艦隊これくしょん Mercenary Fleet   作:Colonel.大佐

13 / 14
#11 「沖ノ島沖攻略作戦①」

 歓迎会パーティーが終わった翌日。二日酔いで完全に潰れた隼鷹と、明石・早埼、秘書艦の叢雲を除き艦隊が全出撃する中、提督と叢雲はいつものように執務室で書類仕事に追われていた。しかし、いつもの簡単な報告書と事務書類以外、頭を悩ませる仕事が2人の目の前に立ちふさがっていた。

「……正気なの、この作戦は」

 叢雲が、手にした書類を一通り読んでから呟いた。

「素直に死んで来いと言えないんだろ」

 提督は面倒くさそうに頭を掻きながら、机の上に置かれた書類――作戦指令書を見た。

 南西諸島海域出撃命令。その書類にはでかでかとその文字が躍っていた。

 この海域は、多くの鎮守府が戦闘を繰り広げている海域である。日本近海と比較して深海棲艦の活動は活発であり、深海棲艦の補給ラインがあるのか、敵の補給船団を補足する事も珍しくは無い。深海棲艦の戦艦や正規空母が出没する事もあり、水雷戦隊中心の鎮守府や赴任したての新米指揮官が率いる艦隊では荷が重いとされる海域でもある。

 尤も、傭兵艦隊のようなバランスよく艦種を揃えている部隊では攻略も容易である。ある一つの海域を除いては。

 提督は書類の下を見る、そこには「沖ノ島」と書かれていた。

「沖ノ島なんて……死んで来いって言ってるようなものでしょ?まだ派遣されたての新人も多いのに!」

 叢雲が声を荒げる。

 彼女も、この海域については艦娘養成学校で嫌と言うほど聞いていた。

 深海棲艦の最新鋭艦である戦艦ル級・タ級のフラグシップ、と言った強力な戦力が中枢に控え、その外周を重巡のエリート、フラグシップを旗艦とする打撃部隊が周回しているという凶悪な海域である。幾度と無く敵主力撃破のために艦隊が派遣されたが、未だにこの海域を安全海域にする事は出来ないでいる。

 定期的に攻撃作戦が展開されるが、それは訓練を積み装備と艦種を厳選した精鋭部隊で行われる。まだ出来てから日の浅い傭兵艦隊には重荷すぎる内容だった。下手すれば沈没艦が出てもおかしくは無いだろう。

「こんなバカげた指令を出す連中の顔が見たい」

 提督は呆れるように呟いたが、叢雲は書類のある一点を指し示して答えた。

「こいつよ」

 書類の作成担当者の名前を見て、提督はピンと来ない様子だった。

「誰だ」

「作戦指令部長よ。顔ぐらいは見てるでしょ?」

 海軍作戦指令部長。その肩書きを聞いた途端、提督は顔をしかめた。

「あの太っちょか……ふざけやがって」

「そんな事言ってたら過激派扱いされるわよ」

 叢雲は呆れながらも、同意するような達観した顔で答えて見せた。

 海軍作戦指令部長とは、文字通りの国防海軍のボスだ。

 自衛隊が国防軍に改名されて以降、役職や役名は様変わりしていたが、戦争当時は海上自衛隊の一士官で会計課に勤めていた男である。深海棲艦が現れ始めた頃、時の指令部長は呉にて艦娘を見つけたという。どうやって、いかにして発見したか、そして建造ノウハウをどうやって確立したかは完全に機密事項とされており、提督どころかどの艦娘も知ってはいない、指令部長の当時を知る同僚たちは皆深海棲艦との戦闘で戦死しているため、真相は完全に闇の中だ。

 人類側に打つ手なしと思われた戦争を一気に変える事に成功し、異例の昇進を続けた。大戦果を挙げた彼は、ついに国防海軍へ改名された際に作戦指令部長……つまり海軍すべてをコントロールできるポストへと就いたのである。

 太っちょ、というのはその作戦指令部長への卑称である。確かに国ばかりか世界を救った英雄でもあり、この戦争の基盤を作り上げた天才ではあったが、それと同時に立案した反抗作戦の殆どは勝利と引き換えに現場に多大な流血を強いるものであり、提督たちに課せられる任務の殆どは、戦略・戦術性の欠片もないと影で言われているからだ。

