艦隊これくしょん Mercenary Fleet   作:Colonel.大佐

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#9 「艦船建造」

 その日、いつものように書類仕事を一通り終わらせた提督はぼんやりと窓の外を眺めていた。

 司令棟の外では、艦娘たちが自主訓練としてランニングに興じている。

「そろそろ新しい艦船を建造したいな」

 提督は開口一番、そう呟いた。

 書類を纏めていた叢雲は、突然の言葉に思わず少しだけ固まった。

「……今更?」

「まあな。そろそろ艦娘を建造できるだけの資源も溜まっただろう。建造用のドックもやっと2つになった事だし」

 提督の言葉に叢雲はやっとか、と一安心した。

 艦隊もそれなりに上手く回っていはいるが、実際はかなりの弊害が出ていた。戦艦1、軽空母2、重巡1、駆逐3という総勢7隻という数字は、基地の戦力としては実に心もとない――もとい人手不足感が否めないものであった。更に基地の運用を考えても、出撃し作戦を終えてから更に基地で働くという状況は、控えめに見ても末期戦のような様相を呈している。

 提督も一丸となって働いているため、艦娘たちの不満の声はないが、それでもこの状況を悪く思っている艦娘がいる事は明白であった。

「じゃあ、いよいよ建造ね。工廠に手配をするわ」

 叢雲は立ち上がると、提督の机に置かれた電話の受話器を取った。

「なあ、叢雲……建造って何をどうするんだ」

「は?」

 提督の予想外の言葉に叢雲は思わず聞き返した。

「あんた……まさか今の今まで建造について何も知らなかったの」

「そうだ」

 臆することなく正々堂々とした顔で提督は言い放つ。

「艦娘を作る事以外、何も分からないんだが……で、一体何をどうするんだ?」

「じゃあ説明するわ」

 叢雲は受話器を置くと、ひとつ咳払いをしてから答えた。

「艦娘の建造は、資源や資材を使って行うの。補給用の物資倉庫にたくさん資源が溜まってるでしょ?それと、開発用の資材を使うの。入渠施設の隣にあるのが建造所ね。投入する資源の量によって、ある程度建造できる艦の種類をコントロールできるわ。でも、何が出来るかは完全に運任せね」

「指定して作れないのか。よくそんな気まぐれな生産ラインで戦争できたもんだな」

 提督が呆れる。叢雲は反論しようとしたが、よくよく考えればその通りなので黙る事にした。

「待てよ……建造で艦娘を作るんだよな」

「そうだけど」

「……なあ、艤装は分かるが中身の人間はどっから持ってくるんだ?」

 提督の顔に険しい色が走る。

「そこを突っ込んでくる人は初めて見たわね……」

「それぐらい知る権利はあるだろ。前々から気になってたし、そのへんの決まり事ってどうなってんだ」

 叢雲はため息を吐くと、説明を続ける。

「建造前には必ず司令部に連絡を。そうすると、艦娘適性のある子を呼んできて建造ドッグ入りさせるのよ、後は艤装がその子に合わせて建造されていったり、あるいは艤装に合わせてその子の身体が変化していったりするの」

「……へえ。知らなかったな。艤装だけ建造して女にはめるもんだとばかり」

「あんた、頼りになるのかならないのかいまいちハッキリしないわね。元陸軍ならしょうがないけど……」

 叢雲は改めて電話の受話器を取った。

「司令部に連絡をかけて建造の準備に入るわ。予定は何人?」

「とりあえず2人呼んでくれ。まず何が出来たかで今後の建造予定は決める……それから」

「何?」

 叢雲は番号をプッシュする手を止める。提督は真剣な顔で叢雲を見ていた。

「建造した後でチェンジ出来るのか」

「あんた、建造はデリヘルじゃないのよ……」

 

 

