艦隊これくしょん Mercenary Fleet   作:Colonel.大佐

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#8 「捨てられた艦隊③」

 昼過ぎには艦隊は基地へと帰投した。

 救出された1名――軽空母の艦娘と思しきそれは、すぐさま基地の入渠施設へと送られた。艤装は殆ど無きに等しいそれの“修復”には時間がかかると思われる。

 艤装への補給を施し、叢雲はすぐさま司令室で待つ提督の下へ報告を行い、正直に海域で見つけた事や起こった事を話した。

「救出1名、それ以外生存者なしか」

 叢雲から報告を受け取った提督は、神妙な面持ちを浮かべていた。

「あとは――みんな死んでたわ」

「わかった。とにかくご苦労だった、今日は当分出撃なしだ、休んでくれ」

 はい、と答えてから叢雲は司令室を出ようとする。しかし、叢雲は不意にある事が気になり、足を止めた。

「提督」

「何だ?」

 机の上においた報告書に目を落としながら、提督が答えた。

「ひとつ気になってたんだけど……どうしてあの艦隊はあんな場所に?」

「気にする必要はあるか?」

 提督の言葉に、叢雲は首を縦ふる。

「気になるわ」

 提督はようやく叢雲の顔を見た。

 それから、観念したように呟いた。

「多分、あれは捨て駒だ」

 提督の言葉に、叢雲は絶句した。

「調べてみたんだが、あの艦隊は輸送船団の進行ルート確保の為にあの海域に派遣されたらしい。だが、作戦司令部が指定するコースを大きく外れている、輸送航路でも訓練でも防衛でもなく、いわば敵の強力な主力を撃滅する為のルートだ。その海域から近い場所で、同鎮守府に所属している艦隊が敵の主力撃破に成功したそうだ。敵は例の襲撃の帰りだったらしい」

 だが、いまいち確証を掴めていないのか、提督の言葉は半信半疑のような声色だ。

「叢雲、海域に浮いてた残骸は駆逐艦や軽巡洋艦のものだったか?」

「そうよ」

 ふむ、と提督は黙った。

「相手の消耗の為だけに使われた艦隊だろう。海域付近に強力な深海棲艦の勢力がいると、前々から言われていた。空母や戦艦を含む強力なフラグシップの部隊だ。そいつらの火力を削る為だけに使われていた……とも言えなくも無いな」

「そんな……」

 言葉を失う叢雲だったが、対する提督は仕方ないと言った様子だ。

「俺も小耳に挟んだことがあるが、部隊によっては使っている連中が多いと聞いてる……武功を作りたいが為に、艦娘を浪費するやり方だろうな。運が悪かった、としか言いようが無い」

「……」

 押し黙る叢雲を前に、提督は一言付け加えた。

「危険な任務もあるが、俺は全員が死ぬような作戦を立案する気も遂行する気もない、それだけは覚えてくれ」

「提督」

 叢雲は、搾り出すような細い声で呟いた。

「あの子はどうなるの?」

「意識が戻り、名前が解れば事情を聞いて原隊に引き渡す。所属基地の提督が明日にも生存艦を引き取りに来るそうだ」

 叢雲は、その言葉を聞くと「わかったわ」とだけ言い、司令室を後にした。

 

 入渠施設は基地の一角、補給施設の隣にあった。

 攻撃を受け、損傷した艦娘がここへ送られて“修理”される。入渠用の設備はどこの艦隊も同じであり、そしてどこの艦隊も等しく四つまでしか割り当てられていない。一説には、艦娘によるクーデターを意図的に避ける為に入渠施設に制限をかけた、とも言われている。

 四つの個室には修復用の液体が満たされた浴槽のような設備が入っている。温度も調節可能であり、修復液に漬かる事で傷を修復させる事が可能で、その間に艦娘は寝るなり本を読むなり何なりと好きな事が出来る。その様子から艦娘たちがお風呂、と呼ぶのも頷ける。大抵、艦娘用の娯楽施設も併設している鎮守府が多いので尚更だ。

 傭兵艦隊では幸いにもまだこの設備を使っている艦娘はいなかったが、皮肉にも傭兵艦隊で初となる入渠設備の使用は、艦隊に所属すらしていない他艦隊の生き残りの艦娘になってしまっていた。

