インフィニット・ウィッチーズ 空駆ける自由の翼 作:天野蒼夜
OP:
「STRAIGHT JET」唄:栗林みな実
ED:
「DREAMIN'」唄:東京パフォーマンスドール
ここはオラーシャ上空にあるネウロイの巣の中。
そこで人のような身体を黒で覆われ、顔面の両目には紅い宝石のような目がついているネウロイがあちらこちらに表示されているモニターに映っている碧と一夏がネウロイと戦闘しているところを静かに見ていた。
【コレガ異世界ノ開発技術……ナルホド、タシカニ素晴ラシイ戦闘力ダ】
エコーがかった声を発しながらネウロイが碧と一夏がネウロイと戦っている感想を呟く。
【ダガ、同時ニ厄介デモアル。アレヲ呼ビ寄セタノハ間違イナク奴カ……」
このネウロイは既に蒼いフードの男の存在を知っていた。
しかし彼の行動には謎が多く、まだこのネウロイさえも詳細は分かっていない。
【シカシ、コイツ等ノ纏ッテイル機械ハ利用デキル。ダガ、ソレニハモットデータヲ集メナクテハ……ソレニハ】
ネウロイの背後から中型の戦闘機型のネウロイが形成されていく。
【奴等ニモット戦ッテモラワネバ。奴ガ何者カハ知ラナイガ、セイゼイ奴等ヲ利用サセテモラウカラナ】
この喋るネウロイは何者なのか……?
だが、それはまだ誰も知る由もない。
―――――
「これで報告内容は以上です。何か質問はあるかしら」
俺と碧がここに来てから翌日。
ミーナさんからミーティングがあるということで俺達はミーティングルームに集められて主な報告内容を聞いていた。
始めて会った時もそうだったが、ミーナさんは今日も笑顔だ。
「それじゃ、今日はこれで解散です。皆さん、次の戦いに備えて英気を養って下さいね」
ミーナさんのその合図で皆がそれぞれのペースでミーティングルームを出て行く。
「あ、東条君、ちょっといいかしら?」
俺達も一緒にミーティングルームを出て行こうとするとミーナさんが俺達をそう言って呼び止める。
「はい、何ですか?ミーナさん?」
「龍馬に何かご用でも?」
「ええ、ちょっとね。織斑君、悪いのだけれど、ちょっと東条君を連れて行ってもいいかしら?」
「ええ、それは構いませんけど……」
「ありがとう、というわけで東条君、ちょっと付き合ってちょうだい」
「ならば織斑は私と特訓だ!ここの一員になった以上今日から私がビシバシ鍛えてやるぞ!はっはっはっはっは!」
「坂本さん!私もお付き合いします!」
「そ、それなら私も……」
坂本さんが特訓と言い出すと宮藤とペリーヌがそう言って食いついてきた。
特訓か……特訓っていえばアリーナでいつもやってる特訓を思い出すな……。
まあ、宮藤やリーネが言うにはここでも特訓を毎日してるみたいだし。
付き合ってもいいかもな。
「分かりました。俺もご一緒させてもらいます」
「そうか、さすが男だ。男はそうでなくてはな!よし、私についてこい!」
「はい!」
宮藤とペリーヌの返事と共に俺も特訓に付き合うために坂本さんについて行った。
でも魔女のやる特訓ってどういうのなんだ……?
