陰から慎重に中を覗き込む。
「・・・・・これは・・・・」
「まだ生きている機器があるね。ヒビキ博士は当時の遺伝子工学の権威だった人物だから、必ず情報があるはずだ。ティアナ二尉、グレムリンの端末を持ってきてほしい。キラ君、手伝ってくれないか?」
開かれた扉の先にあったのは無数の謎の機械だった。それを見て目を見開くキラとカガリだったが、手早くデュランダルは生きていた機器を見つけると、ティアナにグレムリンの端末を持ってくるよう指示を出す。キラもまた、デュランダルの手伝いをするために、ライオットシールドでカバーするティアナと共に彼に続く。
「このタマゴみたいな機械は一体なんだ・・・・。どれも壊れてるみたいだけど・・・・」
「なにかの生産プラント、に見えるが・・・・。少なくとも農業用ではないな」
カガリはスバルと共に、入り口の扉の左右から念の為に警戒しつつ中を覗くと素直な感想を述べる。スバルは人手がいると判断し、アークエンジェルに連絡を入れ、中を見て所感を述べる。
「ふむ・・・・・。ヒビキ博士はコーディネート技術の研究をさらに推し進めていたみたいだね。ただ、これは・・・・・!」
「そんな・・・・・!」
グレムリンを利用しながら吸い上げていた情報を見ていたデュランダルが、苦虫を噛み潰したような表情で呻く。キラもその情報を見てしまい、顔がみるみる青ざめてゆく。
「一佐、イズモより緊急です!現在ナスカ級2隻がこちらに接近中!さらに反対側より、連合のアガメムノン級とアークエンジェル級らしき反応も接近中。何もなければ会敵まで一時間半との事です」
「ちっ・・・・。デュランダル博士、データの吸い出しの方は!?」
「全て吸い出すとするならば一時間はかかる。ここの情報はこれからに必要なものばかりだ」
「なら、離脱する為の時間を稼ぎます。ティアナ二尉はこのまま博士の手伝いを。データの回収後は、即座にM1でデュランダル博士と共に戻ってきてくれ」
データを険しい表情で回収していたデュランダルだったが、ティアナのグティに警戒中のイズモから緊急の連絡が入る。その内容に舌打ちするスバルだったが、データの回収の手を緩めないデュランダルの表情から時間稼ぎをするべきだと判断すると、キラを促し、カガリの手を引いてドックに引き返すのだった。