 つまりは、有能でもあり無能でもある指揮官だった。

 尤も、最近は指揮官としてはなく軍政屋としての活動に尽力しているため、軍内部問わず政治の世界ですら彼の信奉者は数多い。評価はどうあれ、功績の方が大きいのだ。

「艦隊の皆にはこの件を伝えてあるの?」

「今日伝える。夕食前に全員ブリーフィングルームに集まるように手配してくれ」

 

 

 その日の夕方。司令棟のブリーフィングルームに艦隊の全員が集められていた。

 出撃の疲れも取る暇や、空腹を満たす夕食の時間すら取れずにブリーフィングルームに集められた事に少しの不満を持っている艦娘もいたが、誰もが「一体何の報告があるのか」と興味津々な様子な様子だった。

 ブリーフィング予定の時間と同時に、提督と叢雲がブリーフィングルームへと入った。

「艦娘諸君、今日の仕事ご苦労だった。夕食前なので手短に説明しよう」

 提督は意を決したように口を開いた。

「上層部より特別出撃命令だ。これに伴い明日から2日間、出撃任務は無し。各自習熟訓練を行い、戦闘に備える……出撃先は沖ノ島沖だ!」

 ブリーフィングルームがいっせいにざわついた。艦娘たちにも、沖ノ島沖の悪名は轟いているようだ。

「海軍の情報部が沖ノ島沖周辺で敵の活動を察知、大規模反抗作戦の可能性を考え偵察艦隊を派遣したが結果は黒だった。深海棲艦がここ数ヶ月で20倍近く膨れ上がり、その数が増加中と司令部は結論付けた。現在、舞鶴、呉、横須賀、佐世保から派遣された打撃部隊が攻撃を開始してその数を減らしたが、最後の主力部隊はまだ健在で、打撃部隊も損耗が激しく傭兵艦隊に白羽の矢が立った……という訳だ」

 提督は艦娘の反論を押さえ込むように一気に喋る。

「まあ、噂程度には聞いている筈だ。ここ最近の船団護衛任務もこの作戦のための物資輸送だったからな」

「ちょっと待てよ、敵主力って……ヤバくないのかそれ」

 摩耶が息を呑みながら呟く。

「勿論だ。フラッグシップを含む戦艦・重巡洋艦が満載された敵主力だ。生半可な艦隊では自殺同然のミッションだろう」

 ブリーフィングルームが一気にざわついた。それでも、一部の艦娘たちは覚悟を決めたのか提督の言葉を黙って聞き続けている。

「それで……この任務についてはある制約と言うか問題があってな。叢雲、説明を頼む」

 提督の言葉と共に、叢雲が咳払いをしてから話を引き継いだ。

「この海域は前々から“羅針盤が狂う”事で有名だったけれど、この作戦の大詰めで羅針盤がさらに狂うようになったわ」

 羅針盤、と聞いて艦娘たちの顔に更なる不安の色が現れた。

 

 艦娘にとって羅針盤は、だだっ広い海域をカバーし作戦の目的地へと艦娘を誘導する唯一の装備だ。それでいて、艦娘、ひいては艦隊の指揮官にとっては憎むべき存在でもある。羅針盤は行きたい方向を指し示すための道標ではなく、艦娘をあらぬ方向や見当違いの方向へと誘導するのである。かと言って、羅針盤を無視して進む事は何も無い海上では自殺行為に近い。

 しかも、この現象は戦闘を目的とする作戦海域の多くで発生する。海上護衛任務などではほぼ100%の狂い無く羅針盤は機能するのだが、深海棲艦を撃破するための攻撃作戦の際は必ずと言っていいほど羅針盤は“狂った”のである。むろん、羅針盤を無視した艦隊もいたのだが、その艦隊は目的地にたどり着くばかりか艦隊ごとロストしたり、あるいは予想を超える敵と遭遇し大きな被害を出して撤退する事が殆どだった。

 そのせいで、羅針盤という装備に関しては大きな波紋が広がっている。現場ではGPSや偵察衛星を併用したナビゲートシステムを実装する案が提唱されたが、上層部によって「現実的ではない」「実装する予算が無い」という理不尽な答えの一点張りで拒否されているのが現状だ。

