だから君は勇者にしか成れない   作:◆◇夢幻水晶◇◆

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「こんなもんだろ」

 

椿(つばき)は両親に向けてのメモを書き、テーブルの上にポイと投げた。

 

「何してんの? 」

 

柳也(りゅうや)が何気なく問う。

 

「メモ書いてんだよ、『ちょっと異世界救ってきます』ってな」

 

「それむしろ親御(おやご)さん心配すんじゃないかなぁ…? 」

 

苦笑を浮かべてそう返してくる柳也を軽く受け流してゲートへと向かう。

 

時間は見事に十二時ジャスト。

五分前にゲートを開けてくれたグランの律儀(りちぎ)さに感心しつつ全員への確認をとる。

 

「お前らー、ソーラーバッテリーと携帯持ったかー?あと非常食なー」

 

「私は乾パン、干し肉、塩漬けとか色々持ってきたよ。」

「私はそれに加えてスルメ……」

「あたしもそんな感じですー」

「みんな似たようなもんだね」

 

心持ちとしてはピクニックなんかに行くのとさして変わりはないのかみんなの表情に焦りや不安と言ったマイナスの感情は見受けられないが、このノリの軽さにグランの方は不安を覚えているように見えた。

 

「皆様武器の携帯をお願いしてもよろしいですかな? 転移先から帝国までの間どうなるかわかりませんので」

 

「失礼、リュエル殿はお一人ならば何人まで確実に守れますか? 」

 

前置きを忘れることなくグランに問いを投げかける奏。

 

「お二人までならば盗賊(とうぞく)風情(ふぜい)に遅れはとりません。」

 

極めて真面目にそう答えるグラン。その返答に全員が安堵する。

 

「なら僕たちは武器を持つ必要はありませんね、だろ? 椿? 」

 

出発前に食べるつもりでいたのか話を振られた椿はいつの間にか冷蔵庫前でプリンにがっついており、呼ばれた事に反応してプラスチック製のスプーンを口に咥えながら微笑を浮かべて答える。

 

「あぁ、俺以外に戦闘員がいりゃあ十分だ」

 

グランは意図を測りかねたが相手は少なくとも『意思』によって選ばれた『英雄』。

その『選ばれし英雄』がそういうのならばそうなのだと半ば割り切って頷いた。

 

「ならば参りましょうか、あなた方にとっての異界『エクスリリオ』へ」

 

「よし、行くか!世界一個救いに行くぞ!!」

 

椿の掛けた号令に四つの威勢のいい返事と一つの礼が返り、椿たちは最大限雰囲気を大切にしながらゲートを潜った。

 

  ◇ 

 

  ◆

 

  ◇

 

  ◆

 

「変な……ところ……」

 

ゲートに入ってすぐにそう呟いたのは響姫(ひびき)だった。

明るめの色がマーブル状に混ざり合い視界を埋め尽くしてきてくる、目の前をグランが歩いているから平衡感覚がなんとか保てているものの足場と言える程の足場もなく実に不安定だ、それなのに不思議と酔うことも平衡感覚を失うこともなく歩けているし、マーブル色とはいえ素直に綺麗だと思える空間だ。

 

「確かにね、でも綺麗じゃないかな? 僕は綺麗だと思うけどね。」

 

響きの呟きにしっかりと反応する柳也。

うっかりすれば聞き逃しそうな響姫の声も逃すことなく拾うので案外柳也と響姫は仲がいいのだった。

 

「うわあぁぁぁ!!綺麗ですよ綺麗じゃないですか!?奏ちゃん、椿くんこっち向いてください写真撮りますので!!」

 

一方で誰も聞き逃すことのないほどの声を上げ、同意を求める伊織(いおり)。二人が振り向いたのを確認して一枚。

彼女は新聞部でいつも首から一眼を下げている猛者(もさ)である、首の一眼がなくても油断することなかれ、ふとすればポケットから、警戒すれば装着したポーチの外ポケットから、色々な場所から色々な記録媒体が出てくるのであるからして。その魔の手からは教師すら逃げられないと言うが真偽は定かではない。