―――――
ミーナさんに呼び止められ、僕は今今日届いたという荷物をミーナさんと一緒に運び出して指示された位置に置いている。
「ごめんなさいね東条君、自分から頼んでおいてナンだけど、手伝ってもらっちゃって」
申し訳なさそうな表情でミーナさんが僕に謝罪する。
「いえいえ、このくらいたいしたことないですよ♪それに、これを女性一人で運び出すのは大変でしょうし。でも、こういうことだったら一夏も一緒に手伝わせたほうが早かったんじゃないですか?」
「男の子が細かいこと気にしないの。それにこのくらいの量だったら貴方だけでも対応できるでしょ?あ、その荷物はそこに置いてちょうだいね」
「分かりました」
両手に抱えている荷物をミーナさんの言われた通りの位置に置く。
これで全ての荷物を運び出すことができた。
「ありがとう東条君、助かったわ」
荷物を全て運び出した僕に笑顔でお礼を言うミーナさん。
別に僕はただ少しでもミーナさんの役に立てればと思って引き受けただけだからお礼を言われるほどではない。
「いえ、右も左も分からない僕等のお世話をして下さってるのですからこれぐらいは当然です。それにこういう時こそ男の腕の見せ所じゃないですか」
「男の子、ねぇ……」
「何ですか?」
「いいえ、東条君って織斑君と違って女の子っぽいから女装したら女の子に間違えられるんじゃないかな、って思って」
うぅ……人が何気に気にしてるところをさらりと……。
僕だって本当は一夏みたいな男らしい容姿に生まれたかったよ……。
でもしょうがないじゃん?こういう容姿で生まれてきちゃったんだから。
「僕はれっきとした男ですよ。それに僕に女装の趣味はありませんし」
「あらそう?私達みたいな格好して獣耳をつけたら違和感ないと思うけど」
いや……いくら認知されてるとはいえ、さすがに下がパンt―――ズボンを穿いて歩くのはちょっと抵抗あるな……。
「いや、遠慮しておきます。男としてのプライドがズタボロになりそうなので……」
「そう、残念ね……。じゃあ、そんな男の子の貴方に一つだけ質問していいかしら?」
「何ですか?」
「この基地には私を入れた11人の女の子がいるじゃない?貴方はその中で誰か気に入った子とか気になる子とかいる?」
すごく唐突な質問だ。
たしかに歓迎会で全員に自己紹介してもらって名前は覚えたけど、まだちゃんと皆のことを理解していないからまだハッキリとは分からない。
「すみません、まだ分からないです。まだ皆さんのことをよく知らないので。でも、どうしてそのようなことを?」
「いえ、特に深い意味はないのよ?でも見た感じ貴方も織斑君も年頃の男の子じゃない?だから誰かを意識してる子がいるんじゃないかって思って」
「いや……まあ、一夏のほうは分かりませんけど、僕もたしかに男なので異性にも恋愛にも興味ありますよ。でも、元いた世界で通っていた学校もここのように僕と一夏以外は全員女子だったので、異性のことを意識したことがあまりないんですよね。近くに異性がいるのが当たり前の環境だったので」
でも、僕がそうでも一夏は箒達に絡まれて大変だったんだけどね。
まあ、箒達が一夏に絡む度にキレるのは箒達も箒達だけど、一番悪いのは一夏が唐変朴だからだし。
「そう、だから二人共歓迎会の時あまり皆のことを変に意識してなかったのね。納得したわ」
「でもここにいる皆は魅力的な人達ばかりですから。たまに意識することはあるかもしれませんが」
「その魅力的な人の中には私も入っているのかしら?」
当たり前だ。
ミーナさんは僕が今まで見てきた異性の中でも十本の指に入るくらいの女の人だ。
そんな女の人が魅力的じゃない人は同性愛者と言っても過言ではない。
「もちろんです。ミーナさんは僕から見ても素敵な女性だと思いますよ。何か、お母さんみたいな感じがしますし」
「それはきっとここの隊長をやってるのが長いからだと思うわ。全体を見ないといけないし」
「はい、だから最初に会った時に思ったんです。ミーナさんが僕のお母さんだったらどうなんだろうって。僕はもうお父さんもお母さんも……いないですから」
「え……いない……?」
「小学生の時に交通事故で。だから、両親がなくなって以来、僕はお祖父ちゃんとお祖母ちゃんの家で育てられました。本当に唐突でしたよ。先生から連絡を受けて、君の両親が車に轢かれたって。でも、僕が病院に駆けつけた時にはもう……」
死んでいた……と言おうとしたが言えなかった。
自分から言うのが辛かったからだ。
ミーナさんもそれを察してくれたのか、【そう……】と静かに言って頷いた。
「ミーナさん、このこと……皆には内緒にしてもらえませんか?別に隠すようななことじゃないんですけど、湿っぽくしたくないので」
「分かったわ、この話は私の心の内に留めておくわ」
「ありがとうございます」
真剣な表情で聞いてくれたミーナさんに僕は頭を下げてお礼を言った。
よかった……この人だけでも話しておいて。
しかし……。
「はぁ、偶然通りかかっただけだってノニ……おもっくるしいの聞いちまったナ……」
偶然通りかかったエイラにまで聞かれてしまったことを碧は知る由もない。
―――――
「えっとハンガーって……ここだったよね……?」
ミーナさんの手伝いをした後、僕は昨日執務室に来る途中で見かけたハンガーに寄ってみた。
どうしてここに来たのかというと僕の世界にあったハンガーとこっちの世界のハンガーとの違いを確かめるためだ。
「ん?」
何かを削いでいるような音が聞こえてくる。
何かの工事でもやっているのだろうか?