 

「駆逐艦と軽・重巡洋艦のみの編成艦隊が運よく主力と接触する事が出来たけど、その程度の火力ではどうにもならない。かと言って戦艦や空母だけを混ぜた途端に羅針盤が荒れて、見当違いの方向へ誘導される。燃料だけを消費して帰還する艦隊も出てきて、司令部も出撃を出し渋っているみたいね」

 提督は叢雲の言葉に頷いてから、話を引き継ぐ。

「かと言って羅針盤を無視するのは得策ではない……この問題を片付けて主力を叩け、と言うのが司令部の要求だ」

「任務拒否は出来ないの?ここって確か違約金を払えば任務は除外されるって言うけど」

 隼鷹が真面目な顔で質問する。

 この場にいる誰もが、その質問に耳を傾けた。傭兵艦隊は任務を艦娘で決めて出撃するという性質上、任務を拒否……言い換えるなら契約を破棄するという選択も出来る。ただし、それには多額の違約金、上層部の言葉を借りれば「任務拒否手数料」を取られるのだ。これは艦娘自身が自らの給料や報酬から支払わねばならなかった。

 困難なら出撃しなければいい、この場にいる誰もがそう思っていた。

「司令部が拒否した。何が何でもこの艦隊をぶつけて敵の反応が見たいんだろう」

 だが、提督の報告は無慈悲だった。

「まあ戦闘拒否や逃亡をしない限り艦隊が罰を受ける事もないだろう、かと言ってまともに当たれば犠牲を出さないように戦う事は不可能だ。羅針盤が全てを台無しにする」

 駆逐艦や巡洋艦の艦娘はあからさまに言葉を失っている。重たい空気がブリーフィングルームを埋めるが、提督はその空気を察してか、前向きな話に切り替えた。

「ただまあ、突破する策は無くもない。全員で生きて帰還し、任務を遂行できる可能性は100%無いと言い切れない。やれるだけやるしか無いだろうな……詳しい作戦が決まり次第伝える。以上だ、解散」

 提督が退室する。艦娘たちは、各々事実を受け止めながら、遅れてブリーフィングルームを退室していった。

 

 艦娘への説明を終えた提督は、そのまま執務室に篭った。あれからかなりの時間が経ち、時計の針はすでに深夜3時を回っている。秘書艦として提督の補佐に勤めている叢雲も、そろそろ眠気が集中力の邪魔になってきていた。

 欠伸をしながら、提督は目の前に広げられた海図、戦闘報告書、資料の山を見ながら時折渋い顔をしたりひらめいた顔を浮かべている。最初はその反応を興味深く観察していた叢雲も、睡魔を前に反応すらしなくなってきた。

「あんた、そろそろ休みなさいよ」

 叢雲は、本心から呟いた。

 指揮官が無茶をしている時は止めろ、というのが秘書艦研修プログラムを受ける艦娘に言われる第一のルールだった。指揮官の判断を鈍らせるような状況を作るのは艦隊の運営にも関わる。特に根詰めている指揮官が無茶な命令を出す際に秘書艦はそれに異を唱える義務がある。近年増加する指揮官による無茶苦茶な艦隊運営を止めさせる為の防護措置でもあるのだ。

「じゃあお前が俺の代わりに休め」

 だが、提督は聞く耳を持たない。

「指揮官も休むのが任務の内よ」

「戦闘報告書を見ていて判ったが、南寄りのルートは戦艦を2隻以上含んでいると最終到達は不可能だ。空母は逆という報告が多い。逆に全部混ぜると反れるそうだ」

 提督は叢雲の言葉を無視した。叢雲は呆れて椅子から立ち上がろうとする。

 そこで、提督は制すように話を続けた。

「部下に対して死ねと命令は出来ない。だから全員生きて帰れる作戦を立てなきゃならん」

「それはそうだけど」

 提督の目はいつになく真剣だった。叢雲は反論しようとするが、提督はそれを許さずに話を続ける。

「部下が死んで辛いのは現場の人間だと思ったら大間違いだ。部下が全員死んだ時の気持ちが判るか?自分の命令で、自分の指揮で、些細なミスや上官の采配で仲間が死んでいくのを黙って見ていくしかなかった人間の気持ちが」