 叢雲は入渠施設へと足を運んでいた。

 すでに運び込まれた艦娘の素性が気になるのか、使用中の札がドアノブから下げられた1番入渠室の前には、最上と隼鷹がいた。

「2人とも、何をしているの?」

「いやー、どうしても気になっちゃってね。この子軽空母っぽかったしさー」

「ボクも、ちょっと心配で見に来たんだ」

 なるほど、と叢雲は納得しながらもドアノブを捻る。隼鷹と最上が後に続こうとするが、叢雲は入ってこないよう制する。

「2人はここで待ってなさい」

「えー、ちょっとぐらい」

「相手はまだ意識も戻ってない重症人よ。それに事情聴取は秘書艦の仕事だから!」

 ざっと隼鷹に言い放つと、叢雲は部屋の中へと入っていった。

 

 白い壁とリノリウムの床、殺風景な部屋の中に入った叢雲は真ん中の入渠設備――修復液が満たされたそれ――を見た。

 設備はケーブルが繋がれ、壁に埋め込まれた液晶ディスプレイと接続され、艦娘のバイタルサインを数値で映し出し、完全修復完了までの時間を写し出している。

 部屋のドアの脇には、不知火が無表情で修復を受けている彼女を見守っていた。

「様子はどう?」

 叢雲は不知火に尋ねる。不知火は首を左右に振った。

「ずっとこの状態です。目覚める気配もありません。身体そのものの傷は治っていますが、艤装の完全修復にはあと5時間はかかるかと」

「5時間、ね……」

 何にせよ、命が繋がったのは喜ばしい事だった。わざわざ基地まで緊急搬送して命を落とされた日には、これほど辛い話はない。

「この艦娘の処置はどうなりますか?」

 珍しく、不知火が叢雲へ話を振った。

「意識が回復して話を聞けるようになったら、事情を聞いて原隊へ復帰させるそうよ」

「原隊復帰、ですか」

 ふむ、と不知火はその言葉を飲み込むと、またいつもの様に黙った。

 

 日が暮れ、再び叢雲は提督の司令室を訪れた。

 夕食も取らずに司令室へと篭る提督に、軽食――と言ってもトースト2枚と紅茶――を持参するためだった。ノックを取ると提督の「入れ」という短い返事だけが返ってきた。

 ドアを開けて中に入ると、提督は机の上に広げた資料を見ながら思案にふけっていた。

「簡単な食べ物を持ってきたわ」

「すまんな」

 提督は皿を受け取ると、すぐにトーストへかじりついた。

 やはり腹も空いていたのか、提督は早いペースでトーストを食べては紅茶を啜る。すぐに食事を終えると、皿を叢雲へ返した。

「所で……あの艦娘はどうなった?」

「修復は完了したわ、今は診療室のベッドで安静中よ。意識がまだ戻らないのは不安ではあるけれど……」

「そうか。よく考えたんだが、あの艦娘を……」

 提督が何か喋りかけた所で、どたどたと廊下を走り回る音が近づいてきたと思うと、司令室のドアがノックも無しに開けられた。

「……提督」

 ぜえぜえと息を切らしながらも不知火が現れる。

「ノックぐらいしろ。何があった?」

「例の艦娘が意識を取り戻しました」

「よし、じゃあ今から――」

 提督が椅子から立ち上がろうとするが、それを遮るように不知火が話を続けた。

「それが、診療室から逃げ出しました。艦隊総動員で探しています。5分前です」

 叢雲の話を聞いた瞬間、提督は椅子からすばやく立ち上がると壁にかけたピストルベルトとホルスターをすぐに取り出して腰に付けた。

「報告してる暇があったら探せ!不知火、お前は埠頭を見て来い」

「了解です」

 それを聞くと不知火はすぐさま司令室を飛び出した。提督もそれに続いてすぐさま部屋を飛び出す。

 反応が遅れた叢雲だったが、すぐさま提督の後を走りながら追った。

「どこに行くの!?」

「正面ゲートだ!」

 

 建物から出た提督と叢雲は、すっかり薄暗くなった基地を走りぬけた。

 司令棟、兵舎、倉庫を抜けた2人は、基地の正面ゲートへと向かった。人員不足で正面ゲートには誰も配置されていないため、ここを抜けられたら誰も探すのは不可能に近かった。