 翌日。叢雲と提督は基地の滑走路に待機していた。この艦隊が編成された翌日の日のように、艦娘――の素体となる少女を待つ2人の前に、ヘリの爆音が耳に入った。

 正午すぎの予定時間ピッタリに、上層部から派遣された遣いが飛来してきた。基地の滑走路まで爆音を立てて飛来した国防海軍の輸送ヘリ、CH-53E、スーパースタリオンが着陸し、カーゴベイを空けるとコンテナを2つ基地へと下ろした。降りてきた乗員から渡された受領の書類に提督がサインを書くと、そのままスーパースタリオンは飛び立ち、そそくさと帰っていった。

 提督と叢雲の前に残されたのは、長方形のコンテナだった。ジュラルミン製のそれは、大きさと長さから棺桶に似ているサイズである。

「なあ……まさかと思うが」

「そのまさかよ」

 叢雲は提督の問いにキッパリと答える。

 提督が思わず面を食らうのも無理は無かった。このコンテナこそ、艦娘の素体となる少女が収められていた。

「私はそのまま建造所まで移動して艦娘になったけれど、遠方の基地に運搬されたり極地まで輸送する時は一時的に冬眠状態にしてから、生命維持装置とセットでコンテナ詰めで運ばれるのよ。文字通りの「開発資材」ね」

「……」 

 提督は言葉を失いながらも、しゃがみ込んでコンテナに張られたプレートを見た。

 姓名、年齢、艦娘登録番号といった事務的な文字が書き込まれたそれは、それこそ文字通りの棺桶にすら思えた。

「何でこんな状態で運んでくるんだ?」

「その方が建造がやりやすいからじゃないかしら。建造前には手術と同じように麻酔をかけたりしなきゃいけないし、遠方に送る時に輸送機や輸送船ごと生身で沈んだらそれこそ人的損失でしょ?これなら、万が一落とされたり沈められても回収が出来るようになっているわ」

「……そうか」

 提督はやや腑に落ちないような顔をしていたが、納得したようだった。

「で、こいつをどうするんだ?例の建造ドッグとやらに放り込むのか?」

「そうなるわね。でも、前準備が必要よ。まずは資源ね」

 

 提督は、基地の一角へ足を運んでいた。

 基地の半地下になっている、コンクリートで作られたバンカーに資材保管庫はあった。そこは爆発を防ぐ為に火気厳禁の注意書きが張られた鉄製の強固な扉で守られており、艦隊の作戦行動全てを賄える量の弾薬・燃料が厳重に保管されている。すぐに補給できるよう、少量の資材は別場所――入渠施設の隣に保管されているが、その大半はここに全て収められていた。

 提督は鍵をポケットから取り出すと、その重々しい鋼鉄製の扉を開けた。バンカーの内部は照明がついていないのか、飲み込まれるような暗闇が辺りに広がっている。

 すぐに壁にあったスイッチを付ける。少し遅れて、バンカーが電球の明かりに照らされていく。

 大量に詰まれたコンテナ、弾薬箱、ドラム缶が目の前に広がる。提督は溜息をつきながらも、持ってきた台車を押しながら、手近な弾薬箱を積み上げていく。

 叢雲から言われた「艦娘の建造にかかる最低ラインの資源と、特定の艦を出す為に必要な資源の量」という説明を受け、こうして倉庫までやってきたはいいが、意外にもその資源量が物によっては多目になるという事実が提督を悩ませていた。

「ったく……重機欲しいな」

 ぶつくさと文句を垂れながらも、提督は台車にドラム缶や鋼材、燃料、弾薬、そして少しばかりのボーキサイトを乗せながら、バンカーの外に停めたトラックの荷台へと押し込んでいく。提督が目指す艦娘建造の為とは言え、それは重労働の仕事であった。

 やっと資材を詰め込んだ提督は、保管庫を施錠するとトラックを運転して入渠施設の近くにある建造工廠へと向かった。

 