 叢雲は黙った。

「……作戦決行まで時間が無い。何としてでも突破できる編成を見つけるんだ、クソッタレの羅針盤が狂わない編成を」

「この数じゃどうしても無理があるわ。せめて、もう少し空母が足りていれば……」

 諦めた叢雲が提督の話に乗ろうとした瞬間、メモ書きを続けていた提督の手が止まった。

「どうしたの?」

 叢雲は尋ねるが、提督に反応はない。それから、提督は思い出したように報告書を見直す。それから、少しの思案の後にぐっと力強く頷いた。

「これだ」

「これって、何が?」

 提督は白紙のメモ用紙に走り書きをする。それは編成案のひとつだった。

「俺はもう寝る、お前も寝ろ」

 提督はそう言うと、椅子から立ち上がり執務室の隣にある私室へと向かった。

「ちょ、ちょっと!どういう事なの?」

「見れば解る!」

 部屋の向こうから提督の声が響く。それから、叢雲は改めてメモ用紙を編成案を眺めた。

 まだ解らない様子の叢雲は、とにかく疑問視を頭に何個も浮かべながら、同じく睡魔に抗うのを止めて執務室向かいの秘書艦控え室に向かった。とりあえず、布団に入るのが先決だ。

 

 

 3日後、傭兵艦隊は洋上にいた。

 大海原を飛行する2機のヘリコプター、SH-60Kはある目的地へと向かっていた。沖ノ島攻略作戦の前哨基地へ向かう為だ。

 ヘリのキャビンには艦娘たちが押し込まれており、その中には提督の姿も混じっていた。いつもの黒いBDUに、黒いブーツ、黒い帽子だ。艦娘たちは艤装を外しているが、既に先行している輸送ヘリが艤装コンテナを前哨基地へと運んだ後だった。

 ヘリコプターのローター音でキャビンの中は爆音に包まれていた。会話など到底できる状態では無かったが、全員とも会話をする気持ちにはなれない様子だった。

 ヘリに揺られて数時間、キャビンの窓側にいた叢雲は、洋上に浮かぶ大型船の影が現れ、ゆっくりと近付きつつある事に気がついた。

 それは航空母艦のようなシルエットをした船だった。その周辺には、母艦を護衛するように航跡を引きながら周回する艦娘たちの姿もある。

 国防海軍が保有する艦娘母艦、くにさきの姿だった。

 

 艦娘母艦、と謳ってはいるが、実際は海上自衛隊時代に保有していた輸送艦を改装した雑務艦である。大戦初期に何とか生き延びたおおすみ級輸送艦「くにさき」がベースであり、艦内に艦娘の休憩・宿泊スペースを設け、さらに入渠用ドックに補給設備を備え、かつてLCACを格納していた船体後部のウェルドックから発艦可能という輸送艦ならではの利点を使っている。どの世界の海軍も同じような試みを行っていて、イギリスでは大戦前に建造中だったクイーン・エリザベス級航空母艦が艦娘母艦に改造されているほか、ドイツ海軍では専用の艦娘母艦すら開発している。また、在日米軍の生き残り艦のひとつ、揚陸艦アシュランドも現在艦娘母艦として改装中だった。

 甲板にSH-60Kが着艦し、傭兵艦隊の艦娘たちはそこへと降り立った。甲板上にはヘリポートの他に補給物資を満載したコンテナが鎮座している。中身はすべて、艦娘の作戦行動に必要な物資だろう。

 

 着艦と同時にキャビンのドアが開き、艦娘たちが艦上に降り立つ。提督も後に続いて降り立った。誰に言われるまでもなく、艦娘たちが提督を中心に集合する。

 全員が集まったのを確認すると、提督はヘリのローター音に負けないような大声で支持を飛ばす。

「各自、艤装を装着、チェック後に下層の発艦口まで集合しろ。出撃開始時刻は14:00、出撃前に最終のブリーフィングを行う。以上だ」

 提督の言葉を聞いてから、艦娘たちは移動を開始した。

 艦娘が移動を開始する中、提督は帽子を被り直すと、艦橋を見た。

「他の艦隊の指揮官と会って来る、お前も先に艤装のチェックしておけ」

「解ったわ」

 提督は叢雲の返事を聞く前に、早歩きで艦橋へと向かっていった。

 叢雲は移動する皆の後について行こうとするが、不意に、視界の端に別艦隊の艦娘の姿が入った。

 