 

雑談交じりに歩き続けてカップ麺を連続で五個くらい作れる時間が経過した頃、グラン以外のメンバーはほんの少しだけ世界とかどうでもよくなっていた。

 

「まだ着かねぇのかグランのオッサン……?こういう(たぐい)のゲートってポータルみたいになってるんじゃねぇの普通……」

 

「そう言うな椿……言われたら考えないようにしてたのに疲れを自覚してしまうだろう……?」

 

疲労筆頭は椿と奏、異世界の技術を過信しすぎたせいで小さな不満が募っていた。

 

「私たちの世界とあなた方の世界は遠く離れておりますゆえ同じ世界ならともかく異世界を繋ぐともなれば相応の距離があるのです。ご容赦くださいませ。」

 

疲れた様子も見せずグランは涼しい顔をしてそう答えた。そして付け加える。

 

「皆様、間も無くゲートの出口でございます、そのままお進みください。」

 

言われたとおり進むと二歩も進まぬうちに外へと出た。

到着して即刻叫んだのは椿。

 

「うおおおぉぉぉぉ!!マジで異世界キタァァァァ!!!」

 

続いて伊織。

 

「やたーーー!!!」

 

「本当に……間もなかった件に……ついて。」

 

「そこについては言いたいことがないわけじゃないけどスレは立てなくていいよ……」

 

「池上の意見に(おおむ)ね同意だ……」

 

別のことに完全に意識を持って行かれているその他三名。

各自言いたいことは他にもあったがグランに帝国に着くまでもう少し歩く事を告げられ各々テンションを下げて歩を進めた。

 

「おっとぉぉ!!有り金全部置いていきやがれ!!」

 

歩いて数分、現れたのは絵に書いたような盗賊だった。

椿たちの通ってきた道は左右が斜面の急な小高い丘のようになっており、そこに視認出来るだけで六人いる。

 

「賊ですか……野蛮な……応戦します、構いませんね? 」

 

「「「「「 盗賊キターー!!!! 」」」」」

 

基本に忠実な姿、テンプレ通りのセリフにあまりにもテンションを上がってしまったせいでグランの確認は誰の耳にも届かなかった。

 

「ヒャッハーァァ!!!」

 

お馴染みの掛け声とともに丘から飛び降りでくる盗賊、対してグランは話を聞かない英雄五人にやや辟易(へきえき)しながら盗賊に突っ込んでいく。

 

「オッサン俺も前に出る!!!合わせろ!!」

 

「かしこまりました、仰せの通りに!」

 

突っ込んでいく椿に伊織と柳也が同時にアドバイスを飛ばす。

 

「武器は鉤爪(かぎづめ)四、ナイフ二本です!!後ろ手に気をつけて!!」

 

「腰に巻いてる布は真ん中に指入れて手前に引けば取れるはずだよ、役立てて!!」

 

「おうさ!!!」

 

グランは盗賊を一人殴ってから驚愕した、おおよそ二秒弱で未知であるはずの敵の分析を終えた新たな英雄に。しかしグランの驚きはそこで終わらない。

 

「オラァ!!」

 

椿が正面に突き出された鉤爪をかわして顎に一撃入れる。

それだけで一人沈み、椿は殴った反動を殺しきらずに利用してもうひとりの元へ向かう。

 

「……つ、強い……」

 

この世界に置ける『英雄』とはそもそも一定以上の魔力量を保有する人間の事を指し、その中から先代の英雄が出した条件にあてはまる人間を『選ばれし英雄』と呼ばれる。

要するに英雄とは絶対的な魔力量で決まるものであり、身体的な強さを持つ者は極稀(ごくまれ)なのである。

 

