仮面少年★クウガ   作:快傑あかマント

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 前回(前篇)を推敲しました。未完成の作品を送ってしまいすみませんでした。ここでお詫びします。
 こちらは後編です。
 ご感想、ご意見お待ちしています。


ex2:AGITΩ★豹群

 

 

 気合一閃。

 

 ルテウスの首が、大きく跳ね上がった。

 

 ルテウスは、その鉤爪をアギトに突き立てること無く、彼の脇をそのまま擦り抜け、駐車場の壁に向かって一直線に突進していく。

 

 ルテウスは、頭上に強く激しく輝く光の輪を浮かべ、壁に激突した瞬間、爆発四散した。耳をつんざく轟音が、薄闇に支配された駐車場を揺らし、ほむらは、思わず耳を塞いだ。

 

 アギトは、六本角を元の二本角に戻し、大きく蹴り上げていた右足を悠然と下ろした。

 

 

 ほむらは、ゆったりとした足取りで歩み寄って来るアギトを見ながら、驚愕していた。

 

 アギトが蹴りを放つ直前、地の奥底から湧き出し、彼が取り込んだ『光』。

 

 あの光は、間違いなく魔法少女の力『魔力』と同じ物だった。いや……、自分達が搾り出す“魂の熱を奪う”ような寒々しい力ではない。

 

 力強い暖かな『光』だった。

 

「アギト……、貴方は一体……?」

 

 ほむらは、アギトを見上げ呟く。

 その時、僅かな光によって伸びたアギトの影が突如動き出し、背後から槍を手に、彼に襲い掛かった。

 

「……危ない!」

 

 ほむらが思わず叫ぶ。

 

 アギトは、電光石火の反応で振り返り、手甲の丸みを利用し刃を滑らせ打ち払う。

 

 それは、影ではなかった。

 

 影のように、闇のように、黒い豹。

 

 陰鬱なる黒を纏う豹にして、

 

 神槍の遣い手、

 

 黒豹のマラーク『パンテラス・トリスティス』

 

 が、《貪欲の槍》を手に襲い掛かって来たのだ。

 

 アギトは、トリスティスの槍を受け止めながらも、ほむらを一度振り返る。

 そして、槍を無理矢理掴み上げ、怪人を彼女から力任せに遠ざける。

 

 十分に、ほむらから距離を取ると、アギトは、梃子の原理を使い、トリスティスを槍ごと投げ飛ばした。

 しかし、トリスティスは巧みな体捌きで体勢を立て直し、アギトに槍を突き立てんと連続で繰り出した。

 

 『突き』と『引き』の繰り返しの単純な攻撃だ。しかし、そのぶん付け入る隙の無い神速の絶技。

 

 だが、アギトは、それ以上の絶技を以って、トリスティスの隙を作り出した。

 

 繰り出された槍の穂先を蹴足で受け止める。

鈍い銀色の脛当てと、槍の刃が火花を散らす。

 

 アギトは、素早い脚捌きでトリスティスの槍の動きを巧みに封じ、さらにソレを大きく蹴り上げた。

 

 素早く後退しつつ、虚空へと跳ね上がってしまった槍を力任せに引き戻したトリスティスは、その切っ先を再びアギトに向け構え直した。

 

 しかし、既にアギトは槍の間合いの遥か外にいた。

異形の力を持ってしても、容易く……いや、不用意には埋められない巧みな距離感だ。

 

 アギトは、トリスティスから視線を外さず、ベルトの左腰の装飾を素早く叩く。

 

 アギトの腹部の金色の光を宿したベルトの楕円形の装飾の宝石が、強く青い輝きを放つ。

すると、その青い輝きの中から両端に金色の殻物を持った青い“短棍”が出現した。

 

 アギトは、短棍を素早く右手で引く抜きと、引き抜かれた短棍の影から短棍をもう一本、左手でずらす様に出現させると、小気味良く一回転させ構える。まるで、マジシャンのようだ。

 

 短棍を両手に構えたアギトの身体が、渦を巻く様に波打つ。

 

 波が納まると、アギトの姿が左右非対称に変化していた。

 

 鈍い金色だった胴鎧の胸板の装甲が青く変化し、左腕には球状の肩当てが特徴的な青い腕鎧が装着されている。

 アギトは、左腕の腕鎧で身体を隠すように左の短棍を前に突き出し、右の短棍は身体で隠すように構える。

 

 徒手空拳の先程とは違い、やや腰の位置が高く両脚を肩幅程度に開いたのみの簡素な構えだ。

 

 

 じりじり……と、円を描く様に徐々に互いの間合いを詰めていくアギトとトリスティス。

ルテウスと対峙した際とは対照的な、静かな立ち上がりだった。

 

 今度は、アギトが先制を切った。

左右の短棍を、トリスティスめがけ同時に振るう。

 

 しかし、それは明らかに短棍の間合いでは無かった。

 

(……間合いを読み違えた……?)

