最後の回復錠を口に放り込んで、ついでに強制解放剤を神機に注入してバースト化、そこから一瞬の溜めと共に駆ける。ブラッドアーツ『CC・チェイサー』を放ち、ハンニバルもどきを切りつける。もうどれだけ斬撃を浴びせたか分からない。でも、まだまだハンニバルもどきは元気いっぱい。
「いい加減飽きてきたわね」
「なんで、そんなに余裕なんですか? もう回復錠も回復柱も何にもないんですけど!?」
サクラがそんなツッコミを入れて来るけれど、
「アラガミとの戦いはアイテムの類が無くなってからが本番よ。それに、あれだけ切り刻めばあの甲殻も効果が大きく減ってるはず。むしろ戦い易いんじゃないかしら」
「まぁ、もう甲殻が甲殻の意味を成さないレベルで結合崩壊してるけど……」
そう言って、サクラがハンニバルもどきを見る。
ハンニバルもどきの全身を覆う鎧のような甲殻はもはやただの重りでしかないレベルで崩壊している。
5分くらいずっと警戒するようにこちらを見ていたハンニバルもどきが突如吠える。そして、左腕を大きく裂けた胸部甲殻の部分まで持っていくと、指をその隙間に入れて自身から用済みの甲殻を引き剥がし始めた。それを見ていたサクラは神機を銃形態にして、射撃を叩き込んだ。放たれたバレットがハンニバルもどきの右の脇腹あたりに命中し、ハンニバルもどきの本体を抉る。
「最後の最後でようやく一撃かぁ、本当かったいなぁ」
「それでも傷は傷よ……と、来るわよ!」
甲殻を引き剥がす手を一旦止めて、ハンニバルもどきが斬りかかって来る。それを左右に散開してそのこうげきを避けて反撃を叩き込もうとしたら何かが飛んで来る。どうやらあの甲殻の破片らしいそれを刀身の腹で受け止めて逸らす。その間に体勢を整えたハンニバルもどきが、体を捻って右の剣を左の腰にさながら、かつてこの極東に存在したと言うサムライがやる居合いのような構えを見せると、その剣を抜き放ちながら私達の間を駆け抜ける。その瞬間、全身を無数の斬撃に斬りざまれる。
「ブラッド……アーツ?」
起き上がりながらサクラがそう言う。確かにサクラが言うように先程のハンニバルもどきの攻撃はブラッドアーツに似ていた。でも、ブラッドアーツは神機とゴッドイーターの感応現象によって生ずる技だったんじゃ……まぁ、そんな人間の常識が日々進化を続けるアラガミに通用するわけもないか。 神機と融合した神融種なんてのも居るんだし、ブラッドアーツを扱うアラガミも出て来たっておかしくもない。
『聞こえるかい? ユウ君、サクラ君』
『俺だ。神薙とサクラ、聞こえてたら返事くれ』
耳につけた通信機からそんな声が同時に聞こえた。
「はいはい。どっちも聞こえてるわよ」
「良かった。通信が回復したんですね」
『全員が無事で何よりだ。ところで中尉の神機はなぜ稼働状態にあるんだい? リッカ君から作戦行動時間が1時間を超えたら強制的に接続を解除するって報告を受けてるんだけど……まさかね』
『お叱りなら後で幾らでも、とにかくハンニバルもどき野郎をぶっ倒さねぇとな。そっち今どうだ?』
中尉が何をやってるか大体察しが付いた。あの人は戻って来ようとしてるんだろう。大人しく私とサクラに任せておけば良いのに本当バカな人なんだから、
「え? え? 中尉さん。ブラッドの皆と撤退したんじゃ……?」
『すまない隊長。中尉がどうしても、と……』
『おいジュリウス君。何お前は無理矢理付き合わされてるみたいなことを言ってるのだね? 俺を追い越して最前列突っ走ってる子が何を言ってんだね』
『なんでも良いから皆無事で戻って来てね。それと中尉は帰って来たら個人的にも“お話”しようか』
『減給でも懲罰房送りでもなんでも好きにしてくれや』
ハンニバルもどきの剣を捌きながら通信を続けていると、突然ハンニバルもどきが攻撃の手を止めて比較的損壊の少ない廃墟ビルの方を見ると、唐突に左腕の盾が密着した部分に剣を当てると、ガッと削ぎ落とした……って、なんでいきなり盾を?