 ゲートの近くまでやってきた2人は、ついにその人影を発見した。

 入院着を身につけ、裸足のまま、艦娘は基地の外へと向かおうとする。

 正面ゲートまでよたよたと走り続ける艦娘を見て、提督は腰のホルスターから素早く自動拳銃を引き抜いた。口径9mm、ベレッタM92FSだった。スライドを引き、撃鉄を起こして初弾を装填した瞬間、突然の行動に呆気に取られていた叢雲がようやく我に戻って提督の腕を掴もうとした。

「止めてっ!!」

 ――逃げれば銃殺。

 赴任してすぐに聞かされた傭兵艦隊のルールを思い出した叢雲は、提督を止めようとする。

 だが、提督は狙いも付けず、その銃口を天高く向けると、数度引き金を引き絞った。

 乾いた破裂音が立て続けに響く。威嚇射撃の銃声に叢雲は思わず背筋を震わせる。艦娘は後ろで炸裂した銃声に足を止めて振り返った。

 今度こそ、提督は大声で叫んだ。

「止まれ!」

 艦娘は、そのまま地面へとへたりこんだ。提督はベレッタのグリップを両手で握ったまま、ひとまず銃口を下ろした。

「連れて来い」

 提督の言葉に、叢雲は不穏な物を感じながらも、へたりこんだまま動かなくなった艦娘へと歩み寄り、立ち上がらせた。

 艦娘が反抗する様子がないのを確認すると、提督はベレッタの撃鉄をゆっくり押し戻し、安全装置をかけてからホルスターへと仕舞い込んだ。その動作を見てから、叢雲はほっと一息ついた。

「……どうなるかと思ったわ」

「俺もそこまで鬼じゃないさ」

 緊迫感から開放されてげんなりとした叢雲を前に、提督は口元に微かな笑みを浮かべて答えた。

 

 病室へ戻された艦娘は、観念したのかもう抵抗する素振りもなく、ただ黙ってベッドの上に座っていた。

 すでに病室には不知火と叢雲が出口を固めている。そして、提督の指示で2人の腰にはピストルベルトと、自動拳銃を収まったホルスターが付けられていた。逃亡させない為の保険、だそうだが2人にとっては気が気でない物騒な配慮だった。

 ようやく落ち着いて話が出来る環境をセッティングすると、提督は椅子に腰をおろし、その艦娘と一対一で向き合って話を始め、まず手短に今の状況について説明した。

「……まあ、状況はこれで解ったと思うが――その前に名前を教えてくれ、それと艦種もだ」

「……ウチを見れば一発でわかるやろ」

 艦娘は素っ気無く答えた。

 提督は参ったと言わんばかりの顔を浮かべた。

「いや、俺は提督になってまだ日も浅いし前の現場は陸でな。艦娘の特性やら艦種に名前はまだ覚え切れてなくてな」

「軽空母の龍驤や……これで満足か?」

「ああ」

 提督はそう言われると、少しの沈黙の後に話を続けた。

「それで、あの海域で何があった。報告書に書かなきゃならん、知っている事を言ってくれないか」

「みんな、死んだ」

 龍驤は、腹の底から、苦しみながら吐き捨てるように呟いた。

「ウチは艦隊の旗艦を任されてたんやけど……他にな、軽巡洋艦と駆逐艦しかおらへんかったし、ウチが空母だから皆を引っ張らなアカンと思ってな……海域に出撃したんや。でも、提督の言ってた情報と違って、海域には強い敵がぎょうさん居てな……もうどうする事も出来へんかった」

 苦しみながら言葉を吐き出していた龍驤は、思わず言葉に詰まる。それでも、一呼吸置いてから話を続けた。

「出撃前にな、提督が、ニヤニヤ笑いながらうちらを見てたんや。珍しく出撃の見送りに来たんやと思って……あれは違ったんや、うちらを最初から使い潰すつもりだったんや……海域についてから、うちの艦隊は猛攻撃を受けた。なのにまだ進撃の命令が出たんや、みんな大破したり中破していて、うちも艦載機も全部失ってしもたのに……何度言っても進撃の命令は変わらなかった、その頃には、艦隊は敵がぎょうさんいる海域に取り残されて、それで……それで……」