 ぼろぼろになった服に、血の滲んだ包帯を身体のあちこちに巻いているが、それは妙高型重巡洋艦、那智その人だった。

 艤装は外してこそいるが、特徴的な妙高型のユニフォームには見間違いない。ヘリコプターから降り立ち、艦内の指揮所へ向かう傭兵艦隊の艦娘を見ながら、那智は艦隊の指揮官を探しているようだった。

「あなた、誰を探しているの?」

 叢雲は真っ先に那智へ声をかけた、探す手間が省けたのか、那智は叢雲へと歩み寄った。

「お前たちは……傭兵艦隊で間違いないか?」

「ええ、これから交代で出撃するわ。あなたはどこの艦隊?」

「舞鶴鎮守府だ。第2艦隊」

 那智は、手早く簡潔に答えた。

「状況は?」

 叢雲の言葉に、那智は首を左右に振った。

「芳しくない。既に他の鎮守府含めて4つの艦隊で攻撃に当たっているが成果が出ない。横須賀や呉の連中でもお手上げだそうだ」

 那智の言葉に、叢雲は思わず気が遠のきそうになった。

「深海棲艦の親玉はいまだに目的地点にいる。その手前までたどり着けるが、どの艦隊もその手前で羅針盤が反らされてたどり着けないそうだ。編成に問題があるのかもしれないが……策はあるのか?」

「ええ。ある程度は」

 叢雲は、この日の為に立案した作戦を頭の中で反芻させた。

「貴方の艦隊はこれから休養?再出撃?」

「いや……まずは後方へ戦友を送りに行く、後ろのそのヘリを使わせてもらう。司令から一旦戻ってこいとの命令でな。既に手筈は取っている」

「そう。休まなくていいのかしら、酷い傷よ」

 今すぐに、と言うほどではないが、那智の身体には生々しい傷がある。

 艦娘の身体についた傷は入渠する事で回復する、恐らくは長くて1時間もあれば完治するはずだった。くにさきに搭載している入渠設備を使えば事足りるはずだ。

 しかし、那智は首を左右に振った。

「いや、いい」

 那智は、自らの腕に巻かれた包帯を、ぎゅっと握った。

「後でいい」

 そこで、叢雲は那智の目元が腫れている事に気が付いたが、あえてその理由を探ろうとしなかった。探りたくもなかった。

 那智の後ろで、黒いビニール製の長い袋が4人の兵士たちによって丁重に運ばれ、今まで叢雲たちを運んできたSH-60Kに積まれて行く。叢雲はその光景を見て、袋の中身が何なのかも知ろうとはしなかった。察しはついたが、考えないようにしていた。

 那智は、叢雲の顔色からすべてを察したのだろう。声を押し殺しながら話を続けた。

「あいつは……まだ仲間に見守られて死ねた。艦娘としては、この上なく幸運な最後だ。中には、最後の言葉もなく一瞬で砲撃や雷撃に引き裂かれ、永遠に別れる奴もいる。あいつとは、海軍に入隊してからの仲でな……」

 那智はそこまで呟くと、声を押し殺した。

 強く握り拳を作り、視線を甲板へと落としてから、那智は涙を堪えた。

 堪えたつもりだったが、透明な雫が目の端から垂れて、頬を伝って甲板に落ちた。

「あなたの分まで、暴れてくるわ」

「……頼む。絶対に死ぬな」

 消え入るような小さな声で呟いてから、那智は敬礼を叢雲に送った。

 叢雲も敬礼で返す。那智は別れの言葉もないまま、戦友を積み込んだSH-60Kのキャビンへ上がる。

 給油作業が完了したヘリのローターが回転数を上げ、爆音を鳴らしながら甲板から離陸していく。

 

 沖ノ島攻略作戦、その最終段階が始まろうとしていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。