グランは『英雄』程の魔力量はないが全魔力を身体強化に回せる特別な魔力回路があるため並みの人間程度ならどこを殴っても一撃で沈めることができる。

つまり、魔力がある者は隙を突くだけで敵を倒すことは出来るが、椿のように正確に人としての弱点を誘導してガラ空きにさせるという技術は全くと言っていいほど持ち合わせていないのである。

 

「あっはっはっは!!ぬるいぬるい!!!」

 

振り下ろされるナイフを右から蹴り飛ばし、左に居た敵の胴に刺す。

丸腰になった敵に対して椿の二歩後ろにいる敵が一歩踏み出す前に三擊。

後ろの敵が一歩踏みだせば側頭蹴り。

グランが倒し損ねた敵に膝蹴りを叩き込みつつそいつが腰に巻いた布切れを柳也の助言通りに引き抜いて四人目の鉤爪盗賊の顔に投げた。盗賊が仲間の腰巻を振りほどいた時には目の前に椿はおらず、後ろから(かかと)落としを繰り出して沈める。

 

「これで最後ですかな……?」

 

グランが最後の一人を吹き飛ばし、盗賊は全滅した。

完全に気絶した盗賊たちからアイテムを奪おうと今まで待機していた奏たちが集まってきたがグランが止めた。

 

「仮にも『英雄』なのですから盗賊まがいの事をするというのは出来ればやめていただきたいのですが……体裁という言葉もあるくらいですので……アイテムなどは帝国(エクスリリオ)から支給させますのでどうかこの場は。」

 

「む……ならば……しょうがない……」

 

響姫はかなり不満げな様子だったが、グランが結構真面目に止めていたので仕方なしにやめておいた。

 

その後の帝国へ向かう道中、先ほどの様な盗賊に襲われることもなくこれといった罠が張られているでもなく無事に進むことができたものの柳也だけが不安を拭えずにいた。

 

「あの盗賊……何で弓兵がいなかったんだろう……あんな実用的な鉤爪があるのに弓が存在しないなんてことはありえないだろうし……奇襲なら弓があったほうが確実に成功率が上がる……何だろうさっきのはまるでチュートリアルみたいな………」

 

小さく呟いている柳也に気づいた(かなで)が心配の声をかけた。

 

「どうかしたのか池上? 調子でも悪いのかい? 」

 

「あ、ごめんね、何でもないよ。」

 

「そうかい? 私が言えたくちじゃないが君はいわば非戦闘員だ、戦えない事はあまり気にしないほうがいい」

 

幸いにも奏は勘違いしていてくれたようで内心柳也はホッとする、今は合わせておいたほうが都合が良さそうだと判断してそのまま流される。

 

「あはは……わかってるよ、椿に任せておけば大丈夫だもんね? 」

 

「そうさ、私が保証するよ。」

 

「それ本人に言っちゃダメだよ? また喧嘩になるんだからさ。」

 

それを聞いた奏はやれやれと肩をすくめた。

 

「全体的に喧嘩っ(ぱや)いのが椿の悪い癖だよ……」

 

  ◆

 

  ◇

 

  ◆

 

  ◇

 

  ◆

 

 

――――――――――椿たちの戦闘中

 

「へぇ……結構強いんだね、今回の『英雄』。君もそう思うだろ? 」

 

隣にいる従者に声をかけた。

 

「先代の英雄もかなりの強さを誇っていたと聞き及んでおりますが。しかしながら『魔王』様ならば問題ないかと。」

 

従者は考える素振りもみせず即答する。

 

「『魔王』はやめてよ、俺はまだ王になったわけじゃないんだからさ? 本当に王になったらいくらでも呼んでよ。」

 

「ならばどうお呼びしましょう……?」

 

真面目すぎる従者に少し困った顔をしながら一言。

 

「若頭、でどう? まだ若いしトップなのは確かだしちょうどいいんじゃないかな?」

 

「かしこまりました。」

 




最後まで読んでいただきありがとうございました。
誤字脱字、感想等ありましたらコメントして頂ければ幸いです。

それではまた次回。
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