 建造工廠と言っても、小さな町工場くらいの大きさしかない粗末な建物だったが、中には建造・開発用の機材が一通り揃っており、立派な工廠とも言えた。設備は提督や艦娘がマニュアルに習って設備点検を行い、不知火が倉庫で見つけたという“妖精さん”が建造を行えるよう、すでに叢雲が手配を終えている。

 工廠の前にトラックを停めると、すでに“素体”の搬入作業を終えた叢雲と、なぜか今日は非番の隼鷹が待ち構えていた。

「……何しに来た隼鷹」

 トラックのドアを開けて降りながら提督がつぶやく。

「新しい船建造するって言うからさ、気になっちゃってねえ……」

 隼鷹はにへへ、と笑いながら工廠と資材を交互に見ながら答える。

「まあお前は非番だからな。で、叢雲、準備はどうだ?」

「出来ているわ、さっそく始めましょう」

 

 建造ドックは、シンプルなものだった。

 手術台の様な台座があり、その端には釜のような四角い箱が繋がっている。その箱には、4つの資材投入口が設けられており、そこへ直接資材を放り込むという作りになっていた。そして、そこから伸びた機械には、古臭そうなメーターが4つ付けられており「燃料」「弾薬」「鋼材」「ボーキサイト」の文字が書かれ、真横に何らかのレバーが付いていた。

 まず、工廠に入って提督が驚いたのは、その台の上にすでに少女が2人寝かされている事だった。身体に着せられた入院着のような服以外は、何も身に付けていない状態のそれは、眠るように台の上へ横たわっていた。

「お、おう……こりゃ凄い絵面だな」

「あたしもあんな風に建造されたのかな……寝てる合間に終わってたから覚えないわー」

 面食らう提督と隼鷹を他所に、叢雲はコホンと咳払いをしてから、提督を見た。

「それで、どんな艦娘を建造するの?」

「あ、ああ。とりあえずは駆逐艦だな、それも性能がいい奴がいいんだが」

「大雑把すぎるわね、どんな艦がいいか具体的に言いなさい」

 呆れる叢雲だったが、提督はうーんと唸りながら頭を掻く。

「実を言うとまだそんなに艦娘に詳しく無くてな……とりあえずは、巷で聞いている島風や陽炎型の雪風とかがあるといいんだが」

「オーソドックスな所を攻めるねえ。まあ、前の艦隊でもいたねえそんな子」

「じゃあ、作るわよ」

 叢雲の言葉で、建造が開始された。

 

 まず、提督と叢雲は運び込まれた資材を機械へと放り込んだ。

 じゃらじゃらと音を立てて弾薬、鋼材、ボーキサイトを放り込み、燃料を注ぎ込む。資材が機械に補填される度に、アナログなメーターがカタカタと動いて資材の量を数字で示す。