 

 ほむらは、さんざん超人的な体捌きを見せつけたアギトの唐突な悪手に戸惑った。

トリスティスもほむら同様、戸惑いに動きと思考を、ほんの一瞬遅らせた。

 

 

 その刹那、青い旋風が二条の金色の軌跡を描き、トリスティスの槍と胸板を、ざっくり……と切り割った。

 

 ばぁっ……と、トリスティスの胸板から仄黒い体液が吹き出し不気味な花を咲かせた。

そして、やや甲高い音を立てて三つに断たれた槍の破片が転がる。

 

 

 苦痛の唸りと体液を辺りに散らして、トリスティスは素早く後退する。

 

 見れば、アギトが左右に持つ短棍が二倍ほどの長さに、そして両端の金色の殻物は鋭い刀身形の穂先に変化していた。

 絡め手も“お手の物”というわけらしい。

 

 左右二本の双頭の薙刀を軽々と片手で操り、アギトは再び左肩を前に、右の薙刀は巧みに身体で隠しつつ、ゆっくりと左の薙刀の切っ先をトリスティスに向ける。

 

 アギトが、再び先制を切った。

 

 金色の軌跡がトリスティスに迫る。

 

 薙刀の一撃を、槍の残骸で巧みに受け止めたトリスティスにだったが、アギトの攻撃は一撃では終わらない。

 

 

 一撃が二連撃。

 

 二連撃が四連撃。

 

 四連撃が八連撃。

 

 アギトの薙刀は、一閃ごとに速度と鋭さを増していく。

 

 まさに、疾風怒濤。

 

 四筋の金色の軌跡を描く青い竜巻が、トリスティスに容赦無く襲い掛かる。

 

 トリスティスの穂先と僅かな柄しか残されていない槍だけでは、アギトの連続攻撃は捌き切れないのは明白だ。

 すでに、トリスティスの身体には、無数の斬り傷が出来ている。

 

(もう勝負は着いた……)

 

 ほむらが、そう思った瞬間である。

 

 

 ひょうっ……と、鋭い風切り音が。ほむらの鼓膜を震わせるた。

 

 

 一条の矢が、暗闇の中からアギトの眉間めがけ迫る。

 

 アギトは、神速の薙刀捌きで矢を危なげなく切り払う。

 

 トリスティスを右手の薙刀で牽制しつつ、アギトは矢が放たれたであろう方向に視線を走らせる。

 

 

 その視線の先で、雪の様に青白い豹が、ぬるり……と、闇の中から溶け出る様に姿を現した。

 

 

 清廉なる白を纏う豹にして、

 

 静かなる射手、

 

 雪豹のマラーク『パンテラス・アルビュス』

 

 が、薄暗闇の中で青い外套を翻し、携えた大弓《傲慢の弓》に矢をつがえアギトめがけて引き絞る。

 

 神速で放たれた矢は、吸い込まれる様にアギトの甲冑の隙間に迫る。

 

 しかし、やはりアギトは危なげなく薙刀で矢を弾く。

 

 だが、そんなアギトの死角からトリスティスが刃を振りかざし襲い掛かる。

 その刃を素早い脚捌きで回避するアギトだったが、今度はアルビュスの矢がアギトの背後を襲う。

 

 左手の薙刀を振るい、またも矢を弾くアギト。その矢を弾いた瞬間の身体が硬直した僅かな隙に、トリスティスが付け入る。

 

 素早い場所取りと阿吽の連携で、アギトの死角と隙を作り出し攻め立てるトリスティスとアルビュス。

 

 形勢逆転。アギトは、防戦一方に追い込まれた。

 

 ほむらは、無言でベレッタを構えた。

 このまま逃げる事も考えたが、“彼ら”はここで倒しておくべきだ。

 一瞬の思惟の後、アルビュスの顔面めがけ、素早く三回引き金を引いた。

 

 魔力を、紙を丸め鋭く尖らせるイメージで練り上げ、ほむらの、込められるだけの力を込めた渾身の9mm弾が怪人へと走る。

 

 しかし、ほむらの魔力はアルビュスの身体を覆う“何か”によって霧散し、弾丸は彼の目の前でぴたり……と空中で冗談のように静止した。

 

 ほむらは、驚愕する。が同時に反射的に再び三回発砲した。しかし、その弾丸もまた同じようにアルビュスの身体の数cm手前で静止してしまう。

 

 弾丸が砕け、水に溶けて消えるように霧散した。

 

 一瞬動きを止めたアルビュスの闇の中で薄緑色に光る眼が、ほむらを一瞥する。

 が、すぐに視線をアギトへと戻し、再びトリスティスと共に攻め立て始めた。

 

 

(バカにして……!)