「あれ~?おっかしいなぁ?どうなってんだ?」
機械的な効果音と混じって女性の声が聞こえてきた。
この声は間違いない。
あの人の声だ。
「う~ん、どこか調子悪いのかな?」
ストライカーの前に座り込んで唸っているその人のほうに歩いていく。
やはりなにかしらのトラブルが発生しているようだ。
「あの、どこか悪いんですか?」
「ああ、ちょっとストライカーの調子が悪くて―――って、うわあああぁあぁ!!」
「うおっ!?」
僕が後ろから声を掛けると、その人が素っ頓狂な声を出した。
ああ、ビックリした……。
でも僕の予想は当たっていた。
唸っていたのはやっぱりシャーリーさんだった。
「すみません、驚かせてしまって。何かすごい音がしたから何なのかなと思いまして」
「いや、こっちこそ悪かったな。急に変な声出しちゃって……で、お前のほうこそここに何をしに来たんだ?もしかしてお前も機械に興味あるのか?」
「まあ、そんなところです。それよりシャーリーさん、さっきまで唸ってましたけど、
何かトラブルですか?」
「ああ、ちょっとストライカーの調子が悪くってさ~。それでちょっと直そうと思ったんだけど、どこが悪いのか分からなくて……」
あはは、と頬を人差し指で掻きながら苦笑する。
なるほど、それで唸っていたのか。
でもこれくらいの機械なら僕もシャーリーさんの力になることができるかもしれない。
「シャーリーさん、ちょっとそのストライカーを見せてもらってもいいですか?」
「それは別にいいけど……まさかお前、直すつもりか?機械を弄るのが好きなあたしでも原因が分からないんだぞ?」
「直せるかどうかは分かりませんけど、もしかしたら直せるかもしれないので。じゃあ、ちょっと見せてもらいますね」
シャーリーさんにそう言って、ストライカーユニットを見せてもらう。
見たところ何の異常もなさそうだけど……なるほど……ストライカーユニットってこんな風になってるのか……。
それによくできてる……解体して中を覗いてみたいくらいだ……。
たしかストライカーユニットって宮藤さんのお父さんが開発したんだよね。
「(……なるほど、原因が分かったぞ。これぐらいなら僕でも直すことができそうだ)シャーリーさん、用具セットを貸してもらっていいですか?」
「えっ?ああ……」
シャーリーさんは言われるがままに用具セットを手渡してくれた。
僕はそれを受け取り、【ありがとうございます】とお礼を言うと、袖を捲り上げる。
「もしかして原因分かったのか?」
「はい、これなら十分ぐらいで終わると思うのでしばらくお待ち下さい」
「ああ……」
シャーリーさんに待つように言って、僕は作業を開始し、ハンガー内にドリルやスパナといった用具で機械音を響かせた。
………………。
…………。
……。
「ふう……これでいいかな?」
数十分間の奮闘の末、額に付着した汗を手で拭う。
でもこれでストライカーは通常通りの機能を発揮することができるはずだ。
「シャーリーさん、試しに動かしてみてくれませんか?」
「ああ……でも、本当に直ったのか?」
「はい、僕を信用して下さい。こう見えて機械には強いつもりですから」
「そうか……じゃあ、あんたを信用して履いてみようかな……」
シャーリーさんはまだ僕が直したことが信じられないようだったが、最終的には僕を信じてストライカーを装着した。
シャーリーさんがストライカーユニットを履くと僕はその場から少し離れた。
「いいですよ、動かしてみて下さい」
「分かった」
