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C.E.71 3月23日 オーブ付近
飛び交う砲火。白亜の戦艦に紫掛かった黒の機体の乗る補助フライトユニット"グゥル"から放たれたミサイルが対空砲塔に撃ち落とされ、それを隠れ蓑に二連射されたキャットゥスが対空砲塔二基に直撃する。
「イーゲルシュテルン4番、6番被弾!」
「損害率30%を超えました!」
「少佐のスカイグラスパーは何をしているか!」
「あのシグーに牽制されてそれどころではないみたいです!!」
「ストライクに敵モビルスーツの乗るグゥルを狙わせろ!!ウォンバット、撃て!!」
アークエンジェルのCICでは報告や悲鳴が飛び交う。ザラ隊の追撃を受けたアークエンジェルの各攻撃ユニットから黒煙が立ち上る。
「下がれアスラン!ヤツは俺が!」
「イザーク!迂闊に接近するな!」
何時までも落ちない白亜の艦とストライクに、イザークのデュエルASがしびれを切らせて接近を開始。隊長であるアスランがそれを窘めるが、イザークは引かずに接近してゆく。
「ちぃ・・・・!」
「取り付く気か・・・・・させない!」
その愚直な行動をストライクのパイロット、キラが見逃すはずもなく、シグーアサルトの操るグゥルから放たれたミサイルを頭部イーゲルシュテルンで撃墜しつつビームライフルを発射。デュエルASの乗るグゥルを破壊する。
イザークはそのままスラスターを吹かしつつビームサーベルを抜刀する。が、キラはその目的を看過、自身もアークエンジェルの甲板から飛び立つ。
「なにぃ!?くそぉぉ!!!!」
「ち・・・・!」
「おたくの相手は俺!」
「イザーク!・・・・うわぁ!?」
ストライクにビームサーベルを根元から切り捨てられたイザークを助けるため、思わずニコルが接近。スバルがすかさずカバーに入ろうとするが、そこをムウのスカイグラスパーが背面のビーム砲を放って妨害する。
デュエルASを足蹴にし更に跳躍、落下しながらデュエルASが放つシヴァを避けつつストライクがブリッツをシールドチャージで弾き飛ばし、乗っていたグゥルをライフルで破壊する。
「アスラン、支援を頼む。ディアッカ、お前はデュエルを!」
「了解!」
「分かった」
落下する二機をシグーアサルトとバスターがそれぞれカバー。イージスがスカイグラスパーとアークエンジェルをそれぞれライフルで牽制する。
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オーブの領域に接近してしまうアークエンジェル。デュエルASとブリッツを母艦に届け、イージスに合流したシグーアサルトとバスターも、突如として聞こえたオープンチャンネルのその声に動きを止める。特にシグーアサルトのスバル、イージスのアスランは、その声に聞き覚えがあるため、なおのこと驚いていた。
「(あのお嬢さんがアスハ代表首長の娘、だと・・・・!?)」
「(カガリ・・・・?)」
「ご心配なく!領海に入る前に落とせば問題ねえだろ!」
「待てディアッカ、オーブ艦に当たる!回り込むんだ!」
その後のカガリとオーブ士官のやりとりにスバルとアスランが呆然としていると、ディアッカのバスターが、スカイグラスパーの砲撃を回避しつつガンランチャーと高エネルギー収束火線ライフルを斉射する。その様子を見てアスランが思わず警告する。
「んな事言っても。・・・・っしまった!」
「っディアッカ!」
オーブ艦付近に着弾した砲撃を見たアスランの警告と指示にディアッカが戸惑い、動きが一瞬、また止まる。そこをストライクが見逃すはずもなく、バスターが乗るグゥルが破壊され、落下する。流石のアスランもこれはマズいと思ってカバーに入ろうとするが、アークエンジェルからの砲撃で攻撃できず回避に専念する。
「ちっ・・・」
「ば・・・・ディアッカ迂闊だ!!」
「一番、二番エンジン被弾!推力、高度共に維持できません」
「・・・っ!」
「それよりもマズいわよ・・・!」
落下する中、ディアッカが足掻きとばかりに対装甲散弾砲と両肩のミサイルをぶっ放す。空中という不安定な場所から撃った割には狙いは正確。放たれた散弾砲の大多数はアークエンジェルのエンジンに直撃したが、運悪くミサイルの数発がオーブ艦への直撃コースをとっていた。これにはアスランも、アークエンジェルのクルー達も唖然とする。