 

 ほむらの麻痺して久しい心に怒りの炎が灯る。無視された事にではない。アルビュスの眼に、一瞬の刹那宿った“哀れみ”の色が気に入らなかった。

 

 ほむらは、盾の裏からもう一つ武器を取り出した。

 

 “少しの油断が命取りなる”今し方、彼らの仲間に教えてもらったばかりの事だ。

 

 ならば、自分からも教えてやろう。

 

 戦いの場では、誰もが誰かの《死神》になる可能性が有る事を。

そう、例え“仲間同士”でも……

 

“友達同士”でも……

 

“親友同士”だって……

 

 『弱い』と見下して“正真正銘の敵”を生かしたまま放置した事を後悔すると良い。

 

 ほむらは、アルビュスの肩甲骨が異様に盛り上がった不気味な背中めがけて、再びベレッタを左手で発砲した。

 重傷を負っているにも関わらず、弾丸は正確にアルビュスを捉えている。

しかし、やはり“何か”によって防がれてしまう。

 

 アルビュスは、攻撃されているにも関わらず、もう彼女を一瞥すらしない。

 

(そうやって、そのまま余所を向いていなさい……)

 

 ほむらは、右腕で構えた“本命”をアルビュスの無防備に晒された背中に容赦なく発砲した。

 

 “本命”は、アルビュスには命中せず彼の足下で“発火”した。

 

 ほむらの武器《21.5mm信号拳銃》から発射された火球……夜間用星弾が、何万カンデラもの強烈な光がアルビュスの視覚を一時的に奪い、その動きを封じた。

 照明弾の熱と衝撃は、アルビュスの“何か”に阻まれ、その身体を傷付ける事は出来なかった。

しかし、光までは、そうはいかなかった。

 アルビュスが、苦悶の呻きを上げた。

 

 

『ハァアァァ……』

 

 ほむらの作り出した逆転の好機を、見逃さないアギト。

 

『……ットォアアァァ!!!』

 

 アギトの気迫と共に幾筋もの金色の閃光が青い旋風を伴い、トリスティスの闇の様に黒い身体を貫いた。

 

『……AGITΩ……!』

 

 トリスティスが僅かに身動ぎした次の瞬間、彼の身体は思い出したかの様に夥しい体液を噴き出した。

 

『……AG、I……!!』

 

 トリスティスは、頭上に激しく輝く光の輪を浮かべながら、アギトめがけて槍の残骸を全力で振りかぶる。

 

『……T、Ω……!!!』

 

 しかし、そのまま崩れ落ちる様に背中から地面に倒れ伏し、轟音と共に爆発四散した。

 

 

 

 噴き上がる火柱を、一瞬見上げる ほむら。そして突然、耳元で響いた硬い音に我に帰った。

見れば、赤く汚れたベレッタが目の前に転がっていた。

 左手の感覚が麻痺している。動かそうと思えば動かせるが、全くその感覚が伝わってこない。

 

 ほむらは、その『不安』や『恐怖』を“些末事”と無視し、すぐさま信号拳銃を放り捨て、右手をベレッタに伸ばす。

 

 ほむらの細い指先が僅かに触れた瞬間、ベレッタは青白い大きな脚に粉々に踏み砕かれた。

 

 見上げると、妖しい薄緑色の双眸と目が合った。

 

 パンテラス・アルビュスが、音も無く刀の様に鋭い大弓を掲げ、特に何の感慨もない表情で……いや、やはり何処か憐れむ様に、ほむらを見おろしている。

 

『……MAGIKA……』

 

 既に、アルビュスの優しげですらある視線と殺意……刃は、ほむらを完全に捉えている。

力を込めずとも、彼が刃を首筋に滑らせれば“自分は死ぬ”。

 

 ほむらは、アルビュスを睨む様に見つめ返した。

 

(……“みんな”は、“彼女”は、もっと苦しかったはず……怖かったはず……。私は、これくらい……こんなことくらい……!)