言われるがままにシャーリーさんがストライカーを起動させた。
起動させると軽快な効果音と共にストライカーの足元にプロペラが出現し、ヘリコプターが飛び立つ前のような効果音がハンガー中に響き渡る。
「……」
シャーリーさんが唖然した表情をしている。
だが、しばらくの沈黙の後……。
「おおっ!すっげええええええ!!マジであたしのストライカーが直ってる!!」
「よかったです。やっぱり僕の推察に間違いありませんでしたね」
「で、結局何が原因だったんだ?」
「そのストライカー、回路がショートしてたんです。だから回路のところをちょっと弄ったんです。よかったです、直って」
故障した原因を聞かれたので僕はそれをすらすら答える。
ストライカーユニットの機械構成ってIS程入り組んでなかったから、見ただけですぐ原因が分かった。
IS学園でよく自分のISの整備をしてて身に付けた知識がこんなところで役に立つなんて思ってもみなかったけど。
「回路か……それは気付かなかったな……ま、何にしても直してくれてありがとな。助かったよ」
お礼を言うと、シャーリーさんはニカッと僕に笑顔を向ける。
別に大したことはしてないつもりだけど、シャーリーさんには喜んでもらえたようで何よりだ。
「いえ、困った時はお互い様ですから。また何かあれば言って下さい。僕でよければいつでも力になるので」
「っ!」
自然なスマイルを向けるとシャーリーさんが途端に顔が赤くなった(ような気がする)。
「シャーリーさん、顔が赤いみたいですけど大丈夫ですか?」
「へっ?あ、ああ!大丈夫だ!何でもないから気にしなくていい!」
シャーリーさんが顔を赤くしたまま僕から視線を逸らす。
まあ、何でもないなら別にいいんだけど……。
「そうですか。それなら僕はもう行きますね。他に見て回りたいところもありますし」
「ああっ!ちょっと待て!」
格納室を後にしようとすると、シャーリーさんが慌てて引き止める。
「どうかしましたか?」
「え……あ、いや、その……なんつ~か……」
「?」
シャーリーさんは変にもじもじしている。
さっきまであんなにおおらかだったのにどういう変わりようなのだろうか。
「機械に興味あるならまたここに来てくれるか?あたし任務がない日は大抵ここにいるからさ……」
そうだな、自分のISを弄るのも悪くないけど、ストライカーユニットを弄ってる内にそれにも興味持ってきたし、たまにここに来るのも悪くないかもね。
「はい、お邪魔でなければいつでも来させて頂きますよ。この世界の機械にも興味が湧いてきましたし」
「そ、そうか……それはよかった。じゃあ機会があったら一緒に機械について語らないか?あたしもお前のISっていう機械に興味あるし」
「はい、機会があればその内に。それじゃ、僕はこれで失礼致しますね」
「ああ、またな」
シャーリーさんに見送られながら僕は今度こそハンガーを後にした。
さて、次はどこに行こうかな?
―――――
「……」
あいつの後ろ姿を見えなくなるまで見送る。
「まさかあいつがあそこまで機械に強かったなんてな。人は見た目にはよらないとはこのことだな」
でも、今はそれ以上に胸がドキドキしている。
女みたいな顔してるけど、頼りになって優しい。
今まで異性には興味なかったけど、あいつと会ったことによって変わったかもしれない。
「あいつのこと……ちょっとだけ興味出てきちゃったよ。次からはここにちょくちょく誘ってみるか」
誰もいなくなったハンガーの中であたしはそんなことを密かに考えていた。