「もういい」

 提督はそう呟いた。

「裏は取れた」

「裏?なんの事や……」

 龍驤は不思議がるが、提督は顔色を変えずに淡々と龍驤に事実を打ち明けた。

「生存を期待されていない囮だったんだよ、お前らの指揮官は勲章と戦果欲しさに生贄を用意したんだ。敵艦隊主力を引き付けて、敵の弾薬を浪費させ、主力艦隊で撃滅する為の、使い捨ての駒だ」

 今度こそ、龍驤は何も言えなくなった。

「まあ、明日にはそっちの指揮官が君を引き取りに来る。悪いが地獄の1丁目まで逆戻りだ」

「……」

 顔を俯き、龍驤は光の消えた目で、じっとシーツを握る自分の拳を見つめた。

 叢雲は何か言おうとするが、提督と龍驤を前に言葉が上手く出てこなかった。目の前にいるこの軽空母に、何としてでも救いを差し出してやりたい気持ちになる。

 だが、叢雲はようやく、提督が口元を吊り上げて笑っているのを目にした。赴任した直後から見ていた、悪巧みをしている時の提督の癖だった。

「ところで――取引があるんだが」

 提督の言葉に、龍驤は俯いた顔を上げた。

 

 

 翌日昼。基地へ久々に国防海軍のヘリコプターがやってきた。

 国防海軍制式のSH-60Kヘリコプターは、ローターの爆音を撒き散らしながら滑走路の端へと着陸する。着陸地点には、すでに提督と叢雲が待ち構えていた。

 SH-60Kから、数人の兵士が降り立った。青色を基調にした国防海軍の戦闘服に身を包んだ警護の兵士は、その手に軍制式の89式小銃のグリップを握っている。続いて降り立った将校は国防海軍の制服に身を包み、胸元に略章と肩口に大佐の階級章を付けていた。将校は若く、提督よりも年下に思えた。

 まず、その将校は提督の姿を一瞥した。黒色のBDUを身にまとい、階級章もつけていないその姿に蔑みの笑みを隠さないまま、敬礼もせずに提督へ話を始めた。

「貴様がこの基地の指揮官か」

「ええ、そうです。こちらが秘書艦の叢雲」

 叢雲は真っ先に敬礼をする。しかし、提督は敬礼もせずに黙って将校の顔を見ていた。

「敬礼はしないのか」

「雇われ司令官であり正規軍の人間ではありませんので」

 双方に、ちりちりとした不穏な空気が漂い始める。

「昨日、海域で保護した艦娘の引き取りをお願いしたい」

 提督はさっと話を付けると、叢雲を見た。

 叢雲は頷くと、すぐさま振り返り、合図を送った。不知火と弥生に両脇を固められながら、龍驤が連行されてきた。すっかり艤装は修復され、服もまた戻っており、出撃した時のままの状態へ戻っていた。

 だが、その顔には怒りともとれる険しい表情が浮かんでいる。

「確かに確認した……何か問題事はあったか?」

「昨日から反抗的な態度で大人しくさせるのに苦労しましたよ」

 提督はやれやれ、と言った顔で大仰な口調を作ってみせた。だが、将校はそれを無視して龍驤を見た。

 冷徹な視線だった。まるで厄介者を見るような目で、龍驤を無言で睨んでいる。

「ご苦労だった――龍驤、早く来い」

 踵を返し、将校と護衛の兵士がヘリへ戻ろうとする。

 だが、龍驤は一歩も動かなかった。

 不審に思った将校が、思わず足を止めて振り向いた。龍驤は、将校を睨み付けていた。わなわなと怒りに震える握り拳が、素早く動いた。

「このっ……人でなし!!死ねやっ!!」

 龍驤は、不知火に寄りかかると、その手を不知火の腰に付けたホルスターへと伸ばした。

 ホルスターに収まっていた自動拳銃のグリップを掴んだ龍驤は、それを引き抜いて撃鉄を引き起こす。

 