「調整して入れるのよ、入れる量によって出てくる艦娘もある程度制御する事は出来るわ」

「そうか、じゃあこれはメーター振り切れるまで入れた方がいいのか?」

 叢雲は首を横に振る。

「満タンにすればいいってものじゃないわ。バランスを考えて入れるのよ。それでも目当ての艦が建造できるとは限らないけど」

「……ますますいい加減なシステムじゃねえか。本当にこんなんで建造できんのか」

 提督の顔はますます険しい物になっていった。少なくとも寝てる少女を前に建造の手順を踏んでいると、どうにもいかがわしい事をしているとしか提督は思えなかった。

「人体実験しているみたいだねー、こりゃ」

 くひひ、と笑いながら隼鷹が一連の作業を面白そうに眺めている。

「隼鷹、見てないで手伝え」

「えっ?あたし非番だし」

「じゃあお前が手に持ってるそのワンカップを置け、手伝え、命令だ」

 えー、とブツブツ言いつつも隼鷹は飲みかけの酒をぐいっと煽って脇に置くと、もう一台の開発ドックに資材を投入しはじめた。

 一通り資材の投入が終わった所で、提督はメーターの数字を見た。

「これでどうだ?」

「これなら大丈夫そうね、少なくとも高性能の駆逐艦ぐらいなら出るでしょう」

「よし……で、どうするんだ」

 叢雲は黙ってメーターの横にあるレバーを指差した。

「軍の規則で私たちが建造命令を実行できないから、提督が引くのよ」

「お、おう」

 提督は言われるがままに、レバーを引く。

 その瞬間、機械についた扉が開くと、小人たちが現れた。

「?」

 提督の目が一気に丸くなった。

 二頭身ほどの数人の小さな小人――少女の姿をした――は、工具を手に、横たわる少女に体に工具を当て、“建造”を始めていた。

「後は妖精さんがやってくれるわ、もう一つもお願い」

「お、おう」

 もう深く考えない事にした提督は、隼鷹が資材を入れ終えたもう1台のドックのレバーも引いた。

 こちらも、同じく“妖精さん”による建造が始まった。

「おー、こうやって作るのかあ、へー」

 隼鷹が興味心身に建造の様子を見守る。妖精さんたちは、横たわる少女の艦娘にするために建造にちょこちょこと動き回っている。

「それで、いつ出来るんだ」

「ちょっと待ちなさい……えーっと」

 叢雲が機械の横についた小さなタイマーを見る。

 しかし、タイマーは何も表示されず、ただ出鱈目な数字が並んでいるだけだった。

「タイマーは故障中ね……いつ出来るのもかも不明よ」

「……まさか永遠に出来ないって事はないだろうな」

 提督があからさまに表情を曇らせるが、叢雲は首を横にふる。

「最大のものでも、10時間は越えないから……そのうち出来るでしょうね」

「そうか……」

 提督は少し安心した様子だったが、隼鷹は妖精さんが運び出す資材の種類を見て、何か嫌な予感を感じ取った。

 

 

 時計の針は夕方を超え、基地は夜の闇に包まれていた。

 夕食を終えた提督は、執務室にこもり切りで作業をしていた。叢雲も秘書艦として付き添いながら、今後の計画に関わる話を続けていた。

「……これでどうだ」

 書き終えた計画書類を叢雲へ渡す。

 コーヒーを啜りながら、書類を受け取った叢雲はその文面を見てふむふむと頷いた。

「悪くないわね、週二のペースで艦隊増員ね……」

「今後は週に2人ぐらい編入させて様子見だな、とりあえず遠征任務の派遣が可能な艦娘が望ましいな……とりあえず今日は駆逐艦が来ると思うから第一歩って所だ」

「でも、あまりに過度の増員は基地の施設も資源にも圧迫になるんじゃないの?」

 提督はその問いにニヤリと笑って答えた。

「もう大分資源も溜まってる。とりあえずは兵舎の部屋が埋まったら増員はストップだな。その頃には酒保もくるだろうし、炊事担当の要員も補充されて……」

 提督が言いかけた所で、執務室のドアがノックされた。

「提督、新しい子を連れて来たよっ」

 ドアの向こうから隼鷹の声が聞こえる。

 提督は期待を隠さずに顔を綻ばせながら、立ち上がった。

「まず水雷戦隊編成の第一歩だな……入れ!」

 提督の一声と共に、執務室のドアが開かれた。

 まず隼鷹がドアを開けて入ってくるが、その顔はどこか気まずそうな表情だ。

「提督さぁ……その……駆逐艦じゃ無かったわ」

 隼鷹の申し訳なさそうな言葉と共に、2人の艦娘が、執務室の中へ入って提督に敬礼を送った。

 

「よ!アタシ、摩耶ってんだ、よろしくな」

「川内、参上。夜戦なら任せておいて!」

 

 入ってきた2人を見て、提督は無表情のまま沈黙してから、意を決したように呟いた。

「……チェンジだ」

 今度こそ、叢雲は提督の頭を叩いて苛烈なツッコミを入れた。

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