そう思っていると、その廃墟が爆破音と共にこちらに向かって倒れて来る……何が起きてるの!?
瓦礫を跳ね飛ばしながらハンニバルもどきが立ち上がる。そして、そこに白い影が飛び込み、何かがハンニバルもどきに喰らいついた。
「おいおい、ボコボコじゃねぇか。これならわざわざ戻って来るまでもなかったか?」
ハンニバルもどきの首に白色に染まった捕喰形態の神機を食い付かせた中尉が、ハンニバルもどきの背中の上でそんなことを言っている。ハンニバルが振り解こうと大きく体を振り回すけれど、食い付いた神機は離れない上に中尉は激しく動き回るハンニバルもどきの上で踊るようようにめまぐるしく足を動かして、落ちる様子はない。
「侵喰率が大台突破したせいか、身体能力がいよいよマジモンの化物の域だ」
そんなことを言うと中尉は軽く跳んで、喰い付かせていた神機を離させるとハンニバルもどきの上から降りるけれど、その姿はアラガミをすぐ後ろにしているわりには警戒がなさ過ぎる。あれでは首を落とせと言っているようなものだ。案の定、ハンニバルもどきが剣を振り下ろす。が、その刃を神機から伸びた顎が噛んで止めている。
「やれやれ、神機の方が危険を察知して勝手に防御とかな。いよいよこの野郎、俺の体をてめぇのもんだとか思ってんのかね」
中尉が自嘲気味にそう言うと、神機の顎が1人でに動きハンニバルもどきを投げ飛ばし、バレットの雨がハンニバルもどきに降り注ぎ、
「はぁッ!」
黒と金の神機を持ったジュリウスが弾雨の中を突っ切ってハンニバルもどきに切り掛かり、それに合わせて何処からともなく現れたリヴィが鎌型の神機を中尉の神機が喰いちぎった首の後ろに振り下ろす。前と後ろからのはさみ打ちに対して、ハンニバルもどきはジュリウスが袈裟懸けに振り下ろす斬撃を無視し、右の剣を使ってリヴィを迎撃したが、代わりに胴体部に直撃を食らう。もちろんジュリウスが狙ったのはハンニバルもどきが自分で甲殻を引き剥がした部分で、さながら血液のようなオラクルが飛び散る。
「まだだ!」
そう言って、ジュリウスが完全に振り下ろしきった神機を無理矢理持ち上げて、ゼロスタンスの構えを取って駆ける。ハンニバルもどきが左腕を突き出して迎撃しようとするが、ジュリウスはそれを地面に倒れそうなくらいに体を倒す事ですり抜け、体勢を立て直しながら神機を振り抜く。それと共に無数の斬撃がハンニバルもどきを切り刻む。更に駆け抜けざまに体を反転させて、インパルスエッジを叩き込み、その反動を利用してハンニバルもどきから離れる。
「まったく、容赦がないな。私に当たったらどうする」
いつの間にやらハンニバルもどきから離れていたリヴィがジュリウスにそう言う。
「お前なら無事だと判断しただけのことだ。それに実際無事だった」
「まったく、随分と変わったなジュリウスも」
そんな会話をしているジュリウスとリヴィに向かって、ハンニバルもどきが駆け寄る。相変わらず速い。とても消耗しているようには見えない。まぁ、とりあえず、
「急な登場で思わず動きが止まってしまったけれど、だからって無視はいただけないわね」
怒っているのか、ジュリウスとリヴィしか目に入っていない様子のハンニバルもどきに斬撃を叩き込む。ろくに警戒もしていなかった方向からの攻撃を受けてハンニバルもどきが吹き飛ぶ。吹き飛んだ先には剣形態の神機を真っ直ぐ頭上に振り上げたサクラとチャージクラッシュの構えを取るロミオが居る。
「行くよ! ロミオ! ナナ!」
「おう!」
