‡‡‡‡
C.E.71 2月15日 昼過ぎ
レセップス士官室
「ダコスタ、入ります」
「ま、逆らわなければ撃たないっていうこちらの意思を無視してるんだ、やりたくはなかったけど撃たれたって仕方ないよね。今までだって逆らわなければ撃たない、逆らえば撃つって姿勢は見せてきたわけだしね」
‡‡‡‡‡
C.E.71 2月16日 明朝
「双方に死者はなしです隊長。向こう側に軽い火傷などをした者が居る程度だと思います。スバルはレセップスで新しい装備のフィッティング中だと連絡が。動かしたバクゥ隊にも被害なしです」
「ここでの戦闘目的は達した。レセップスに帰投する」
明けの砂漠 本拠地タッシルに貯蔵されていた武器、弾薬、燃料が、事前警告の後、バルトフェルド隊のバクゥにより焼き払われる。
追撃してきたレジスタンスと400mm13連装ミサイルポッド装備のバクゥ三機が交戦。途中、参戦したストライクと交戦した結果、一機が撃破、途中からバルトフェルドに操縦を変わった一機が小破する
‡‡‡‡
C.E.71 2月20日 バナディーヤ
「あいや待った、ちょっと待った!ケバブにチリソースだなんて何を言ってるんだ。この、ヨーグルトソースを掛けるのが常識だろうが」
「はあ?」
「いや、常識というよりも、もっとこう・・・・そう!ヨーグルトソースを掛けないなんてこの料理に対する冒涜だよ」
バナディーヤを訪れたアークエンジェル。その買い出しの最中、カガリと護衛役のキラの前に現れた怪しい人物。
ポカンとするキラの前でカガリはチリソースをかけた食べ物(ドネル・ケバブ)にかぶりつく。怪しい人物は頭を抱えるが、カガリがキラの前に置かれたケバブにチリソースを掛けようとすると、手に持ったヨーグルトソースを突き出してそれを阻止しようとする。
「・・・・・?」
(結局チリソースとヨーグルトソースがミックスする事になったケバブをチマチマと食べながら)キラはふと、怪しい人物に付き従うように立つ人物(その人物もサングラスをしている)にふと目を見やる。
「ああ、彼?僕の知人だよ。髪がそちらのお嬢さんよりも長いけど、歴とした男性さ」
「大体お前は・・・・」
「「伏せろっ!!」」
その視線に気がついた男性がにこやかに説明する。そんなマイペースな男性にしびれを切らせたカガリが噛みつこうとするが、次の瞬間に男性がテーブルを蹴り上げ、立っていた髪の長い男性が咄嗟に動いていたキラごとカガリを押し倒す。
そしてその直後、地に伏せた4人の頭上をロケット弾が通過、辺りは一気に喧騒に呑まれる。
「大丈夫かね?」
「何なんだいったい・・・・」
ソース塗れになったカガリがやや呆然とした声音で問いかける。キラの目の前で銃器を取り出した二人は、蹴り上げたテーブルを盾に向こう側を伺う。
「死ねコーディネーター!!宇宙の化け物め!!」
「青き清浄なる世界のためにぃ!!」
カガリの呆然とした問いへの答えは襲撃者が無数の鉛弾と共に答えてくれた。
「ブルーコスモス!?」
「構わない!!スバル、排除しろ!!」
男性が(いつの間にか居た)他数人とテーブルの陰から銃を撃ち返しつつ指示を出す。襲撃者が銃弾から身を守るように身を隠したその瞬間、髪の長い青年が動いた。
「ぎっ!?」「があっ!?」「げぅっ!?」
男性から投げ渡されたナイフを片手に、左手の銃が火を噴き、投げ渡されたナイフがその手を離れた瞬間、二人の襲撃者の眉間からそれぞれ血が吹き出る。
その時キラは背後から迫るもう一人の襲撃者の手に、拾った銃を咄嗟に投げつけていた。青年の左手の銃が火を噴き、その襲撃者の眉間に風穴を空け、漸く辺りに静寂が訪れる。
「隊長!スバル!無事でしたか!?」
そんな静寂を切り裂くように、また一人の男性が、怪しい風貌の男性に歩み寄る。いつの間にかスバルと呼ばれていた青年も、男性のそばに立っている。
「私は平気だよ。彼にも助けられたからね」
「あ、アンドリュー・バルトフェルド。それにスバル・クロムハーツ・・・・・」
軽く服を叩いていた男性が帽子とサングラスを取る。青年もサングラスを外すと、キラの傍らに居たカガリが身を堅くして彼らの名を呆然と呟く。
「砂漠の虎・・・・そして闇夜の銀狼・・・・」
「いやぁ、助かったよ。ありがとう」
そんなカガリの様子を気にした風も見せず、怪しい服装をしていた男性"アンドリュー・バルトフェルド"は二人に笑みを浮かべるのであった。
‡‡‡‡‡
あれから二人(と言うかカガリが黙りっぱなしだったため、実質キラ一人)はバルトフェルドの口車に押し通される形で彼の館に招待される事になった。
無論、キラは遠慮したが、バルトフェルドに押される形でなし崩しに館に入ってゆく。
「この子ですの?アンディ」
「ああ、彼女、どうにかしてやってくれ。チリソースとヨーグルトソースとお茶を被っちまったんだ。スバル、少年の案内、頼むぞ」
館に入ったキラ達を迎えたのは一人の女性だった。バルトフェルドの言葉に納得すると、カガリを連れて行く。呆然とするキラをスバルと呼ばれていた青年が促し、バルトフェルドが居るであろう部屋に案内する。
‡‡‡‡‡
「僕はコーヒーには少しばかり自信があってね。ま、掛けたまえよ」