 

 ほむらには、アルビュスが酷くゆっくりと刃を掲げた様に見えた。

 

 ついに、アルビュスの殺意が彼女に振り下ろされ……

 

 

 ……なかった。

 

 甲高い金属音が響く。

 

 

 ほむらの左右の視界の端を、アギトの短棍とアルビュスの弓が、からから……と転がり滑って行く。

 

「アギ、ト……!」

 

『……AGITΩ……!』

 

 背を向け、右腕を振りぬい姿勢のまま背中を見せているアギトが、ゆっくりとアルビュスに向き直る。

 

 ゆらゆら……と揺らき燃えるトリスティスの命の残り火を背に、アギトの複眼が赤く……火焔よりも赤く、赤く輝く。

 

 左手に残った薙刀を、地面に突き立て放すアギト。

そんな、彼の胴鎧の色が青から金へ、左腕の腕鎧は消え、金色の左右対称の姿を取り戻した。

 

『何処を向いている……? お前の相手は、その娘じゃないはずだ……』

 

 若い男の声だった。……錆びが浮いた様に、泣き疲れた様に、枯れた低い声。

 

『違うはずだ……。俺のはずだろう?』

 

 アギトは言いつつ、腰を低く落とし、両腕で大きく円を描く様にして両拳を、強く強く握り固める。

 

『……AGITΩ……!』

 

 低く唸り、アルビュスはアギトを真っ直ぐに睨み付け向き直る。

 

『そうだ! 俺だ! 《AGITΩ》だ!!』

 

『AGITΩ!!!』

 

 アルビュスの咆哮。

 

 青い外套を棚引かせ、アギトに突進する。

 

 迎え討つアギト。鋭い踏み込みから左右の手刀の連携を、アルビュスめがけ放つ。

 

 

 しかし、左右の斬撃は虚しく空を切る。

 

 

 アギトの頭上を、アルビュスが宙返りで飛び越える。そして、巨体に似合わぬ驚異的な体捌きで、その背後を盗った。

 

 アルビュスの両掌に虚空から矢が現れる。

それをアギトの首筋に突き立てんと繰り出す。

 

 一瞬よりも……刹那よりも……さらに速く、アギトは振り返った。それと同時に、アギトは身体を大きく沈み込こませる様に踏み込み、アルビュスに肉薄する。

 

 アルビュスの矢尻が、アギトの仮面を掠め僅かに傷を付ける。

 

 アギトの渾身の踏み込みによって威力の増した右正拳が、アルビュスの腹部に叩き込まれた。

 

『ハァアアァァッ!!』

 

 アギトの攻撃が止まらない。連続で繰り出される拳が、次々にアルビュスの身体に突き刺さる。

 

 最後に、アギトはさらに腰の入った正拳を叩き込んだ。

 

 身体を、くの字に曲げ吹き飛ばされるアルビュス。

 

 苦しそうに呻き、膝を突くアルビュスだったが、すぐに立ち上がりアギトを睨み付け弱みを見せない。

 

 

 アギトの二本角が、再び翼を広げる様に六本角に変化する。

 

 そして、浮かび上がる光の紋章。

雄々しい力強い金色の光を、アギトは両脚からその身に取り込む。

 

『ハァッ……アアァァ……』

 

 ゆっくりと左脚を後方へ、力を溜める様に腰を低くしていく。

刀を鞘に納める様に、左腰に添えられた左開手に右開手を重ねる。

 先程とは、左右逆の構えだ。

 

『トォウッ!!』

 

 アギトがアルビュスに向かって駆けて飛ぶ。

 

 その瞬間、彼を縛る重力が消失した。

 

 金色の閃光が一直線に闇を切り裂て飛翔する。

 

『アアアァァァッ!!!』

 

 全身の力を、『光』……『魔力』を、込められる力という力を右蹴脚に込め、アギトはアルビュスの胸板で炸裂させた。

 

 

 世界全体を揺さぶったのではないかと錯覚させる、轟音が低く響き渡る。

 

 

 静かに降り立つアギト。

 

 そして、アルビュスは、がりがり……と足下の地面を削り砕きながら、凄まじい勢いで立った姿勢のまま吹き飛ばされる。

 

 苦痛の呻きを漏らしながらも、アルビュスはアギトを睨み付け、再び虚空から矢を出現させむしり取り構える。

 

 しかし、当のアギトは、着地した姿勢のまま動かない。

 

『GAOOOO!!』

 