「っ・・・・グゥル!?誰のだよ・・・・・!?」
「・・・・」
「スバル!?」
バスターの足元にはいつの間にかグゥルが回り込んでいた。ではその持ち主は?と全員の視線が辺りを見回し、アスランがそれにいち早く気がついた。
オーブ艦を守るように両腕をクロスさせ、さらにバインダーシールドを水上で無理やりホバリングしながら構えるスバルの愛機、シグーアサルト。それにアスランは驚きに目を向ける。
そしてソレにも気がついてしまった。シグーアサルトは既にアークエンジェルからの至近弾で目に見えないレベルでダメージが蓄積され、シールドは磨耗している事に。そしてバスターのミサイルには一発であろうと耐えられないであろうと言うことに。
そして仮に耐えれたとしても、既にアークエンジェルから放たれ、彼の機体をロックしていた20発近いのミサイルが直撃コースにあることに。
「スバル!!!」
「嘘・・・・・ですよね・・・・!?」
そしてミサイルが構えられたシールドに直撃、バインダーシールドは粉々に砕け、更に20発近いミサイルが直撃し、構えた20mmバルカン砲内蔵防盾もろとも両腕が。それだけでなく、全身にミサイルが直撃したシグーアサルトは各追加装甲諸共海に沈むのだった。
沈みゆくスバルの機体に、現場のアスランも、ザラ隊が利用する潜水母艦の中でモニターを見ていたニコルも絶句する。
「これなら領海に落ちても仕方あるまい。オーブ第二護衛艦群の砲手は優秀だ。上手くやるさ。あの機体も撃破したように見えるが、致命傷は上手く避けていたように見える。後で我が軍の潜水艦が探索するさ」
「分かりました」
ブリッジのマリューにキサカが告げる。操舵手のノイマンにマリューが頷きかければ、ノイマンはその技量を持ってシグーアサルトが沈んだ場所を避けるようにアークエンジェルを着水させる。
「ち・・・・」
そしてオーブ艦が続々とアークエンジェルとイージス、バスターに砲撃を開始。アスランはやりきれない思いと共に、バスターを引き連れてその場を後にするのだった。
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オーブ行政府
「さて、とんだ茶番だったが、致し方ありますまい。公式発表の文章は?・・・・うむ、良いでしょう。そちらはお任せします」
「はっ。報告では我が方の艦を守った機体も秘密裏に回収したそうですが・・・・・」
「あの艦と機体、モルゲンレーテには私が」
オーブ行政府で話し合う人々。その内の一人、代表首長のウズミ・ナラ・アスハが公式発表の草案を確認、報告を受け、頷くとそれぞれに指示を出し部屋を後にしようとする。
「どうにも厄介なものだ。あの艦は。それにあのシグーとか言うのも誤射でも良いから撃破するべきではなかったのか・・・・」
「あの艦、アークエンジェルは今更言っても仕方ありますまい。そして!あの機体は我が国の恩人だ!恥を知れ!」
行政府に勤める一人が呟くように言った内容をウズミが一喝する。特に後半部分は捨て置けない一言だったらしい。黙りこくる人々を一瞥したウズミは、部屋を今度こそ、後にするのだった。
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オーブ領 オノゴロ島
「指示に従い、艦をドックに入れよ」
オーブ第二護衛艦に指示を出されるアークエンジェル。しかしブリッジクルーやストライクのパイロットのキラ、スカイグラスパーのムウの表情は一様に暗い。
「オノゴロは軍とモルゲンレーテの島。監視衛星でもここを伺うことは不可能だ。・・・・っと、そういえば正体を明かしていなかったな。オーブ陸軍、第21特殊空挺部隊のレドニル・キサカ一佐。これでも護衛でね。これからの事は、この後お会いになるお方に尋ねると良かろう。オーブの獅子、ウズミ・ナラ・アスハ様に、な」
「あちゃー・・・・・て、事はやっぱり本物・・・・?」
ブリッジではキサカが、己の正体と共にオノゴロや今後の事をを説明していた。
そしてその内容から、ミリアリアはカガリが本物のお姫様だと察し、小さな声で隣にいるサイに問いかける。問われたサイも冗談ではないと理解していたため、頷く。
アークエンジェルは今後の事をオーブの獅子、ウズミ・ナラ・アスハに問うことになるのだった。