スバルの案内の元、部屋に入ったキラを出迎えたのは、濃厚な香りと、妙に楽しげなバルトフェルドだった。
「エヴィデンス01。実物を見たことは?」
「いえ」
「これが外宇宙からの、ってのは別に良いんだ。僕が言いたいのは何故これを"くじら石"って呼ぶか疑問に思わないのかって事なんだ。だって、これは宇宙で見つかったんだよ?何故"くじら"なんだろうねぇ」
暖炉に立てかけてある物にキラが視線を向けると、バルトフェルドは思わせぶりな笑みを浮かべる。
「僕はこのエヴィデンス01を厄介だと思ってるんだ。これを見つけちゃったから、人はまだもっと"先"に行ける希望、っていうか可能性が出てきちゃってる訳だし」
コーヒーを飲みながらバルトフェルドは語る。その内用にキラはどう、答えたらよいのか分からなかった。
「人はまだ先に行ける、この"戦争"の一番の根っこだと僕は思ってる」
「アンディ」
締めくくったバルトフェルド。するとドアがノックされ、先ほどカガリを連れて行った女性の"楽しそうな"声が聞こえる。スバルがドアを開けると、思わずキラも言葉を失った。
女性の後ろには、恥ずかしそうなカガリが立っていた。何故か軽い化粧まで施され、ドレス姿で。
「女・・・・の子・・・・?」
「てンめぇ・・・・」
「いや、だったんだよねって言おうと」
「同じだろそれじゃ!!!」
キラの茫然自失とした言葉にカガリの額に青筋が浮かぶ。慌てて言い繕えば、それは彼女の怒りを煽る結果にしかならなかった。漫才じみたやりとりをする二人を見て、バルトフェルドは楽しそうに笑みを浮かべる。後ろではカガリを連れてきた女性も楽しそうに笑っていた。
‡‡‡‡
「うーむ、実にドレス姿も似合ってるな。スバル、どう思う?」
「喋らなければ完璧でしょうね」
「(あれ?僕の声に少し似てる・・・?)」
結局キラとカガリはバルトフェルドに言われるがまま、彼の対面に座る。バルトフェルドはコーヒーを飲みながら、言いくるめて隣に座らせたスバルに話題を振る。簡潔に答えたスバルの声に、キラは僅かな違和感を感じる。
「良い目だね。真っ直ぐで、実に良い目だ」
「ふざけるなっ!!」
「カガリ!」
カガリがバルトフェルドに問いかけるが、当の彼ははぐらかすような答えを返すのみ。この短い間で把握したカガリの沸点の低さから、彼女は少し声を荒げる。
「そっちの彼。君はどう思う?どうしたらこの戦争は終わると思う?モビルスーツのパイロットとしては、さ」
「お前どうしてそれを・・・・!」
そんなカガリから視線を変えたバルトフェルドの問い。それに思わずカガリは声を上げ、キラは顔を俯かせる。
「・・・・・・あまり真っ直ぐ過ぎなのも問題だと思うが」
「だねぇ。・・・・・戦争には制限時間も得点もない。スポーツの試合のような、ね。ならばどのように勝ち負けを決める。どこで終わりにすればいい?」
呆れた様なスバルの一言に、笑いながら立ち上がったバルトフェルドは部屋の片隅にあるチェストに歩いてゆく。バルトフェルドの真面目な声音に、思わずキラはカガリを背後に庇うように対角線に立つように位置を変える。
「敵であるモノを全て滅ぼして、かね?」
振り向きながらバルトフェルドが向ける無骨な拳銃。それにキラは思わず息をのむ。
「止めた方が賢明だよ、少年。いくら君がバーサーカーであろうと暴れてここから無事に脱出出来るものか。第一、君はスバルのあの動きを見ていたはずだ。仮にスバルを抜けたとしても、ここに居る者は君と同じ、コーディネーターだぞ?」
「え・・・・?」
銃を突きつけたまま発せられた言葉に、カガリが反応する。何も言えないキラは、話すバルトフェルドの拳銃に警戒しなければならなかった。
「君の戦闘は二回見た。砂漠での接地圧の変更、熱対流のパラメータの把握と調整。君はモビルスーツの技術だけでいえば、そこにいるスバルと極めて近い技量を持っているようだ。補足しておくと、スバルは同胞の中でも優秀な部類の人物だよ」
拳銃を突きつけたまま、バルトフェルドは語る。その内容に、思わずカガリは座ったままのスバルと呼ばれた長髪の年を見やる。
「それ程の技量を持つパイロットをナチュラルだと言われて"ハイそうですか"と納得できるほど私は暢気ではない。君が何故、我々同胞と敵対する道を選んだかは知らんが・・・・・あのモビルスーツのパイロットである以上、君は私の敵だという事だ」
険しい表情のキラに拳銃を突きつけたまま、バルトフェルドはいう。カガリもスバルと呼ばれた青年に注意を払うしか、今は出来ることがない。
「やはりどちらかが滅びなくては、ならんのかねぇ。・・・・と、まあ色々言ったが、ここは戦場ではないし、君は間接的にとは言え命の恩人だ。帰りたまえ。良かったかはどうかは分からんが、話せて楽しかったよ。アイシャ、見送ってやってくれ」
どこか達観した表情でバルトフェルドが拳銃を下ろす。内線を押したのか、アイシャが現れ、バルトフェルドが苦笑混じりに別れを切り出す。
「また、戦場でな、少年」
部屋を出る直前、キラの耳にバルトフェルドのそんな言葉が聞こえた気がしたのだった。
2017 7/11 添削
2017 11/6 添削