ミッションに向かうアキラ達を見送って、俺は技術屋共の城に向かう。リッカからの呼び出しだ。
技術部区画は、所属する技師全員が作業に使う共用の大部屋とその中にパーティションで小分けされた班ごとの固有スペースがあって、奥には各班の班長だけが持つことを許される専用の作業室がある。
にしても、本当に何がしかの機械の音が絶えない場所だ。
まぁ、この騒がしさは嫌いじゃない。
「おーい、リッカ来たぞー」
班員達と作業に勤しんでいたリッカに声をかけると、作業の手を止めて、こっちを振り向いた。
「ちょっと離れるから後よろしく頼んだよ」
「任せといてください!」
副班長と思しき、機械油と何かで汚れて黒ずんだツナギ姿の男がリッカに元気良くそう返事を返す。そして、リッカは俺のところまで来ると、
「お待たせ。それじゃ、付いてきて」
「あいよ。ところで、お前んとこの班でイジってたアレって神機兵だろ?」
神機兵と言うのは、ブラッド隊の所属する極致化技術開発局によって開発され、現在は重機の運搬などの後方支援に用いられている全長5メートル程度の大型の人型兵器で、元々はゴッドイーターでない普通の人間でもアラガミと戦えるゴッドイーターの代わりとなる戦力として期待されていた代物だ。
そうであるだけにスペック的には十二分にアラガミとの交戦にも耐えうるそうだが、操縦がなかなかに難しいらしく、戦闘用では用いられることはない。そう言えば、サクラはこれに一回乗って、それで懲罰房入りしたとか何とか言ってたな。
「うん。レア博士からの依頼でね」
レア・クラウディウス博士。極致化技術開発局室長で、神機兵開発の総責任者だったはずだ。直接会ったことは無いが、なかなかに良い女だと言うのは、極東支部きっての遊び人、真壁ハルオミ談。
「てか、アレ新型か?」
「うん。この極東支部で試験運用するんだって」
「ま、なんかの役に立つってんなら俺は大歓迎だけどな」
そんな話をしている内にリッカの作業室に到着した。リッカが慣れた動きで、解鍵のパスコードを入力すると、鍵が外れる音と共に扉が開き、中に入る。
部屋の中は、俺にはよくわからない機材とかで一杯で、人1人が動くのが精一杯と言った感じで、部屋の中央の作業台の上に俺の神機が安置されていた。そして、俺が作業台に近寄ると神機から触手が伸びてきて、勝手に腕輪のコネクターに接続する。
「おいおい。そんなに待ち遠しかったかよ相棒」
「うんうん、やっぱりこう言う事か」
「なに1人でそんな分かった風に、うんうん言ってんだ?」
「まずは、これを見て」
そう言って、リッカがタブレット型の端末の画面を見せてきた。そこには何かのグラフが上下に2つ並んでいて、上のものはグラフの上下の差が激しく落ち着いた感じがしないが、下の方は多少の上下の乱れはあっても、ほぼ横一線と言った具合だ。
「上のグラフは今日まで測ったもので、下のグラフが今測ってる神機の安定稼働率なんだ。何をやっても落ち着かないから、試しに中尉を呼んでみたんだけど、正解だったよ」
「なんだそりゃ。まるで、親が近くに居なくて泣き喚く赤ん坊じゃねぇか」
「それだけ、神機の自我がはっきりしてるんだろうね。まぁ、中尉の侵食率だとそれは危険なんだけどね……本当にそれでも出るの?」
「当たり前だろ」
サカキ博士には良い加減キツイとかいい歳とか言ったが、それでもやっぱり俺はずっと立ち続けていたい。
「そう言うと思ったよ。だから、ちょっとした保険をかけておくよ」
リッカはそう言うと、あれよあれよと言う間に俺の腕輪に電極とその他コード類を繋ぎ、接続したキーボードを叩いて何かを入力していく。
「一程度以上、戦闘時間が経過したら強制的に神機が停止するようにしたから、これで少しは神機からの侵食も抑えられると思う」
「一程度ってどのくらいだ?」
「1時間くらいかな」
1時間……まぁ、先手必勝短期決戦が基本だから、1時間もあれば十分に戦えるか。
「あ、それとね。神機が活性化するバースト状態はあまり多用しないでね。神機がまた暴走するかもしれないから」
マジか。実質のバースト禁止とか……まぁ、なんとかするしかないわな。それに、バースト状態でなくたってやりようはいくらでもある。
てなわけで、
「早速やって参りました復帰ミッション」
おおよそ3ヶ月ぶりのミッション。錆びつきに錆びついた勘を磨き直すためにひとまずは軽くオウガテイル狩り。目標の討伐数は3体。
新人育成ミッションと同じくらいの簡単なミッションだが、鈍りに鈍った今の俺にはこれくらいからがちょうどいいだろう。
個人で複数を討伐する時の基本は、いかに各個撃破するかだ。ん? ベテランなら複数のアラガミに囲まれても鼻歌歌いながら撃破してみせろよって? アホか。むしろ、いかに上手く各個撃破に持ってくかが、ベテランとしての腕の見せどころだっての。
そして、そう言う点で考えた場合。中型種や大型種のアラガミより小型種の方が厄介だ。奴らは本能的に自身のアラガミとしての強さが然程でもない事を理解しているから、いかなる状況であろうとも群れようとする習性がある。だから、それを利用して罠に嵌めて、皆で寄って集って叩くだけの簡単なお仕事ですって状況に持ってきやすくもあるが、それはゴッドイーター複数人が居てはじめて出来ることで、単身任務の俺にとってはただただ面倒でしかない。
「見つけた……って、1匹ヴァジュラテイル混じってんぞ、おい」
オウガテイルを引き連れるようにして、群れの先頭をのしのしと歩く、オウガテイルに似ているが、どことなく大型種ヴァジュラのようにも見えるアラガミ名はヴァジュラテイル。
激しい生存競争の中で、稀に小型種であっても大型種を捕喰する程の力を得るものがいて、ヴァジュラテイルもそう言ったもののひとつだ。なお、大型種を捕喰するだけあって、そこいらの小型となめてかかると死ねる。
「まぁ、なんとかなるだろう」
神機も「任せろ」とでも言うように陽の光を反射している。