「デッカいの行くよぉ!」
同時のタイミングで放たれた一撃がハンニバルもどきを地面に叩き伏せる。そこへ更に真上から真紅の輝きを纏ったギルバートが突撃し、完全にダウンしているハンニバルもどきの背中にボロボロになっていた甲殻を貫いて深々と槍の矛先が突き刺さり、ハンニバルもどきがこれまでにない絶叫をあげて、そのまま倒れ伏して動かなくなる。
「結局、俺いらなかったなコレ。ああ、これならこんな無茶しなくても良かったかもなぁ」
そう言う中尉の姿は、あまりにも白かった。無機質なまでに白く染まった髪と髭に病的なまでの白い肌。そして、アラガミと同じ黄金色の瞳……どう見ても、手遅れの姿だ。いつアラガミ化したっておかしくない。
「中尉さん……」
「そんな泣きそうな顔すんなって、ゴッドイーターやってりゃあ良くあることだ。仲間がアラガミになる。てめがアラガミになる。俺みたいに引き際も考えずにバカやってればこうなる」
そう言うと、中尉は自分の神機を地面に突き刺すと首を差し出すように座って、
「俺がアラガミになる前にやってくれ。どこぞの名前も知らんような奴にやられるくらいなら……」
「嫌です」
そう言って、サクラは中尉の前に向かい合うように座って、
「まだ。まだ何か手があるはずなんです。それに中尉さんも良く言ってるでしょ。最後まで絶対に諦めるな、って」
「いやここまで来たらもう何の手の打ちようもない。もう赤線は超えちまったんだ」
「でも、でもぉ……」
「悪いな。俺はバカだからよ」
そう言うと、中尉が無造作にサクラの腹に拳を叩き込んで気絶させた。そして、
「サクラを頼む」
中尉がそう言うと、ジュリウスが向かいサクラお受け取ってから、
「まったく酷い人だ」
「最低のクソ野郎とでも何とでも好きに言えば良い。実際、その通りなんだからな」
そう言葉を交わして、ジュリウスが下がる。さて、と……
「ジュリウス。あなた達は先に回収ポイントに向かってちょうだい。中尉の介錯は私が引き受けるわ」
「了解した。シエル皆、行こう」
私の言葉に従って、ブラッド隊がその場を離れて行く。
「そういや、俺がお前とまともに付き合うようになった時もこんな感じに2人だったっけか。まぁ、あん時とは状況が全然違うわけだが」
「そうですね。それまでは、良く雨宮教官に同行者を変更してくれって良く頼みましたっけ」
「アレな。結構、傷付いたんだぞ?」
「私だって、誰も彼も受け入れる聖人君子じゃありませんから、普通に人に対して好悪つけますよ。まぁ、あの時の私はまだまだ子供だったってことで許してください」
「まぁ、そりゃあ俺みたいなおっさんよかコウタとか、若いのの方がやりやすいってのは分かるし、気にもしてない」
「そう言えば、1人突出して孤立した私を助けに来てくれたこともありましたっけ」
「あったなぁ。まぁ、あん時は別に俺としちゃお前が死のうがどうでも良かったんだけどな。でも、お前はアリサ除いたら唯一の新型ってわけで見捨てることも出来なかったわけよ」
「そうだったんですか?」
「まぁな。あん時散々怒鳴り散らしたのは心配だったんじゃなくて、単純に俺が駆り出されたことに対する鬱憤ばらしの面が強い。けど、あの説教の内容は真面目だからな」
「それは分かってますよ……さて、それじゃあそろそろ」
「ああ、一思いにサクッと頼むわ」
「はい」
そう答えて神機を振り上げて、
「最後に一つだけ言わせてください。私は、神薙ユウは貴方を心の底から愛しています」
一直線に振り下ろした。