インフィニット・ウィッチーズ 空駆ける自由の翼 作:天野蒼夜
OP:
「STRAIGHT JET」唄:栗林みな実さん
ED:
「DREAMIN'」唄:東京パフォーマンスドール
俺と碧がこの世界にやって来てから早一週間。
まだ不慣れなところがありながらも俺達はだんだんとこの基地での生活にも慣れてきた。
そして俺は今高い射撃能力を持っているリーネに滑走路近くにある場所で射撃訓練を受けている。
「すげぇ……あんな遠くの的をほぼ真ん中に当ててる……(この射撃能力、セシリアやシャルと同等、いや……それ以上かも……)」
まずはお手本からということで、リーネがまずライフルを用いて数km先の的めがけて発砲している。
俺もその様子を双眼鏡で覗いているのだが、全ての弾をほぼ真ん中に当てている。
いや……そもそも肉眼では米粒サイズしか見えない弾を当てること自体すごいことなのだ。
「どうだ織斑?これがリーネの得意な精密射撃だ。リーネは視力を上げることによってスコープを装備しなくても遠くのものを正確に当てられる固有魔法があるんだ」
「でも今は獣耳が生えていないから固有魔法は使っていませんよね?」
「そうだ、つまり固有魔法を使えばもっと遠くのものを撃ち抜くことが可能ということだ。どうだ?すごいだろう?」
たしかにすごい……もしリーネがIS適正者だったらセシリアを圧倒できるかもしれないとちょっと考えたくらいだ。
坂本さんが誇らしげにリーネを持ち上げていると、丁度終わったのか、リーネが伏せていた上体から立ち上がって俺にライフルを手渡す。
「はい、じゃあ次は織斑君が撃ってみて」
「いやいやいや!あんな遠くのものを撃つとか絶対無理だって!せめて鷹の眼とかないと!」
「こういうのは習うより慣れたほうが早いんだよ?私だって慣れるまで時間かかったけどできるようになったんだから」
「いや、お前の場合は元々素質はあったがスランプ気味になっていただけだ。織斑とは違う」
「ああ、そんなこともありましたね……あの時は本当に大変でした。自分に自信が持てなくて……」
あんなすごい射撃ができるリーネでもそうだった時期があったんだな……。
よし、それなら俺もちょっと頑張ってみるか。
意を決して俺は差し出されたライフルを受け取った。
「おお、織斑。やる気になったか」
「成り行きとはいえ、俺も射撃には慣れたいですから」
「そうかそうか、その意気だぞ織斑。これが終わったら今度は私が剣の稽古をつけてやる!」
お、それは楽しみだ。
宮藤が言うには坂本さんに日本刀を持たせたら右に出るものはないって言ってたしな。
「それは楽しみです。じゃあ、俺も訓練を頑張るとしますよ。リーネ、早速正確な撃ち方を教えてくれ」
「うん、まずはそこに伏せて……脇を占めて目標先に神経を集中させて、それから……」
「お、おう……(リーネ、教えるの自信ないって言ってたけど、そうでもないな。シャルの時と同じで分かりやすい。これにセシリアと来たら)」
アリーナでセシリアに射撃を教えてもらっていた時のことを思い出す
てっきりシャルのように教えてくれると思ってたけど、あいつと来たら……。
<何をしていたの!?右腕が3℃下がっていますわよ!ああっ!それでは2℃上げすぎですわ!どうしてできないんですの!?こんなの基本中の基本ですわよ!>
……だもんな。
リーネがシャルと同じタイプでよかったよ。
「?どうしたの?」
「ああ、何でもない。で……このまま撃てばいいのか?」
「うん、そうだね。試しに撃ってみて」
「よし、行け!」
銃口からドンッ!という大砲のような音を立てながらアーモンドサイズの銃弾が一直線に飛んで行く。
弾丸のように速く飛んで行ったため、銃弾は一瞬で見えなくなった。
「……かすりもしてないな。やはりお前は東条が言っていたように射撃は不得手のようだな」
いや……これ不得手とかそういうレベルの問題なんですか……?