 アルビュスは、力を振り絞るように吠え、アギトに突進する。

 

 しかし、やはりアギトは動かない。アルビュスを見てすらいない。

 

 ほむらが、思わず息を飲んだその時だった。アルビュスの頭上に激しく輝く光の輪が出現し、怪人は前のめりに崩れ落ちた。

 

 アギトは、アルビュスの命の炎が激しく燃え上がると同時に、残心をきるように炎に背を向けた。

 

 いささか“カッコつけ”が過ぎる。

 ほむらは、思わず苦笑した。

 しかし、ここまで徹底的に“カッコつけ”られたら本当に……

 

「カッコいい……」

 

 

 そう思う他ない。初めて“彼女たち”を“彼女”を見た瞬間の純真な気持ちを、悲痛な過去という形以外で思い出したのは、久しぶりの事だった。

 そんなに昔の事ではないのに……、本当に懐かしい……。

 

 と、そこでほむらは、自分が酷く眠い事に気が付いた。気が付いてしまうと目蓋の重さに耐えられない。

 視界が、急激にぼやけて暗くなる。

 

 がくり……と、ほむらは、身体の力が抜けるのを感じ、アギトが駆け寄って来るのを、はっきりとしない視界で見つめながら瞳を閉じた。

 

 人の気配を感じる。たぶん女性。自分とそう変わらない年頃の少女だ。

 

『気が付いたぁ? アナタの“穢れ”は、私が全部持っていくけど……怪我のほうはそうはいかないわ。自分で治してね。頼りない先輩でごめんなさいねぇ』

 

 重い目蓋をなんとか開けると、煌びやかな宝石をちりばめたペルシア風のローブを纏った少女が、こちらを見て、あっけらかんと笑っていた。

 ハッキリ言って、豪奢だが嫌味の無い美しい衣装と話し言葉が合っていない。

 

 ほむらは、違和感を感じずにはいられなかった。

 

『あっと、もう行かないと。せっかく正気に戻ったんだけど……うん、よし! バイバイ、後輩ちゃん♪ アナタは、なるべくゆっくり来るよ~に! あはは……』

 

 少女は、無遠慮にほむらの頭を撫で回すと、最後に少しだけ淋しそうに笑って、星屑のような光の粒に変わると溶けるように消えてしまった。

 

 

 

 そこで、ほむらは目を覚ました。

 

 跪いたアギトが、黒く染まったグリーフシードを持ち、静かにほむらを見詰めていた。

 

 腕と足の傷には、白い包帯が巻かれている。アギトが、どこかから持ってきて応急処置をしてくれたのだろう。

 

「ここにもう一人、居たわよね……? 彼女は……?」

 

と、ほむらは思わず言った。

 

『……もういない』

 

 アギトは、手の平のグリーフシードを一瞥してから、首を横に振った。

 

「……そう……」

 

 ほむらは、魔女の事……自分たち魔法少女の事を“再認識”した。

それを噛みしめる様に、彼女は瞳をもう一度閉じた。

 

 アギトが立ち上がり自分から離れて行くのを感じた。

ほむらは、慌てて身体を起こし、彼の背中に疑問をぶつけた。

 

「アギト! ……あなたは……なに?」

 

 ほむらの声に歩みを止めたアギトは、しばしの思惟の後、首だけでほむらを見つめ……

 

『味方……、味方だよ。キミの……、キミ達のな。通りすがりのね……』

 

 錆びついた声で、彼女の質問に応えた。

 

 そして、彼は右掌の中のグリーフシードを強く握りしめた。

 

 アギトは右腕を振るうと、星屑の様に無数の光の粒が闇色の空に小さな橋を一瞬作って、夜風に溶けて消えた。

 

 ほむらは、その光景に一瞬目を奪われ、名前も知らない“彼女”の冥福を祈った。

 

 気が付くと、アギトは既に悠然とオートバイに跨っていた。

待ち構えていたかの様に、エンジンが唸りを上げる。

 

 そして、しばしアギトは、ほむらを見つめた後、颯爽と車体を発進させた。

軽快なエンジン音と共に、アギトは夜の闇へと、その姿を消した。

 

 

 

 こうして、繰り返す少女は光の戦士と出逢った。

 

 戦士の《光》が、少女の道程を助ける《輝き》となるのか?

 

 それとも、ただ惑わせるだけの《蜃気楼》となるのか?

 

 

 それは

 

 

 《神》にも……

 

 

 《悪魔》にも……

 

 

 解らない……

 

 

 

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