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オーブ近海 ザラ隊母艦ボスゴロフ級内
「ふざけるな!こんな発表、本気で信じろと言うのか!!」
「足つきは既にオーブから離脱しました、だなんて本気で言ってるの?隊長が若くて無名だからって俺らバカにされてるのかね?」
「イザーク、ディアッカ!」
「そんな事はどうでもいい。これがオーブの公式発表と言うのであれば、俺達が嘘だと騒いだところでどうにもならない。押しきって通れば、本国を巻き込む外交問題になる。カーペンタリアから圧力を掛けてもらうが、事態が進展しないなら・・・・・・情報を得るため、潜入する」
ザラ隊の潜水母艦の一室で言い争う面々。オーブの公式発表と今後を離すアスランに、イザークは冷静なアスランを茶化すように見、ディアッカも追従する。
「スバルさんは、・・・・彼の情報はなかったんですか?」
「・・・・・オーブ近海で、彼の機体の一部が発見されただけだそうだ」
誰も触れず、聞かなかった部分をイザークとディアッカを窘めたニコルが問う。アスランは苦虫を押し潰した様な表情でオーブの出した答えを告げる。
「・・・・・そんな・・・」
「て、ことは戦死扱いで良い訳?」
「だな。本国から聞いた話ではヤツに親族などは居ないそうだ。気にする必要もあるまい」
アスランの言葉にニコルだけは悲痛な表情を見せる。しかしディアッカとイザークの言葉に、ニコルは思わず立ち上がる。
「イザーク!ディアッカ!口に気をつけてください!彼があそこでオーブ艦を守らなければ、今よりも状況が悪くなっていた可能が高い!それにディアッカ!貴方の迂闊な行動が彼のMIAを招いたんですよ!それを・・・・」
「ニコル・・・!」
「アスラン・・・!離して・・・・離してください・・・・!」
部屋から出て行くイザーク、ディアッカに掴みかかろうとしたニコルをアスランが咄嗟に抑える。いつの間にかニコルの声は、涙混じりに変化していた。
「僕は・・・・僕は彼に助けられたんです・・・・。それにイザークもディアッカも助けられた!それなのに・・・・・それなのに、こんな・・・・!何で・・・・・!」
「ニコル・・・・・」
アスランに抱き止められたニコルは涙を流す。そんな彼の肩をアスランはただただ、掴むしか出来なかったのだった。
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オノゴロ島ドック内 アークエンジェル食堂
そこに集まった元ヘリオポリス学生組やアークエンジェルクルー。その話題は最初、上陸ができるか等だったが不意にミリアリアが俯く。
「ミリィ・・・?」
「あの時、あの機体・・・・何でオーブ艦守ったのかな。それが原因で、アークエンジェルのミサイル受けて、墜ちたんだよ・・・・?」
俯いたミリアリアの肩にサイが手をやる。俯いたミリアリアが顔を上げた時、その目には何故か涙が浮かんでいた。
「僕は・・・・・何となく分かるよ」
「え・・・?」
「あのシグーは多分、だけど・・・・・同じ思いをさせたくなかったと思うんだ」
その時フレイ・アルスターとの一件もあり、申し訳なさそうに皆から離れようとした、キラが近寄る。
「それどういう事だよ、キラ」
「あの機体、アフリカで何度か交戦した部隊に居たでしょ?」
「砂漠の虎、アンドリュー・バルトフェルド隊所属の機体。あの後フラガ少佐が言ったなぁ、あの機体のパイロットも凄腕の若手エースだったって」
疑問に思ったカズイが問うと、キラは少し痛みを堪えたように話し出す。操舵手のノイマンも、バルトフェルド隊との戦いの後、ムウ・ラ・フラガが語った話しを思い出したのか、頷く。
「多分、あの人は、自分と同じ思いをさせたくなくて、咄嗟に庇ったと思うんだ・・・・。あの時、ラゴゥを撃破した僕に、あの人は復讐や憎しみの心で襲いかかってきてたと思う。でも、オーブはまだ、プラントとも、戦争はしてない。アソコでバスターがオーブの艦を破壊したら、あの艦の人の遺族はきっと、プラントにあの人と同じ感情を向けたかも知れないし・・・・、ってごめんね、訳わからないこと言っちゃって」
ポツリポツリとキラが話す。話している途中で、当の本人も混乱したのか、慌ててトレーを持って食堂を出て行く。残されたメンバーは思わず、という風に顔を見合わせるのであった。