 緊張の糸が一気に張り詰める。将校を警護していた兵士たちが、反射的に小銃を構えようとする。だが、それよりも早く、提督が腰のホルスターからベレッタを引き抜いた。

 乾いた破裂音が鳴り響き、龍驤の身体ががくりと崩れ落ちた。

 自動拳銃のグリップが龍驤の手から零れ、滑走路に転がる。護衛の兵士たちが一斉に小銃を構え終わるが、その時にはすべてが終わっていた。

 

 唖然とする将校を前に、提督は硝煙を銃口からくゆらせるベレッタをホルスターへ仕舞い込んだ。

「大佐“殿”、お怪我は?」

 間抜けな顔で呆気にとられた将校は、提督の言葉にようやく我に帰った。

「貴様一体何を……」

「大佐殿の命をお守りしたまでです、いやあ、危ない所でしたね」

 提督は地面に転がった自動拳銃を拾い上げて不知火へ手渡した。

「不知火、注意不足だ。以後気をつけろ」

「申し訳ありませんでした、提督」

 不知火は深々と頭を下げてから、その自動拳銃をホルスターへ入れ戻した。

 弥生が、倒れこんだまま動かなくなった龍驤を診る。龍驤の胸に手を伸ばして確認すると、べっとりと血が張り付いていた。血で汚れた手で龍驤の首筋に手を伸ばす。

「その……あの……亡くなり、ました」

「やれやれ、報告書に何て書けばいいのやら」

 提督は心底困った顔を浮かべる。

 将校はようやく事態を飲み込めたのか、今更になって冷や汗を額に浮かべていた。

「今、私を撃とうとしたのか?」

「そのようです。今のは正当防衛射撃です、この場にいる全員、そう思うでしょう」

 困惑する護衛の兵士と将校を前に、提督は神妙な面持ちになった。

「しかし、今の艦娘の反応……この厄介事が上層部に漏れたら、大変な事になりますね……どうしますか」

「どうする、と言われても」

 歯切れが悪くなる将校を前に、提督は不敵な笑みを浮かべた。

「この艦娘は負傷が原因で引き受け時に容態悪化で死亡した……これでどうです?死体はこちらで処理しましょう、これなら、この艦娘の不始末をどうにか出来るはずですが……」

 将校は、思わず首を縦に振った。

 

 

 小一時間の後、SH-60Kが基地の滑走路を離陸した。

 来た時と同じ人間を乗せたそれは、まるでこの基地を忌み嫌うように足早に去って行った。

 空の彼方の点になりつつあるヘリが視界から消えるまでをぼんやりと眺めてから、提督は滑走路に残された艦娘たちを見た。

 すでに用意された黒い長方形の袋――死体袋に龍驤の身体は収められていた。とっくの昔に死体を詰め終えた叢雲と不知火は、呆れ果てた顔で提督を見ていた。

「まさか本当にやってのけるとは思ってなかったわ」

「……提督、貴方は本当に人間なのですか?不知火には狸か何かが化けてるのかと思うぐらいです」

「人聞き悪いな。でもアカデミー賞モノの演技だったろ?」

 へへへ、と提督は悪い笑みを口元に浮かべた。

「もう、大丈夫」

 死体袋に弥生が呟く。もぞもぞと死体袋が蠢くと、ジッパーを内側から開けた。

「はあっ…!うええ……息苦しいし縁起でもないわ!」

 龍驤は死体袋から這いずり出た。弥生は両手にべっとり付いた血糊を見ながら早く洗いたくて仕方なさそうな様子だ。

「まあ、ああでもしないと先方は納得しないだろうな。それにこういう悪巧みは――とても楽しいしな!」 

 片手の中で先ほど発射した空砲の薬きょうを手で弄びながら、提督はいい笑顔のまま龍驤を見た。

「ホンマ、どうにかしてるでぇ……」

 呆れつつも、龍驤はニヤリと笑って見せた。

「あなた、本当にいいの?ここは傭兵艦隊よ。逃げたら銃殺だし……」

 叢雲の言葉に、龍驤は首を横に振った。

「ええんや。あんなクソ野郎の艦隊で戦うくらいなら、ここにいた方が十分マシやで……ありがとな“提督”、キミとならいい仕事が出来そうや」

「ああ、傭兵艦隊へようこそ。俺たちはいつだって戦力増強は大歓迎だ」

「……その前に報告書と後処理、何とかしなさいよ」

 げっ、と提督は笑顔のまま固まったのだった。

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