俺には無理ゲーには思えないんですけど……。
「反動でちょっと軌道がずれちゃったみたい。ライフルは威力が高い分撃った時の反動も大きいからしっかり固定しないと真っ直ぐ撃てないの」
「そうか……やっぱり難しいんだな、射撃って……」
「まあ、そう気を落とすな織斑。これから少しずつ慣れていけばいいのだからな。さ、気を取り直してもう一回だ」
「は、はい!」
坂本さんに言われ、俺は再びライフルを構えた。
この時、俺は改めてこの世界に魔女達のレベルの高さを実感したのだった。
―――――
「よし、今日もあたしのマーリンエンジンはいい調子だ!」
格納庫に格納された自分のストライカーユニットを起動させて豪快なエンジン音を立てる。
今日もあたしのストライカーユニットは絶好調といっていいだろう。
「けど……こんなんで満足しちゃダメだ。もっと上を目指さないと―――」
「シャーリーさん」
「ん?」
ふと後ろから声がしたので、あたしはその方向に顔だけ向ける。
「おお、碧じゃないか。どうしたんだ?」
「シャーリーさんがあの時いつでも遊びに来ていいとのことだったので来てみたんです。今日は何をしているんですか?」
そっか、そういえばいつでも来ていいみたいなこと言ってたっけな。
あたしとしては嬉しいけどさ。
「ストライカーを改良していたんだ。あたしは任務がない時はいつもやっているからな」
「改良って、どこを改良したんですか?」
「もちろん速度さ。これはあたしにとっての生き甲斐の一つだからな」
当然のように言ってのける。
「速度を改造したってことはシールドのほとんどをスピードに回してるってことですよね?でも……速度と言ってもどのくらい速いんですか?」
「それだったらついておいで、見せてあげる。ルッキーニ、記録係よろしく!」
「うん、任せてシャーリー!」
あたしの声を聞くと上にいたルッキーニが降りてきて、速度を量る測定器を首に掛ける。
「(よし、いっちょあいつにいいとこ見せてやるか)」
そんなことを思いながら、格納庫の外に出る。
外に出ると魔導エンジンを起動させて空高く飛んで行く。
空を直進、時にはUターンをして徐々に速度を上げていく。
「600……700……750……800……すごいよシャーリー!800を超えたよ!記録更新だよ!」
「ホント!?いやったぁ!うわわぁあっ!」
しばらく滑空した後、碧達のところに戻って来るとルッキーニにそう言われてあたしは大きくガッツポーズする。
だがそうしたことによってその拍子でバランスを崩して地面に落ちそうになる。
「危ない!」
あたしが転びそうになったのを見て碧が身体全体を使って後ろからあたしを捕まえて転ぶのを阻止してくれた。
「だ、大丈夫ですか……?シャーリーさん?」
「あ、ああ……大丈夫だ……。そんなことより……手、当たってるんだけど……」
「手……?あっ!?」
碧があたしを後ろから支えようとしてくれたところまではいいのだが、その拍子にあたしの胸を後ろからガッチリと鷲摑みにしているのだ。
碧はそれに気付き、慌てて手をあたしの手から放す。
「す、すみません!これは事故であって、決してわざじゃないですから!」
顔を赤くさせながら碧がそう言ってあたしに謝る。
赤くなっているところが本当に女みたいで可愛い。
でも碧がわざとやったわけじゃないのは分かってるから【気にするな】と言ってすぐに許した。
「それよりもさ……碧、あたしの飛行、どうだった?」
「はい、カッコよかったですよ。自分のことをスピード狂って言ってるだけあって……」
「そ、そっか……ありがとう……」
何か……ちょっと碧が照れるからあたしまで照れちまうな……。
でも碧はその照れている表情をすぐに消していつもの落ち着いた表情に戻った。
「ところでシャーリーさん、シャーリーさんがさっきまでやっていたやつ、僕もやってみていいですか?」
「碧もやるの?」
「うん、シャーリーさんがやっているのを見て、心に火が点いちゃったからね」
笑顔、かつどこか挑戦的な眼差しで言う。
でもそれは面白そうだ。
ISがどんくらい速いかあたしも知りたいって思ってたし。
「それいいね。それじゃ早速見せてみてくれよ。ルッキーニ、記録係よろしく!」
「分かった!」
「じゃあ早速行ってきます。しばらくしたら戻ってきます。では、発進!!」
そう言うと、碧は少し体勢を低くして、大空高く飛び立っていった。
それと同時にそこから強い風が吹き荒んだ。
「すっご~い、もう見えなくなっちゃったよ」
「今何km?」
「300kmだよ。最初らへんでもうそこまでいくなんてすごいよね。ところでシャーリー」
「何だ?ルッキーニ?」
「シャーリーってさ、碧のこと好きなの?」
「はへっ!?」
ルッキーニのいきなりの言葉にあたしは思わず噴き出しそうになる。
「おまっ!?い、いきなり何言い出すんだよ!?」
「ん~、実はさっきから気になってたんだよね。シャーリー、碧と話すると度楽しそう
だし。もしかしたらと思って……で、実際どうなの?好きなの?」
にやにやしながら再度聞いてくる。
ここで適当にはぐらかすこともできるが、ここまで知られている以上、あたしはごまかす気になれなかった。
「ああ……好きだよ。異性として……」
「ふ~ん、やっぱりそうなんだ。でもシャーリーは碧のどこに惚れたの?見た目とかじゃないよね?」
「そ、それは……えっと……」
考えてみればどうして自分が碧に好意を抱いているのかはいままで考えたことがない。
いや、正確にはそんなことを考える度に胸がドキドキして考えられないといったほうが正しいかな……。
「えっと……笑わないか?」
「うん、笑わないよ。約束する」
笑顔で約束する。
それなら言っても大丈夫だな。
「えっとな……あたしが碧を好きになったのは……その……ひ……」
「ひ?」
「……一目惚れだよ」
ルッキーニに聞こえるくらいの小さな声で伝える。
どんなに考えてみてもそうとしかこの気持ちを表せそうになかったのだ。
「そっか、一目惚れか~。女の子にはよくあるよねそういうの」
「ああ……よくあることだよ。それより今、何kmまでいった?」
だんだんこそばゆくなってきたあたしは話題を逸らすようにルッキーニに聞く。
ルッキーニはそれが分かっているのか、にししと笑って測定器を見た。
「えっと、今の速度は……って、えぇえええええええぇっ!?」
「どうした?」
「シャーリーシャーリー!これ!これ見て!」
ルッキーニが慌ててあたしに測定器を見せる。
見てみると、それには信じられない数字が表示されていた。
「時速1200km!?ウソだろおい!」
「シャーリー、1200kmって言ったら……」
「マッハのスピードだ……あのISっていうやつ……一体どんなポテンシャルを秘めているんだ……?」
機会があったら解体とかさせてもらおうかな……?
「あっ!噂をすれば碧が戻って来たよ!」
ルッキーニが空の彼方を指差してその方角を示した。
その方角を見ると、ルッキーニに言う通り碧がこっちに向かって飛んで来ていた。
碧はあたし達の元まで来ると、減速して地上に降り立った。
「どうでしたか?自分では最速を保ったつもりなんですけど」
「すごいよ碧!シャーリーの記録軽く飛び越えちゃったよ!1200kmだよ!?」
ルッキーニが半ば興奮しながら碧に報告する。
でもそれはあたしも同じだ。
「お前のフリーダムってやつすごいな!測定器見てて興奮しちゃったよ!」
「ありがとうございます。やっぱり全速力で駆け抜けるのって気持ちが良いですね」
「それでさ碧、走ってきたお前に聞きたいことがあるんだけど、いいか?」
「何ですか?」
「その……時速1200kmのスピードで駆け抜けるのってどんな気分なんだ?」
未だに収まらない興奮を保ちながらあたしは碧に尋ねた。
「そうですね……」
ISの展開状態を解除して、碧が腕を組みながら考えるようなポーズをとる。
あたしはそれをワクワクしながら答えを待った。
「答えになっているかは分かりませんが、とにかく全てがカメラのフィルムのように速く感じるんですよ。でも第一に風が気持ち良かったですね。すみませんロクな感想じゃなくて」
あたしの質問に碧がそう言ってハキハキとした口調で答える。
そっか、やっぱりそんなことになるのか~。
あたしも速くそんなスピード出せるようになりたいなぁ~。
けどそれにはもっとマーリンを速くできるように改良しないとな!
―――――
「……」
碧がシャーリーとルッキーニと速度について楽しく会話しているところを滑走路の陰から覗き込んでいる人物がいた。
「そんなところで何してるの?エイラ?」
「ヴェ!?」
後ろからいきなり声をかけられてエイラは変な声を出しながら後ろを振り返る。
「さ、サーニャ……何だ、どうした?何か用カ?」
「ううん、用ってわけじゃないけど。ただ最近、エイラが東条君をストーキングしてるって皆から聞いて……」
「す、ストーキング!?わ、私は別に東条をストーキングなんてしてないゾ!?」
「だって最近のエイラ、いつも東条君の近くにいるし。さっきまでだって私に声をかけられるまで東条君を真剣な顔つきで見てたし」
「そ、それはその……あれダヨ!東条がシャーリー大尉達によからぬことを
しないために見張ってたんダヨ!」
「何でエイラがわざわざそんなことを?そういうのはミーナ中佐の仕事だよ?」
「うぅ……それはそうなんだけどサ……」
「話してみてよ。何か理由があるんでしょ?」
「……」
エイラはしばらく黙っていたが、エイラは基本サーニャにウソを吐けないため潔く話すことにした。
「実はさ……あいつが来た翌日に東条とミーナ中佐が外で話してるのを聞いちまってサ……」
「それとエイラの今の行動にどう繋がるの?」
「あいつさ……両親がいないんダヨ。小学生の頃に交通事故で亡くしたッテ。だからミーナ中佐を最初に見た時お母さんみたいに思ったんダッテ……」
「両親が……いない?」
「ああ……だから、ここにいる間だけでもあいつに家族ってのを感じて欲しいんダ。だから遠くからあいつがここに 馴染めてるかどうか見てたんダ」
「……そう、そういうことだったの。エイラって優しいね」
「バカ……そんなんじゃねぇヨ……」
「でも、それなら尚更エイラも東条君と話したら?貴女もその家族の一員なんだから」
「……その内ナ」
そう言うと、エイラはサーニャを横切って歩いて行った。
サーニャはそんなエイラの後ろ姿を見て苦笑する。
「(優しいけど……素直じゃないよね。エイラって)」
心の中でそんな感想を漏らし、サーニャは歩いて行くエイラの後を追って行った。
「ん?」
エイラとサーニャが歩いて行くと、碧は何かに気付いたようにエイラとサーニャのいた陰のところに視線を向ける。
「どうした碧?」
「いえ……さっきまで誰かの視線を感じたような気がして……」
「そうか?あたしは別に何も感じなかったけど?」
「あたしも~気のせいじゃない?」
「ん~……誰かに見られてると思ったんだけどなぁ……」
しかし、それを見ていたのがエイラだったということを碧はもちろん気付くことはなかった。